(昌幸)迎えに参ったぞ!時は戦国。
真田昌幸はいまだ信濃の一角小県の国衆にすぎない。
小県は真田室賀津などの地域に分かれそれぞれが領主である国衆によって治められていた。
中でも最大のライバル室賀正武は事あるごとに昌幸と対立し真田の小県統一を阻んでいた。
(信幸)我ら小県の国衆…。
黙れ小童!天正10年秋真田は北条と手を切り徳川に従う。
そして家康の力を利用し真田の新しい城を築かせる事に成功する。
是非とも海士淵に城を!それが上田城である。
千曲川のほとりに築かれたこの城は真田が大名へと飛躍する確かな足がかりとなった。
(信繁)お梅。
(梅)はい。
このころ信繁は新たな家族を迎えようとしていた。
お前はなくてはならぬ人だ。
2人に迫る危機を信繁はまだ知らない。
めでたい話ではないか!まず兄上にはお伝えしようと思いまして。
しかしいつからだ?いつからとは何をもって決まるのですか?それはやはり口吸いだろう。
そういう話はいくら何でも…。
忘れてくれ。
それからこれはまだ誰にも言ってないのですが梅の腹の中にはややこがおります。
口吸いどころではないではないか。
はい。
そんな顔してやる事はやっておるのだな。
はい!でかしたぞ信繁!あとは父上のお許しを頂くだけでございます。
腹の中にややこまでおるときては許すもなにもあるまい!ありがとうございます!ハハハ!できれば梅のために祝言を挙げてやりたいのですが。
そりゃもうやった方がいい。
ありがとうございます!
(内記)寝耳に水じゃ!若はお前の事が好きではなかったのか!しかもよりによって堀田作兵衛の妹とは!
(きり)お梅ちゃんはいい子です。
これで腹の子が男子であったら目も当てられんぞ。
お子がいるのですか…?お前はどうなんだ?何がですか?子は宿しておらんのか?ばかな事言わないで下さい!わしはお前に真田の跡継ぎを産んでほしいのじゃ!室賀がまた浜松城を訪ねたそうだ。
(昌相)決まりだな。
(昌幸)ねらいは?真田に取って代わるつもりか。
あいつめ…家康に焚きつけられたか。
(昌相)となれば我らのなすべき事は一つ。
真田信繁は生涯側室も含めて4人の妻を娶った。
その最初の女性は真田家家臣堀田作兵衛の妹として記録されている。
いい夜じゃ。
久しぶりにやらんか?わしに勝った事がないではないか。
いやいやそれが近頃腕を上げたって評判でな。
ハハハハハ!
(歌声)
(梅)きりちゃんこっちに来て。
一緒に飲もう!遠慮しとくわ。
何だあいつ。
きりお前…。
お構いなく。
(昌幸)正武。
その懐に隠し持ってるのは小刀か?何の話だ?わしを殺しに来たのだろう。
(笑い声)兄上はどこに行ったのだ?捜してくる。
これより真田名物雁金踊りをご覧に入れまする!姉上がですか!?大丈夫なんですか?どうか見てやって下さい。
(せきこみ)
(鳴り物)はっ!
(鳴り物)さしずめおぬしが連れてきた2人は徳川の手の者。
既にこちらで始末した。
おぬしの負けじゃ。
(昌幸)わしの家来になれ。
さすれば許す。
わしの勝ちじゃ。
帰る。
おぬしの家来にはならぬ。
(刺さる音)うっ!
(刺す音)室賀殿!御免!うっ!
(斬る音)
(内記)逃げろきり!キャ〜!キャ〜!
(内記)おりゃ!
