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地上波テレビの字幕を全文書き起こします

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字幕書き起こし 相棒 season 15 #5 2016.11.09

(たたく音)
(磯田一輝)それでは80万円から始めます。
80万。
(磯田)90万。
95万。
100万。
110万。
他にございませんか?110万。
(たたく音)34番110万円で落札です。
(拍手)
(冠城亘)右京さんが絵画のコレクターとは知りませんでしたね。
ここへはよく来られるんですか?
(杉下右京)ここに来たのは初めてです。
それにコレクターでもありませんよ。
僕の部屋にあるのは無名の画家の風景画が1枚だけです。
君退屈なら帰ってもいいですよ。
何も休みの日まで僕に付き合わなくても。
いや…勉強になります。
(たたく音)ではいよいよ下見会でも話題になりました三上史郎の新作をご紹介しましょう。
(磯田)作品番号10番。
1年のブランクののちに描かれたこの作品は『流砂』と名付けられております。
初期の『黒猫』をしのぐ大胆な筆遣いであります。
(木槌でたたく音)150万円から始めます。
150万。
200万。
(磯田)250万。
それでは…300万。
(どよめき)300万が出ました。
(三上史郎)やめろ!

 

 

 


(三上)こんな駄作に300万もつけるとはあんたら正気か!どちら様です?三上史郎本人でしょうねぇ。
あんたもいい加減嘘はやめろよ。
何が記念すべき一作だ!これは俺の作品の中でも最低の出来だ!こんなものに金なんか出すな!先生何をおっしゃるんですか。
先生の完璧主義は理解しておりますがこれは…。
(三上)オークションから外してくれ。
(磯田)そうは参りません。
だったらこうしてやるよ!先生!あとを頼む。
(山本貴和子)はい。
(磯田)さあ先生こちらへ。
触るな!
(磯田)どういうつもりですか?先生。
俺を先生と呼ぶな!本当は馬鹿にしてんだろ。
一体なんだっていうんです?あんた平気なのか?俺もう耐えられないよ。
眠れないんだよあれから。
なあなんで今になってあんなものが出てきたんだよ?なあ!なんで…。
三上さん念のために言っておくがあんたの行動いかんによっては全てが無になる。
我々の未来もあんたの未来もだ。
わかってると思うがね。
じゃあさっきの人がこのオークション会社の社長さんですか。
ええ磯田さんです。
三上さんの育ての親と言われている人でいわば恩人ですよ三上さんの。
しかし先ほどの三上さんの態度を見るととてもそんなふうには…。
まあ芸術家ですからね。
基本わがままでしょ。
(貴和子)大変お待たせ致しました。
次の出品をご案内致します。
(たたく音)では出品番号11番。
(衝撃音)ああっ…ああ…!亡くなった?あの画家が?出掛けにニュースを見たんです。
それでちょっと彼の事を調べてみようと。
亡くなったのはいつです?昨日の真夜中…いや日付が変わった今日ですね。
自宅近くの歩道橋から歩道に真っ逆さまです。
事件性があるんですか?さあ…。
報道では自殺と他殺の両面で捜査をしてると言ってましたが…。
ほら来ましたよ。
おはようございます。
(伊丹憲一)警部殿。
つかぬ事を伺いますが昨日の昼間…。
ええ行きましたよ絵画のオークションに。
以前からそういうご趣味がおありなのはわかってましたがまさかあの会場に警部殿がねぇ…。
僕もいましたけど。
あ?お前もかよ。
(芹沢慶二)では三上史郎という画家の事やオークション会社の磯田という社長の事もよくご存じで?さあ…。
このオークションに行ったのは昨日が初めてですし三上さんについても僕はそれほど…。
(芹沢)じゃあ2人の確執については何も?確執って?美術誌の記者の話だと三上は磯田に対して何か一物持ってたらしいんだよ。
磯田が俺の育ての親?ハハハッ冗談じゃないよ。
あいつはただのブローカーだよ。
どうやら2人の間には何かあるようですねぇ。
そうですね。
だからといってこの件に首を突っ込んでもらっては困りますよ警部殿。
そしてそこの新米巡査。
これは特命係とはなんの関係もない事件だからな。
わかってます。
でも何かご協力出来る事があればいつでも声をかけてください。
ご苦労さまでした。
おおっ…!
(芹沢)危ない危ない!
