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書き起こし モーガン・フリーマン 時空を超えて・選「死からよみがえることはできるのか?」 2016.12.16

 

 

どんな人にもいつか必ず「死」は訪れます。
死者は永遠にいなくなるのでしょうか?近い将来医学や科学の進歩によって死者が新しい形で生き続ける事が可能になるかもしれません。
私たちは死者をよみがえらせる事ができるのでしょうか?時間空間そして生命…。
時空を超えて未知の世界を探求します。
死は命あるものが最後に行き着くところです。
戻ってきた人はいません。

 

 

 


しかし死が終わりでないとしたら?解読が可能になった遺伝子情報を利用して近い将来死者の肉体をよみがえらせる事ができるかもしれません。
しかし肉体ではなく知識や経験はどうでしょうか?死者の肉体と精神を共によみがえらせる事はできるのでしょうか?私たちは皆いつの日か死と向き合わなくてはなりません。
愛する者と別れたくないと願っても死は必ず訪れます。
子供の頃私には愛犬がいましたが深刻な病気を患っていました。
永遠の別れを告げる事はつらく悲しいけれど避ける事はできない。
本当にそうでしょうか?この患者は死んでいます。
心拍は無く呼吸もしておらず心臓に血も流れていません。
しかしこの患者は間もなく生き返ります。
心臓外科医ジョン・エレフテリアデスはこれまでに何人もの患者を一時的に死んだ状態にしその後生き返らせています。
私は医学部に入り研修医になった時から心臓外科医を目指していました。
当時心臓外科はまだ新しい領域でその分リスクが高い分野でした。
この日エレフテリアデスが行うのは心臓の難しい手術です。
心臓に血が通っている間は執刀できません。
手術をするには心臓を止める必要があります。
しかし心臓を止めれば脳に血液が送られず酸素が欠乏します。
血液の流れが止まれば通常の体温では脳細胞は5分で死に始めます。
手術に要する時間は45分。
解決策は患者の体を仮死状態になるまで冷やす事です。
血液の流れが止まると脳が持ちこたえられません。
流れが何分か止まるだけで脳細胞は死に始めます。
しかし患者の体温を通常よりもずっと下げれば傷つきやすい脳細胞を守る事ができます。
温かい血液が体から抜き取られ氷で満たされた機械の中を通り再び血管に戻されます。
こうして患者の体温は18℃まで下げられます。
体温がここまで下がると細胞の活動は見られなくなります。
通常の医学的基準に基づいてこの患者の生死を判定した場合全ての点において死んでいる状態を示す事になります。
この時点では人工心肺装置や人工呼吸器などの生命維持装置も止まっています。
呼吸も心拍もありません。
通常の医学的基準に照らせば死んだ状態です。
安全に手術できる時間は45分。
体温を18℃まで下げても1時間後には脳細胞が死に始めます。
患者はまだ仮死状態です。
安全な時間は残り15分。
タイムリミットまで7分の余裕を残して手術は終了しました。
それまでの38分間患者は死んだ状態でした。
脳に損傷を与えないように気をつけながら患者を死んだ状態からよみがえらせます。
これには私自身も驚いています。
「死」の定義が変わったと言っていいでしょう。
この手術のような特殊な状況においては「死」に関する一般的な基準は当てはまりません。
死んでいる状態が永遠に続かないかぎりもはや「死」とは呼べないという事です。
ではこれほど制御されていない状況でも死者をよみがえらせる事はできるのでしょうか?ランス・ベッカーはペンシルベニア大学蘇生科学センターの所長です。
ベッカーは蘇生の鍵は細胞にあると考えています。
冷たい場所で肉を保存すれば長もちする事を私たちは大昔から知っています。
冷えた環境では腐敗つまり死後に起きる現象の進行が遅くなるからです。
温度が決め手です。
