「世界でいちばん貧しい大統領」と呼ばれた前ウルグアイ大統領 ホセ・ムヒカが2016年4月7日に東京外国語大学でスピーチを行いました
一国の大統領という立場でありながら質素な暮らしを続けてきたムヒカ
消費社会に生きていて疑問や不満を持っている人はもちろん、物理主義の考えの人にも一度は見てもらいたい名スピーチを全文書き起こしました
前編と後編に分けましたが今回は後編、東京外語大学の学生たちの質問にも答えてくれました
政治的な立場、モラル的な立場があります
政治的な立場は、必ずしもなんらかの政党に属するということではないのです。どこにあるとしても、そういうような立場を考えることができます
すなわち、私は「人生」という党に属しています。残念ながら私はまだ神というものを信じるに至っておりません
もし信じることができるのであれば、人生の最後のときにおそらく神様に「もう一度生きさせてください」と頼むかもしれません
しかし、私たちはこの「生きる」という奇跡を得ていますみなさん、どうぞよく生きてください
そしてまた、毎晩あなたのベッドに入った時に例えば5分間使って、その日1日のことについて考えてください
なぜならば、それぞれ自分自身の中に、それを評価する、審判する者がいるからです
ですから、自分自身に聞いてください。良かったのか、悪かったのか。そしてまた、それをもとに、より良い明日を築くようにしてください
それから、ぜひ家族を持ってください。家族というものは単純に血のつながった家族ということではありません
そうではなくて「考え方の家族」という意味です。同じように考える人です。人生を1人で歩まないでください
ですから、なんらかの情愛、それを1つも持たないと1人で歩かなければならないことになるでしょう。非常に重い孤独の中で
しかし、もちろん私たちは神ではありません。私たちは人間です。もしほかの人に対して非常に大きな要求をするとなればどうなるのか。人間というのは完璧なものではないので、友人を得ることができなくなるでしょう
そして1人で歩かなければならなくなるでしょう。ですから例えば社会というものを得る場合には、寛容性が必要であるとも言えます
なぜなら、人間というのは完璧ではないからです。だから寛容性が必要なのです
現状、私たちの身の上にはさまざまな問題があります。非常にグローバル化した世界に私たちは生きています
私にとっては、2つの基本的な問題が感じられます
まず1つは金融資本が爆発的に大きくなっているということです。それが「通貨をもとにした生活」を大きく変えているのです
これはまさに、お金が重要になっている。そして、お金を得るために人生のなかで大忙しで、あっちに行ったり、こっちに行ったりとしているわけです
この金融の資金が非常に多くある場合、しかしながらそれは例えば生産を大きくするものではない、ということもあるわけです
経済はこの金融を中心に成り立っている。それによって公共をなくし、みんなが忙しく動き回るようになった。そして現在、非常に大きな困難が世間の中にあります
非常に莫大な量のお金があります。これはさまざまなかたちで投機的に使われています。大量のお金です
すなわち、それらは単純に生産に向かっているわけではありません。またもう1つ他にも深刻な重大な問題があります
私たちの文明のガバナビリティー(統率力)というものがない、ということです
なぜならば、それは非常に大きなものになっているからであります
そして、この文明というものが、非常に大きく変わってきているからです。例えば大量のナイロンが太平洋の中に浮遊していたりするわけです
じゃあ、どうやってこれを解決することができるのでしょうか?
