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字幕書き起こし NHKスペシャル「巨龍中国 1億大移動 流転する農民工」 2016.10.30

今中国内陸部の大都市で町が次々と破壊されている。
退去を迫られているのは農村からの出稼ぎ農民1億人だ。
世界最大およそ14億の人口を抱え経済大国となった中国。
真の大国となるために今大きな転換点を迎えている。
その行方を占うのが国土を改造し億単位の人民を移動させる事で経済成長の基盤を作る新型都市化計画だ。

 

 


起爆剤となるのは中小都市への大規模な農民の移住。
農民を都市の消費者に変え2020年までにGDP国内総生産を倍増させるとしている。
国の政策で流転する1億人の出稼ぎ農民たち。
中国の未来を左右する国家プロジェクトの行方を追った。
中国内陸部の工業都市河南省鄭州市。
人口およそ1,000万。
そのうちの300万人が農村から出稼ぎに来た農民とその家族だ。
中国の経済成長を下支えしてきた出稼ぎ農民たち。
鄭州市はこうした農民に対する政策を全国に先駆けて実践してきた。
市の中心部に中国最大規模の出稼ぎ農民の居住区がある。
800棟のアパートがひしめく陳砦地区。
20年ほど前から出稼ぎ農民が住み着き増え続けた結果18万人の農民が集まる居住区となった。
工場や建設現場で低賃金で働く出稼ぎ農民や飲食店などで生計を立てる農民たちが暮らしている。
7月中旬陳砦地区の農民たちに突然市の決定事項が伝えられた。
陳砦地区を取り壊し再開発するため農民を退去させる計画だった。
猶予は1か月。
農民たちにとって「寝耳に水」の事だった。
当局の治安担当者が実力行使を始めた。
動員された治安担当者は100人余り。
集団で練り歩き早く退去するよう圧力をかけていた。
治安担当者は更なる実力行使に出た。
農民たちの商売道具を次々と没収したのだ。
鄭州市では既に90を超える出稼ぎ農民の居住区が消えた。
退去させられた農民は60万人を超えている。
農民の強制退去を進める中国政府。
その背景には停滞する経済を活性化させる国家プロジェクトがあります。
習近平指導部が2年前に掲げた…これまで出稼ぎ農民は大都市に集中してきました。
新型都市化計画では農民たちの行き先を中小都市にも振り向けようとしています。
農民1億人を中小都市に移動させる事で新たな消費を生み出そうというのです。
そこでまず大都市にある出稼ぎ農民の居住区を再開発を理由に取り壊します。
それと同時に中小都市を開発し農民を誘導します。
更に周囲の農村からも農民を移動させ1億人を都市民に変えます。
中小都市で農民を就業させ消費者へと変える事で内需を拡大。
これを国内全体に広げ経済成長の起爆剤にするとしています。
2020年までにGDP国内総生産を倍増させる目標を掲げる中国。
(拍手)壮大な実験が始まっています。
中小都市への移動を促す中国政府。
陳砦地区では農民を退去させる圧力が強まっていた。
最後まで陳砦地区にしがみつこうとする人がいた。
30年前から飲食業をしてきた…陳砦のような居住区があったからこそ農民は大都市でも生きてこられたという。
妻と提供する肉まんとスープのセットは100円。
低賃金で働く農民たちを支えてきた。
項さんの長女揚ちゃん。
当局の手入れがないか見張りを任されている。
突然走りだした。
商売道具を隠しやり過ごす項さん。
30年間出稼ぎ生活で築き上げてきたものを守ろうとしていた。
これまでも項さんたち農民は時代とともに翻弄されてきた。
建国以来農民は食料を安定供給するためとして農村を離れる事を許されず農地に縛られてきた。
1980年代国の改革開放政策で移動が許されると農民たちは豊かさを求め大都市に殺到した。
しかし農民たちは都市民とは区別され低賃金で働く労働力として扱われてきた。
経済が減速する中雇用は減少。
3億人近くとなった出稼ぎ農民の多くが安定した職に就けなくなっている。
そして今。
農民たちは国の計画の下大都市を追われている。
項さんも決断を迫られていた。
退去期限まで2週間。
商売にならない日が続いていた。
その翌日。
項さんは開店の時間になっても店を念入りに掃除していた。
30年間かけて築いてきた暮らし。
項さんの出稼ぎ生活が終わった。
