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書き起こし 日本の話芸 三遊亭金馬 落語「淀五郎」 2016.12.03

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)え〜どうもご来場でありがとうございます。
相変わらずのお話一席おつきあい願っておきますが。
今日のお話はお芝居のお話なんですがね。
四代目のね市川団蔵という役者さんがいました。
この人なかなか名優と名高い人なんでございますけどあだ名がありましてね目黒団蔵と人は呼んだそうですな。
その当時目黒に住んでた。
もう一つのあだ名が皮肉団蔵ってんですね。
ちょいと皮肉っぽいところがあるってんでそれ皮肉団蔵意地悪団蔵なんて言われたんですが芝居は実にうまい人だったそうですな。
その人が座頭でもってある時「忠臣蔵」の狂言を出したんですよね。
座頭ですからもちろん大星由良之助は団蔵でございますな。
すると敵役の高師直という役を両方相勤めますとこう言ったんでお客さんが喜んで人気上々。
だんだんと初日が近づいてきた頃に頭取が飛び込んできて「親方ちょっと困っちゃったんですがね。
ハシバが倒れちゃったんですよ。
医者が言うにはひとつきぐらい動かせないだろうって言うんですけどあの…判官の役やるやつがいないんですがどうしましょう?お芝居変えますか?」。
「ばかな事言っちゃいけない。
今からそんな事言ってたら間に合う訳ない。
まあ病気じゃしょうがない。
代わり立てよう代わり。
香盤を持っておいで」。
役者の名前が書いてある板を持ってくるってえと「あっこれこれにやらそう」。
「えっそれでよろしいんですか?」。
頭取が驚いたのはあの…何ですね沢村淀五郎というねこの人名題じゃないんですよね。
位の下の役者さん。
昔のお芝居の役者さんってのは大体4階級ありましてね一番下が稲荷町といって楽屋にお稲荷さんがお祭りしてある。
その前に大部屋があって大勢入ってる入れ込みの。
大部屋の役者さんが稲荷町が一番下。
その上にね中通りっていうのありましてそれから相中それから名題とこういう事になる訳なんですが。
時代ですなその当時もうね稲荷町から上がってきた役者さんどんなにうまくても相中以上にはなかなかなれなかったんですな。
その相中の役者なんですよ淀五郎っていうのはね。
それ本人にお前の役こうなったぞって伝えたら跳び上がって喜んだ。
そりゃそうでしょうな。
なれっこないと思ってた名題昇進ですよ。
名題の役なんですから。
もともとは芝居茶屋の息子さんで芝居が好きで好きでしょうがなくて役者になったというくらいのもんですから芝居茶屋ですからお得意さんがどっさりありますわ。
「おかげさまでこの度名題昇進致しまして判官の役をやらして頂く事になりどうぞよろしく皆様でおいで下さいまし」と方々挨拶するやら稽古をするやら忙しいのなんのってね。
いよいよ初日を迎えたんですが初日まず第一幕目大序。
「兜改め」という大層華やかなお芝居でございますな。
これは無事に終わりましてね三段目これ喧嘩場と申します。
松の廊下で刃傷に及ぶというそういうところ。
ここのところもなんとか収まったんですよ。
四段目の判官の切腹の時になってちょっと妙な事が起こったんですがね。
判官の屋敷の大広間。
舞台の中央に切腹の場が設けられたりもしてそこに白装束の判官が控えておりましてね。
上手の方に検使の役人が床几にこう座りまして怖い顔してにらんでおりますね。
長がですね「力弥仰せに被りて」というのでもって上手の方から三宝の上に腹切り刀九寸五分を載せましてこれを持って出てまいります。
これを検使の役人の前へ置きますと検使の役人がこれを見て「よい持っていけ」と合図を致しますとこの三宝を持ちまして正面に座っている判官の前へこの三宝を置きます。
こうしておじぎをして上げると判官と顔が合う。
もうお殿様とはこれで今生の別れかと思うと力弥たちかねてじ〜っと顔を見ておりますが判官は「見苦しいから早く行け行け」といくら合図をしてもたちません。
そのうち判官も怒ってキ〜っとにらみつけて「行け!」。
しおしおと力弥が所定の位置へ座ります。
ここで判官がひと言申します。
「力弥由良之助は?」。
