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書き起こし 100分de名著 レヴィ・ストロース“野生の思考”(新番組)第1回「構造主義の誕生」 2016.12.05

20世紀後半の思想界に衝撃を与えた名著「野生の思考」。
その著者フランスの民族学者レヴィ=ストロースは南アメリカの先住民の暮らしに深く入り込み未開人の思考に注目します。
そしてそれこそが人類にとって普遍的な思考方法であり世界の行き詰まりを打開する鍵であると考えたのです。
「100分de名著」今回は今を生きる私たちにも息づく「野生の思考」を読み解きます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今回からご紹介する名著はこちらです。
クロード・レヴィ=ストロースの「野生の思考」なんです。
ご存じでしたか?これがですね著者名も著書のタイトルも全く聞き覚えがない状態でございます。
レヴィ=ストロースはフランスの民族学者なんですね。
この本は第二次世界大戦後のヨーロッパの政治思想に大きな衝撃を与えた本なんです。
うん。
ただ今を生きる私たちにもいろいろなヒントが詰まっている本という事なので今回から読み解いてまいりましょう。
はい。
それでは指南役をご紹介しましょう。
人類学者で明治大学野生の科学研究所所長の中沢新一さんです。
(礒野伊集院)よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
人類学者の中沢新一さん。
世界各国を訪ね宗教・経済・芸術など分野を越えてフィールドワークを続けてきました。
2011年明治大学野生の科学研究所を設立。
科学に人間の野生を取り戻すための研究を進めています。
まず伺いたいのがタイトル「野生の思考」というのはどんな思考と言えるんですか?「野生動物」っているでしょ?はい。
自分の心の赴くままに生きてる動物。
もう一方には家畜動物っているじゃない。
囲いに囲われたり綱つけられたり。
レヴィ=ストロースの考え方は…それを「野生の思考」という意味になってますね。
当時の考え方で言えばヨーロッパこそが最先端で近代で「近代こそがすばらしい」な感じじゃないですか。
この本が1962年に出版されてるんですね。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」は63年なんですよね。
時代の風潮というの見て分かりますようにヨーロッパでもアメリカでも西洋文明が最も進んでいてアジアやアフリカの文化というのは後れてるんだという考えが大きくぐらついてきてた時代でもあるわけね。
その時代にレヴィ=ストロースが登場して…それはアフリカでもアジアでもアマゾンの奥地の人々でも全く同じなんだという事を明らかにしようとした。
これはものすごい衝撃を与えたわけですよ。
1962年フランスで大ベストセラーとなった「野生の思考」。
その著者レヴィ=ストロースは1908年に生まれパリで育ちました。
学生時代哲学に関心を寄せますが現実とかけ離れた問題について論争し合うだけの哲学に次第に幻滅。
民族学に強く引かれていきます。

 

 

 

 