市内全域で進む再開発で生活費の安い農民の居住区はほとんどが取り壊された。
大都市に居場所は無くなっていた。
陳砦地区18万の出稼ぎ農民が新型都市化計画によって移動を余儀なくされた。
大都市を追われた農民たち。
待っていたのは農村の現実だった。
鄭州市の南およそ200キロにある項さんのふるさと黄連城村。
項さんは母親と姉の家族が住む家に身を寄せていた。
30年ぶりに戻った農村。
経済成長から取り残され荒廃しきっていた。
項さんが生まれ育った実家。
荒れ果て修理しなければ住む事ができなくなっていた。
更に予想もしなかった事も起きていた。
娘を通わせるはずの小学校が廃校となっていたのだ。
出稼ぎする親と共に子どもたちが都市へ出てしまったためだった。
子どもの教育もままならない農村でこの先も暮らしていけるのか。
項さんは近くの街に出る事も考え始めていた。
今中国政府が農民の受け皿として期待しているのが中小都市です。
新型都市化計画の下中小都市ではマンションや商業施設などの建設ラッシュが起きています。
開発を後押ししているのが巨額の投資マネーです。
中国ではここ数年度々株価が下落。
投資マネーは行き場を失っていました。
こうした中政府は中小都市への投資を促す事で経済を活性化させようとしています。
国が都市化計画を発表すると投資マネーが流れ込み開発が加速したのです。
マンション購入の際に補助金を出す地方政府も現れ農民の入居を後押ししています。
官民が一体となって進む新型都市化計画。
その成否は農民たちの選択に懸かっています。
農村に戻っていた項さん。
この日店を再開するために近くの中小都市を訪ねた。
新型都市化計画の中核都市の一つ許昌市
市の施設には都市化計画の完成予想を示した模型が展示されていた。
工業団地や物流センターなどを整備し2020年までに中心部の人口を30万人増やすとしている。
項さんが下見したのは新たに開発された商業地区の一角にある空き店舗だった。
賃料は陳砦地区の3倍近く。
採算が取れるのか判断が難しい額だった。
更に項さんは周囲の状況にも不安を覚えた。
目立っていたのは閉店した飲食店や空き店舗。
ショッピングモールも客足はまばらだった。
周囲には夜になってもほとんど明かりのつかないマンションが立ち並んでいた。
投資を呼び込み中小都市を開発しても農民の移住は一向に進んでいないのが現実だ。
農村でも中小都市でも仕事が見つからない項さん。
そのいらだちを家族にぶつけるようになっていた。
経済成長から取り残され大都市を追われた農民たち。
国の計画と現実とのはざまで行き場を失っていた。
8月中旬鄭州市の陳砦地区は退去の期限を迎えた。
陳砦地区を追い出されても農村に戻らず市内にとどまる農民も少なくない。
改革開放から30年余り。
大都市での生活しか知らない農民も増えている。
15歳から出稼ぎを始め鄭州市で暮らしてきた…李さんの家族は開発が進む中小都市ではなくここ鄭州市で都市民となる道を模索していた。
引っ越し先は築40年の賃貸住宅。
李さんには鄭州市を離れられない事情があった。
脳腫瘍を患い左腕がまひしている父親の興然さん。
治療を受けられる病院は鄭州市にしかないという。
しかし農民が都市民となるには越えなければならない壁がある。
中国では建国以来農民は戸籍制度によって都市民と厳しく分けられてきた。
戸籍ごとに受けられる医療や教育社会保障なども分けられている。
改革開放後農民は都市への移動は許されたが都市の高度な医療や教育を受ける事は原則できない。
農民の不満が高まる中新型都市化計画では農民と都市民の区別の解消を目指している。
これまで農民が都市戸籍を得るためには住宅の購入が必須とされてきた。
今回中小都市では賃貸でも可能にするなど都市戸籍を取得しやすくした。
大都市ではなく条件の緩和された中小都市に農民が移動するよう誘導するのがねらいだ。
それでも李さんは大都市の鄭州で住宅を購入し都市民になる事を目指していた。
陳砦地区を追われたあとは市場の片隅で屋台を構えている。
李さんは4年前まで建設現場で働いていた。
しかし景気の減速で職を失いこの仕事を始めた。
総菜は1袋75円。
稼ぎは建設現場で働いていた時の半分だ。
都市戸籍を得るために不可欠な住宅購入の資金はたまらない。
李さんが鄭州市で都市民になる事にこだわっているのは娘の教育のためでもあった。