温度が下がると細胞は酸素をあまり必要としなくなります。
代謝の機能が通常よりも低下しいわば冬眠のような状態になるんです。
人間の体を構成する細胞は調節遺伝子によってさまざまな指示を受けています。
いわば細胞の制御システムです。
細胞の寿命が来ると調節遺伝子はシグナルを発し細胞に自らを破壊する酵素を作らせます。
こうして毎日およそ500億の細胞が死んでいます。
例えば心臓発作など重大な問題が起きると傷ついた細胞は周りの健康な細胞にも死ぬ時が来た事を知らせます。
知らせを受けると全身の細胞が次々と死に始め人は死に至ります。
私たちの死は生物学的なプログラムによって制御されているんです。
プログラムを修正し細胞が自ら死ぬのを止める事ができれば死を回避したり死者をよみがえらせる事も可能になるかもしれません。
細胞に組み込まれたプログラムに働きかける事が重要だと考えています。
細胞が自ら死ぬ死のプログラムの引き金は何なのかを探るため健康な細胞を採取し酸素の供給を断ちました。
予測では生き残った細胞に酸素を与えればまた元気になるはずでした。
私たちの予測とは正反対の結果が出ました。
酸素を断たれると細胞は全く活動しなくなりましたが死ぬ事もありませんでした。
ところが再び酸素を与えた途端細胞が次々と死に始めたんです。
酸素は生命活動に欠かせないものです。
ところがその酸素が細胞を死に至らしめる引き金にもなっていたんです。
酸素を断った細胞に再び酸素を与えると細胞が次々と死ぬ「死のシグナル」が発せられる事が分かりました。
この反応は冷却する事で抑えられる事も分かりました。
ベッカーは死のシグナルがどこから発せられるのかが分かれば冷却しなくても伝達を止められるかもしれないと考えました。
死のシグナルがどこから発せられるのかを解明しようとしました。
注目したのは細胞内の代謝経路です。
全ての経路は細胞の中にあるミトコンドリアにつながっています。
ミトコンドリアは人体のほとんどの細胞に存在する小さな器官です。
栄養や酸素を取り込み化学エネルギーに変えます。
一つのミトコンドリアが制御不能になると死のシグナルが発せられ連鎖反応的に広がります。
ベッカーたちはミトコンドリアに硫化物シアン化物一酸化炭素を作用させる事で連鎖反応を防げると考えました。
これらの物質の適切な投与量を測定しようとしています。
患者に酸素を戻し始める時点でミトコンドリアに3つの物質を投与するのが理想的です。
これによっていわばミトコンドリアをリセットします。
死を引き起こすのではなく通常どおりエネルギーを生産させるようにするのが目的です。
まだ実験的な段階ですが死のシグナルを妨げる方法が見つかれば瀕死の人や死んだ直後の人を蘇生させる事が可能になるかもしれません。
厳密に制御された条件の下では死者をよみがえらせる事は既に可能になっています。
では死者の肉体を新たに育てる事ができるとしたら?もしアインシュタインやモーツァルトを生き返らせる事ができれば人類に大きな恩恵をもたらすでしょう。
亡くなった愛する人をよみがえらせる事ができれば多くの人にとって意味があります。
クローン技術を利用すれば実現できるかもしれません。
しかしそれは許される事なのでしょうか?ロバート・ランザは生物工学の分野で多くの業績を成し遂げ現在はバイオテクノロジーの会社で科学部門の責任者を務めています。
現在彼が住んでいる屋敷の半分は自然史博物館のようになっています。
(ランザ)アパトサウルスの大腿骨です。
多くの人が「これでクローンを作るのか?」と言いますが生きた細胞がなければ無理です。
ランザは多くの動物のクローンを作り出してきました。
鼠牛猫犬豚羊馬。
2001年には凍った細胞から絶滅に瀕した東南アジアの牛の一種ガウルを誕生させました。
卵子はアメリカの牛のものです。
違う種の卵子を使ってクローンを作るなんて不可能だと言われましたが自信がありました。
