70年前世界各地から11人の判事が東京に集まり歴史的な裁判が開かれた。
日本の戦争指導者たちの責任を問う極東国際軍事裁判。
いわゆる東京裁判である。
しかし裁判は幕開けから波乱を呼ぶ。
指導者たちを裁くために戦後に制定された平和に対する罪別名侵略の罪。
侵略戦争を起こした事が犯罪だとするこの法に対し弁護人の清瀬は…裁判の根幹に疑義を発した。
事態の収拾に奔走する裁判長ウェッブ。
しかし動揺した判事たちの間に不協和音が走りだす。
そのさなか先行きに不安を感じたアメリカ代表が突然帰国。
事態は思わぬ方向に動き出していく。
ウェッブ裁判長。
クレイマー判事だ。
帰国したヒギンズ判事の後任を務める。
クレイマー判事。
ウェッブ裁判長。
あなたは経歴書によればハーバードで学ばれたとか。
ええそのとおりです。
あなたも?いいえクイーンズランド大学。
うん。
ウェッブ裁判長の仕事は困難だがちゃんと判事たちをまとめてくれている。
1946年7月検察側の立証は中国大陸での日本軍の残虐行為に移っていた。
1937年12月進撃を続けていた日本軍が南京を占領。
この時多数の捕虜や非戦闘員が殺害されたなどとして検察側の証人尋問が始まった。
判事たちは初めて中国人証言者の口からこの出来事について聞く事になる。
許伝音証人は日本軍が南京を占領した3日後市内で見た光景を証言する。
弁護側が反対尋問を試みる。
許証人は答える。
同じ日尚徳義証人が証人台に上がった。
英語が話せずその証言記録を検察官が代読した。
私は…あのような残虐行為を断じて許す事はできない。
しかしながら私はそれらを通例の戦争犯罪として裁くべきだと思っている。
それらの行為を人道に対する罪としては裁く必要はない。
ナチスがユダヤ人を根絶しようとしたのとは違う。
いずれにせよ被告たちはあのようなひどい罪の償いをしなければなりません。
今それは…。
(ウェッブ)今日のところはここまでにしておこうじゃないか。
ウェッブ裁判長一つ言わせて下さい。
検討すべきは侵略の罪の定義だと思います。
侵略の罪は除外すべきだという動議が出されている事をお忘れなく。
動議を却下する草案を今書いている。
議論の手順がおかしいです。
まさか本気じゃないですよねパル判事。
もちろん本気です。
(ロシア語)被告が侵略戦争を共同で謀議し準備し遂行した事は証言により明らかです。
お言葉を返すようですがその当時侵略の罪は存在していませんしもちろん太平洋戦争が始まってからも存在していません。
ニュルンベルクではナチスを侵略の罪で裁いたぞ。
それも私が思うに問題のある判断です。
だがこうしたひどい行為は従来の法体系からは大きくはみ出してしまっている。
法廷での証言を聞いた上であなたは本気で…彼らへの法の適用を免除しろと言うのか?違います!私は残虐行為を許しません。
しかし侵略の罪については存在していなかった法を適用するのを避けたいだけです。
事後法で裁く事になります。
いや違う。
それは無意味な議論だ。
我々は皆合意したんだ。
憲章によって侵略の罪は認められている。
そのとおり。
それに我々は反対意見はこの部屋にとどめると決めている。
全員ではありません決めた時私はいませんでした。
諸君。
ピリピリし過ぎているようだぞ。
今日はつらい証言も聞いた事だしこの議論はここまでにしよう。
(レーリンク)東京では一晩だけでおよそ10万人が亡くなったという記事を読みました。
アメリカ軍が落とした焼夷弾のためです。
以前はパイロットだったそうですね。
ああ。
だが戦闘機で爆撃機じゃない。
どんな感じなんです?汚く冷たくうるさい。
ドイツの連中に機体と両足を撃たれた。
終戦まで捕虜収容所にいたよ。
(パトリック)パル判事の意見をどう思っている?君の見解を知りたい。
侵略の罪を除外する事についてどう思うね?私にとっては難解です。
何が難解なんだね?全員憲章に署名したじゃないか。
(ウェッブ)今日は最初にハラニーリャ判事が発言したいそうだ。
恐れ入ります。
議論を進める前に私からパル判事に一つ言っておきたい。
私は平和に対する罪についてのあなたのご意見は尊重しています。
我々は侵略の罪と呼んでいますがあなたの…ご意見は不適切だ!戦争中には多くの残虐行為が日本軍によって行われた。
その地域は中国やインドネシアビルマそれに我が国フィリピンでも。
それらの残虐行為は日本の指導者たちが法に反する侵略行為を推し進めたから起きたものだ。
私はこれをはっきりさせておきたい。
全被告に対する起訴内容は正当なものだ。
パル判事私は侵略の罪の除外を求めた動議について弁護側への回答を書いているのだが…ほかにも言っておきたい事はあるかね?