(斬る音)
(鳴り物)
(きり)急いで!これは…。
(きり)ひどすぎる…。
(すすり泣き)室賀正武…徳川家康に唆され殿を暗殺せんと参ったところ返り討ちに致しました。
ご苦労。
読めました。
それで祝言を。
(きり)何突っ立ってんのよ!あなたたちいいの?これで!お梅ちゃんが…。
(昌幸)わしが命じたのだ。
真田が大名になるためには室賀がいては困るのだ。
全ては真田のためじゃ。
父上はまた見事に成し遂げられましたね。
室賀の骸を見た時不思議と怒りはありませんでした。
ただただ父上の策を見抜けなかった事が悔しかった。
そして…。
兄上…。
うん。
私は…。
そんな自分が好きになれません。
あの時梅のために怒り泣いたのは私ではなかった。
私はどこへ向かうのですか?悩め源次郎。
それでも前に進んでいくしかないのだ。
今の我らは。
(家康)真田が手切れを伝えてきおった。
(数正)安房守は既に上杉に対して次男を人質として差し出していたようです。
(正信)恐らく真田は上杉を後ろ盾に上田の城に籠もり徳川を迎え撃つつもりかと。
では我が殿は敵のためにわざわざ城を造ってさしあげたという事ですか?真田昌幸…。
どうしてくれよう。
お潰しになったらいかがですか?天正13年8月。
7,000の徳川勢が神川を挟み上田城の向かいに陣を張った。
対する真田勢は僅か2,000。
7,000の軍勢に真っ正面から挑んでも勝ち目はない。
だがこの7,000も…。
こうやってこうやって細く長く伸ばしていけば僅かな兵でもたやすく切り崩す事ができる。
・「高砂や」・「この浦船に帆を上げて」
(三十郎)皆も謡え〜!・「この浦船に帆を上げて」・「月もろともに出潮の」・「波の淡路の島かげや」・「遠く鳴尾の沖過ぎて」・「はや住の江に」
(梅)嫌だこんな時に。
(作兵衛)何だ?胸が張ってきました。
何〜!お乳をやってきます!行ってきます!しかし戦が…。
赤ん坊は待ってくれませんから!すぐに戻ります!
(一同)わ〜!えい!
(一同)お〜!えい!お〜!えい!お〜!えい!お〜!えい!お〜!お〜!ふざけたやつらめ!全軍押し出せ!
(2人)はっ!徳川勢が動き出したのは閏8月2日の朝であった。
第一次上田合戦の始まりである。
放て〜!
(銃声)おのれ〜!今だ!引け〜!かかれ〜!
(鳴り物)くそ〜!うわっ!お梅!源次郎様!佐助!
(門が開く音)・安房守じゃ!放て!
(銃声)
(一同)うわっ!
(銃声)
(銃声)うっ!かかれ!
(一同)お〜!かかれ〜!退路を断たれた徳川勢は総崩れとなった。
えい!
(一同)お〜!真田の大勝利である。
これは…。
行き場を失った敵が柵を壊して山に逃げ込んだかもしれぬな。
作兵衛!助けてやれなくてすまなかった。
お梅は無事に戻りましたか?ああ佐助が本丸に入れてくれた。
お梅がここにいなかったのが不幸中の幸い。
乳をやりに行かせてよかった。
(すえの泣き声)お梅!源次郎様…。
お梅は?櫓の上にいたんだけど柵が壊されるのを見てお梅ちゃんみんなが心配だって。
私止めたんだけど…。
こっちに戻ったのか!?お梅〜!
(作兵衛)源次郎様〜!お梅…。
お梅…!
(泣き声)徳川勢が撤退したのはその日の夕方であった。
徳川勢の死者は1,300余り。
真田側の死者は50人に満たなかったという。
彦右衛門!
(元忠)はっ!真田ごときに何をしておるのじゃ!申し訳ござりませぬ!
(忠勝)殿お願いがございます。
次はそれがしに采配をお任せ下され。
必ずや真田安房守の首討ち取ってごらんに入れまする。
うむ。
念を入れて支度せい。
今度こそ真田を根絶やしにするのじゃ!だが家康の動きに待ったをかけた男がいた。
羽柴秀吉。
賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を破り小牧長久手の戦いで徳川家康と和睦。
大坂に巨大な城を築き前年には関白となっている。
天下をほぼ手中にした秀吉は各地の大名に上洛を求め忠誠を誓わせた。
その矛先は徳川上杉そしてついに真田へと向けられたのである。
このころ信繁は人質として上杉景勝のもとにいる。
(景勝)己に恥じぬよう生きるのみじゃ。
義を重んじ民を思いやる景勝の姿に信繁はいつしか惹かれ上杉と真田の絆は日に日に確かなものとなっていった。
源次郎。
はい。
おぬしのような子が欲しかった。
秀吉に会ってくる。
それは秀吉に下るという事ですか?そうではない。
上杉は何者にも屈する事はない。
なあ源次郎ついてこぬか?大坂へですか?大坂は城が出来てから大したにぎわいだと聞いておる。
見聞を広めるがよい。
はい…。
源次郎様!お前!間に合ってよかった。
何やってるんだ?殿から仰せつかったんですよ。
源次郎様のお近くでお世話するようにって。
うそつけ。
うそじゃない。
父上が取り計らってくれました。
何ゆえそんな事を…。
源次郎様お一人では心配だからでは?私はこれから大坂に行くんだ。
知っております。
だから私も…。
ばかな事言うな!帰れ!嫌です。
わざわざ上田から来たんですよ!誰も頼んでない!おいいつまで続くのだ?申し訳ありません!この女子昔から私に付きまとって。
何をするんだ。
何をするんだ!仲よさげではないか。
苦しゅうないついてまいれ。
お待ち下さい!ありがとうございます!参りましょう!