9月から小学校に入学する…教育レベルの高い鄭州市の学校で学ぶ事で不安定な農民の暮らしから抜け出してほしいと願っていた。
この日李さんは娘の入学に必要な書類集めに追われていた。
農民の子が都市の公立学校に通うためには就業や居住の証明書などを提出しなければならない。
更に寄付金など学費以外の費用の負担も求められる。
それでも都市民が優先されるため入学を断られる事もある。
娘の教育のために鄭州市で住宅を買える日はいつ来るのか。
8月農民の移動を促すニュースが飛び込んできた。
中国政府が農民に対し農地の使用権を売買する事を認めたのだ。
中国では農地は村などが集団で所有するとされ農民には使用権のみが分配されている。
今回建国以来初めて使用権の売買やそれを担保に銀行から融資を受ける事ができるようになった。
農民がこれを元手に都市で不動産を購入するなど消費を拡大する事で経済成長につなげるねらいだ。
しかし返済できなければ農地を失うリスクもある。
中小都市ではなく鄭州市で都市民になりたい李さん。
すぐさまふるさとへ向かった。
鄭州市から北東へおよそ150キロにある趙営。
李さんの先祖は代々ここで麦やトウモロコシを栽培してきた。
農地の使用権を担保に借金すれば鄭州市内で住宅を買う事ができると考えたのだ。
農地を守ってきた父親も賛同してくれた。
李さんが訪ねたのは地元の役場に設けられた土地の相談窓口。
ここでは土地の記録を基に衛星写真で農地の場所と広さを特定している。
李さんの農地の面積はおよそ0.5ヘクタール。
これを担保にすれば年収の3年分にあたる450万円の融資を受けられると李さんは期待していた。
もし借金を返済できなくなれば農地を失ってもいいという覚悟だった。
物件探しを始めた李さん。
ところが思わぬ事態に直面した。
手が届くのは築40年以上の中古アパート。
こうした物件は鄭州市に残ろうとする出稼ぎ農民たちで奪い合いになっていた。
家族のために大都市で教育や医療を受けられるようになりたい。
それだけが李さんの願いだ。
陳砦地区を追われふるさとの農村に戻っていた項慶党さん。
中小都市で店を構えるのを諦め農村で実家の建て替えを始めていた。
家族そろってこの地で暮らしていく事を決断したのだ。
建て替えにかかる費用は150万円以上。
これまで30年大都市で蓄えてきた貯金を全てはたいた。
稼ぎのない農村で無一文となった項さん。
しかしその表情は穏やかだった。
この農地がある限り家族が食べていく事だけはできる。
項さん一家はこの日農地の片隅にある先祖の墓を訪ねた。
農地を残してくれた先祖に感謝した。
国の政策に翻弄され行き着いた項さんの決意だった。
鄭州市の陳砦地区では解体作業が始まっていた。
中国の高度成長を底辺で支え追われていった出稼ぎ農民の町。
取り壊す男たちもまた出稼ぎ農民だった。
日当は3,000円。
農村に残した家族のため大都市の再開発現場を渡り歩く。
大都市での定住を夢みてきた李俊峰さん。
市場での営業ができなくなり別の農民の居住区に流れ着いていた。
1袋75円の総菜を今日も売り続けている。
この地区も数日以内に取り壊される事が決まった。
農民を中小都市へ誘導し消費者へと変える事で更なる経済成長を目指す新型都市化計画。
その裾野では1億人の出稼ぎ農民が翻弄され決断を迫られていた。
推し進められる壮大な実験。
その行方に中国の未来が懸かっている。
2016/10/30(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「巨龍中国 1億大移動 流転する農民工」[字]

いま中国で“大陸改造計画”が進行中だ。内陸部への人口移動によって、新たな消費経済の構築を目指している。大移動を迫られる農民工を通して、変貌する中国の行方に迫る。

詳細情報
番組内容
世界第2位の経済大国・中国。安価な労働力として“世界の工場”を支えてきたのが、農村から大都市へ流入した3億人近い農民工だ。しかし経済成長が鈍る中、大都市から内陸部の中小都市に人口を吸収させ新たな消費経済の構築を目指す国家プロジェクト“大陸改造計画”が始まっている。その一環として、いま大都市では、農民工の居住区が次々と取り壊されている。大移動を迫られる農民工を通して、変貌する中国の行方に迫る。
出演者
【語り】谷田歩,柴田祐規子