(パル)はい。
日本人がアジアで行った事は非道であり恐ろしい事だと…私は考えています。
通例の戦争犯罪を行ったのです。
それらの残虐行為を行った者たちは既に現地の法廷で裁判にかけられ判決を言い渡されています。
しかしながら私は皆さん一人一人にもっと真剣に考えてもらいたい。
私が主張してきたように侵略の罪で裁ける法的根拠はありません。
1928年日本はパリ不戦条約に署名した。
そして条約には加盟国による合意事項がはっきりと…明記されている。
「国際紛争解決の手段としての戦争を放棄する」と。
要するに国策の手段としての戦争を放棄する事に合意したんだ。
しかし戦争を犯罪とする法的根拠は示していません。
いかなる刑罰も提唱していません。
それに当然ながら条約には軍人や政治家個人の刑事責任については何も明記されていません。
今現在国と国とが互いに対立を続けている状況を考えればこのパリ不戦条約は理想への誓いなのです。
被告を侵略の罪に問う事は憲章に示されているじゃないか。
憲章は誤りです。
憲章は判事を務める際の前提条件だったぞ。
我々は憲章が正しいか間違っているかなど議論できないしすべきではない。
(ロシア語)将軍はマクドゥガル判事の意見を支持しますし全員が支持すべきです。
ええ。
しかし勝手に法を作ってはいけません。
同感だ。
でもここにいる理由は?パル判事。
ここにいる理由は話し合えるようにするためでしょ。
人類がとるべき正しい道についてね。
そしてその議論の結果に…基づいて法にとって最善の決断を下すのです。
皆さんを尊重しますが私は確信しています。
法には人類を導く力があるのだと。
ですから法の原則は守られるべきです。
だからこそ被告全員を侵略の罪については無罪としなくてはいけません。
なぜならその法はまだ存在していないからです。
東京裁判所憲章に従えないというのならカルカッタに帰るべきだ。
私が独立を勝ち取ろうと戦っている祖国から来たのは意見を切り捨てられるためでも帰らされるためでもありません。
今日はこれで休会にしよう。
(マクドゥガル)パルは信じられないほど頑固だな。
その点に異論はない。
しかし国内法だったら彼の主張は正しいと言える。
犯した時点で罪でなかった行動について人を…裁判にかける事はできない。
ただし国際法は非常事態においては進化するものだ。
もしこの東京裁判がニュルンベルクの理念を厳格に守らなければナチスへの判決が間違いだったという事になる。
そうさせてはいけない。
そのとおり。
肌の色のためにランクの低いホテルだったがウェッブ裁判長が変えてくれた。
それはよかった。
初めからこうあるべきでしたね。
一緒にお茶でもいかがですか?