(障子が開く音)上杉様どうぞこちらへ。
直江殿も。
おぬしはここで控えておれ。
どうぞ。
石田様!私もお供致しとうございます。
ならん。
そなたの事はまだ殿下の耳には入れておらぬ。
(障子が閉まる音)ああ!あなたあれ?はい?あれでしょ?真田何とか。
さようでございますが…。
フフフ!どっから来たの?上田でございます。
聞いた事ない。
信濃です。
私ね清洲のお城に住んでた事があるの。
清洲城に…。
近く?上田がでございますか?さて近くではありませぬがここよりは近うございましょう。
何か?割と好きな顔!フフフフ!
(大蔵局)茶々様いけません。
では。
はい。
殿下がねあなたに会うの楽しみにしてましたよ。
え…?
(大蔵局)参りましょう。
は〜い。
この天真爛漫な娘はやがて右大臣豊臣秀頼の生母淀の方となる。
信繁の人生に大きく関わってくるのだがそれはまだ先の話である。
(且元)ここでしばらくお待ちあれ。
殿下がお見えになるのですか?お待ちを。
来い!えっ?早く!真田安房守の息子だな。
あの…。
後だ。
・
(正則)殿下!殿下!こっち!これでよろしゅうござるか?上出来上出来。
三成は?うまくまきました。
見張っとれ。
はい!出かけるぞ。
お前も来い。
えっ?面白いとこ連れてってやる。
もしや…。
秀吉じゃ。
・「待てども」・「夕べの」・「重なるは」ご無礼つかまつりました。
ああもう城に連れて帰りたい!殿下。
わしだけの側女になってくれ。
頼む!せめて城で一晩一緒に過ごさんか?お戯れを。
ではごゆっくり。
あれだけの女子が信濃におるか?まずおりませぬ。
だろだろ?はい。
おっ!殿下。
上杉様がお待ちでございます。
よくここが分かったな。
殿下がお仕事を放り出して向かうとあらばここ以外には思いつきませんでした。
嫌みな物言いをするだろ。
違うんだよ源次郎が。
なっ?え…?
(秀吉)源次郎がせっかく大坂まで上ってきたのでいろいろ楽しんでいきたいと言うからしぶしぶ連れてきてやったのだ。
だろ?さようです。
酒もよし肴もよし女子もよし。
さすがは大坂でございます。
おお〜それは何より!という事ですので殿下にはお礼の申し上げようもございませぬ。
どうでもよい。
さあ戻りましょう。
上杉など待たせておけばよい。
それはなりませぬ。
殿下さようにご多忙の折に私ごときのお頼みをかなえて下さるとは申し訳なき限り。
私は存分に楽しみましたゆえどうかお城にお戻り下さいませ。
そういう事なら戻ろうか。
上杉景勝は関白秀吉に拝謁した。
(秀吉)こうして参ってくれた以上は最高の礼をもってもてなさねばのう。
越後の本領は安堵。
今後は東の要として関東を抑えてもらいたい。
それからもう一つ。
これより後真田への肩入れは無用とせよ。
なんと…。
徳川家康が間もなく真田征伐に乗り出す。
家康にとっては勝たねばならぬ戦じゃ。
ありていに言うがなわしは家康に恩を売っておきたいのだ。
(兼続)おそれながら殿下それは徳川と真田が戦になった時真田に加勢をするなとの事でございましょうか?そういう事だ。
やはりわしは秀吉の下にはつかん!