「いまだ参上つかまつりません」。
これから切腹の支度ですよ。
白の裃の肩衣を取りましてこれを膝のところへ十字にかける。
着物を脱いで腹をくつろげてそれから今度は九寸五分短刀を持ちますとこいつを半紙にクルックルックルックルッと巻きましてそれから三宝を頂いてこれを後ろへ回す。
で膝の上へ腹切り刀を置きましてここで一声声をかけるんですが。
「力弥力弥。
由良之助は?」。
力弥がつっと立ち上がってタタタタタッ。
花道のとこまで行くと両手をついてお父っつぁんまだ来ないのかなと一生懸命見て「いまだ参上つかまつりません」。
「存生にて対面せで残念なと伝えよ。
ご検使お見届け下され」。
右手に刀を持ち替えて左の脇腹へズバッと刺す。
これをきっかけに揚幕がちゃり〜んと開くっていうと大星由良之助がタタタタタタッ。
花道の下まで来ると「はは〜。
国家老大星由良之助ただいま到着つかまつってござります」。
石堂右馬之丞という検使の役人がつっと立ち上がると「おお大星由良之助とはその方か?苦しゅうない。
近う参れ。
近う近う近う」。
「はは〜」。
「ん?何だいこりゃ。
ひっでえ判官だね〜。
押し出しもあるし舞台度胸もあるからやらせりゃなんとかやるかと思ったがひでえ判官だなあ。
こんな判官とこ行って殿様とか上様とか言わなきゃならないのかよ。
役者なんてやるもんじゃねえな本当にな。
あ〜やだやだ」なんて愚痴こぼし始めたんですよ。

 

 

 

 


いくらあれだけ「近う近う」と言っても七三からね由良之助が動かないもんですからお客さんの方も「あら?どうしたんだろうな?」ってんでザワザワザワッときちゃったんでこりゃいけないって。
狂言方が淀五郎の後ろへ回ってつっと知らせたんだ。
「由良之助か〜…」って顔を上げて見たら由良之助がそばにいないんですよ。
「はてどうしたんだ?声がしたが」と思って向くと花道の七三で座ってブツブツ言ってる。
「いけねえ。
こりゃしくじったな。
でもしょうがない。
待ちかねた〜」。
「殿にはご存生の態を拝し由良之助いかばかりか…」。
「事の様子は聞いたであろうな〜…」。
「委細承知致しました」。
「この九寸五分はそなたへ形見」。
「委細承知致しました」。
呉服屋の番頭が注文引き受けてるみたい。
「委細承知委細承知」ってちっともそばへ来てくれないんですよ。
しょうがないから引き回して笛を切って落入になるとす〜っとそばへ来ていつもどおりの芝居になったんですがね。
さあ幕が下りると急いで淀五郎部屋へ帰って化粧落としてね団蔵の部屋へ。
「どうも親方ありがとうございました。
あの〜さぞおやりにくい事だと思いましたがどうもお疲れさまでございました」。
「誰だ?ああお前か。
今呼びにやろうと思ったんだが。
こっちお入り」。
「すみません。
どうも親方ありがとうございました。
あの〜親方今日は由良之助は判官のそばへ来て下さらなかったんですね」。
「ああ…行かなかったよ」。
「あのああいう型というものはあるんでござんすか?」。
「ええ?何?判官のそばへ由良之助が行かない型があるかってえの?お前ね芝居って何だか分かってる?芝居…相手が要るんだ相手が。
一人で芝居してんじゃないよ。
ねえ。
…そらねあのあれだよ。
大星由良之助って忠義無二の侍だよ。
お殿様が殿中で刃傷してうちが断絶。
お父様は切腹。
お家の一大事だよ。
ええ?国元から早かごを飛ばして鎌倉の屋敷へ飛んできて『お殿様〜』って言ったら今お腹を召すところだ。
さあ息のあるうちに一目でもお目にかかりたい。
飛び込んできたら大広間でもって検使の役人がいる。
あっこれはとんだ粗相をした。
平伏をするのが花道の七三だ。
なあ?石堂右馬之丞いうお侍はねああ人情のある方だから『大星由良之助とはその方か?苦しゅうない近う参れ近う近う近う』とお許しが出た。
ええ?お許しが出た。
『近う』って言われたらすぐそばで飛んで…行くのが当たり前。
行かねえなんて話ないんだよ」。
「今日は来て下さらない?」「行かないよ」。
「だってお前判官様が切腹してんだから由良之助飛んでくるんだよ。
役者が淀五郎が腹切ってるのに誰がそば行けるかよ」。
「ああ…あのでどこが悪いんでござんすかな?」。
「悪いってね…悪いっていうのはいいところがあるからこっちが悪いってえんだよ。