ガウルの細胞からDNAを取り出しアメリカの牛の卵子に注入しました。
それを更に別の牛の子宮に移しました。
その結果10か月後にガウルの赤ちゃんが誕生しました。
小さなトナカイの赤ちゃんみたいで愛らしかったです。
クローンの作成に反対する人々からは自然の摂理に反する行為だとランザを非難する声も上がっています。
クローン作りは実は日常的な行為です。
人類は数千年にわたって植物のクローンを作ってきました。
遺伝子の素材を得るために植物を切り取り栄養を与える。
そして別の場所で育てる。
クローン作りと同じ事です。
今や人類は植物ではなく動物のクローンを作ろうとしています。
いつの日にか人間のDNAを使って死者の肉体をよみがえらせる日が来るのでしょうか?亡くなった夫のクローンを妻が出産する事で復活させる。
あるいは息子が母親を復活させ娘として育てる。
死者の生きた細胞が保存されていれば理論上クローンを作る事は可能です。
今の技術なら通常のヒトの胚と遺伝子的に全く同じ胚を作る事ができるんです。
しかし人間のクローン作成が本当に可能かどうかは実際にヒトの胚を子宮に移してみないと分かりません。
現時点では倫理的な観点から許されていないため確認はできません。
多くの人々が人間のクローン作成に強い拒否感を持っています。
そのため研究のための資金を得るのは難しく材料も不足しています。
問題の一つは卵子の確保です。
鼠や牛なら何千もの卵子をタダ同然ですぐに手に入れる事ができます。
しかし人間の場合たった5個の卵子を手に入れるのに1年以上かかりました。
卵子が手に入っても完璧なクローンを得るには何百もの妊娠例が必要になるかもしれません。
その結果遺伝子に損傷がある赤ちゃんがたくさん生まれるおそれがあります。
人間のクローンが成功するかどうかは五分五分の賭けに等しい行為です。
野心的な科学者が倫理的な問題を無視していつか人間のクローンを作るかもしれません。
しかしある人物のクローンはその人の完全なコピーではありません。
(ランザ)多くの人は愛するペットが死ぬとそのクローンが欲しいと願います。
でもそれは無意味な願いです。
私たちは一つの牛の細胞から何頭ものクローンを作りましたが臆病なものもいれば攻撃的なものもいてそれぞれ違った行動をとるようになりました。
遺伝子的には同じでも周りの環境によってそれぞれ性質の異なる牛になるんです。
アインシュタインの髪の毛があればクローンを作る事ができるかもしれません。
しかしそのクローンはアインシュタイン本人とは別の環境で育つ事で独自の人格を持つようになるため偉大な物理学者になるとはかぎりません。
クローンはいわば一卵性双生児の片方が何年も後に生まれるようなものでそっくりではあっても同一人物ではないのです。
死からよみがえるには新しい体を作り出すのではなく元の体を再生させた方がいいのかもしれません。
今は倫理的に許されていない人間のクローンを作る事もいつか実現するかもしれません。
一方生物工学の研究者たちは人間の臓器を一つ一つよみがえらせようとしています。
こうした研究によって生と死の境は今よりも曖昧なものになるかもしれません。
アメリカ・ミネソタ大学の研究所でドリス・テーラーが死者に命を吹き込む研究をしています。
病気で苦しむ人たちのために世界を変えたいんです。
兄弟が長い間病気を患っていた事で大きな影響を受けました。
テーラーは古い臓器の細胞から新しい臓器を育てる研究に取り組んでいます。
死んだ体から取り出した臓器を生き返らせる事もできるかもしれません。
建物の建築からヒントを得た技術です。
建物を形づくるレンガは臓器を形づくる細胞のようなものです。
部屋は心臓で言えば心室出入り口は心臓の弁廊下は血管のようなものです。
異なる形のレンガが組み合わさって建物が出来ているように細胞が組み合わさって臓器が出来ているんです。