「人間は気候を変えることができない」誰が言ったでしょうか
例えばアフリカ大陸の国々があります。技術的に可能なことがあります
これは例えば蒸気の鍋を使うことができます。それから水蒸気の量があります
そして、それによって砂漠の問題を対処できるでしょう。そういったことが全て可能です。塩水で農業を営むこともできます
塩水で生きられる種も多くいます。97の化学記号というのは全て海水から発見されています
世界ができることは本当に数限りなくあります。でも、そういった大切な決断をする人が誰もいません
誰もそのために必要な課税をすることができません。30年前からトービン税という話が出てきますけれども、トービン税というのは資本取引に対してわずかの税をかける、そしてそれによって投機を抑えようという税金ですが、それもまだ実現していません
なぜかというと、金融資本のほうが生産資本よりも重要な地位を占めているからです
私の小さな国でもお金持ちがいます。最後の1ペソまでインフラに投資しているお金持ちもいます
でも、別のぜんぜん投資しない金融資本を、例えば今、パナマでもパナマ文書というのが問題になっていますけども、自分の資本を増やすためにだけ、いろんなタックスヘイブンを使ったりしてお金を動かしている人もいます
こういう状況があるんです
ですから、みなさんのような若者は、こういった状況に対して戦わなければいけません。こういった非常にバカげたこと、悲惨なことを止めるために何かしなければいけません
これは誰も問題を解決できないという問題ではありません。人間がまとまれば、組織すれば戦うことができるのです
まさにそうすることこそが、人類の連帯、団結という意味だと思います
最後になりますけれども、私は若いときに多くの本を読みました。
そのあと、世界を変えたいと思いましたけども、変えることはできませんでした
それで10年ぐらい刑務所に入れられました。非常につらい時期でありました
でも、それほどすごく厳しい時期を過ごさなかったら今学んだようなことは学ぶことができなかったと思っています
他の人と同じように、踏みつけられたり、ゴミのように扱われたこともありました
例えば軍事独裁であるとか、その圧政もありましたし、私の同志たちと一緒に収監されたこともありましたけれども、最終的に大統領になることができました
でもそれ以上に「もっといっぱい、いろんなことを実現したいな」と夢見たこともありました
いっぱい途中で挫折して実現しなかった夢もありました。じゃあ何が残ったのか?
私は他の人がその道を続けられるように、その道を耕してきたと思います
なぜならば闘争は永遠に続くからです。私は他の人たちを知ることができました
以前、私が収監されて若くして「世界を変えよう」と思って辛い時期を過ごした時には、孤独を慰めるために私自身に多くを語りかけました
ひょっとしたら全部には到達できないかもしれないですけれど、10ぐらいには到達できるかもしれません
常に自分が切り開こうとした道を自分が掲げた旗を引き継ごうとする人は必ずいるはずです
「日本ではなかなか希望を持てない」というふうに聞いています
前に聞きましたけれども若者の30パーセントぐらいしか投票に行かないと聞きました
信じてないんですね。でも、もし信じられないんだったら、信じられるように何かをしてください
人生を信じられるようにしてください。 何か悪いことがあって、それを変えたいと思うこと、不満を持つことはいいことです
単に何もしないで不平ばっかりを言っているのでは、まったく変わりません。一緒に同じ気持ちを持つ人と、まとまって一緒に何かをしなければいけないと思います
それがあなたの人生に、あなたの存在に意味を与えることだと思います。そうじゃなければ、あなたの失望が勝利してしまうでしょう
生きるためには希望が必要です。もし希望のない人生になってしまうとしたら、どうでしょうか?
今までずっと講演を聞いてくれた若者のみなさん本当にありがとうございました
もちろん別に同感してほしいとか、そういう思いで話したわけではありませんけども寝るときに私が言ったことを、ぜひ考えてみてください
東京外語大学の学生たちの質問に答える
司会者
今日はとくに、若いみなさんに向けて、限りある一度きりの有限な人生、その命と時間をどう使うんだという問いかけを、たくさん投げかけられていました
ここから質疑応答を行いたいと思います。 お時間のあるかぎり、たくさんの質問をお受けしたいと思います
ムヒカ前大統領に質問のある方は、ぜひ挙手をなさってください
そして、ご起立されたまま、お顔が見えるようにご質問をしてくださると、うれしいなと思います
それでは、ご質問のある方。では一番に手が挙がりました、こちらのスーツで来ていらっしゃる方にお願いいたします
質問者1
非常にすばらしいスピーチをいただきまして、どうもありがとうございました。今回、講演を聞けて非常にうれしく思っております。ちょっと質問があります
まず最初に、もし日本の首相であったら、あなたは何をするでしょう?
日本の今の社会を良くするために何をしますか?
私たち若者は、現在の日本社会、あるいは世界の現状を変えるために、何が私たちはできるでしょうか?
