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書き起こし ハートネットTV リハビリ・介護を生きる「老いること生きること」 2016.11.29

映画は唐突に始まります。
最愛の娘を亡くした悲しみのあまり精神に混乱を来し苦しむ坂口すちえさん。
その姿を記録したのは映画監督の息子です。
親の老いとその苦しみの日々。
監督坂口香津美さんがカメラを回し完成させた映画「抱擁」。
娘に続いて夫にまで先立たれたすちえさんをいたわる妹のマリ子さん。
マリ子さんはすちえさんを故郷の種子島に呼び寄せます。
ふるさとに戻り絶望と混乱のふちから少しずつ生きる力を取り戻していく母の4年間の記録。
ドイツオランダなど海外でも上映され多くの共感を呼んでいる90分のドキュメンタリーです。
私はあの映画と全く自分たちとよく似てまして主人の両親が遠距離で島根県で要介護4とじいちゃんが要介護1で2人でいるんですね。
それでもうしょっちゅう行ってやはり介護をしててすごく参考になりました。
認知症になっていくという事と老いを何かず〜っとドキュメンタリーで追っかけていかれたっていうところが何か今の日本にちょうどこう…求められてる事とね自分がどこにいたら安心して過ごせるかっていう事がよく分かる映画だったかなと…。
これまで200本以上のドキュメンタリー番組や映画を手がけている監督の坂口香津美さん。
人は誰も老いていく事から逃れる事はできません。
私の母も78歳の時に大変苦しい状況になりまして大変孤立してのたうち回っておりました。
孤立からいかに人は幸せな老いというものを見つけるかという一筋の希望が描かれていると思います。
老いる事生きる事そして生き直す事。
映画「抱擁」を通して考えます。
「リハビリ・介護を生きる」。
今日と明日は映画作品を通して老いや認知症について考えてまいります。
一緒に進行して下さるのはタレントの荒木由美子さんです。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
老いといいますと今までは自分の親の事だったんですよ。
でも今回はもう自分がやがて老いていくっていうテーマを自分にこれから考えてみなければと思いましたね。
今日もご一緒に…。
(2人)よろしくお願い致します。
ゲストご紹介します。
今日は映画監督の坂口香津美さんでいらっしゃいます。
どうぞよろしくお願い致します。
どうぞよろしくお願いします。
それにしてもどういう思いでお母様にですねカメラを向けられたんでしょうか?両親と住むようになりましてそれでですねのたうち回る母親の近くで私自身もなすすべもなくのたうち回りながら手にしたのが一台のカメラだったと思います。
お母様の何を撮りたかったんでしょうか?母親を苦しめているものの正体…。
正体?ええ。
老いであるとかそういった精神的な混乱を伴って母がのたうち回っているその母親を苦しめているのたうち回らせているものは何なのかというその正体を突き止めてやるぞという気持ちでカメラを回しました。
種子島に生まれたすちえさんと諭さんは昭和29年に結婚。
香津美さんと妹が生まれました。
貧しいながらも幸せな4人家族。
その後父の諭さんは東京へ出稼ぎに行き家計を支えます。
昭和46年種子島の田畑や家を売り払って上京。
諭さんは小さな工場などで働きすちえさんは清掃会社や社員食堂の賄い婦などで必死に働きました。
老後は2人で種子島に戻るのが夢でした。
しかし2006年最愛の娘みち代さんを病で亡くします。
それがきっかけですちえさんの精神は混乱に陥っていきました。
すちえさんと諭さんが暮らしていた埼玉の団地。
坂口さんが父からの電話で母すちえさんの異変を知ったのは2008年。
坂口さんは同じ団地に移り住み介護しながら母の姿をカメラに記録し始めました。
娘を亡くした深い悲しみから心のバランスを失ったすちえさんは精神安定剤を多量に摂取。
薬が切れればパニックを起こし一日に救急車を何度も呼んだ事もありました。
映画にはナレーションがありません。
母と関わり合いながらその姿を見つめます。

 

 

 


