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地上波テレビの字幕を全文書き起こします

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書き起こし 日本の話芸 三遊亭圓輔 落語「芝浜」 2016.12.05

(テーマ音楽)
(出囃子)
(出囃子)
(拍手)え〜ご来場で御礼を申し上げます。
続いて一席おつきあいのほどを願っておきまして。
「ちょいとお前さん。
お前さん!」。
「何だよおい。
出し抜けに起こすなよ。
何だい?」。
「『何だい?』じゃないよ。
グズグズしてるってえとね河岸行くのが遅くなるよ」。
「何だい?『河岸行け』ってえのは?」。
「『何だい?』じゃないじゃないか。
昨日お前さんそう言ったろ?『もう明日っから商いに出るから今夜はもう飲むだけ飲ましてくれ』って。
『俺はもうたくさんだ』っつうぐらい飲んだんじゃないかね。
えっ?今日行ってくれないとねもう釜の蓋が開かないんですよ」。

 

 

 

 

 


「釜の蓋開かなかったら鍋の蓋でも開けとけ」。
「鍋の蓋も開かないんですよ」。
「じゃあ水がめの蓋で間に合わねえか?」。
「フナやコイじゃないからね水ばっかり飲んじゃいられないよ。
行っとくれよ」。
「う〜ん『行ってくれ』っておめえ行かねえ事もねえけれどもさ考えてみねえなおめえ。
半月も二十日も商え休んじゃっておめえ第一盤台がしょうがねえだろ」。
「何言ってんですよ。
私はね昨日今日魚屋の女房やってんじゃないんだよ。
ちゃんとね糸底に水張ってあるからいつでも使えるようになってますよ」。
「包丁が駄目だろ?」。
「私さっき見たんだけれどもねお前さんがよ〜く研いでそば殻ん中へ突っ込んどいたろ?だからピカピカ光ってね生きのいいサンマみたいな色をしていたよ」。
「…わらじは?」。
「出てますよ」。
「何だいどうも手が回ってやんだなあ。
えっ?行かねえとは言わねえけれども。
分かったよ。
じゃ行くよ。
行きゃあいいんじゃねえか。
ガミガミ言うな本当に」。
「…んな嫌な顔しないでねえっ?久しぶりに行くんだから向こう行ってねケンカなんかしちゃいけないよ」。
「何を言ってやんだい。
昔と違うわい。
本当に。
ケンカなんかするかよ!じゃ行ってくるよ!ちぇっ冗談じゃねえね。
えっ?あ〜あ…。
しかしこの魚屋ってえ商売はなつまらねえ商売だね。
えっ?もうみんなどこのうちだってみ〜んな気持ちよくいびきかいて寝ている盛りだよ。
辺りは真っ暗だし起きてるうちなんざ一軒もありゃしねえよなあ。
起きてんのは俺とこのむく犬ぐれえなもんだ。
おうしょしょ!俺だよ!俺だってんだよ!本当に…アッハッハッハ。
尻尾を振ってやんな。
本当に…ヘヘッ。
おい。
あ〜あ。
何だいどうもなしっかりしてくれよ本当に。
犬が忘れる時分に商えに出ようってんだからな。
かかあのやつがグズグズ言うのはこら無理もねえかな。
…とは言うもののこれで河岸へ出てね磯臭え臭いがプ〜ンと鼻へ入ってきやると何とも言えねえ味だからねあれは…。
ああ…切り通しの鐘が鳴ってやらあ。
いい音色だね。
金が入ってるとか言ってやがったねえ。
おまけに海へビ〜ンと響きやがるから何とも言えねえねあの味がよ。
えっ?これでこの…おっ?何だよおい。
冗談じゃねえぜ。
かかあのやつは時ぃ間違えて早く起こしやがった。
しゃくに障るなチクショウめ。
帰ってもう踏み倒してやろうかな。