(レーリンク)マハトマ・ガンジーですね。
(パル)ええ。
真の英雄です。
独自のやり方でインドを独立に導いている。
世界中にインスピレーションを与えている。
どう思います?本当に独立は実現すると思いますか?もちろんだよ。
来年までにイギリスには荷物をまとめてもらう。
お茶が薬代わりだ。
議論に参っているかね?いいえ暑さの方にです。
うん。
外の方が涼しい。
庭を散歩でもしないか?それはいいですね。
うん。
パトリックをうろたえさせましたね。
ああ。
「被告を全員無罪にしろなんてこの愚かなインド人は何を言っている?」と思っただろうね。
そうです私も思いました。
うん。
君に渡した不戦条約についての本は読んだかい?ええ。
多くの点で感銘を受けました。
うんよかった。
しかしあれは過去の事で現在の事じゃない。
我々はここ…東京に集まって今の世界の正義について話している。
でもアジアの大部分は西洋諸国の植民地のままだ。
それらの地域は暴力で征服され…現地の人々は搾取されてきた。
お茶だってそうだ。
イギリス人が最高の茶葉を取り私たちは二流か三流のお茶しか飲めない。
でもその事と裁判がどのように関係するのですか?不平等と人種差別はまだ存在している。
ご自分の国をご覧なさい。
オランダ領東インドで現地の人たちを抑圧している。
我が国は彼らに繁栄をもたらそうと努力し独立の準備をさせたのです。
最近あなたの国は10万人の兵士を送り込んだ。
混乱状態でやむをえなかった。
君には植民地精神がしっかり息づいているんだねえ。
その話を持ち出すのはやめませんか?分かってますよね。
私たちが騒げばあなた方はいわゆるテロリストと戦う部隊を送る。
現実には…祖国を取り戻そうとしている自由の戦士なのに。
ではなぜオランダやイギリスフランスアメリカにはアジアを解放したかったと主張する日本を裁く権利があるんですか?日本人がアジアの人々を解放していたようには私は思えません。
君の闘争心を気に入っているよ。
おかげで主張し続ける気になる。
はいその事は私の家族も覚えています。
やっぱり大変なご苦労があったんでしょうね。
どう思います?さ〜て諸君。
侵略の罪が存在するという私の主張をまとめた。
弁護側の動議を完全に論破し我々の議論にも終止符を打てると確信している。
私の意見は変わりません。
(ベルナール)あのこの主張にはとても…とても興味深い歴史への言及がされています。
それに…。
こう言っては失礼ですが…これでは法学部の1年生が書いたみたいです。
私の助手が書いた。
もちろん私の指示の下で。
内容は学問的で簡潔で説得力がある。
その逆でアリストテレスやグロティウスの引用のせいでまとまりがない。
だったら孔子も入れてはいかがです?
(笑い声)グロティウスは国際法の父であり今も昔と変わらず重要だ。
ニュルンベルク裁判に完全に即すると簡潔かつ明確に示すべきだ。
いいかね。
言ったとおりこれはまだ草案だ。
では次の原稿を待とう。
裁判長6か月で終わるとおっしゃっていた裁判がなぜこれほど長引いているのですか?検討すべき証拠が多いんだ。
裁判長。
判事同士がもめていると聞いたのですが。
我々はできる限り速やかに裁判ができるよう協力している。
こちらでお待ち下さい。
はい。
これを。
ありがとう。
レーリンクさん。
こんばんは。
私からの招待を受けて下さってうれしいわ。
一緒に演奏できるなんてワクワクしますよ。
それはまだ分からないわ。
仕事でもプライベートでも私と共演できるバイオリニストはとても少ないの。
まあどうしましょう。
私失礼かしら?ドイツ人らしいと思います。
そう?ユーモアのセンスがおありね。
ほかにはあなたについて何を教えてもらえるの?それは…聞いて下さい。
ご結婚は?しています。
それに子どもも5人います。
それはすてき。
なのに家族を残して大変な裁判に参加し何を成し遂げたいの?正義です。
正義。
腕前を確かめさせてもらうわ。
共演できるかどうか。
(ウェッブ)君の意見はできる限り反映させようと努めている。
(マクドゥガル)そうしてこそ判断の枠組みができる。
(ウェッブ)だが前進していかなければこの裁判全体が行き詰まってしまうぞ。
(マクドゥガル)このままでは暗闇の中をさまよって迷ってしまうだけだ。
皆さんいいかな?ええもちろん。
お水を一杯もらえますか?検察はもうすぐフィリピンでの事件に焦点を当てます。
私は「バターン死の行進」を見た。
何万人ものフィリピン人とアメリカ人の捕虜がしゃく熱の太陽の下何日も歩かされ着いたのは恐ろしい収容所だった。
マニラ市街戦では日本の兵士が民間人を殺すのを見た。
私は自宅を焼かれて逃げるしかなかった。
あの経験を思い出すと胸が痛む。
だから私は決めたんです。
フィリピンに関する証言期間中欠席する。
いや…でも証言はあなたの国の事だ。
そのあとの議論を主導してもらわないといけない。
証言を聞かなくても…議論の進行を助ける事ならできますよ。
私は日々あの時の記憶と生きている。
私が感情的になりそのせいで裁判の権威を損なう事は避けたい。
あなたは誠実です。
正しい決断だと思います。
フレージングがまだ違う!もう一度!今ですか?そう明日はなし!もう一度よ。
いい?