(角田六郎)おおおお…!伊丹たちなんの用だったんだ?まあ暇つぶしでしょ。
じゃあ。
あっ君どちらへ?ちょっと。
では僕もちょっと。
うん。
またまた当たりでした。
ん?杉下右京が歩くと…事件に当たる。

(小川加奈)こちらでお待ちください。
社長は今会議中ですので。
(貴和子)でもそれならちゃんと根拠をお示しください!頭ごなしに偽物だとおっしゃられてもお客様を納得させる事は出来ません!根拠も何も本物は8年も前に盗まれてるんだ。
二十数億の値がついたそれがなんで上海の路地裏でたった3万で売られるんだ。
でも盗品が流れる事はよくある事じゃありませんか!もういい。
これ以上議論しても始まらん。
あの社長。
ん?警察の方が…。
朝の方とは別の方ですな。
お取り込み中のところ申し訳ありません。
少しお時間を頂けないかと思いまして。
悪いがこれから出掛けるんでね。
5分ほどで構わないので。
ああ…。
三上先生の事なら朝お話しした以上の事は何もありませんよ。
それでも何かお聞きになりたい事がおありなら彼女にでも聞いてください。
では。
すぐに戻ります。
お部屋へお通しして。
はい。
すいません。
さっきの社長さんたちは何を言い争ってたんです?偽物がどうとかおっしゃってましたが。
ああ…。
お客様が持ち込まれた絵画の真贋鑑定で社長と貴和子さんの意見が対立してるんです。
貴和子さんっていうのはさっきの?はい。
貴和子さんは本物の可能性が高いっておっしゃるんですけど社長は絶対偽物だって。
有名な人の絵画なんですか?ブルーピカソです。
ブルーピカソ?ブルーピカソ…?ピカソの青の時代の作品群の事ですよ。
あっどうぞ。
青っていうのは絵の具の青の事なんです。
ピカソはスペインからパリへお友達と渡ったんですけどそのお友達が自殺しちゃってしばらくは暗い絵ばかり描いたんです。
そうでした。
青の絵の具…?はい。
だから陰気で寂しげな絵ばっかりで私なんかはもう全然好きじゃないんですけど…。
しかしヨーロッパでは青は神の色とされていましてね。
ピカソは命に対する畏怖を青で表現したとも言われているようですよ。
ああそうなんですか?ええええ。
(ノック)お待たせ致しました。
失礼します。
どうぞ。
私もあまり時間がないのですが何をお話しすれば…。
実は昨日僕たちもオークション会場にいましてね。
(貴和子)まあ!そうでしたか。
その時三上さんの様子がちょっと気になりまして。
そのあと不審な亡くなり方をされてますし。
どうでしょう?最近三上さんの周辺で何か変わった事は?さあ…。
私にはそういう事は…。
この会社に入ってまだ半年ですので先生とお話しした事もほとんど…。
以前はどちらで何をされていたんですか?シアトルの美術館でキュレーターをしておりました。
おお…!学芸員ですか。
ずっとシアトルで?はい。
そうですか。
あの…これからお客様のところへ参りますのでこれでよろしいでしょうか?お忙しいところありがとうございました。
あっ!最後に1つだけよろしいですか?そのお客様ですがブルーピカソを持ち込んだお客様では?加奈ちゃんからお聞きになったんですね。
もしかするとそのブルーピカソは8年前に横浜の画廊から盗まれたものではありませんか?ご存じなんですか?当時世界的な話題になりましたからねぇ。
それが発見されたのは横須賀の古いバーの地下でした。
そのバーの持ち主が亡くなって相続した遺族が地下の酒蔵を整理すると見慣れぬ古い絵が出てきた。
隅にかすれたサインがありなんとかピカソと読めまさかと思いながらもその遺族は横浜にある老舗の画廊へと持ち込んだんです。
(古澤俊文)君!画廊主はひと目見るなり非常に興奮したそうです。
未発見のブルーピカソではないかと。
新たなブルーピカソ発見の可能性に沸き立ち画廊には大勢の専門家たちが押し寄せました。
いよいよスペインから公式の鑑定人が来るという矢先画廊主はその絵が贋作にすり替わっている事に気づいたんです。
すり替わった?本物が贋作に?いつ?さあ…。
よく出来た贋作だったのでしょうねぇ。
世界中の美術館が落札額を提示したりする中どの時点で贋作にすり替わったのか誰も気がつかなかったそうですよ。
そして本物が8年後ここに持ち込まれたわけですね。
その絵は今こちらに?いえお客様がお持ちです。
よろしければ我々も同行させて頂くわけには参りませんかね?真贋はともかくぜひこの目で見てみたいのですが…。
あ…そうですか?