踏み倒したところでなまたすぐ出てこなくちゃなんねえんだからね。
う〜ん。
まあまあいいや。
なっ?うん。
浜へ出て一服やったり面洗ったりしてるうちにまたお天道様も出てくるだろうしな。
そうすりゃ問屋も起きるだろうし。
あっどっこいしょっと。
ああ〜たまらねえね。
はあ〜いい香りだな。
えっ?この香りが嗅ぎたくってこの商売になったんだ」。
わらじをぬらさないように顔を洗いましてもう久しぶりの浜に懐かしそうにあっちへふらふらこっちへふらふら。
「おっお天道様出てきた」。
(かしわ手)「今日から商いに出ますんでお頼申します」。
(かしわ手)「はあ〜どうだい海ってやつはいつ見ても悪くねえけれどもね。
それにこのねほら波ってえのはおかしくてしょうがねえや。
湯へ入ってちょいとこうかき回してみるとこんなものが出てきやがるけれどもね誰か向こうでかき回してるやつがいるんじゃねえかな?えっ?よっぽど大きなしゃもじか何かでかき回してやんだろうな。
まあまあいいや。
一服やろう」。
手ごろな石を見つけましてこれに腰を下ろします。
昔はこの叺たばこ入れってえやつですな。
それに火口ってえやつでいちいち火をつけるんですね。
「よっ…」。
「おっ何だよおい。
何が出てくるかと思えばまあ汚え財布が出てきたね。
革には違えねえけれども…。
ヌルヌルだよ。
ああそうか。
長え事水につかったんで腐っちめえやがったんだね。
それに随分目方があるじゃないか。
あっそうか。
いつ入るともなく波に洗われてるうちに砂が入っちめえやがったんだな。
砂を何だい出しちまわなくちゃどうにもしょうがない。
おっ」。
「俺だい俺だい…」。
「おっかあ開けてくれ。
開けてくれ開けてくれ」。
「はい今開けます。
帰ってきやしないかと思ってね。
そうドンドンたたかないで。
近所はまだ寝てるんだから本当にもう。
まあちょいとどうしたんだい?お前さん。
ケンカでもしてきたんじゃないかい?」。
「おい誰か後ついてきやしねえか?節穴からのぞいてみてくれ。
え?誰もいねえか?はあ…はあ…。
おっかあおめえ時間違えて早く起こしたろう」。
「すいません。
いえねお前さんが出ちゃってから気が付いたんだよ。
でね後で怒られると思ってすぐに追っかけてみたんだけどお前と来た日には足が速いだろ?追いつかないんだよ。
帰ってきたら小言を言われると思ってもうドキドキしてたの」。
「そりゃあいいんだよ。
俺はおめえ河岸へ行ってみるってえと一軒も問屋起きてねえ。
起きてねえ訳だよ早えんだから。
それからまあ一服やってるうちにはお天道様出てくるかと…。
でまあ一服やってるってえとひょいとこう波際を見るってえとな何か動いてるものがありやがる。
それから雁首に引っ掛けて引きずり出してみるってえとこれがおめえな誰もいねえか?魚じゃねえんだようん。
革の財布が出てきやがった。
のぞいてみたら銭が入ってやがんだ。
俺はもう夢中でもって腹掛けの丼に入れて持ってきたよ。
おっかあ。
俺は金拾ってきたよ」。
「まあちょいと見せてごらんよ。
まあちょいとこりゃ大変な目方だね。
あら。
ちょいとお前さんこれは銭じゃないよ金だよ。
二分金じゃあないか。
まあちょいと待っとくれ。
勘定してみるからね。
ちゅうちゅうたこかいなと。
ちゅうちゅうたこかいな。
ちゅうちゅう」。
「何て勘定のしかたしてやんだよ。
どうしたい?いくらあったい?」。
「いくらって分かんないんだよ。
何しろ手が震えてるだろ。
勘定してるうちにまた元へ戻っちゃうの」。
「何をしてやんだだらしがねえな。
こっちへ貸してみろこっちへ。