レンガを1つずつ積んでいけばビルを建て直せるように細胞を1つずつ組み合わせていけば肉体を作り直せるという発想です。
ビルの建設ではこのような足場を組み外形を作ってから部屋を作ります。
私たちは基本的にこれと同じ事を人間の臓器で行っています。
私たちは細胞を組み合わせるための臓器の外形を作り出しているんです。
テーラーは肝臓や肺や心臓といった主要な臓器を再生しようとしています。
これは細胞を全て取り除いた心臓の外形です。
たんぱく質で出来ています。
これが心臓を再生する際のもとになります。
ここに再び細胞を注入すれば健康な心臓を作る事ができます。
外形がある事で細胞が正しい心臓の形に組み合わされるんです。
心臓の外形に新鮮な細胞を注入するとどうなるのでしょうか?心臓が鼓動を始めました。
他人の臓器を移植すると拒絶反応が起きます。
しかし移植を受ける本人の細胞から作った臓器なら拒絶反応は起きないとされています。
ブタの臓器の細胞を取り除きそこに移植を受ける人の幹細胞を注入し人間の臓器を作る事もできます。
心臓や肝臓を再生する事ができるなら人間の脳も再生する事ができるのでしょうか?
(テーラー)脳は極めて複雑な構造をしています。
それでも脳の一部を作り直したり代用できるものを作る事はいつか可能になると思います。
ただし脳に宿っていたその人独自の性格などをよみがえらせる方法は今のところありません。
この技術はダメージを受けた脳の一部を再建するのに役立つかもしれませんが他の臓器に比べると多くの困難があります。
脳は体の中で一番やわらかい組織です。
心臓と同じやり方で細胞を取り除いたら全く原形をとどめないものになってしまいます。
大量の水分を含んでいるからです。
脳のほとんどが水分だなんて信じられない話ですが事実です。
壊れやすい脳の構造を再建するためには更に研究を進める必要があります。
生きている脳なら一部がダメージを受けても修復の合図を出すものがどこかに残っていると思います。
そこに正しい材料などを与えれば修復は可能だと思います。
脳は極めて複雑で手術が難しい組織です。
現在のところダメージを受けた脳の機能を完全に回復させる技術はありません。
しかし医学の進歩によって心臓の手術が可能になったようにいずれ脳の大がかりな手術も可能になるかもしれません。
脳卒中は言うなれば脳における心臓発作のようなものです。
脳の血行に異常が出て周辺の組織がダメージを受ける症状です。
医師たちは過去数十年にわたり心臓発作を起こした患者の心臓再建術を学んできました。
その技術を応用すれば脳の再建もきっと可能になると思います。
ではダメージを受けた脳の再建というレベルを超えて脳を他の人に移植する事は可能なのでしょうか。
脳移植における最大の難関は主に2つあります。
一つは取り出した脳を生きたままにしておく事。
もう一つは移植を受ける人の体内で脳の回路を全てつなぎ合わせなくてはならない事です。
心臓移植のように血管だけでなく脊髄や神経も全てつなぎ合わせなくてはなりません。
脳の機能を保ったまま全てをタイミングよく接続するにはどうすればいいのか今の段階では想像もつきません。
死からよみがえる事で最も重要なのはその人の「心」を復活させる事です。
技術の進歩に伴い人の脳をコピーできる可能性が高くなっています。
デジタル技術によって死者の心をよみがえらせる事が可能になるかもしれません。
今や私たちの行動の多くはデジタルデータの形で記録されるようになりました。
膨大なデータは私たちの死後も長く存在し続けるかもしれません。
もし誰かのデータを一生分集めたらその人を死からよみがえらせる事はできるのでしょうか?この学生たちは死からよみがえる最初の人間になるかもしれません。
ある研究に参加して自分たちの毎日の体験をデジタル化し保存しているからです。
彼らが見たり聞いたりするもの誰とどこへ行ったか心拍数や汗の量まで全てのデータがダブリンシティ大学のハードディスクに保存されます。