(伊丹)間違いありませんね。
わかりました。
なんかわかったんすか?目撃情報が出た。
おっ!三上さんが転落死する直前あの歩道橋の下をタクシーが通りかかったらしい。
そのタクシーの運転手が歩道橋の上で争う2人の男を目撃している。
時刻は午前2時少し前というから1人は三上さんに間違いないだろう。
もう1人は?わからん。
運転手は単なる酔っ払い同士のもめ事だろうとそのまま走り抜けたらしい。
そうですか…。
でもこれで他殺確定でしょうね。
やっぱり社長の磯田ですかね?確かなアリバイもないし。
なんで通報者が犯人見てねえかなあ。
これなんですね。
いいですねぇ…。
ピカソの青の時代には『ブルーヌード』という作品がありますがその延長線上の作品なんでしょうねぇ。
しかしこれに何十億も出す人本当にいるんですかね?青の時代はピカソがまだ無名の頃ですから散逸したまま埋もれている作品があるのではないかと言われてきました。
ですから多くの愛好家たちが夢を見てきたんです。
いずれそれが発見されるのではないかと。
もしその夢が現実となれば…。
50億を出しても欲しいという人が出てくるでしょうね。
50億…。
(中村沙織)皆さんテーブルのほうへどうぞ。
さあさあどうぞお掛けになって。
この額はこちらで用意されたものですか?ああ…その派手な額縁?それはそのまんまの状態で上海の雑貨店に置かれていたそうなんですよ。
主人はあとで適当なものに替えるつもりだったようですけど。
購入されたのはご主人ですか。
(沙織)ええ2年くらい前に仕事で上海に参りまして。
もちろんまがい物のつもりだったようですけど。
でもね心の内では夢を見ていたと思うんですよ。
ブルーピカソ事件にとても興味を持っていたようですから。
まあいずれ鑑定に出すつもりだったとは思うんですけれどその前にがんが見つかってしまって…。
ご主人は去年亡くなられたそうなんです。
そうでしたか…。
それで私があとを継いだ次第で。
その事であとでご相談が。
あっそう。
随分熱心ですねブルーピカソに。
まさか今日の今日これを目にするとは思いもよりませんでしたからねぇ。
ん?「今日の今日」…。
これです。
俺が朝見てた三上史郎の経歴じゃないですか。
君がこれを見ていた時僕の目にはこの1行が飛び込んできました。
この古澤画廊というのはブルーピカソ事件の舞台となった画廊です。
三上史郎初個展の画廊が?2008年3月というとブルーピカソ事件の半年前ですねぇ…。
何か関係あるんですかね?今回の事と。
そこまではまだ…。
(汽笛)紅茶を頂けますか?
(井上)はい。
(井上)古澤画廊さんの事ですよね。
いい画廊だったんだけどあの事件のあとすぐに売却されました。
完全な廃業ですか?だって弁償金3億払わされたんでしょ?なんだったっけな?あのピカソ。
ブルーピカソ。
あっそうそう。
持ち主からそれを預かってる間に盗難に遭ったわけだしいろいろ大変だったみたいですよ。
弁償しろのなんのって持ち主が騒ぎ立てて。
おまけに古澤さんがネコババしたんじゃないかとかいろんな噂が出てね本当気の毒でしたよ。
責任感が強い真面目な人だっただけに。
その頃古澤画廊に三上史郎という画家が出入りしていたと思うのですがご存じですか?知ってますよ。
古澤さんが面倒見てた画家さんでしょ?古澤さんが彼の面倒を見ていた?三上さんに限らず古澤さんは売れない画家さんの面倒をよく見てましたよ。
ここに連れて来てねサンドイッチとかスパゲティとか食べさせながらなかなか芽が出ない彼をよく励ましてましたよ。
人を感動させるためにはまず自分が感動しなければ駄目だ。
そうでなければどんなに巧みな作品でも命を宿さないと。
絵を描いていて行き詰まったらこの言葉を思い出すといいよ。
面倒見がよかったんですねぇ…。
(携帯電話の振動音)もしもし。
右京さん古澤氏の現住所わかりました。
神奈川県の荒磯です。
お客様ですよ。
どうぞ。
本物が見つかったんですか?いや本物かどうかまだわかりませんが…。
8年前あなたの画廊から消えたブルーピカソは贋作にすり替えられていたそうですがその贋作者について心当たりはなかったのでしょうか?つまり犯人の心当たりですか?はい。
当時あなたの画廊に出入りしていた若い画家の仕業とはお考えにならなかったのですか?私にはわからなかった。
多分私は有頂天になっていたんでしょう。
未発見のブルーピカソと出会って興奮して…周りが見えなくなっていました。
贋作に気づかれたきっかけはなんだったのでしょう?鋲です。
鋲?