なぜならば、ほとんどの日本人は仕事が人生であるかのように、あるいはお金を稼ぐことが人生であるかのように時間を過ごしています
でも日本人は恋人、友人、そして家族といるために本当は時間が必要です。でも、いっぱい問題があります
例えば、日本の企業はそれを許しません。また日本人の性格も問題です
例えば、もしほかの人が働いていたら日本人は「私もほかの人のように働かなければならない」と思います
ですから、今、私が質問したことに対するお答えを、ムヒカさんから聞きたいと思っています
まず最初に、日本の首相だったら何をしますか? 日本の社会を良くするために。これが最初の質問です
ホセ・ムヒカ(以下、ムヒカ)
私が話したなかに、いろんなヒントがあると思います。大きな社会は集団としての大きなツールを作らなければいけません
例えば今の現状に不満を抱いているのであれば、同じような考え方を持っている人、感じ方をしている人となんらかのかたちで組織を作ります
その中で力が生まれます。その中で社会に対して啓蒙することもできると思います
それをしなければ、社会そのものは変わりません。 ちょっと考えてみてください
何年も前のことですけれど、以前、労働者は15時間も16時間も、18時間も働いていました
もうこれは100年ぐらい前のことですけれど。それで、ちょっと頭のいかれた人たちが闘争を始めました
労働者は8時間働いて、寝る時間が8時間必要だと
そして、それ以外の時間も8時間必要だと。そういうふうに決めて労働者は活動しました。その労働闘争をした人の多くは亡くなってしまいました
その闘争から50年たった今、その権利を知らない人はいないでしょう
その人たちがいたことは、みんな知っているでしょう。その権利のために戦いました。そして、その闘争によって、ほかの人々の意識を開拓していったわけです
私の国の場合は、過去100年間の間、主な労働者は牧畜産業の労働者でしたが、そういった法律はありません
8時間労働という法律が順守されていませんでした。なぜならば働き方が違っていたからです
今は、その8時間労働が順守されています。ですから例えばそれは農村の場合であっても、そういった法律を順守することはできるわけです
ですから、この文明が続けば労働時間が5時間、6時間ということになるでしょう
例えば、ロボットがどんどん入ってくれば、そういった労働時間に対する闘争が始まるでしょう
ですから、いろんな状況があっても同じような考え方の人と一緒に集まってがんばってください
何かの魔法が変えてくれるなんて思わないでください。町の人と一緒に協力し合うことによって望みがかなうのです
それが一番大切なことだと思います。そうでなければ、ボーリング場や喫茶店での雑談で終わってしまいます。そして社会は今のまま変わらないでしょう
2番目の質問で若者が何をすべきか
市場にあなた方の人生を奪われてはいけません。消費主義に支配されてはいけません。 言うのは簡単です
でもクモの巣に捕まってしまったようなもので、いつもいつも「あれを買え」「これを買え」と責め立てられています
本当に必要不可欠なものだけ買えるようになれば、必要な時間はできるでしょう
質問者1
じゃあ私にとって本当に必要なものだけを、これからは買うようにします
ムヒカ
この定義を覚えておいてください。セネカ(古代ローマの政治家、哲学者、詩人)です。セネカの言ったことです
「多くのものを必要とする者が貧しいのだ。なぜならば、その限界を知らないから」とセネカは言いました
質問者1
親切なお答え、ありがとうございました!
司会
ありがとうございました。大変流ちょうなスペイン語でご質問いただきましたけれども、もちろん日本語でもけっこうでございますので、あと2人ほど、ご質問を受けられるかなと思います
それでは挙がりました、後段のスーツを着ていらっしゃる女性の方にマイクをお願いいたします
質問者2
すばらしいスピーチをいただきまして、どうもありがとうございました。私の質問をさせていただきます
世界各国に出ようという関心を持っている学生はたくさんいます
その場合、この学生時代をどのように過ごせば良いでしょうか?
より良い世界を作るために何を勉強すべきでしょうか?
こういう質問なんですけども、お答えいただけますでしょうか?