(レーリンク)ああ…参りました。
うん…。
今度は…私から質問させて下さい。
どうぞ。
どうしてドイツ人女性が戦争のさなかに日本に住む事になったんです?その質問はつまり私がナチスかって事?パウル・ヒンデミットをご存じ?知ってます。
ドイツのすばらしい作曲家よ。
でもナチスは退廃的だと言って音楽アカデミーから追放した。
抗議したわ。
でも私が純潔のアーリア人だからナチスは困った。
そして私がアジアの音楽が好きだったから宣伝省は日本への視察旅行に行くよう強く勧めたの。
1941年にナチスがソ連を攻撃すると私は帰れなくなった。
シベリア鉄道に乗れなくなったから。
すみません。
とても勇敢でしたね。
私は失礼な質問をした。
あなたも似たような事を経験なさったでしょう?…というと?あなたの国はナチスに占領されたわ。
判事のあなたは惨めな思いをさせられたんじゃないかと思って。
個人的には…ほかの人たちほどは苦しんでいません。
1946年12月検察側は日本軍のフィリピンでの行動に矛先を向けた。
マニラ市街戦などと並び日本軍の残虐行為の代表的事例とされた「バターン死の行進」。
ドナルド・イングル年齢は27。
アメリカのイリノイ州に住んでいます。
イングルはこう証言した。
「親愛なるリーセへ。
裁判が始まってもう半年が過ぎましたが近いうちに終わりそうな気配はありません。
僕の当初からの意見は変わってきています。
そのため自分の意見を文書にして同僚の判事たちに提出する事にしました。
これはものすごく疲れます。
バイオリンを弾く以外に僕は頭をすっきりさせるために海辺によく行っています。
そんなある日の遠出の事幸運にも有名な作家の方にお会いしました。
竹山道雄という人です。
彼の最新作は『ビルマの竪琴』といいます。
彼は日本有数の知識人の一人と見なされていて僕は彼にまた会うのが楽しみです。
それに海に足を運ぶと我が家を思い出します」。
それで…どれくらい執筆活動を?もう何年も。
私の本職はドイツ文学の研究者です。
ではドイツ語をお話しに?少しだけです。
もちろん読む方が得意です。
分かります。
ドイツに行かれた事はあるんですか?あります。
3年間。
では私の国にもいらっしゃいましたか?いいえ。
ですが多くのオランダの画家たちに夢中になりました。
光と色彩の魔術師だ。
ご存じでしょうがフィンセント・ファン・ゴッホは日本の芸術に魅せられたんです。
彼の作品は浮世絵に影響を受けました。
特に広重の作品に。
そうです。
2枚の絵は広重の作品を基にしています。
機会があればもっと広重の作品を見たいですよ。
(竹山)見られるようにしましょう。
それはありがたいです。
裁判は思っていたとおりに進んでますか?それは…そうとも言えますが違う事もあります。
伺いたい事が。
日本の人たちはこの裁判をどう思っているんでしょうか?はあ…。
中には裁判を疑問視している人もいます。
(レーリンク)なぜ疑問視するんです?軍国主義者には容赦などいりません。
しかし一部の日本人は被告のうち何人かは罪を着せられたと思っています。
(ウェッブ)レーリンク判事が意見を文書にしてきてくれた。
タイトルは「侵略の罪での起訴に法的な根拠はない」。
確か…君の意見はパル判事が来るまで我々と同じだった。
なのに変わったのか。
私は自分でこの意見にたどりつきました。
私がこれを書いたのは我々が適切に法的な不備について考えるためです。
パリ不戦条約から我々の憲章に至るまでに存在している不備です。
その点については徹底的に議論してきたじゃないか。
不戦条約は極めて明快だ。
(レーリンク)ええ。
(ノースクロフト)侵略戦争の遂行は違法だ。
しかし不戦条約では個人が責任を問われる事については合意していません。