そんなある時ブラジルサンパウロ大学から教授の仕事が舞い込みレヴィ=ストロースは快諾。
大学での講義のかたわら休みになるとインディオたちを訪ねフィールドワークを重ねたのです。
先住民との交流を重ねたレヴィ=ストロースは彼らの文化は後れたものではなく豊かな人間性を備えていると感じ…一方欧米社会では「歴史」という普遍的な概念の中だけで「進歩」や「発展」を遂げてきました。
しかしその思考は限界に突き当たると分析。
未開社会にある「構造」という原理こそ近代の問題を打開する糸口だと考えたのです。
「構造」とは一体どういうものなのでしょうか?第二次世界大戦中レヴィ=ストロースはフランス人兵士として戦場に赴きます。
ある日塹壕に入ってぼ〜っと景色を見ていたところタンポポの花に目が留まります。
そして美しい秩序を持ったタンポポの花を見つめるうちに「構造」の考えを思いついたのです。
宇宙の運動の中から地球が生まれ地球に生命が発生し脳が作られそこに精神が現れます。
自然界の中から生み出された生命に現れる精神の構造と自然の構造。
レヴィ=ストロースはどちらも同じ「構造」を持つと捉えます。
そして人間の精神を「構造」という視点で科学的に分析したのです。
タンポポを見つめる事で「構造」という事でひらめいたという事ですか?タンポポを見てた時に…ヨーロッパの人って自然と人間というのを分割しちゃうわけですね。
この大分割がヨーロッパ近代文化というのを作ったわけですね。
このレヴィ=ストロースは……という事まで明らかにしようとしたわけですね。
ヨーロッパが「歴史」という概念の中で進歩や発展を遂げてきた。
これはどういう事ですか。
大体8,000年ぐらい前に農業が始まりますでしょう。
都市がつくられて発展を遂げてくるんですね。
生産力を高めてってそうすると歴史が始まるわけです。
ところが数万年も前にもうこの地上に我々と全く同じ能力を持った人類が出現してるわけです。
その人類は歴史の概念というのを持ってないんですよ。
発展させるという考え方もない。
レヴィ=ストロースはその事を考えて歴史というのは殊に近代に人間の思想としてこれが唯一のものと考えられて進歩とか発展とかそういう事を第一義に考えるようになったけれども人間はこの地球上に生まれて以来ほとんどの時間を多くの時間をそんな…歴史って年表がこうやってずっと進んでく度にいいものになっていく進化していってるんだと思い込んでるじゃないですか。
ええ。
いつかパーフェクトになっていくんじゃないかみたいな事をちょっと思ってるじゃないですか。
でも今おっしゃってた「構造」はそういうものじゃないですよね。
むしろ。
歴史の先に人間がパーフェクトなものになっていくというこれは幻想である。
もしそういう状態があるとしたらレヴィ=ストロースのこれは一種の希望的夢想でもあるけどねそれは人間が再び「野生の思考」のパーフェクトな状態に戻った時に人間はより高度な技術科学の達成と人間の心の完全さを備えてよりよい世界を作る事ができるかもしれないけれども歴史という観念考え方に縛られていて未来に発展していく事によってパーフェクトなものが人間の前に現れると考えたら破滅しかないという事を考えたわけですね。
続いては「構造主義」について見ていきたいと思います。
レヴィ=ストロースが唱えた「構造主義」は構造言語学を研究するローマン・ヤコブソンとの出会いによって生まれました。
ヤコブソンは言語によるコミュニケーションは発信者と受信者がいて共通の「コード」と呼ばれる規則を使ってメッセージを伝達するという事が基本構造だと考えました。
そして言語の成り立ちを次のように説明します。
人間は聞き分ける事のできるごく僅かな音だけを自然界から言語音として取り出します。
次にそれぞれの言語音を区別し組み合わせる事で母音や子音という言語の最小単位である「音素」を作り出します。
そしてその音素を組み合わせる事で言語を生み出しているのです。
2人は議論をするうちにコミュニケーションは言語に限られるものではなく植物や動物宇宙の進化や変容そのものも一種のコミュニケーションであると考えます。
そして「言語」と同じように「文化」も同じ構造を持って作られていると考えました。
まず「自然」から少数要素を取り出します。
そしてそれらを結び付ける事で「構造」を作ります。
この「構造」を変換したり組み合わせたりする事によって「文化」が生まれたのだと気付いたのです。
レヴィ=ストロースは「構造主義」による分析で「未開人たちの文化も西欧文化と変わらない高度なものである」という事を証明していくのです。
構造言語学ですね。
人間コミュニケーションをする時に何が起こってるかという事の基本ですね。
僕が語ってる今の言葉は日本語の文法に沿ってますから伊集院さんは日本語の知識がありますから分かるわけですね。
一応このような図にしてみたんですけれども。
例えば日本語の知識を全く持ってない外国人が来た時「いぬがね」って言った時分かんないですよね。
単なるノイズが聞こえてるにすぎませんよね。
それから英語の知識が全くない人にアメリカ人が「DOG」と言った時に「ワウワウ」みたいな単なる音としか理解できない事になりますね。
よく昔の漫画で言うとアメリカ人が話してると「ペラペラペラ」と書いてある。
要はああいう事ですよね。
ああいう事なんです。
コードが合ってないってこういう事なんですね。
僕らの脳の中の無意識のところにそういうコードの体系がセットしてある。
人間の場合は自分が発声できる音のたくさんの音の中からごく僅かな音しか取り出してないんですよね。
ごく少数の要素を取り出して組み合わせてこれを規則にしてお互い言葉をしゃべってる。
この事を考えてみるとレヴィ=ストロースはこの構造言語学の考え方というのはものすごく汎用性が大きいと考えたわけですね。
人間が動物としてなしうる……というふうに考えに至るわけですね。
なるほど。
人間の規則を作り上げる…いよいよ「野生の思考」の内容に入っていきたいと思います。
レヴィ=ストロースは「野生の思考」の冒頭で「野蛮人」と呼ばれた未開社会の人たちも世界をあらゆる角度から徹底的に研究しているのだと指摘します。
例えばハワイの王族の言葉を引用し…。
レヴィ=ストロースは先住民たちが自然界と人間界の具体的なものを用いて感覚的な能力を総動員しながら世界を知的に認識している事を明らかにしていきます。