ムヒカ
おそらく答えは似たものになるかもしれません。個人的な個々の答えを知りたいのであれば、それはあなた自身から出てくるでしょう
それをあなた自身が獲得することができるでしょう
勉強をして、どこかで仕事をして、というようなかたちで。そして年齢を重ねていくでしょう。そしてまた、子供を持って、人生を継続していくでしょう。そしてまた、すばらしい人間になる。これは1つの可能性ではあります
また別の場合はあなたと同じような考えの人と一緒になってください。闘争するためのなんらかの手段を作ってください
それは例えば社会的な組織であるとか、名前はなにかわかりませんけれども同じ志を持つものと一緒にやってください
おそらく若い人たちは非常に大きな重い何かを持っているでしょう。同じ思いを持っている人はたくさんいるでしょう
なぜなら私たち人間は風に吹かれる木の葉のように、非常に弱いものなのです
しかしそれが一緒になればより強くなって、多くのことを表明することができるようになるでしょう
ですから他者の強さが必要なのです。それぞれの大義は我々の寿命が長かろうと集団的なかたちで行わなければなりません
そしてそれを継続していかなければなりません。私たちの人生が終わったときに、また次の人が同じようなことをして腕を上げてくれるでしょう
なぜなら私たちは、同じ人間という同じ種のなかにいます
同じ船のなかに乗っているのです。 この種というものは、私たちに多くのものをくれました
だからこそ、私たちは種に対しても貢献する必要があります。どうぞ恐れないでください。あなたの心のなかを、覗いてみてください。おそらく、原始の強い女性の心があるはずです
質問者2
ありがとうございました
司会
ありがとうございました。それでは、ほかにご質問がある方、いらっしゃいますか? それでは手が挙がりました、一番端の男性の方にお願いいたします
質問者3
非常に素晴らしいスピーチをありがとうございました。私の質問は次のとおりです
あなたのお考えでは、本当に全世界が幸せになるのは可能だと思いますか?
なぜ私がこの質問をするかというと私の考えでは、それはとても難しい、ほぼ不可能のように思えるんですね
全員が本当の幸福を感じることができる社会、世界になるのは難しいように思えるんですが、ご意見いかがでしょうか?
ムヒカ
たしかに私たちは神ではありません
でも、それぞれが自分の考え方に基づいた生き方をする。そうすればあなたは幸せになるし、あなたと一緒に生きる人も幸せになるでしょう
私は最後の審判は信じていません。でも人生の何らかの時点で、おそらく我々はある鏡の前に立ち止まる時が来るでしょう
そして私は私たち自身に言います「私たちは自分たちの人生を生きてきた」
どこかで私たちは自分の人生の総括をすることになると思います
例えば
「何かをやろうとしたけど失敗してしまった」
「何度も失敗したけれど、やろうとした」
「100やりたかったけれども、5ができた。もちろん完璧ではなかったけれど、有益な人生だった」
別の場合には
「私は私の人生のなかで何もしなかった」
「単純に私は浪費をした、消費をした」
「誰に対しても手を差しのべることはなかった」
「他の人のことなんて、一度も心配したことはなかった」
「決して、誰かのために時間を費やすことはなかった」
自分自身を鏡で見るとき、そこに映るものは自分のエゴイズムにすぎないのです。そのときにあなたは自分自身に対して失望するでしょう
単純に世界を変えるため、勝つために戦うのではないのです
そうではなくて自分自身の心のなかにあるもののために考えるのです。戦うのです。私たちは感じることができます。 生まれたから生きる
それは馬かもしれないし、犬かもしれないし、そういうものと同じものになってしまいます
あるいは自動的な機械のように生きるのと同じことかもしれません。 でも私たちには頭があります。心があるのです
ある程度までではありますけれども私たちは自分自身の人生を方向づけることを自分ですることができるのです
もし音楽が好きならば、そこに自由を探してください
もし私のように絵が好きなのであれば、そこに自由を見出してください
私のように農業が好きな場合には、農業を営むことができるでしょう
それは単純にお金を稼ぐためだけではありません。 ですから何かあなた自身を幸せにするものを探してください
他の人を幸せにすることを考えてください。 それは世界を変えるということではなくて自分自身を変えるということになるのです
例えば、私は世界を変えたかった。でも現在、私は家のなかの掃除をしている。ということがあるかもしれない
世界を変革するのは、かなり複雑で難しいものなのです。 でも、長期的には何かが残るでしょう。大きな闘争、大きな敗北のあとで
そして、その闘争のあとで、世界は違うものになっているでしょう。前とまったく同じということはないでしょう
質問者3
ありがとうございました
司会
ありがとうございました。本来はもうお時間なんですが、たくさんの方が挙手してくださいましたので、あとお二人ご質問をお受けしたいと思います
それでは後ろから2列目のスーツの男性にマイクをお願いします
質問者4
非常にすばらしいスピーチをありがとうございました
あなたの見方ではテレビと政治の関係についてどう思われますか? 現在、ここに多くのテレビ局が来ています