ひとひとひとひとふたふたふたふたみっちょうやみっちょうやみっちょうやみっちょうやよっちょうやよっちょうやよっちょうやよっちょうや…。
おいおっかあ。
数えたら四十二両はあるぜ」。
「まあ大変なお金だね。
どうするよお前さん」。
「どうするって事はねえじゃねえか。
俺が拾ってきたんだよ。
俺の銭だよ。
なあ。
これだけありゃあおめえ釜の蓋だって何だって開くだろ。
俺はもうな商えなんつうのは行かねえぞ。
これだけ銭がありゃあもう商いなんぞしなくったってもう大威張りだ。
好きな酒何升飲んだってびくともしねえ。
俺ばっかりじゃいけねえんだよ。
ここんところず〜っとな熊公やそれから何だい金公それに竹なんかにな借りっ放しなんだよ。
きまりが悪くってしょうがねえんだうん。
久しぶりにな銭はふんだんにあるんだからなおめえたちも一杯やってくれってんだ。
お返しをしなくちゃなんねえんだよ。
ちょいと声かけてみてくれないか」。
「声かけるっつったってまだ夜が明けたばかしじゃないかね。
向こうだってね仕事もあれば商いもあるんだから昼過ぎになんなきゃどうにもしょうがないよ」。
「ハハハ。
違えねえやなあうん。
すっかりどうもねうれしいんでもって夢中になっちゃったよ。
といって昼過ぎまでなあこりゃおめえうん何だよつないちゃいられねえや。
じゃあ酒買ってきてくれ。
銭はこれだけあるんだからな。
酒買ってこいよ。
いくらでも。
もうびくともしねえで何升でも買ってこい」。
「買ってこいったって酒屋だってまだ寝てるじゃないかね。
それよりもお前さんね昨日残したのが少しあるけれどもどうだい?それで間に合わないかい?」。
「え?俺が残した?ゆんべ?酒を?へえ〜そうかね。
俺も年取ったんだな。
昔はひとったらしだって残した事がねえやつがよ。
じゃあもらおうかうん。
え?え?あるだけもらって。
あ〜あ〜で足りなかったらまた…。
おう何だよおい。
随分残しやがって。
え〜?こんなに残ってんのか?そうかね。
ゆんべはもう夢中で寝ちまったからよこっちは分からなかったけれどもな。
そうかな。
ヘヘッ」。
「うんめえね。
エッヘヘあ〜どうも。
正直な事を言うとゆんべはな飲んでたって明日の朝早く起きて河岸行かなきゃならねえと思うからね何だかまあね胸へつけえてもうね飲む酒がうまかねえや。
それがもう商いに行かなくってもいいんだなと思って飲む酒のうめえのうまくねえの。
ウフフ。
俺は生まれてこんなうめえ酒飲んだの初めてだ。
こりゃ驚いたね」。
「あ〜。
あっもう買いに行かなくていいよ。
もうこれでたくさんだ。
うん。
おっ何だよおい。
下っ腹がひどく冷てえと思ったらふんどしまで染みちゃってんだよ。
驚いたね。
出してくれ新しいやつを。
うん。
それから腹掛け出してくんないかな。
もう俺はこれで寝ちまうからね。
ああ…ちょいとおっかあ。
すまねえ腹掛けこう外してみてくんねえかな。
ちょっ…おっかあよ。
ちょいとおい。
そっち連れてってくれよおっかあ。
おい!おいおい!おっかあ…」。
(寝息)「ちょいとお前さん…お前さん。
お前さん!」。
「びっくりした。
何でえ?火事か?」。
「火事じゃないよ。
グズグズしてるってえとねまた河岸行くのが遅くなるよ」。
「何だい?その河岸行けってえのは」。
「何だじゃないじゃないかね。
今日商いに行ってくんないとねもう釜の蓋が開かないんですよ」。
「また始めやがった。
釜の蓋も鍋の蓋もあるかってんだ本当に。
昨日のあれでもって開けときゃいいじゃん」。
「何だい?昨日のあれって」。