(兼続)それはなりませぬ。
秀吉の言いなりになれというか。
その見返りとして領地を安堵されたのです。
上杉家のため。
源次郎にどの面下げて会えばよいのだ…。
さあみんな熱いうちに食べやあよ。
(秀次)遅くなりました。
おみゃあはいつでもそうじゃ!子どもがいなかった秀吉は血縁を大切にした。
羽柴秀長は3つ下の弟。
福島正則は秀吉の父の妹の子であり加藤清正は秀吉の母大政所の従姉妹の子であった。
そして秀次は秀吉の姉の長男。
この少年は寧の兄の子…よう皆やっておるな!殿下。
(清正)頂いてます。
うまいです。
寧!はい。
真田安房守の息子だ。
源次郎信繁と申します。
ゆっくりしてきゃあね。
ばあ!何でお前がいるんだ…。
フフフフ!あれが天下人?どこにでもいそうな人だけど。
いや違う。
あんな人は見た事がない。
うみゃあな!ハハハハ!
(秀吉)さて源次郎悪い知らせがある。
悪い知らせ?上杉様は急ぎ越後へ戻られた。
えっ?たった今の事じゃ。
殿下に忠誠を誓われ越後も生まれ変わる。
その下ごしらえに取りかかると申されていた。
私の事は何か…?
(三成)特に何も申されなかった。
(秀吉)何も言ってなかったな。
信じられませぬ。
私はどうなるのです?真田から人質として上杉に…。
よい知らせもある。
そなたを殿下の馬廻衆に加える。
ええっ!?そなたは殿下の覚えもめでたくかの真田安房守の息子とあれば家柄も申し分ない。
真田源次郎信繁。
明日よりそなたは殿下の家来じゃ。
分かったな!はい…!秀吉に仕える馬廻衆は戦がない時も常に彼に付き添い危険から守った。
(秀吉)具合はどうじゃ?
(家臣)はっ。
(秀吉)元気そうだな。
(家臣)はっ。
(女たち)やあ!とう!
(忠勝)気合いを入れるんだ!
(女たち)えい!
(忠勝)いいぞ。
えい!やあ!
(忠勝)ぐっと腰を入れなさい。
(家康)平八郎。
(忠勝)控え!これはこれは殿。
いよいよ真田討伐だ。
ついに来ましたか。
今秀吉に許しを請うておる。
何ゆえサルの顔色をうかがわねばならんのですか!まあそう言うな。
ここはあいつを立ててやるのだ。
(稲)父上。
真田討伐稲も行きとうございます。
ばかを申せ。
憎き真田この手で滅ぼしてやりとうございます。
えい!やあ!てい!よいよいお稲お稲。
その心意気だけで十分じゃ。
そなたの力を借りずとも真田ごときひねり潰してくれる!はい!そろそろ書状が大坂に着く頃でございますな。
うまく乗ってくれればよいですな。
徳川家康が駿府に大軍勢を集めているという情報が真田昌幸のもとにもたらされた。
こうなったら頼みは上杉じゃ。
此度ばかりは上杉にも働いてもらわねばなりませんね。
(内記)殿!一大事でございます!どうした?上杉が援軍を断ってきました。
何!?
(昌幸)ありえん。
真田とは固い絆でつながれておる。
(内記)秀吉に命じられたようでござる。
徳川との戦には一切力を貸すなと。
なんと!上杉まで敵に回ったか。
(昌相)北条に徳川に上杉。
これで我らの周囲は全て敵となった訳だ。
皆の衆えらい事になった。
面白い。
全く面白くない!父上が早く上洛されぬからこのような事に!どうすればいい!大坂の源次郎だ。
源次郎に秀吉をとりなしてもらうのでござる!それしかない!徳川に真田攻めのお許しを出されたというのはまことでございますか?まことだよ。
何ゆえでございます!
(三成)無礼であろう!家康はわざわざ許しを求めてきた。
ここは乗ってやるのが筋というものじゃ。
しかしそれでは家康の思うつぼではありませぬか。
且元はもう浜松に着いたかな?今日辺りには。
真田は滅びてしまいます!