(古澤の声)鋲が1つ違っていた。
画布を留めるあの小さな鋲が…。
(古澤の声)持ち主から預かった時には頭が小さく欠けているものが1つありました。
それが欠けていないものに変わっていたんです。
古澤さん。
オークション会社の磯田さんの事はご存じですか?三上さんを世に出したと言われてる人ですが。
4年ほど前一度三上くんの個展に行った時それらしき方を見かけはしましたが…。
彼は器用なタイプの画家でした。
しかしそれだけではなくいずれ独自の世界を築くだろうと期待していました。
しかし私が見る限りでは…。
ちなみにあの時の贋作はどうされましたか?処分しました。
本物はどこかのコレクターに高値で買い取られたんでしょう。
だとすると画家にとっては不幸な出来事になりますねぇ。
当然盗品は人の目から遠ざけられますから。
作品は人々の目に触れてこそ生きます。
それをさせるのが私たちの仕事でした。
それをさせるのが…。
右京さん僕はこのまま残ります。
古澤さんのアリバイを調べるつもりですか?右京さんもそこは気になるでしょ?三上さんの死の背景には8年前のブルーピカソ事件があるかもしれません。
まだはっきりとはしませんがね。
それに磯田です。
磯田は元々一匹狼のブローカーです。
それが突然資本金1億で今の会社を立ち上げた。
その時期はブルーピカソ事件の半年後です。
つまり磯田社長が三上さんに贋作を描かせた上で本物とすり替えさせそれを売りさばいて資金を得その見返りに三上さんを人気画家に押し上げたという構図でしょうかねぇ。
三上さんが磯田に持ってる複雑な感情の背景がこれで納得出来ます。
そしてもし古澤さんがそれを知ったとしたら復讐という凶行に出てもおかしくない。
ではここは君に任せましょう。
ただしやりすぎないように。
…はい。
(磯田)例の客が持ち込んだブルーピカソ科学検査を依頼したのは本当か?
(貴和子)はい。
なんのための検査だ?
(貴和子)8年前に盗まれたブルーピカソかもしれませんから。
(磯田)偽物だ!
(貴和子)不思議ですね…。
社長はどうしてそこまで自信を持ってあれを偽物だとおっしゃるんでしょうか?何?普通は本物かもしれないという期待のもとで様々な調査をするものではありませんか?それなのに社長はまるで本物がどこにあるかご存じのようですね。
ともかく科学検査も専門家を呼ぶ事も私は許さん!それでもやると言うなら君個人でやりたまえ!今後この件で会社の名前は一切出すな!いいね?検査は諦めるおつもりですか?これ以上やるとクビになりそう…。
今日は何か?実は8年前のブルーピカソ事件の舞台となった古澤画廊その元画廊主さんにお会いする事が出来ましてね大変興味深いお話が伺えました。
もしかするとあなたにとってもお役に立つ情報かもしれませんよ。
失礼。
欠けている鋲はありませんかねぇ…。
でもすごいわねその古澤さんって方。
鋲といっても画布を留める小さな釘の事でしょ?そんな違いにまで気づくなんて…。
ねえ貴和子さん。
こうなったらこの事を公表しちゃいましょうよ!私がお金出しますから専門家をたくさん呼んで。
でもこれ以上中村さんにご迷惑は…。
騒動に巻き込まれるのは目に見えてますから。
(沙織)私も年をとったせいかこういう中途半端が一番嫌なの。
死ぬ時に悔いが残りそうで。
中村さんはまだお若いですよ。
(沙織)ん?ハハハ…。
まあ…!嘘?中村とかいうあの女性のご主人が上海でブルーピカソを買ったっていうのは嘘なんですか?帰りにあの方のご主人が勤めていた会社に寄ってみたんです。
上海のどちらへ行かれたのか出張記録などないかと思いましてね。
で…?出張の事実はありませんでした。
上海はおろか国内の出張もなかったそうです。