考案したのはコンピューター科学者のカサル・ガーリンです。
(ガーリン)やあお疲れさま。
よし早速見てみよう。
ガーリン自身も自分の生活を5年半記録しています。
画像の数だけでも850万を超えます。
これは私の典型的な一日の記録です。
朝起きて朝食を作りオフィスへ行きました。
日中はずっと仕事で途中コーヒーで一服。
夜車を運転して帰る途中レストランに寄っています。
自動的に写真を撮るソフトウエアを使用してこの日はおよそ3,000枚の写真を撮影しています。
カサルが作っているのは人間の記憶を補うためのものです。
人間の脳よりはるかに正確です。
過去の人生に関するデータに向き合うと自分の記憶にしばしば間違いがある事に気付きます。
自分の記憶と客観的な事実との間に明らかな差があるんです。
生活の記録をデータ化したものをライフログと言います。
過去の出来事を正確に知る事ができます。
既に多くの人々がインターネットのソーシャルネットワークサービスを初歩的なライフログとして利用し自分の人生の経験をネット上に残しています。
現在人類が2日間で生み出すデータ量は歴史が始まってから西暦2003年までに生み出された全てのデータ量を上回ると言われています。
この傾向は更に加速すると見られています。
人々が更にライフログを利用するようになれば膨大なデータがネット上にあふれる事になるでしょう。
この研究では1人当たり年間最低でも100万枚の写真を撮ります。
それほどのデータ量があると検索システムにも大きな負担がかかります。
ただ膨大なデータがあるだけでは無意味です。
そのデータに誰でも簡単にアクセスできるようにし便利な形で使えるようにまとめなくてはなりません。
そのような技術があってこそライフログは意味を持つんです。
いつの日か誰もが人生の記録装置を肌身離さず持つようになるかもしれません。
人生のあらゆる経験を記録したデータは本人の死後残された人たちにとって大きな意味を持つ可能性があります。
人格とはそれまでの記憶や経験を基に出来上がるものです。
記憶や経験にまつわるデータに基づいて亡くなった人の人格を再現する事も将来的には可能だと思います。
膨大なデータを集めコンピューターの分析能力や検索システムの機能を飛躍的に高めればその人の人格をかなりのレベルで再現し家族や友人と交流する事もできるようになるでしょう。
亡くなった人の過去の経験に基づいて物事の好き嫌いや反応をコンピューターが計算し人格として再現してくれます。
うまくいけば残された人々はその人が生き返ったような感覚を覚えるかもしれません。
しかし人の心をより完全な形で再現する方法はないのでしょうか。
その方法を開発している人物がいます。
人の心とは脳内にある膨大な神経細胞の活動から生み出されるものです。
この複雑な活動があなたの心です。
脳が死ねば人も死にます。
しかし心の中身を脳から切り離す事ができるとしたら?その人の本質である「心」を脳から別の入れ物に移す事ができれば人はもう一度生きられるかもしれません。
神経科学者のケン・ヘイワースは脳保存財団という研究組織の代表を務めています。
組織の目的は死者の心をよみがえらせる方法を見つけ出す事です。
脳を保存し完全に解析できればはるか未来まで生きる事も可能になります。
脳に張り巡らされた神経回路は電車の線路のようなものです。
ただし長さはこのおもちゃの線路の数十億倍もあります。
また情報の伝達に関わる分岐点は何百兆という数に上ります。
脳内の神経回路や分岐点全体を「コネクトーム」と呼びます。
コネクトームは全ての記憶の中枢であり思考や意識の源です。
コネクトームを丸ごとコピーする事ができれば肉体が滅んだあとでもその人の心を再現する事ができます。
脳をコンピューターのように扱う事でコネクトームのコピーは可能だとヘイワースは言います。
このコンピューターはいわば死んだ状態です。