(秀吉)そういきりたつな。
しかし!殿下!うるさい!そろそろ支度が出来た頃ではないか。
参りますか。
(秀吉)源次郎お前も一緒に参れ。
面白いものを見せてやる。
(秀吉)出雲大社の巫女で阿国という女子がおってな。
京の河原で踊っているのを見ていっぺんで気に入ってなこうしてたまに呼んでは踊らせておる。
私は外で控えております。
(秀吉)まあそう言うな。
さようなものを見ている気分にはなれませぬ。
佐吉。
これはかまえて他言無用だ。
殿下は徳川に対し真田討伐を認めた後すぐに一時取りやめの命を出される。
どういう事ですか?
(秀吉)家康はわしの顔を立てた。
よってわしも家康を一度は立てるこれであいこ。
その上で改めて戦の中止を命じる訳よ。
その時家康がどう出るか。
それを見極める。
そういう事だ。
安心せい。
真田はわしが守ってやる。
(三成)始まりまする。
(鳴り物)
(鳴り物)
(家康)これは一体どういう事でござるか?
(且元)私にも皆目分かりませぬ。
(家康)既に出陣の支度は整っておる。
今更待てと言われても困り申す!関白預かりとは何事か!大坂をたつ時にはそのような話は一つも…。
(家康)我が軍勢は今日にも上田に向かって出陣する手はずになっておる。
その全てをなしにせよと言われるか!お待ち下さい!いま一度大坂に立ち返り殿下にご真意を伺って…。
遅いわ!殿いかがなされまするか?待てと言われたら待つしかあるまい。
父上ここはやはり我らも上洛した方がよいのではないでしょうか。
上洛はせん。
しかし!もっともっと真田の値打ちを高めるのじゃ。
焦らすだけ焦らす。
どうせ下につくのならとことん値をつり上げてやる。
それが真田安房守のやり方よ。
天正14年10月ついに家康が上洛する。
関白豊臣秀吉である。
はは〜っ!
(どよめき)
(昌幸)どうすればよいものやら…。
わしには領地を守り抜く務めがござる。
そのためには大名になるしかありません。
(とり)さようですね。
(昌幸)しかしそれは秀吉に従うという事。
ではこうしましょう。
うそでもいいから頭を下げなさい。
強い者に従う。
真田はこうやって生き延びてきた。
下手に出て牙を隠して爪を隠してこの先秀吉の勢いに陰りが見えたら寝首を掻く。
卑怯者で何が悪い!ん?兄上!源次郎!アハハハ!よく父上を説き伏せて下さいました。
苦労させられたぞ。
父上!おう!お元気そうで何よりです。
ハハハハ!息災であったか!はい。
大坂の水にもようやく慣れてきました。
何じゃ何じゃこぎれいになりおって。
よほどこちらの暮らしが楽しいと見えるな。
さようですか自分では分かりませんが。
都のにおいがするぞ。
兄上は…。
土のにおいがします。
ばかな事言うな!
(笑い声)近江宰相豊臣秀次である。
真田安房守この度は上洛大儀であった。
こんな無礼な事があるか!父上はないがしろにされたのだ!秀吉は父上の事をどう思っておるのだ?殿下は徳川家康を気にかけておられます。
その家康を撃退したのが父上。
一目置いているのは間違いありませぬ。
ここまでないがしろにされて引き下がれるか。
源三郎…。
そうないがしろないがしろ言うな。
失礼しました。
それにしても秀吉め。
呼びつけておいて顔も見せぬとは礼儀を知らぬ大ばか者じゃ。
こりゃ先は短いぞ。
父上。
誰が聞いているか分かりませぬ。
フフッ。
源次郎!刑部様!真田安房守殿がお見えになっていると聞いたら居ても立ってもいられなくなりつい出てきてしまった。
父上!こちら大谷刑部少輔様。
石田様と共に堺の代官を務めておられます。
安房守殿でござるか。
上田城で僅か2,000の手勢で7,000の徳川を迎え撃ったご武略。
楠木正成の再来ともいわれるそのご尊顔一度拝したく思っておりました。
ああそうですか。
さあさあどうぞお座り下され。
(吉継)はっ。
(昌幸)さあさあ。
今は忙しいのだ。
九州征伐の支度やら何やらで。
会ってやればよいではないですか。
今日だってずっと私とかるたやってたでしょう。
ばか!それを言うな。
上洛に遅れたのは父の落ち度でございます。
しかしながら小なりとはいえ父にも誇りというものがございます。
お目通りがかなわねば出仕した事にはなりませぬ。
父は帰って戦支度をするつもりでいます。
真田を敵に回すのは得策ではございませぬぞ。
わしを恫喝するか。
恫喝しております。
関白太政大臣豊臣秀吉である。
真田安房守昌幸。
はっ。
此度の上洛まっこと大儀であった。
わしは誰よりもそなたを家臣にしたいと思っておったぞ。
その知略と度胸豊臣の大名としてこれからはわしのために使うてくれ。
はっ。
治部。
(三成)殿下はこれより新しき世の仕組みをお作りになられる。
惣無事令もその一つ。
もちろん存じておるな。
はい。
(三成)しかしながら万一戦となった時大名はそれぞれ最寄りの大大名の与力となり出陣の時はその下知に従う。
よろしいか?はっ。
安房守殿は徳川の与力となるように。
徳川?お待ち下さい。
殿下は真田に徳川の家来になれと仰せられますか?家来ではない。
与力だ。
力を貸すのだ。
父に徳川の下で戦えと命じるのでございますか!