じゃあ一体あれはなんなんですか?あのブルーピカソはあのおばさんがどこかで盗んできたんですか?そうまでは言いませんが古澤さんが処分したという贋作の行方が少々気になりますねぇ。
でホームでの聞き込みはどうでしたか?古澤さんのアリバイは完璧でした。
僕の見込み違いです。
ただちょっと気になる話があるんです。
古澤さんは最近よく出掛けるそうなんですがそれが決まって水曜日らしいんです。
サークルか何かでしょうか?いえ美術館巡りだと言ってるそうですが。
美術館ですか…。
明日水曜ですね。
ああ…水曜ですね。
どうもありがとう。

(汽笛)この女性は25年も昔に…私が愛した女性です。
当時上野で「ピカソ展」がありました。
私は3日ほど通いました。
ブルーピカソが数点展示されていてそれを見るのが楽しみだったんです。
その3日の間ブルーピカソだけを見に来る女性がいました。
彼女は大学院を出たばかりで学芸員になる夢を持っていた。
それが貴和子さんですか。
しかしその時私には妻がいたんです。
苦しみました…。
奥様を傷つけるつもりはありませんでしたから。
そんな私の相談にのってくださったのが中村さんなんです。
中村さんは私の将来を心配してつてを頼ってシアトルの美術館に職を見つけてくださいました。
じゃあずっとシアトルに?ええ。
25年の間一度も戻りませんでした。
8年前のブルーピカソ事件の時もですか?本当は飛んで帰りたかった。
ブルーピカソは世間で注目される以上に私にとって特別でしたから。
でも戻れなかった…。
古澤さんとは二度と会わないと奥様に誓ったんです。
ところが去年中村さんからご主人の訃報を知らせるはがきが届きました。
せめてお線香をと帰国しました。
その時初めて今の古澤さんの様子を教えられたんです。
画廊を手放された事や奥様が亡くなられた事施設に入られた事を…。
ショックでした。
古澤さんの様子があまりにも変わってしまって…。
全て8年前のブルーピカソ事件のせいだと思いました。
事件の顛末を詳しくお聞きするうちに贋作とすり替えたのは当時画廊に出入りしてた関係者それも無名の画家だと私は思いました。
それは三上さんの事ですね?はい。
彼にはずば抜けた模写力がありました。
彼を世に送り出したと言われる磯田氏についても悪い噂を耳にしたんじゃないですか?そして2人の関係を疑った。
でも証拠がありません。
全ては私たちの想像でした。
なるほど。
それであなたは磯田の会社に潜り込んだ。
すり替えられた本物がどこに流れたかを突き止めたかったんです。
でもこの半年磯田さんは尻尾を出さなかった。
だから私は…。
贋作を使って本物をおびき出す作戦に出た。
中村さんのご自宅にあるブルーピカソは8年前古澤画廊に残されたあの贋作ですね?おっしゃるとおりです。
捨てる事が出来なかったあの贋作です。
これは確かにピカソのタッチです!
(貴和子の声)私はこれは本物の可能性が高いと言い張りました。
過去に盗まれた本物がなんらかの理由で上海に流れたんだと。
騒ぎになればなるほど磯田は窮地に陥る。
本物だと信じて絵を買った人間はその真贋を疑い激しく詰め寄るでしょうからね。
磯田さんは売った相手にコンタクトを取ると思いました。
けど何も起こらず三上さんの様子だけがおかしくなったんです。
その事で彼が贋作の描き手だという事だけは確信出来ましたが…。
彼も苦しんだでしょうねぇ。
そして最後は何者かに殺された…。
杉下さん…。
私たちの計画を知って三上さんの死にも関係しているとお考えになるでしょうね。
でも私たちは彼の死には決して関わってはいません!私たちの目的は彼を罰する事ではないんです。
盗まれたブルーピカソを取り戻したいだけなんです。
どうか信じてください!