もし我々がこの問題を議論しなかったら将来法学者たちが我々の決断を疑問視するでしょう。
(梅)学問についての懸念には敬意を表します。
未来の法学者たちはその役割として疑問を提起するでしょう。
ええ恐らく。
戦争は政策であり主権国家によって行使されるものです。
それならばどうしてその国の個々の人間に対して我々が罪や罰の程度を法的に決められるのですか?我々は憲章によって法の原則を適用できるのだ。
それは違います。
違いますよ。
もし国際社会が十分に成熟して侵略戦争を犯罪と見なしてそのような戦争を起こした個人を罰する権限を持つ段階に至ればできるでしょう。
しかし残念ながらそこまで来ていません。
君のような考えの人たちが第一次大戦後に強力な法を作れなかったから我々が今度こそ未来の戦争を防ごうとしているんだ。
もう一度言いましょう。
不戦条約によれば各国は自分たちの行動を自衛か侵略か独自に判断する事ができます。
それが国の権利だと書かれています。
その解釈のしかたは間違っている。
君はこう言いたいのか?条約によりドイツ人は好きなだけ領土を奪い誰でも自由に殺す事が許される。
それに日本人は中国に侵攻しても何のとがめも受けなくていいと言うのか?それに不戦条約によって日本人たちが戦争を自衛のためであったと主張する事が許されてあれほどの事をしても無罪にするべきだと?
(パル)確かに理想的と言えないのは認めます。
しかし厳しい現実であり我々の知る世界です。
だから起訴は却下すべきです。
見逃す事はできない。
真珠湾への奇襲攻撃はな。
そういう事じゃない。
誰だって真珠湾の事もこれまで話してきたひどい行いの事も無視したくない。
だがどうかもう一度立ち返ってほしい。
我々は注意しなくてはいけない。
復讐心に…とらわれないように。
いいですか。
私は独立国家の権利や国境が脅かされた時の戦争の必要性は支持します。
それに断固として戦犯たちは厳しく…罰せられるべきです。
私が憲章に署名したのは当初政治的倫理的理由からで客観的な法律家としてではなかった。
しかし研究を深めて…熟慮を重ねた結果今はパル判事と同意見です。
(梅)多くの犠牲者が出たのにあなたはあんなにひどい戦争を起こした罪を見逃そうというのですか?
(ロシア語)そのご意見をあなたの祖国も支持しているのですか?いいえ。
政府に問い合わせる必要はありません。
(ロシア語)将軍はあなたにこの文書を撤回するよう求めています。
いえしません。
(パトリック)分かった。
もう十分だ。
ウェッブ判事。
あなたは裁判長として少なくとも憲章が当裁判所の根幹を成すものでありそれを守る義務がある事に同意するかね?ええもちろんだ。
ありがとう。
(ノック)どうぞ。
皆さんあと5分です。
分かった。
しかし我々は全ての意見を聞かなくてはいけない。
パルに気を取られているうちにレーリンクが意見を変えてしまった。
うん…。
恐らくあと1人か2人後に続く者が出るだろう。
気を付けよう。
知らぬ間にくら替えされてしまうぞ。
一番の問題はウェッブだ。
うん…。
中立であろうとしてあまりにも多くの異論を聞き過ぎだ。
(せきこみ)私は辞表を提出する。
そんな…冗談でしょう?裁判が立ち行かなくなる。
そのとおりだ。
我々3人が辞表を出せばもっと早くそうなる。
しかし…。
ヒギンズが既にいなくなったのに我々までいなくなったら大問題だ。
きっと政府が許さない。
当然だ。
何としても我々を慰留するだろう。
かなり危険な賭けだぞ?何もしない方が危険だ。
留任の条件を聞かれたら…みんなウェッブの更迭を要求するんだ。
いや…裁判長は更迭されたりしない。
東京裁判が行き詰まるのを防げるならきっとそうするはずだ。
さもないとニュルンベルク裁判の妥当性も失われてしまう。