型は古いし基盤は焦げていてもはや修理のしようがありません。
でもこの中には僕の結婚式の時の写真が全部入っています。
博士号の論文もです。
コンピューターを丸ごと廃棄したらそれらも失われてしまいます。
しかし記憶装置であるハードディスクを取り出して中身を別のディスクにコピーすればデータは全て生き残ります。
人間も同じだと思います。
神経科学の見方で言えば人間の心とは脳の神経回路に蓄積されたデジタル情報の事です。
死を迎えた時に脳を保存できればその人の全ての記憶も保存され復活させる事ができるかもしれません。
壊れたコンピューターのデータを新しいコンピューターにコピーして復活させるのと同じです。
コンピューターが壊れても記憶装置が保存されていて完全なコピーを作る事ができればデータは半永久的に残ります。
同じように人間が死んでも脳内の膨大な情報をコピーして外部の記憶装置に保存できるはずだとヘイワースは考えています。
ヘイワースの計画では人が死んだらその人の脳を取り出して樹脂で固めます。
その後脳は温められたダイヤモンド製のナイフで目に見えないほど小さな断片に切り刻まれます。
その断片をイオンビームでスキャンし情報を読み取ります。
これを何百万回も繰り返す事で脳全体の情報をデジタルデータに置き換えます。
これは既に実現している技術です。
脳の神経組織を究極の解像度で読み取る事ができます。
解像度が高いため神経細胞の結合の様子はもちろん結合の強さなども分かります。
将来的には人間の脳を完全に解析し心がどのように生まれるのかを解明できると思います。
そうなればコンピューター上で人間の心を再現する事も可能です。
つまりコンピューター上でその人物を生き返らせる事ができるという事です。
この計画を実現するには莫大な費用がかかりますが技術の進歩が解決してくれるとヘイワースは考えています。
現在人間の脳を完全に解析しようとしたら数百億ドルもかかります。
しかし技術の進歩によって100年もすれば数千ドルまで下がるでしょう。
望む人なら誰でも自分の脳を保存できるようになるんです。
未来の病院には脳を保存する設備が置かれるようになるかもしれません。
そこには情報を読み取られ生き返るのを待つ脳がずらりと並ぶ事になります。
(ヘイワース)100年間保存されていた脳が切り刻まれ全ての情報を読み取られコンピューター上で再現される。
するとその人は100年の眠りから目を覚ますかのように復活するんです。
しかしこの方法で生き返ったとしてもコンピューターのプログラムとして生きる人生とはどのようなものなのでしょうか?人は身体的な感覚なしに心だけで生きる事に耐えられるのでしょうか?心だけ復活しても身体的な機能がなくコンピューターの中に閉じ込められて生きるのは死ぬよりもひどい体験になるかもしれません。
心をよみがえらせるだけでは十分ではありません。
本当の意味で生きるなら愛する者に触れたいと思うでしょう。
残念ながら生身の体に心を復活させる事は不可能なようです。
しかしよみがえった心を宿すための体を新たに作れるかもしれません。
いつか心を保存できる日が来るかもしれません。
しかし体がなくてはよみがえりは完了しません。
その体は丈夫で生きていた頃の姿に似ていて年を取らずバージョンアップが可能でデジタル化された心を収められます。
それはロボットです。
日本ではロボット技術が発達しています。
ロボットの大部分は工業用なので人間の形はしていません。
しかし人間の姿に近く人間とロボットの境界に位置するアンドロイドの開発でも日本は世界をリードしています。
ロボット工学者石黒浩は生身の人間にとてもよく似たアンドロイドを開発しています。
私は人間そのものに興味があります。
最終的なゴールは単にアンドロイドやロボットを作り出す事ではありません。
「人間とは何か」を理解する事です。
石黒の研究室ではアンドロイドと人間の関係性についてさまざまな角度から研究しています。