(汽笛)捜査は暗礁に乗り上げたという顔ですね。
フンッ…まだまだこれからだ。
でも磯田の線を追ってたんじゃないんですか?あれはどうなったんです?残念ながらシロ。
三上の死亡時刻磯田は自宅マンションのベランダで風呂上がりの一杯を楽しんでいたらしい。
それを向かいのマンションの住人が見てたんだよ。
他に容疑者は?それが全く。
芹沢…部外者に余計な事を言うな。
(沙織)私たちのした事って罪になるのかしら?でも磯田さんと組んで古澤さんを裏切った三上さんの罪の深さに比べたら私たちのした事なんてかわいいもんですよ。
はいお紅茶。
ただのティーバッグですが。
恐縮です。
でももしこれが本当に三上さんが描いた贋作なら大した力量だわね…。
古澤さんがだまされたのも無理ないわ。
まさかかわいがっていた画家に…。
あっ!ちょっと失礼。
もしもし?おっ右京さん。
磯田は完全にシロだそうです。
やっぱり古澤たちの仕業じゃないですか?いいえ違います。
でも他にいないじゃないですか。
大至急横浜に戻ってくれませんか?えっ横浜にですか?古澤画廊のあった場所のすぐ近くにクラウンという喫茶店があります。
そこからコースターをもらってきてください。
コースターですよ。
あっそれと伊丹さんたちにはある人物を洗うようもう一度進言してください。
誰の事です?8年前のブルーピカソ事件におけるもう1人の重要人物ですよ。
あっ貴和子さんおはようございます。
どうしたの?慌てて。
社長が行方不明です。
えっ?ゆうべから連絡がつかなくて今朝も連絡つかなくて金庫のお金がなくなってて…。
落ち着いて。
おかしいんです。
銀行のお金も下ろされてて…。
だから課長が今警察に…。
私も行ってきます。
貴和子さん。
冠城さん…。
磯田さんの行方がわからないんですけどもしかしたら…。
大丈夫です。
磯田社長は逃亡寸前に空港で捕まりました。
えっ?じゃあ三上さんは磯田さんに?違います。
詐欺容疑が立件されたんです。
それについて話がありますので今から古澤さんのところに一緒に行ってもらえませんか?杉下さんこれはどういう事でしょう?私もまだ何も聞かされてないんだ。
あまりいいお話ではないのでお二人そろってからと思いまして。
磯田さんの詐欺というのは8年前の…。
そうです。
あなた方が想像したとおりでした。
8年前彼は自分の事務所を持つために物件を探していました。
しかしなかなか見つからず困っていた時に不動産ブローカーの筒井さんから声がかかりました。
筒井?あの…?ええ。
横須賀のバーの筒井さんです。
(筒井宏次朗)こちらです。
ここは伯父から相続したバーですけど地下室もあるし改装すれば美術品の保管場所にもなるんじゃないですか?その時筒井さんは伯父は西洋絵画が好きだったがろくなものがなかったと愚痴をこぼしたそうです。
せめてピカソの1つも残してくれればよかったと。
この時磯田の頭の中でアイデアが生まれました。
贋作を本物と思わせる決定的なアイデアです。
8年前に初めて登場したブルーピカソに多くの人がひきつけられ埋もれていた名画の新発見かと沸き立ちましたが真贋の決着はまだつきませんでした。
古澤さんも一抹の不安はあったでしょう。
ところがそれが偽物にすり替えられるという事態になってすり替えられる前の作品は本物だと誰もが思い込んだのです。
偽物が偽物にすり替えられるはずはないという思い込み。
それを利用した巧妙な罠です。
実は三上さんが描いた贋作の真作…つまり本物はこの世には存在しません。
筒井が古澤さんのところに持ち込んだ絵がそもそも三上さんが描いた贋作だったのです。
変わったのは…鋲だけ。
これも作品は2つあると思わせるための巧妙な罠です。
(古澤)じゃあすり替えられたブルーピカソはコレクターたちに売り渡されたんじゃないんですね?だったら…磯田さんたちはなんのためにそんな事を?古澤さんあなたは筒井に3億の弁償金を払ってますよね?磯田たちは初めからあなたの弁償金を狙ってたんです。
じゃあ三上さんはそれを承知で協力したんですか?もちろん世話になった古澤さんをだます事に悩み苦しんだでしょう。
しかし彼はそれ以上に世に出たかった。