我々3人が同じ要求をすればきっとうまくいく。
うん…。
(高官)判事の言葉をそのまま読みます。
「イギリスカナダニュージーランドの判事をそれぞれ呼び戻す事」。
カナダのマクドゥガル判事ニュージーランドのノースクロフトも自国政府に辞意をほのめかしました。
マッカーサーが解決すべきだ。
東京にいる外交官によると元帥には判事たちの仲裁をする気はありません。
パトリック判事はどんな騒ぎになるかという事を自覚しているのか?この3人の判事が職務を放棄すればイギリス連邦は裁判を妨害していると世界から非難されてしまう。
お言葉ですが…総理。
パトリックは第一次大戦中空軍パイロットでした。
体調に不安があるにもかかわらず東京へ行ったのです。
これは軽率な行動ではなく辞めると決心したのはやむをえないと考えたからでしょう。
まあ…ではどうすればいいんだね?書簡によれば問題があるのはインドのパル判事とオランダのレーリンク判事ですが一番はウェッブ…オーストラリア人の裁判長です。
ちょっと見せてくれ。
裁判の進行状況を教えてもらおうか。
(ウェッブ)はい。
弁護団が夏の間の休廷を求めてきましたが認めないつもりです。
仕事を続けた方がいいと考えます。
(マッカーサー)判事は対立していないか?1人2人頑固に主張する者はいますが対処できないほどではありません。
そのようには聞いていないぞ。
どなたから?一人は東京に駐在しているイギリスの外交官からだ。
聞いた話が正しいなら事態が悪化する前に素早く対処しなきゃならん。
ハハハハ。
ですが判事とは元来論争好きなものでいつも討論をしたがります。
(マッカーサー)そうだが共通の目標があるだろう?私はそこへ導いています。
私はこれまでさまざまな任務で例えばメキシコヨーロッパフィリピン太平洋で兵士を率いた。
そこで…一つ学んだ事があるとすれば徹底した偵察や事前の計画側近の優れた助言があったとしても勝利は常に…勝つ意思の下にやって来る。
その意思はまずトップの人間が持たなければいけない。
(アナウンサー)「戦争が終わってちょうど2年。
原子爆弾を浴びた長崎市では8月9日午前11時5分全市民が平和への祈りを捧げました」。
(アナウンサー)「この戦争を引き起こした人たちの裁判も1年4か月になりました。
11日石橋前蔵相が証人台に立ちましたが今各被告たちは何を考えているでしょうか」。
検察側は立証を終え弁護側が反証を始めた。
ブレイクニー弁護人は「アメリカの高官が真珠湾攻撃以前に日本の攻撃を予見していた」と立証を試みる。
アメリカ軍将校が証人台に呼ばれた。
彼は日本政府からワシントンの日本大使館に送られた電信の暗号解読をしていた。
電信はアメリカへの最後通告だった。
証人は「暗号は解読され大統領に送られた」と述べた。
弁護人は「アメリカは真珠湾が標的とは知らなかったが戦争が差し迫っている事は知っていた。
真珠湾攻撃は奇襲ではなかった」と主張した。
ブレイクニーの主張には納得できません。
日本の攻撃の意思を知っていた事と正式な宣戦布告を受け取った事は違います。
ルーズベルトが解読された電報を読んで攻撃を知っていたとしてもそれが果たしていつどこで行われるのかまでは分からなかったはずです。
日本がハワイを空から攻撃するには艦隊は1週間以上前に日本を出港しなければならないはずです。
だがブレイクニーが指摘したとおりです。
最後通告から敵対行為の開始までに必要な時間はどの国際法にも明記されていません。
要するに1分という事もありうるんです。
それでも冷酷な攻撃です!
(マクドゥガル)おはよう。
おはよう。
おはよう。
おはよう。
おはよう。
ちゃんと…我が国の外務大臣に伝えたよ。
はっきりとね。
私もそうだ。
気付いてるかな?