その中で注目したのが「トーテミズム」でした。
トーテミズムは人間と自然の間に密接な関係があるという直観から生まれました。
先住民たちは先祖が自然界の存在とつながりを持つと考えます。
そしてクマとかインコといった具体的な自然界の存在と一族をつなぐ事で秩序を生み出してきました。
北米の先住民たちが作るトーテムポールは一族のトーテムとその神話を表したものです。
しかし19世紀以降の人類学ではトーテミズムはアニミズムや原始的な宗教のような論理以前の思考方法とされてきました。
レヴィ=ストロースはその捉え方は幻想にすぎないと主張。
トーテミズムは世界を分類し体系化する高度な思考方法であると考えたのです。
レヴィ=ストロースはアフリカのヌエル族を例にとって分析します。
ヌエル族は「双子は鳥である」と表現します。
この場合「双子」と「鳥」を混同しているのではありません。
ヌエル族にとって双子は人間と霊の中間にある存在であり鳥は大地と天の中間に生活する存在です。
彼らの世界観では双子と鳥は同じような位置に立つ存在であると考えました。
ヌエル族は「双子は鳥である」という詩的な表現を使って世界のさまざまな要素から「双子」を区別し理解したのです。
レヴィ=ストロースは本来のトーテミズムの捉え方を分析する事によって先住民たちが合理的に世界を認識している事を明らかにしたのです。
これがお写真一枚ありますけどもこれがトーテムですね。
アメリカの北西海岸ですね。
あそこの先住民これがトーテムのトーテムポールですけどもトーテムの絵というのは家の壁面に描いたり塔に彫り込んだりします。
私はクジラのトーテムであるとかそういう事がこれに表現されていますけどこれ見て分かりますように「俺たちはこのトーテムの人間だ」という意識の下にこれは生きてるわけですね。
自然界には動物の種がいくつもたくさんあるじゃないですか。
しかも動物の種って見分けるのが割合楽でしょ?鳥の世界でも羽の色は違うしくちばしが違う。
それから餌をとる場所が違う。
全部違う。
だから動物の世界を分類する事はすごく簡単にできるんです。
ところが人間の世界は分類難しいですよ。
同じなんだと。
ところが人間には社会集団というのがあるじゃない。
社会集団と動物や植物の世界の分類の体系というのを対応させておくと自分はクマの種族の人間であるといった場合…なるほど。
これがトーテミズムだと考えたわけですね。
例えば原始的な戸籍の役割だけだと思ってバカにしてたらもっと今の戸籍なんかよりもよっぽどいろんな情報の入っている。
彼の例えば家系は目がいいんですとか例えばおしゃべりが得意なんですみたいなものまで含まれてたりするわけじゃないですか。
もちろんそうです。
相当高度なデータベースとして実はトーテミズムは含まれてるという事は。
そのとおりなんです。
つまり…だから情報処理検索というのは現代で発達してきますけどもそれと基本的には変わらないという事をレヴィ=ストロースはここで強調していくわけね。
もっと言うとそういう心構えで我々生きていこうみたいなその道徳部分なものが入ってたりとか実はほんとに複雑かつよく出来た制度なんじゃないのという。
こうした意識は私たち日本にもあるのではないかと。
これは船場の戦前の写真なんですね。
戦前の船場というのはいろんな商店商いする。
商人が家を持っててその前に「暖簾」というのれんですね今で言う。
暖簾という大きな紋所を染め抜いたものを垂らすんですね。
まさにこのトーテムポールトーテムの世界と同じで暖簾をしょって信用第一にいきますというのがこの船場の論理。
この人たちも実は先住民も何でトーテムをしょってるかというと信用なんです。
恐らくそれがただのマークじゃなくてうちは的に矢が当たってるというそういう紋使ってるんだから当たんねえ商品なんか絶対出しちゃいけねえんだという意識改革みたいなものにも…あるでしょう。
ええ。
これから私たち4回にわたって「野生の思考」を読んでいきますがこの現代の私たちにとって何を学ぶ事ができる本と中沢さんは思いますか?やっぱり僕らがまだ失ってはいない「野生の思考」って潜在能力としてあるんですよね。
だけどそれは抑えつけられてます。
もう一度解放していかないと人類自体がもういろんな意味で袋小路に入っちゃってると思います。
その意味でも「野生の思考」というのは私たち人類の一番基本的な思考方法として心の中にいまだに生きてるものですから。
日常生活のいろんな所でこれを適用してるわけだけどもっとこれを拡大・組織化していって社会の構造を変えてく事という事まで可能になってくると思いますね。
何となく日頃ちょっと感じてた違和感みたいなものはいっぱいあってね。
例えば俺らのちっちゃい時は体温計あの棒がのびてく水銀のやつ。
今はデジタルなやつになってどんどん進化してるようなんだけれども何となくお母さんが頭ごつっとやって「あ子供が熱がある」と思う事って実はその時の絶対的な数値の熱が測れる事以上のものが例えば子供がきつい時に愛情を感じたりとか実はこっちの方にとてもいろんなデータが入ってたんじゃないかみたいな事をもう一回見直しましょうよという。
そのとおりです。
ちょっと進めていきたい。
早く来週が来ないかなと。
楽しみですね。
次回も更に読み進めていきます。
中沢さん今日はありがとうございました。
2016/12/05(月) 22:25〜22:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 レヴィ・ストロース“野生の思考”[新]第1回「構造主義の誕生」[解][字]

近代科学からすると全く非合理とみられていた未開社会の思考を、レヴィ=ストロースは「野生の思考」と呼び、人類にとって普遍的な思考として復権させようとする。

詳細情報
番組内容
長い間未熟で野蛮なものとして貶(おとし)められてきた「未開社会の思考」。近代科学からすると全く非合理とみられていたこの思考をレヴィ=ストロースは、「野生の思考」と呼び復権させようとする。「野生の思考」は、非合理などではなく、科学的な思考よりも根源にある人類に普遍的な思考であり、近代科学のほうがむしろ特殊なものだと彼は考える。それを明らかにする方法が「構造主義」というこれまでにない全く新しい方法だ。
出演者
【講師】明治大学教授…中沢新一,【司会】伊集院光,礒野佑子,【朗読】田中泯,【語り】加藤有生子