いいとこがなかったら悪いとこなんかある訳ねえじゃねえかよ」。
「はあ…でじゃあどういうふうにやったら…」。
「あのねお前はねお殿様なんだよ五万三千石の。
俺はないわゆる番頭。
ええ?家老だよ。
お殿様が腹を切るのが下手だからって家老がねあんたこうしなさいなんて教える。
そんな失礼な事はできないよ」。
「でど…どうやったら」。
「どうもこうもないんだよ。
本当に腹切りゃいいんだよ」。
「でも本当に腹切ったら死んじまいますが…」。
「フンッ死んじまえ。
下手な役者なんか生きてたってしょうがねえんだよ。
死んじまえ!」。
「どうもありがとうございま…」。
ちっともありがたかないですよこれはね。
ええ。
うちへ帰って一生懸命考えたんですがどこが悪いんだか全く見当がつかない。
こうやったらいいかああやったらいいかさんざん考えて明くる日また大序は無事に収まってで三段目の喧嘩場もこれもちゃんとできたんですよね。
四段目になってプツッと脇腹へ刀を入れるというとそうすると花道の七三まで由良之助が出てきてくれるけどそれからそばへ来てくれない。
でしかたがないから引き回して落入になるというとそばへ来ていつもどおりの芝居って。
さあこうなったらね淀五郎も楽屋にはいられませんよ。
慌てて顔を落とすってえと表へ飛び出して…。
「はあ〜…ええ何だよおい。
こんなに毎日毎日三河屋のおやじに天井見せられたら俺明日っからあそこでもって芝居できねえや。
どこが悪いか教えてくれたっていいじゃねえか…。
『本当に腹切れ』『本当に腹切ったら死じまいます』つったら『下手な役者なんか生きてたってしょうがない。
死んじまえ!』って。
言いやがったなチクショー!よ〜しあんなに恥かかせられんならな俺は夜逃げして江戸捨てたって行く先もないし旅回りも嫌だ。
いっそ一思いに死んじまえ。
よ〜しあの野郎に面当てに俺は明日あの舞台でもって腹切って死んでやろう」。
…って覚悟を決めたんですよ。
でそれとなくまたそのしるべを訪ねて暇乞いを致しましてさてうちへ帰ろうというんで中村座の横を通りますとガタガタガタガタガタ〜ッと追い出しの音で…。
「あっそうだ。
今日からこちらで栄屋の親方がお芝居してらっしゃるんだな。
あの親方にもお世話になってな。
死ぬ前にあの親方のお顔拝見して死にてえな。
よしちょっとお邪魔しよう」ってんでね栄屋中村仲蔵というこの方がうちへ帰った頃をねらって裏口お勝手から「おはようございます」ってね。
歌舞伎の世界は夜中に会っても初めて会うとみんな「おはようございます」とこう言うんですな。
「どうぞ表へお回り…玄関から。
え?…そうですか。
じゃあお履物を持ってお回ししときますから。
親方お帰りになって…ちょっとお待ち下さいませ。
あの親方。
紀国屋の親方が見えましたが」。
「紀国屋って誰だ?…ああ淀さんか!そうかそうか。
こっちへお通しして。
お入りお入り。
うんはいはいはいはい。
いやおめでとう。
よかったね。
え?苦労しがいがあったよ。
いやこれは私の気持ちだけだからさ納めといて下さいよ。
何?今日は何か用でもあって来たのかい?」。
「いや用っていう訳じゃないんですがあの…親方にちょっとお暇乞いしたいと思いまして」。
「暇乞い?何だどっか行くのかい?お前名題昇進したっていうのにさすぐ旅に行くのかい?どっち行くんだい?」。
「ええ…西方ってますから西だと思うんですが」。
「西って…何上方かい?ああ上方芸どこというからに。
まあ大した変わりねえけどね。
でいつたつんだい?」。
「ええあの…明日たとうかと」。
「明日?ちょっとお待ち。
お前んとこは昨日が初日だろ。
明日…。
いやちょっとちょっとちょっと…!お前さん何か隠し事してるね。
分かるよ。
長年のつきあいだ。
大体お前さんはね陽気な人だよ。
何だい今日は膝の上がぬれてるじゃねえの。
何があったんだ?言ってごらんよ。
言ってごらん」。
「うううっ…親方!私は明日から…もう舞台芝居ができなくなるんでございます!」。
「何で?芝居ができなくなるってどうした?ああああああああ花道の一件。
うん聞いた。
いやあの皮肉屋がね何か新しい形でも考えたのかと思ったらそうじゃないのか。
お前が下手だから花道の七三からそばへ来てくれないと。
ふ〜ん。