(パトリック)立派な人物をたたくのは好きなやり方ではないがウェッブは帰国すべきだ。
我々が裁判を正しい結論へ導く。
失礼します電報です。
ありがとう。
元帥。
会議に遅れそうなんだ。
これを。
オーストラリアへ帰る?そうです。
「重大な裁判の判決を下すため」?「寝耳に水」です。
東京を離れる気はありません。
君は問題はないと言っていたはずだが?最高司令官なら要請を却下できるはずです。
いやそれでは騒ぎが大きくなる。
何か月も新聞のネタにされる。
よし…今はおとなしくオーストラリアに帰った方がいい。
ウェッブ裁判長。
分かりました。
失礼します。
うん。
諸君。
突然集まるようにお願いしてしまった事をおわびする。
私はオーストラリア政府から帰国を求められた。
オーストラリアの銀行の国有化に関する重要な案件で最高裁判所に赴かなくてはいけない。
銀行?でも銀行などそれほど重要じゃないでしょう。
選択肢はない。
国の要請に従うまでだ。
マッカーサーが私の代理を任命する。
平和に対する罪別名侵略の罪を巡り激突を繰り返す11人の判事たち。
憲章に背くような判事に好き勝手にさせてはいけない。
パル判事がいないようだが。
植民地化を進めるのに正当な意図があったのかもしれない。
いかなる国にも文化や考え方を他国に押しつける権利などない。
そのさなか元首相の東條被告らが証人台に上がりその発言が思わぬ波紋を広げます。
たとえ私に脅しをかけても考えを変える事などできません。
我々が止めないと紛争は続きます。
急いで成し遂げられるべきものではないんだよ。
我々が多数派を結成して主導していくんだ。
判事たちの間で深まる亀裂。
裁判の行く末に更なる暗雲が広がり始めます。
判事たちの対立も激しくなってきたドラマ「東京裁判」。
存在感を増してきたのがイギリスのパトリック判事です。
一体どんな人物だったのでしょうか。
イギリス北部スコットランドの中心都市…その郊外の町に今もパトリック判事が開いた弁護士事務所があります。
生まれた家もその近く。
100年以上前に建てられた石造りの家です。
父親は警察官で地元の名士だったといいます。
家の裏にはガーデニングのための庭も残っています。
ウェッブ裁判長を更迭するべきだと主張。
それができないなら自分とノースクロフトマクドゥガル判事は辞職するとほのめかしていました。
パトリック判事たちはウェッブ裁判長の指導力がないため裁判が混乱していると考えていました。
このあとニュージーランドとオーストラリアの首相が会談。
ウェッブ裁判長について話し合った事が分かっています。
特に…そこでまあ…政府の首脳に対し大胆な行動をとったパトリック判事。
第一次大戦にはパイロットとして従軍。
第二次大戦ではイギリス人としてナチスの脅威を肌身で感じました。
彼の行動の陰にはこうした戦争体験が貫かれていました。
今こそ戦争を犯罪として確立しなければならないと考えたパトリック判事。
その信念に従い仲間の判事たちと裁判を主導していこうとするのです。
ドラマでレーリンク判事との交流が描かれる竹山道雄。
戦前から活躍した著名なドイツ文学者でした。
政治や社会についての評論も数多く書いた当時の日本を代表する知性でした。
その著書で東京裁判の時レーリンク判事と出会った事を記しています。
鎌倉市に残る竹山の自宅。
竹山とレーリンク判事は文化や芸術などについて幅広く語り合いました。
太平洋戦争中旧制一高の教師として教え子を何人も失う体験をした竹山。
東京裁判が開かれていた頃生涯で唯一の童話「ビルマの竪琴」を執筆していました。
主人公にこう語らせています。
一方戦勝国が日本人の被告だけを裁いた東京裁判への批判も書き残しています。
その胸には戦争の時代を生き抜いた知識人の複雑な思いがあったのです。
2016/12/13(火) 22:25〜23:20
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル ドラマ 東京裁判「第2話」[字]
70年前、世界から集まった11人の判事が「戦争は犯罪なのか」という根源的な問いに取り組んだ東京裁判。11人が繰り広げる、緊迫感あふれるヒューマンドラマの第2回。
詳細情報
番組内容
70年前、世界から集まった11人の判事が「戦争は犯罪なのか」という根源的な問いに取り組んだ「東京裁判」(極東国際軍事裁判)。NHKは世界各地で取材を行い、判事たちの公的・私的両面にわたる文書や手記、証言を入手した。そこから浮かび上がったのは、多様な背景をもつ判事たちが、激しい議論の末にようやく判決へ達したという、舞台裏の姿だった。11人が繰り広げる、緊迫感あふれるヒューマン・ドラマ全4話の第2回。
出演者
【出演】塚本晋也,ジョナサン・ハイド,ポール・フリーマン,マルセル・ヘンセマ,イルファン・カーン,マイケル・アイアンサイド,【司会】三宅民夫,【語り】草笛光子,伊東敏恵