(医師)これが坂口さんの脳のMRIですね。
側頭葉の海馬という場所この周りに隙間が空いてだいぶ萎縮しておるという事ですね。
これがまあ一つのアルツハイマー型認知症の特徴でもある訳ですね。
これによって記銘力の障害記憶力の障害というのから始まって物を無くしたりとかすぐ忘れてしまったりとかそういうところから徐々に症状が出てくる。
2009年7月。
(医師)心臓が止まっていて呼吸も止まっていて瞳孔の光に対する反射もすっかり消失しているような状態なので…。
息してても…息してても?
(医師)息はもうしてらっしゃらないです。
今最後ねえ種子島に戻られるところで終わってますけども。
どうなんでしょう?お若い頃っていいましょうかねお母様としてはどういうお母様でいらしたんですか?母は7人きょうだいの長女で大家族で農家で貧しい家だったので働きながら弟妹を育ててきて強くて厳しくてそういった母親でした。
ご自身にとってはお母さんの事どうだったんですか?やっぱり肉体労働で育ててくれたのでそれはやはり息子としては母親の事はとてもこう…強く愛していますね。
一緒に暮らし始めたんですね。
そのころっていうのはどうだったんでしょうか?そうですね…。
私の妹まあ母親の長女ががんで亡くなりましてその時の母の苦しみ悲しみ悲嘆喪失…そういった感情を私が理解していなかったんですね。
で気が付いてみたら母親は安定剤…精神安定剤がなければ生活できないような状況になってまして薬があるだけのんでしまう訳ですね。
それによって混乱していって買い物に出られないとか洗濯ができないとか皿も洗えないとか日常的な事ができなくなるんですね。
そういう姿をどんなふうに映りました?怒りですね。
「なぜそんな事もできないのか」とか洗濯物も散らかってるので「洗濯物もしてないの?」とか掃除もしてないので「何で掃除もしないのか」とか否定的に見てそれを自分の中で攻撃的になっていくんですね。
できてた事ができなくなるっていうのがとても何か「何で?」っていう責める事しかなくなってしまう瞬間ってありますもんね〜。
僕自身もやっぱり何日も母親と一緒にいるとまた母親が私だけを…父が入院しましたので私だけを頼りにしてずっと24時間母親の近くにいなきゃいけないのでさすがに私もそれはもう自分自身が混乱していって母親に対して母親の近くに物を投げたりとか。
母親を殴ったりは直接しませんけれどもその一歩手前までいって危機的な状況だったと思います。
それを救ったものって何だったんですか?やっぱり自分が追い詰められていった時にもう母親に対して本当手を出すかなっていう時にふっとこの一台のカメラっていうかカメラを手に持ってたんですよね。
でそのカメラを見てファインダーにですね母親が映ったんですよね。
で母親が映った母親の姿がですねとてもこう小さくて何かとても悲しく見えたんですよね。
向かっていく母親に対する憤りと受け入れられない自分がいるけれどもこの一台のカメラを通して見る母親というのはとても小さくて守ってあげなければいけないというこの2つの感情が同時に存在しました。
このカメラがある事によってフォーカスを…焦点距離が必要ですので一定間のこの距離を…。
母親に手を上げる事の不可能な距離をつくってくれるので言ってみれば。
だから僕もこのカメラを通して母親に対してぶざまな母親に対して弱々しい母親に対して「頑張れ」とエールを送りながら「しっかりしろ」みたいな形で「厳しく撮ってやるぞ」みたいな…。
坂口さんにとってはこのカメラはある種お二人の関係を全部守ってくれたというか…。
そうですね。
カメラによって関係性が変容したというか。
私がこのカメラを通して母親を愛する事が徐々にできるようになった。
母を受け入れるような事ができるようになった。
そうする事によって母親もまた少しずつ僕と母親との関係がよくなっていった。
そうする事によってまた母を少しずつ理解していったんだと思います。
故郷種子島での生活が始まりました。
義姉さんよう来たな。
大変やったなあ。
何もかんも…。
(読経)うわ〜こりゃ上等じゃ〜。
おいしい?うん。
おいしい?おいしいよ。
ほらきれいじゃほら。
うん匂いがよかな。
ほらお花。
匂いがよか。
匂いがよか?本当。
ほらきれいじゃ。
震えが出たり頭痛が出たりとかいう事はないですか?頭痛かったりとか。
時々あります。
(マリ子)夜は12時から3時4時ごろまで腹が痛い頭が痛い。
私をしょっちゅう起こす事が10日に1回ぐらいになったんです。
前はほとんどだったんですけど。
ほとんど毎日だったのが10日に1回ぐらいで済むようになったの。
(一同)54321。
(拍手と歓声)
(マリ子)これは干潮の時に放す訳?まあその方が…満潮だとすぐ波がさらっていくもんで。
じゃあここで放してみるとですね海の方へ行きますから。
(笑い声)こっちは多分行くと思います。
海を渡ってアメリカとかあるいはメキシコの辺りまで行ってそいで30年ぐらいの間に大きくなってでまた日本に帰ってくるという。
やっぱり生まれた海に生まれた砂浜にどうしても帰ってくるんじゃないかというふうに我々も期待をしてるんですよね。
是非帰ってきてほしいなと思います。
泣くな。
2年前に封切られたこの「抱擁」。
現在も全国各地で上映されています。
きょうだいこうね助け合ってこうやってるところがとても感動しました。