どこがいけないかちゃんと会って聞いたらいいじゃない」。
「聞いたんですけど教えてくれないんですよ」。
「それはおかしいな。
いやあの男は皮肉屋だけどね意地悪じゃないんだよ。
いやまあ何て事ない聞きゃあ教えてくれる。
お前の聞き方がまずかったんだろう。
あの皮肉屋のヘソ曲げたんだな。
ヘヘヘヘヘッ。
で何だって?」。
「ですからあの…どこが悪いですかって言ったらいいとこがないのに悪いとこがある訳がないって言うんですよ。
でどうやったらいいんですかって言ったらお前は殿様で俺は家来だから殿様に腹の切り方を教える訳にいかないってこういう皮肉な事言うんです。
でどうしたらいいですかって言ったら本当に腹切っちまえと言うんですよ。
本当に腹切ったら死にますっつったら下手な役者なんか生きてたってしょうがないから死んじまえってこう言われた。
だから私はね明日本当に舞台で腹切って死んでやろうと思うんですよ」。
「偉い!役者はね下手だと言われたら死んでもうまくなる。
命を懸けてやるのは当たり前だよ。
結構だよ。
うん。
死ぬなら死んでもいいけどでどうやって死ぬつもりだ?」。
「明日…由良之助が出てきたら由良之助をぶった斬って返す刀で腹切って死のうと思う」。
「お前ちょいとお待ちよ。
判官様が由良之助を斬って殺すなんてそんな『忠臣蔵』どこに…。
ワハハハハハッ!淀さん…お前さんまだ若いよ。
若すぎるよ。
考えてごらん。
え?お前さんをね判官に抜てきしたのは誰だい?三河屋だろ。
三河屋が後押ししてお前さんをね名題に昇格させたんだよ。
え?その三河屋はお前さんならできる。
お前さんならこういう芝居がやれる思って引っ張り上げたんじゃないか。
それをお前さんが役者が下手だからとか…。
三河屋はねもっと上手になれって上手んなるのを花道を七三でやりにくいの我慢して待ってんだよ。
それをお前逆恨みしちゃいけないよ。
じゃあこうしよう。
あのねお前さんここでね形だけやってごらん。
形だけ。
で私が気が付いた事があったら直してあげるから。
いやそこじゃ具合が悪い。
もっと前へ。
もっと来い。
こっち来て…。
いやもう少し前。
そうそうはいはいはい…。
いやあの…そんなに前からやらなくていいよ。
ああそうだろう。
その辺からだ。
うんはい。
ああそれ九寸五分ね。
はいはい分かりました。
はいはい。
じゃあやってごらんなさい。
はいはい。
うん」。
「う〜ん…」。
「う〜ん…」。
「うんうん」。
「はいはいはい分かった分かった。
もういいもういい分かった。
こっち来てさあ。
なるほどね三河屋がそばに行かない訳だな。
あたしが由良之助でもそばへ行けないな」。
「来て頂けませんか」。
「うん。
あのねお芝居ってね1人でやってんじゃないんだよ。
ねえ相手…三河屋もそう言った?うんうんまあ言うだろうね。
あの…判官様が切腹しているから由良之助がそばへ行くんでねえ…ああ三河屋もそう言った。
誰もそう言うだろうね。
お前…お前ねこの『四段目』という芝居しかも判官様はどんなお気持ちかって考えた事あるかい?えっ?判官様ねもう我慢に我慢辛抱し切れなくなって殿中で刃傷をして高師直に傷をつけた。
殿中で刃を抜いたからといってお家は断絶その身は切腹とこういう事になった。
しかも傷つけたといっただけでもってね師直はただのかすり傷だよ。
判官様は殺したかったんだから。
殺せなかった上に自分は腹切って死ななきゃならない。
こんな悔しい事はない。
うち側のもう無くなっちまう。
家臣の者は皆路頭に迷う。
そんな事を引き起こしてしまった。
俺はなんてこんなばかな事したんだろう。
本当ならねそこでもってわ〜わ〜とじだんだ踏んで畳たたいて本当に泣きじゃくると思うよわたしゃ。
えっ。
ところがねお殿様だ。
そんな事はなさらない。
どんなつらい事があってもじ〜っと我慢してらっしゃる。
ねえそれはお前さんは名題に昇進した初役判官。
『ああ昇進だ。
いい役もらった。
ひとついいとこ見せてやろう』。
もううれしくてうれしくてしょうがない。
『精いっぱい芝居してやろう』。
全く判官様と気持ちが違うじゃないか。
そこがまず第一だね。
判官様の気持ちにならなくちゃ。
そうだろ?判官様だからお殿様泰然としていなくちゃ。
腹を切るんでもね品よく死ぬんでも品よく死ななきゃいけない。