人間にそっくりなものから抽象的な姿をしたものまでさまざまなアンドロイドが作られています。
人間とアンドロイドの関係性で重要な要素は何かを考えるため人間的な特徴を最小限に抑えたモデルを作りました。
「エルフォイド」と名付けられたアンドロイドは人間的な特徴は最小限ですが親しみを感じる事ができます。
人間とコミュニケーションをとるための機能も備えています。
(エルフォイド)どうもありがとう。
石黒が作った他のロボットやアンドロイドと同様エルフォイドも遠隔操作によって動きます。
コンピューターのソフトウエアが人間の表情を読み取りアンドロイドの顔を人間の顔の筋肉に似せて動かします。
マーケティングでヨーロッパの担当だったのでスペインとかオランダとか…。
一方「ジェミノイド」と名付けられたモデルは人間に限りなく似せて作られたアンドロイドです。
このような体にデジタル化された心を組み込んだらどうなるのでしょうか?あるいはコンピューター内に収められた心がアンドロイドの体を自由に遠隔操作できるとしたら…。
人間の心とアンドロイドをつなぐ研究は既に進められています。
人間の脳をアンドロイドに直接つないで頭で思い描いたとおりの動きをアンドロイドにさせる研究をしています。
もしその技術が完成したら石黒はまず自分そっくりに作られたジェミノイド型アンドロイドで実験を行う事でしょう。
今再起動中です。
ちょっと待って下さい。
よし戻ったね。
ああもう大丈夫。
僕が見える?見えるよ。
石黒はしばしば自分の代理としてジェミノイドを登場させ遠隔操作で講義などを行っています。
僕を見た人たちの反応は?そう…最初のうちはやはり落ち着かないようだけど一旦君が話し始めるとみんな会話に引き込まれるみたいだよ。
石黒はいわば自分の分身を作り出しました。
技術の進歩によってアンドロイドは今後更に人間に近づいていくでしょう。
(石黒)既に状況によってはどちらがアンドロイドか判別できない場合もあります。
ジェミノイドは演劇に出演した事もあります。
しかし石黒はまだ満足していません。
例えばもっと人間らしい表情をさせるとかいろいろと改良の余地はありますし実現できると思います。
ありがとう。
ありがとう教授。
どういたしまして。
人の心を宿したアンドロイド。
これが将来実現する死からよみがえった人の姿なのかもしれません。
肉体を全て機械と取り替えた時最後に残るものは何なのかを知りたいんです。
近い将来誰にもさよならを言わなくていい日が来るかもしれません。
しかし愛する人が死に人工の体でよみがえった時私たちはどう感じるのでしょうか?かつて愛した人と同じだと思えるかどうかはその時になってみないと分かりません。
いつの日か「お隣さんがみんなアンドロイドとしてよみがえった人ばかり」という社会がやって来るかもしれません。
生と死の境界は曖昧になり体が一度目の肉体か二度目の人工の体かという違いが新たな境界となるでしょう。
2016/12/16(金) 22:00〜22:45
NHKEテレ1大阪
モーガン・フリーマン 時空を超えて・選「死からよみがえることはできるのか?」[二][字]

脳を“コピー”して保存。死者の心がコンピューターの中で生き続ける…。最新の科学で死からよみがえることが可能に!?誰にも「さよなら」を言わなくて済む日がくるのか?

詳細情報
番組内容
「死からのよみがえり」をテーマに第一線の研究者たちが様々な角度から検証する。クローン技術などを駆使すれば、近い将来、肉体を再生させることは可能になるかもしれない。しかし、故人の経験や記憶はどうなるのか?心も再生できるのだろうか?脳をコピーし、心をコンピューターの中で再生できるという研究者もいる。それで“生きている”と言えるのか?果たして「よみがえり」は可能なのだろうか?(2015年7月初回放送)
出演者
【語り】菅生隆之
制作
〜ディスカバリー制作〜