毎日の事ですからねずっとね。
やっぱり大変だと思う。
妹さんがすごいなっていうか。
やはり私身内でもそこまでできるかなって。
多分私には無理だろうなって。
今2人で3人抱えてるんですけど…。
やっぱりいろんなとこ連れていきますよね。
あれなかなかできませんよねあんな事。
よっぽどエネルギーがないと。
気持ちもそうですけどね。
何かね…でもふるさとの力がすごい強いなと思ってね。
でもそういうのがちょっとずつなくなってきてるじゃないですか。
社会で。
それがちょっとこれからは厳しくなるのかなと思いますね。
人がそばにいてくれる。
そしてふるさとがあるってあんなに笑顔が…もう声を立てて笑うような妹さんがいて下さるっていうのは救われましたね〜。
そうですねやっぱり人は老いていくと体が思うように動かなかったりとか否定的なものが多いんですけどやっぱり大切なものに気付くまたとない機会っていう気がするんですね。
日常の中に喜びはあると思うんです幸せは。
母と叔母を見ていると特別な事がある訳ではなくて本当に日常的な事…。
まあ叔母が母のために料理を作るといってもただ料理を作る訳ではなくて子どもの頃病気の自分を健康に母親がしてくれたと同じような方法で島の魚を骨を砕いて丁寧に栄養をとったものをスープの中に入れてそれを毎日叔母は母のために作り続け飲ませてるんですね。
それは深い愛情があって初めてできる事だと思います。
それにしても本当にね仲のいいお姉ちゃんと…2番目でらっしゃいますか?お小さい頃は仲よかったんですか?そうですね叔母は体が弱かったんですけれども戦前ですね何もなかった貧しい時代に母は叔母を背中に背負って農作業して泣き叫ぶ叔母を叱りつけながら一生懸命サツマイモを掘ったりしてたんですけど。
小さい頃はええええ。
今度はもう何十年かたって2人とも叔母は80母は85ですけど80の叔母の背中に85の母が背負われて…。
だけど母は何のちゅうちょもなく妹を叱りつけ愛情を欲しがってそれに妹もまた応えるというそういう生活ができるのもやっぱり苦しい時代を共に乗り越えてきた子どもの頃の家族があったからだと思います。
でも最初の頃はカメラを向けたのは正体を見つけたい見たいんだとおっしゃいましたよね。
映画を撮り始めた時から…2009年に撮り始めましたから7年たつ訳ですけど。
僕が正体と思ったものはですねこういうふうに思いました。
人生には老いていく事は必ずしも悲しみとか苦しみがあるだけではなくてその向こうにですね小さな果実が明かりのようにあると。
それは例えば母親が…デイサービスから帰ってくる母親を叔母は毎日迎えて1時間たっぷり時間をかけて今日はどんな事があったのかとかそんな事をずっと聞いてあげる訳ですね。
それとあと毎日便の長さを気にしてあげてかん腸してあげて散らかっている便をですねちゃんと掃除をしてそれでも楽しく母と一緒に暮らしている。
そこにですねやっぱり僕は人生の到達点介護する方も介護される方も何か小さな喜びを感じている。
その結び付きがねそれを手に入れる事は僕は人生の最後の果実だと思います。
結局母が混乱してなすすべもなかった時に母を救ってくれたものはやっぱり他者の力母を受け入れてくれた人であるとかまあ島でも叔母を助けてくれたりまた母を見守ってくれている近所の方であるとか親戚の方であるとかいろいろな映画に映ってないいろんな方の力によって母は今を生かされているのでその事を母が感謝してくれてるといいなあと思いながら見ていますけれど。
71年にふるさとから東京へ向かわれた…関東へ向かわれたってやっぱりいろんな時代をこうね生き抜いてこられましたよね。
戦前戦中戦後高度経済成長とともに東京に出てきたので40歳から母の東京での人生は始まる訳ですね。
そこでいろいろな経験をしながらまた自分が一番いい時に一番つらい時に自分を育ててくれたふるさと自分を育ててくれた人たちの中に帰っていくっていう事ができた母親…。
それは一人一人の名もない日本人の姿ですけれども。
これから超高齢化社会を迎える今何か一つのね導きのような形で見て頂ければと思います。
いや〜いかがでらっしゃいました?もう本当に老いていく事そして何があっても生き抜いていかなければいけないという事をまた改めて本当に教えて頂いたと思います。
抱擁っていう事のね意味をこうね教えて頂きましたね。
そうですね。
本当にどうも今日はありがとうございました。
2016/11/29(火) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV リハビリ・介護を生きる「老いること生きること」[字]

映画監督・坂口香津美(61歳)が自らの母親にカメラを向けた映画「抱擁」、うつや認知症に苦しむ母の記録である。老いと孤独から再生する姿をたどりながら、話を聞く。

詳細情報
番組内容
映画監督・坂口香津美の母・すちえさん(85歳)は、長女と夫を相次いで亡くし、うつや認知症を患った。老いと孤独に苦しむ姿を、息子・香津美が4年間記録した映画「抱擁」。すちえさんは都会を離れ、故郷の種子島に38年ぶりに帰り、徐々に生きる力を取り戻していく。坂口は語る「母一人の問題ではなく、誰にとっても普遍的なテーマ。格闘する母の姿を作品にし、『母を社会化すること』が使命だと思った」
出演者
【出演】映画監督…坂口香津美,荒木由美子,【司会】桜井洋子