多くのジャーナリストがいます。マスコミの人がたくさんいます。 私は、日本のテレビは政治のテーマについて、深く伝えることはないというふうに思っています
ムヒカ
そうですね。たしかに実際、気をつけなければいけないことはあると思います
私は3日、4日ほど前から日本に滞在しています。私は日本語がわかりませんが、いろいろな絵、図案を見てきました
それによってさまざまなコミュニケーションがなされています
全般的なかたちで唯一私がこれについて申し上げられることは、当然ながら私たちは市場社会に住んでいます。文明とその周りには市場の機能があります
テレビがそれらの全体的なものを示しているとも思いません
しかしながら、「このクリームを使えばシワがなくなる」とか言って、いろいろなコマーシャル、いろいろなプロモーションをするわけです
「こういうものを買いなさい」というようなことがたくさん言われます。なぜならば、当然、企業というのは予算を組んで、その製品を売るためのいろいろなキャンペーンしなければならないからです
でも世界の中においては客観性があります。すなわち、客観性ある名誉ということです。だけど中立なんてありえないんです
誰も中立であることはありえません。なぜなら私たちは物事を見るときに、自分が考えることに基づいて、いろいろなものを見るからです
ですから、利害と社会階級があるのです。そして情報は人間によって作られるものです
ある意味でテレビはそういった利害関係を映し出すものかもしれません。情報は、そういった人たちによって作り上げられているからです。それは現実かもしれません
ですから、しっかり学ぶ必要があります。自分自身の考え方を、いろんな情報源を当たりながら自分の考えを構築する必要があります
必ず疑いの目を持って裏を取る必要があると思います
私たちはマスコミが大きな比重を占める社会に生きています。テレビのない社会はありません
例えば、テレビに出てこないものは、まるで存在しないかのようです。見かけ上は
しかしテレビは世論形成に重要です。今、私は学生、大学生に向けて話しています。一般の市民、一般の市井の人々というのはわりと無邪気で、何か言われたことを鵜呑みにして信じてしまいます
でも、みなさま方はもっと高い教養を持っている人だとすれば、さらに深い洞察をする義務があります
もっと深く考えること。他の人が表面的な部分しか見ていないことを、しっかりと見ていく。そういったことをみなさま方がしなければいけません
それが闘争の一部でもあると思います。 私たちは理性で考えなければいけません。しっかり物事を見なければいけません
それに基づいて現在、社会に何が起きているのかを、深い洞察をすることによって分析し、それを他の見えない人に伝えなければいけないと思います
ですから、よく考えてください。そして口を閉じないでください。ちゃんと伝える手段を、みなさんは持っているんですから
私は好きじゃないですけど、みなさんが毎日毎日使っている、こういう使える道具(スマートフォン)があるんですから
もちろんバカげたことに使うこともできるでしょう。でも非常にすばらしい高貴な大義のために、この道具を使うこともできるでしょう
質問者4
ありがとうございました
司会
大変貴重なご質問をありがとうございました。では残すところ、あと1人の方、お願いします。それを決めるのは大変心苦しいんですが‥‥‥
では一番高く挙げてくださっている、セーターをお召しの方にお願いいたします
質問者5
こんにちは。そろそろムヒカさんは日本語を聞きたいと思っていると思うので、日本語をしゃべらせてもらいます(これまでの質問者は全員スペイン語だった)
ムヒカさんは、この世で一番大切なものは愛だとおっしゃいました。僕も、たしかにそうだと思います
しかし時に愛ってものは、やっぱり愛がゆえに闘争とか貧困を生み出してしまうのかな、って僕は思ってしまいます
例えば、ここに美しいすてきな女性がいるとします。僕は彼女を手に入れたい。
でも、また違うところに、いっぱいいろんな男が狙ってるわけですよ
やっぱり僕は、「彼らをいかに倒すか」ってことを考えてしまうんですよね
ここに僕がもしすべての人を愛したら、やっぱりここにいる男たちと彼女を一緒にシェアするのが一番いいわけなんですけど、それはできない
やっぱりここには闘争が生まれてしまう。で、僕はそのために財力をつけたり、いかに魅力的な人間になるために教養を身につけたり、そういうことを考えます
で、やっぱりそういうことを考えると、愛がゆえに闘争が生まれるのかなって思ってしまいます
そしてまた家族ができたとします。家族ができたら、やっぱり人間は自分の家族が一番かわいいですから、他の人たちより自分の家族をいい目にあわせたい。だから、おいしいご馳走をしたり、すてきな場所に連れて行ったりするわけです
そういうことをしていると、やっぱりこういう自分の家族だけをいい目にあわすっていう気持ちが、やっぱり貧困とかを生んでしまうのかなと思ってしまいます
そういうことを考えたら、人を愛すっていうことは難しいなと思って、また全ての人を愛すっていうことは同時に誰も愛してないってことになるかもしれませんし、いかに僕はここにいる人間っていうか世界のすべての人々を愛すことができるのでしょうか?