「よせよおい。
おめえに…え?昨日俺おめえに渡したろ?あれで開けとけってんだ」。
「何だい?昨日渡したって」。
「四十二両渡したろ」。
「何を言ってんだね。
何だい?その四十二両ってえのは」。
「よせよおい。
少しぐれえいくのはしかたがねえけれどもよそっくりいっちゃうのはひでえじゃねえか。
俺はおめえ芝の浜行ってでおめえ革の財布に四十二両おめえに渡したじゃねえか」。
「何を言ってんだね。
お前さん昨日芝の浜なんぞ行っちゃいないじゃないかね」。
「え?俺芝の浜行かねえ?冗談言うなよおい。
おめえ俺の事起こしたろ?早く起こしたもんだから辺りは真っ暗でよ。
でもまあ一服やってるうちにお天道様出るだろうと思ってひょいと見るとおめえこう何だ動いてるものあるからこれを引きずり出してみるってえと革の財布が出てきてでおめえに四十二両渡したじゃねえか」。
「昨日のお前さんの様子がふに落ちない。
起きたらいっぺん聞いてみようと思ったんだけど何だねお前さんそんな夢見たんであんな騒ぎをしたんだね。
え?情けないねこの人は。
貧乏するとそんな夢見るかね」。
「ゆ…夢だ!?」「そうじゃないかね。
昨日お前さん私が起こした時何つったよ?『うるせえ!』どなりつけてあまりしつこく言って手荒な事をされてもいけないと思うからでも声をかけてあるんだから起きてくれるだろうと思って私はね流しでもって洗い物してたんだよ。
そしたらお前さんはもう…何かグズグズ言ってるからこら起きて何か言ってんのかなと思ったらお前さん床の中でもって寝言言ったじゃないかね。
そのうちにうなされ始めてさ弱っちまったな。
とうとう今日も商いに行ってくれないで。
それでもまあここまで休んでしまったんだから一日ぐらい遅くなったってどうってえ事はない。
明日の朝早く起きて行ってもらえやいいと思うから私は昨日の朝諦めちゃったんだよ。
そうしたら昼過ぎにむっくり起きて『おっかあ手拭い取んな』。
手拭い持ってって帰りに虎さんだの金さんだの竹さんだの大勢友達呼んできて『おっかあ酒買ってこい!天ぷらそういってきな。
うなぎあつらえ」とか言ってそれでも友達の前でもってお前さんに恥かかせる訳にいかないから…しょうがないから脇へ行って無理な都合してお酒買ってくりゃあ何がうれしいんだか知らないけれどもグデングデンに酔っ払って飲んでくれよ食べとくれよ。
まあ弱った事になったなと思ったけれどお前さんそのまんまゆんべ寝ちまったんじゃないかね。
いつ河岸行ったんだよ?」。
「うん…。
俺河岸行かなかったか?夢だあ?それにしちゃあ随分はっきりした夢じゃあねえか。
切り通しの鐘はどこで聞いたの?」。
「鐘はここでも聞けますよ。
今鳴ってんのは切り通しの明け六つですよ」。
「あれ切り通しの鐘か?ここでも聞ける?夢だ…?ちょいと待ってくれよ。
床の中でグズグズ言って終めえにうなされて…。
ちょいと待ってくれ。
う〜ん…。
そう言われてみると俺はガキの時分からはっきりした夢を見る事があるんだ。
じゃ何か?昨日銭拾ってきたと思ったのは夢か?で友達呼んできて飲んだり食ったりしたのは本物か?あそこにあるあれ昨日食ったやつか?はあ〜。
えれえ夢見たな…。
二十日も商え休んでこの寒空に浴衣重ねて着てあんなに飲んだり食ったりしちまったんじゃ勘定がつくめえ?え?おっかあ。
死のうか」。
「何言ってんだい!この人は。
お前さんが4〜5日その気になって商いに出てくれりゃああんなもの浮いちゃうのは訳ないじゃないかね」。
「じゃ何か?俺が商え出ればなんとかなるか?助けてくれおっかあ。