お前さん九寸五分を脇腹へ刺した時にこういう形するね。
あれはよくないよこれは。
お殿様のやる形じゃないよ。
まあな勘平か何かならなこんな形して苦しんで死ぬのもいいけどお殿様なら泰然として死ななきゃいけないよ。
膝の上へちゃんと手を置いてそれからう〜んと『由良之助は』とこう顔を上げた時に人相が変わるか。
何も工夫しない?こうしな。
明日ね耳の裏へ青黛を仕込んで舞台へ出る。
九寸五分を脇腹へプスッと刺すと揚幕がチャリ〜ンと開いて由良之助が出てくる。
お客様ってありがたいもんだよ。
『早く早く由良之助が間に合ってくれればいいのに』と思ってんのにチャリ〜ンって揚幕の音をするってえとね皆さん舞台から花道の方へ目をそらされる。
その隙が出来るだろ。
その隙の時にね耳から青黛を取って唇へす〜っと塗るんだよ。
『由良之助か』と顔上げた時に白塗りで…唇が青くなってる。
死相がもう表れてるな。
それからねプツッとやった時実は刃物に斬られた覚えがある方に話を聞いたんだがね刃物を体に入った時に痛いとかねそういう気はしないそうだね。
冷たい。
氷を突っ込まれたような気がしたって。
だからお前さんもねプツッとやったらここに氷が入った体に氷漬けになったと思って『お〜さぶい。
お〜さぶい』と思いながらそうしゃべれば声音がね弱ってくるだろ。
死に際が近いと思うわな。
それから引き回して笛を切って落入になるがこう前へ出す時こう出すのが当たり前だろうけどねこれは向こうから見た形がよくない。
うそでもこう出してあげると後からね由良之助が来て芝居がしやすい。
そういうとこだが…。
言ったら切りがないがね。
そこ気を付けてやってごらんよ。
そうすりゃ多分来てくれると思うがね。
だけど淀さんあれだよ。
短気を起こしちゃいけないよ。
もし来てくれなかったらまた明日私のとこ訪ねておいで。
いいかい?分かったね?」。
「ありがたいありがたい…!」。
さあうちへ帰ってから一晩寝ないで稽古致しまして明くる日今日が最後の舞台だと思うから一生懸命必死になって務めております。
三段目の喧嘩場で鮒だ鮒だ鮒侍だといびる役の高師直がね団蔵なんですから判官様…こうして…今にも抜いて斬りそうになる。
本当ならここでこのじじいぶち殺してやりたいけどまだ一幕早いからって我慢する。
その意気のすごいの何のってね団蔵が楽屋戻ると…。
「あの野郎今日どうかしてるぞおい。
芝居はうまくないけどあの意気はすごいね。
俺本当に2度ばかり殺されそうになったから」。
あの意気でもって四段目もやってくれればと楽しみになりますから揚幕んとこ行って早くから待っております。
お芝居はとんとん進みましていよいよ脇腹へ九寸五分プツッと刺すってえとチャリンと揚幕が開いてタタタタタ花道の七三へ団蔵の由良之助が…。
「国家老大星由良之助ただいま到着つかまつってござります」。
石堂右馬之丞の役者も張り合いがないですよ。
いくら「近う近う」ったってそばへ来ないんですから。
だけど言わなきゃいけないから。
「お〜大星由良之助はその方か。
苦しゅうない。
近う参れ近う近う近う」。
「へっへっへえ〜!」。
「おっ?できたよ。
富士の山は一晩で出来たってえけどこの野郎一晩でこんないい判官になりやがったかね。
誰かに教わったな。
仲蔵か。
ウヒャヒャこりゃいい判官だ!これじゃあそばへ行ってやらざあなるまい」ってんでね懐へ手を入れると腹帯ぎゅっと締め直す。
前かがみになりまして手を膝んとこ置いておこつき見せながらツッツッツッツッ。
「御前〜」。
「由良之助か…」。
…って花道の七三見ると由良之助がいないんですよ。
「あれ?今日は出てこねえのか?おい。
いくら下手だからって出てこねえって…。
楽屋へ帰ったらぶち殺してやるぞ!だけど今声がしたな」と思ってひょいっと横見たら3日目にいた。
「待ちかねた〜」。
(拍手)2016/12/03(土) 04:30〜04:59
NHK総合1・神戸
日本の話芸 三遊亭金馬 落語「淀五郎」[解][字][再]

三遊亭金馬▽落語「淀五郎」▽第687回東京落語会

詳細情報
番組内容
三遊亭金馬▽落語「淀五郎」▽第687回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭金馬