ムヒカ
もちろん、あなたの愛に対するビジョンは、非常に個人主義的な考え方だと思います。所有的な考え方だと思います
あなたは好きな女性を自分のものにしたい。手に入れたい
でも、彼女に聞かなければいけないんじゃないですか?
あなたに征服されたいと思っているかどうか、彼女にも聞かなければいけないでしょう
質問者5
最近それでよくもめています(笑)
ムヒカ
私が思うに、それはちょっと男尊女卑の考え方もあるような気がします。知性的に
例えば男尊女卑ではなくて女性が選ぶんですよ。ひょっとしたら気づかないかもしれませんけれども
自分だけが独立している、自分だけで決められるなんて思わないでください
質問者5
わかりました
ムヒカ
今言っているのは冗談に聞こえるかもしれませんけど、生物科学的に考えれば、彼女も無意識かもしれません
でも、彼女が選んでるんですよ。彼女にとって子孫を残すとしたら誰と残したほうがいいのかと
これはバカげたことではありません
ここに(胸に手を当てて)メカニズムとして私たちに刻まれているんです
まるで私たち自身が自分たちを支配しているような錯覚があるかもしれませんけれども、自然としてのメカニズムに私たちは動かされているんです
ですから自然学、生物としての本性を尊重しなければいけないと思います
おっしゃるコンフリクト(衝突・対立)というのはわかります。でも生きるということはコンフリクトを持つことなんです
コンフリクトがない人間は墓場にいる人だけでしょう。生きてる人なら誰でもコンフリクトは抱えています
問題は、どうやってそのコンフリクトをマネジメントしていくのか
コンフリクトを持つことは避けません。ですから、みなさんは家族のために、例えば家族を守るために戦うというのは当然です
それはいいことです。でもだからといって他の人のために何にもできない、ということではないですよね?
他の人にも何かができたとすれば自分と家族にとってもすごく幸せに感じるでしょう隔離されて、社会の中で生きていくことはできません。
例えば私は私のパートナーと、一生懸命、世界を良くしようと思って戦ってきました
それで、子供を持つ時間がありませんでした。 私たちは小さな地区に住んでいます。多くの子供たちがいます。勉強する経済力がない子供たちがいっぱいいます
私たちはそういった子供たちが勉強できるように学校を建てて、国にプレゼントしました
なぜならば私たちは子供を作ることができなかったけれど、親がなくて勉強できない子供たちがいるわけですね
生物学的には私の子供はできなかったけれども、彼らは私にとって子供です
私たちは、それが人間だし私は人生を愛しているから、そういうことをしています。そういうふうに考えてみてください。自分の子供のことも
質問者5
ありがとうございます
司会
大変すてきなアドバイスをありがとうございました。学生のみなさんもたくさんの質問をありがとうございました
お時間の関係で当てられなかった方、本当にごめんなさい
それでは、これをもちまして質疑応答の時間を終了いたします。ここで写真撮影の時間をほんの少しお取りしたいんですけど、よろしいでしょうか?
ぜひこの機会に写真を収めたいという方は、今(カメラを)出していただきまして、その座席のまま、その場でお撮りいただければと思います
それでは、写真撮影の時間にさせていただきます
ムヒカ
(笑顔で手を振る) あの・・・写真を撮るよりも、もっとすごく楽しいこと、いいことってあるんじゃないですか? って思うんですけどね
司会
すいません。日本人はどうしてもこの写真を撮るというのが大変好きなもので(笑)。その時間をちょっと設けさせていただきました
さ、それでは、みなさま大丈夫ですか? 撮れましたか? お付き合いくださいまして、ありがとうございました
さあ、それではよろしいでしょうか?
これで本日の「世界で一番貧しい大統領、ムヒカ前大統領による講演会」終了したいと思います。ムヒカ前大統領、本当に今日はたくさんのご質問も受けてくださってありがとうございました!
盛大な拍手でお送りしたいと思います、ありがとうございました!