俺が悪かった。
酒が悪いんだよ。
よしこらもう酒飲まねえ。
一垂らしも飲まねえ。
それで商えに精出すからよ。
こんところはひとつ助けてくれ。
な?なんとかやりくりつけてくれ。
きまりが悪いだろうけれどもよ。
よし行くとも。
行くったってえお前何だ?盤台がしょうがねえだろ?」「何言ってんだよ。
ちゃんとね水張ってあるから大丈夫だよ」。
「うん…包丁は?」。
「ピカピカ光ってます」。
「わらじは?」。
「出てますよ」。
「何だか夢の中にもこんなところがありやがったな…。
よしじゃ行ってくるわ」。
「じゃいいかい?ケンカなんかするんじゃないよ」。
「大丈夫だい!」。
ガラッと人間が変わりましてこれから商いに精を出し始めましたら何しろ腕のいいところへ早く河岸行っていい魚を仕入れてきてお得意様に持っていきますから得意先でも「やっぱり何だな魚は勝公に限るな。
勝公の魚はうめえな」。
これが評判になりますと「勝つぁん俺の所へ来てくれよ」「勝つぁん私の所へも寄ってっておくれ」「勝つぁん夕河岸も頼むぜ」なんてえんでこんなあんばいでもってどんどんどんどんお得意が増えてまいります。
3年たつかたたないうちに裏通りのこの棒手振がどうにかこうにか表通りへ小さいながらも魚屋の店を出すようになります。
若い衆の2人3人置くようになります。
あれからちょうど3年目の大みそか。
「お帰りなさい。
随分ゆっくりだったね」。
「おおどうもしょうがねえ。
混んじゃって。
うん。
芋を洗うようだよ。
おっおめえたちも何だぜいつまでもグズグズしてねえで順繰りにな湯行っちゃった方がいいぞ。
汚れるばっかりだから」。
「順繰りになんて言わないでまとめて行っちゃっておくれよ。
それでなきゃいつになったって寝られやしないんだから。
それからねあのあとは私がいいようにやっとくからそこんとこピタッと閉めてっておくれ。
さあお前さん立ってないでこっちお上がりよ」。
「うん…上がるけれどもよ何だかなてめえのうちのような気がしねえんだよ明るくって。
ええ?…ああこれは明るい訳だ。
畳取っ替えたのか」。
「いえねさっきね親方に来てもらってまだ少し早いと思ったけれどもすっかりね入れ替えてもらったの」。
「そうか。
どうりでいい心持ちだよな。
この…な…えっ?ああ何だ?勘定取りに来る者が一人もいねえって?本当かい?そりゃ。
本当にまあ何だ。
ええ…。
じゃあ茶一杯もらおうか」。
「そうかい。
今ちょうど除夜の鐘が鳴っている。
福茶が入ったからおあがんなさいな」。
「福茶ってえとあの去年飲んだやつか。
ああ久しく飲んでねえからね味も何も忘れちゃったけれども。
何でもいいや。
もらおうか。
何だよおい。
こりゃいけねえな。
雪が降ってきたのか?」。
「雪じゃないんだよ。
いえねほら門松を立ったろう?風が出てきたもんだからササが触れ合うんでサラサラサラサラって音がするんだよ。
私もさっきね雪と間違えたの」。
「そうかい。
俺もどうも雪が降る訳がねえと思って。
さっきひょいと空を仰いだら降るように星が出てやがった。
そうか。
ふ〜ん。
あれだあのええ?明日はいい天気だぜ。
なあ?ええ?いい正月だ。
飲むやつは楽しみだろうな」。
「お前さんも飲みたいだろうね」。
「俺は飲みたかねえよ。
いや飲んでる時はやっぱし飲みてえんだよ。
ところがやめてみるとなやっぱり酒よりこの茶の方が俺はうめえと思うな。
こう何とかこうひょいと後でこのね甘みの残るところの味なんざね俺は酒よりも茶の方がうめえと思うな。