当時世間では彼と同年代の画家たちが何人も注目を浴びていました。
不遇の時の人間には他人の成功が殊更にまぶしくつらいものです。
磯田はそれを利用したのです。
(磯田)計画が成功すれば君を必ず売れる画家にしてみせる。
まともにやっていたんじゃ一生うだつは上がらないよ。
(磯田)フフフ…。
そして三上さんは誘惑に負けた。
ところが最後の最後に彼は賭けに出たのです。
賭け?この企みにもしかすると古澤さんは気づいてくれるかもしれないと。
この絵の中には数枚のタロットカードが描かれています。
よく見なければ絵柄はわかりませんがこれ…。
この一番手前のカードこれははっきりわかりますねぇ。
これは塔のカードです。
意味は崩壊衝撃緊迫…。
致命的な失敗や衝撃が起きた。
よってあなたは警戒する必要があるというものです。
三上くんはこのカードで私に警告を…?あなたと三上さんにとってはこれはなじみのあるものだったのではありませんか?クラウン…。
(古澤)この言葉を思い出すといいよ。

(古澤の声)そうだったのか…。
なのに私は…。
あなたは気づかなかった。
もちろん磯田たちも…。
誰にも気づかれぬまま三上さんは名声を手に入れ代わりに激しい後悔の念にさいなまれる事になったのだと思いますよ。
そして今回自分が描いたブルーピカソが本物かもしれないと持ち込まれた。
三上さんはそれですっかり情緒不安定になったそうです。
どうせ古澤が売っ払ったものだろ。
放っとけばいいよ!ハッ…。
馬鹿な女が本物だ本物だと騒いでいるがね…。
あんたらはいいよ!物証はないからな。
けど俺にとってはあれは犯罪の証拠なんだぞ!なんとかしてくれよ!なあ!俺は一生あの贋作につきまとわれるんだ…。
なんとかしてくれよ!そんな三上さんを磯田も筒井も恐れた。
元々罪の意識に苦しんでた三上さんが自分たちを巻き込んで自滅するのではないかと。
筒井のほうが心配を募らせあの晩…。
俺はもう駄目だ…。
二度と本物の絵は描けない。
描いても描いてもあの贋作が追いかけてくる…。
筒井はそんな三上さんを眺めるうち本気で怖くなったそうです。
こいつはいずれ壊れる。
俺たちも道連れにされると…。
三上!お前はもう邪魔なんだよ!
(衝撃音)
(筒井の声)道路に染みついていくあいつの血が頭から離れないんです!あれから今度は俺が眠れなくなりました。
筒井も余計な事してくれたよ。
ハハハハ…!放っときゃ三上は勝手に自殺したんだ。
ハハハハ…!あなた方が求めていたブルーピカソは初めからこの世には存在しません。
過去の思い出に重ねた名画は幻だったのです。
ですが僕はこう思います。
あなたは貧しい画家たちを支える事で確かなものを残されたと。
この先あなたに助けられた貧しい画家たちの中から花を咲かせる者が出てくるかもしれません。
あなたのおやりになってきた事は決して間違いではなかった。
そう思える日が必ず来ると思いますよ。

(三ツ門夏音)あの日の夜から絶対に部屋から出ていません。
もしかしたら殺人と死体損壊が隣の部屋で進行中なのですから。
彼女の話が事実だという証拠はない。
(夏音)嘘じゃないんです。
本当なんです!これは思っていたより複雑な事件ですよ。
2016/11/09(水) 21:00〜21:54
ABCテレビ1
相棒 season 15 #5[解][字]

『ブルーピカソ』水谷豊×反町隆史
消えた名画と殺人犯の謎!!
幻の“ブルーピカソ”をめぐるミステリーが、8年の時を超え右京の推理で明らかに!!
【ゲスト】森尾由美

詳細情報
◇番組内容
第5話『ブルーピカソ』
人気画家の三上(斉藤陽一郎)が歩道橋から転落死を遂げる。右京(水谷豊)と亘(反町隆史)は、前日オークション会場で三上と揉めていた運営主の磯田(坂西良太)を訪ねる。すると今度は、磯田と社員の山本(森尾由美)が、持ち込まれたある絵画の真贋鑑定で意見が対立し、言い争っていた。その絵画というのは、8年前に贋作とすり替えられ、ずっと行方不明になっていた“ブルーピカソ”だった…。
◇出演者
水谷豊、反町隆史
川原和久、山中崇史、山西惇
【ゲスト】森尾由美、堀内正美
◇スタッフ
【脚本】坂上かつえ
【監督】藤岡浩二郎