あっようかんがあったろう?厚めに切ってくれ」。
「そうかい。
実は今日はねお前さんに見てもらいたいものもあるしそれに聞いてもらいたい話もあるんだよ」。
「何だい?見てもらいてえって。
ああ春の着物だな?ハハハ。
駄目だ駄目だ。
俺はもう女の着物は見ても分からねえ。
おめえ気に入ったのをいいように着たらいいじゃねえか」。
「着物じゃないんだよ。
それでね話を聞いてもらうんだけれどもその前にお前さんに約束してもらいたいの」。
「何だい?約束ってえのは」。
「私の話が済むまではどんな事があっても手荒な事はしないし腹も立てないとそう約束してくれるかい?」。
「何だか分からねえけどまあよしいいよ。
分かったよ」。
「そうかい。
実はお前さんこれなんだけれどもね」。
「何だい?これは。
汚え財布だねおい。
ええ?あっこれ何だヘソクリ入れだろう?ええ?へえ〜。
女ってえものは大したもんだね。
用心のいいもんだ。
ふ〜ん。
あっいいんだよヘソクリぐれえどこのかみさんだってみんなやってんだから。
うん。
おっ…何だおい。
ヘソクリはいいけれども随分目方があるじゃねえか。
ええ?おっ何だこれは。
これはおめえええ?二分金じゃねえかよ。
これみんなヘソクったのか?おめえが。
へえ〜。
女ってえものは怖えもんだな。
ええ?ひとひとひとひとふたふたふたふたみっちょうやみっちょうやよっちょうやよっちょうや…。
おっ…おい。
これは四十二両あるぜ」。
「お前さんその革の財布にそれから四十二両覚えがないかい?」。
「お…う〜ん…。
あるよ。
うん。
そう言われてみると3年ばかし前だったかな。
俺は芝の浜でもって革の財布に四十二両入ってるのを俺拾ってきた夢見た事があったな」。
「あれはお前さん夢じゃないんだよ。
本当に拾ってきたんだよ」。
「コンチクショウてめえあん時夢…」。
「話はしまいまで聞く約束だったね」。
「うん…聞こう」。
「このお金を見せられた時私はどうしようかと思ってお前さんに聞いたら『商いに行くどころじゃない。
このお金でもって朝から晩までお酒飲むんだ』ってえから『弱った事になったな』と思ってそしたらお前さん残ってるお酒を飲んで寝直してくれたのを幸いに私は大家さんの所へこのお金を持っていったんだよ。
うちの勝五郎がこれを『芝の浜で拾ってきた』ってえますけれども『大家さんどうしたらいいでしょう?』『どうしたらいいじゃねえ。
そんな事は決まってるじゃねえか。
こんなもの一文だって手出してみろ。
それはおめえええ?勝公の体は満足じゃいないよ。
とんでもねえ話だ。
俺がおかみに早速届けるからおめえは勝公の方なんとかうまくやっとけ』『うまくやっとけったってどうしたらいいかしら?』『どうしたこうしたもねえよ。
なあ?コンチクショウ。
酒が好きだからなうんと酒飲ませて夢か何かでもってごまかしとけ』って。
夢でごまかせったってどうしたらいいかと思っていたらお前さんが友達大勢連れてきてグデングデンに酔っ払って寝てくれたんではあ〜これでなんとか夢でごまかしがつくかなあと思っていたら明くる日になると私はお前さんに『これは夢だよ夢なんだよ夢だったんだよ』押しつけたらお前さんもう人がいいもんだから私の言う事を本当にしてあれだけ好きなお酒をぴったりとやめて商いに精を出してくれる。
雪の降る日なんぞお前さんが商いに出る時に私はお前さんの後ろ姿何度拝んだか知りやしない。
でねこのお金だってもう随分前に落とし主がないからといってお上から下がってきたんだけれどもその時にお前さんに見てもらってよっぽど喜んでもらおうと思ったんだけど『いやそうでない。
せっかくああやって了見を入れ替えて仕事に励んでるんだからこんなものを見てまた昔のようにお酒を飲まれたんじゃ』と思うから私は心を鬼にして黙っていたんだよ。
でもねもう若い衆2人も3人もいるんだしいつお酒をお前さんが飲んでもお得意様に迷惑をかけるような事はないと思ってうそをつきとおしてきたんだけれど。
今日はお前さんにこのお金を見てもらってで私がお前さんにうそをついていた事をお詫びして…。
腹が立つだろうね。
連れ添う女房にうそをつかれて。
さあ私はここまで話をしてしまえばもうお前さんにぶたれようと蹴飛ばされようと何されても構わない。
さあお前さん私の事を思う存分殴って下さい!」。
「おいちょっと待ってくれおっかあ。
手ぇ上げてくれ。
はあ〜ぶったりたたいたりするどころじゃねえや。
おめえは偉えな。
俺よりずっと偉えや。
今おめえに言われて俺は気が付いた。
この金を見た時にゃ商いに行くどころじゃねえ。
朝から晩まで酒飲んで友達呼んできちゃあ飲ましたり食わしたりして。
てめえでもうめえものを食ったりして。
そんな事をしていりゃあこれっぱかりの銭は瞬く間になくなってしまうだろう。
元の木阿弥だ。
ばかしじゃねえ。
これがお上に知れた日にゃあ俺の首はつながっていなかったかもしれねえ。
悪くすりゃ打ち首軽くいっても遠島。
ごくお情けを頂いても佃の寄場に送りがせいぜいだ。
今頃はこもをかぶってよそ様の軒下でもってガタガタ震えてなくっちゃならねえ。
おこも同様だ。
ぶったり殴ったりするどころじゃねえ。
おっかあ俺はおめえに礼を言うよありがとう」。
「じゃあお前さん私の事を堪忍してくれるかい?」。
「堪忍するもしねえもねえ。
俺はおめえに礼を言ってるんだぜ」。
「よかった。
私はお前さんにうんと怒られると思ってね今日はもう…何だよ…。
気分直しに一杯飲んでもらおうと思って。
ほらねっお燗もついてんだよ」。
「えっ燗がついてる?茶じゃねえんだろうね。
酒かい?へえ〜どうもさっきからいい匂いがすると思ったよ。
畳のにおいばかりじゃねえなと思ったけれども。
そうかいじゃあもらおうか。
うんえっ?あっ…その湯飲みでいいやヘヘッ」。
「それにねお前さんの好きなものもこしらえといたけどどうだい?」。
「はあ〜やっぱしかかあは古くなくちゃいけねえな。
フフッ。
もらっていいんだな?じゃあついでみてくれ。
おっととと!何だよおい。
やけなつぎ方するなよ本当にえっ?。
ハハハよく達者でいたなおめええっ?どうもしばらく。
やっぱりにおいを嗅いだだけでも千両の値打ちがあるねどうも。
何だいいな。
おい断っとくけれども俺が飲むって言いだしたんじゃねえよ。
おめえが飲めって言うから飲むんだよ。
いいのかい?飲んでも。
あっそう飲んでもいいのか。
ありがてえねどうも。
飲めんのか。
ありがてえなど…。
よすよ」。
「どうしたの?お前さん。
飲まないの?」。
「うんまた夢になるといけねえ」。
「何言ってんだよお前さん」。
(拍手)「もし夢だったら私がね明日正夢にしてあげる」。
(拍手)2016/12/05(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 三遊亭圓輔 落語「芝浜」[解][字]

三遊亭圓輔▽落語「芝浜」▽第688回東京落語会

詳細情報
番組内容
三遊亭圓輔▽落語「芝浜」▽第688回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭圓輔