(秀吉)そのかわり真田の領地は徳川が守る。
悪い話ではなかろう。
安房守。
ははっ。
関白殿も味な事をしてくれるのう。
フフフフフ!フフフフフ…。
ハハハハハハ!
(正信)ハハハハ!アハハハハ!源三郎源次郎。
わしはどこで間違った?教えてくれ。
わしはどこで間違った…。
間違えてなどおりませぬ!父上は大名となり領地を守ったのです。
さて…。
休むとするか。
父上実はもう一つお伝えしておかなければならない事がございます。
なかなか折を得られず今になってしまいました。
会って頂きたい人がいるのです。
(きり)お入り下さい。
姉上!生きておったのか!松!残念ながら皆と暮らしていた頃の事は全く覚えておりませぬ。
覚えてない?よほどおつらかったのだと思います。
ちょっとお手をお離し下さりませ。
わしが分からんのか?わしじゃ!姉上!源三郎でございます!やっぱり人違いではありませぬか。
そんな事ありません!どうだろうみんなで真田の郷の思い出を順に言っていきませんか。
何かのきっかけで思い出すかもしれない。
お前が小さい時よくおんぶして裏山行ったよのう。
わしがおんぶするとお前は必ず背中にしょんべんするんじゃ。
子どもの頃姉上にはよく泣かされておりました!沢蟹のはさみを俺の鼻に挟んで!郷の真ん中に高い木があってよく2人でそれに登って下を通る村の男を見てはあの人は見目がいいとかあの人は頭がでかすぎるとか品定めを致しましたね!そのような事を…。
私がまだ子どもだった頃なぜか姉上が下さったひからびた蛙えらく気味が悪かったです!姉上っていうのは随分変わった人だったみたいね。
父上。
え…?いや…。
お前はわしがおんぶすると絶対しょんべんするんじゃ!それしかないんですか!申し訳ありませぬ。
何も思い出せませぬ。
姉上焦る事はありませぬ。
時をかけてゆっくり思い出していきましょう。
生きておっただけでももうけもんじゃ。
そう思います。
つらい事があればその分よい事もある。
世の中ようできとるわい…。
カサカサ…。
回想
(きり)近頃かかとがカサカサになっちゃって。
見て下さいよ。
あら!それはね潤いが足りてないのよ。
淋しさが募ると荒れるっていいますよ。
きりちゃん…。
はい?私が貸してあげた手鏡。
とうとう返してもらえずじまいでしたよね。
(きり)お松様!?父上!源三郎!源次郎〜!松!姉上!姉上!松!松!父上〜!松〜!アハハハ!
(昌幸)松!
(松)父上〜!松!ハハハハハハ!2016/12/30(金) 13:05〜14:00
NHK総合1・神戸
大河ドラマ「真田丸」総集編 第2章「表裏比興」[解][字]
戦国時代。信州に育った真田信繁(堺雅人)の激動の人生を描いた大河ドラマ「真田丸」総集編の第2章(全4章)。真田家は、豊臣秀吉(小日向文世)への臣従を迫られる
詳細情報
番組内容
戦国時代。信州に育った真田信繁(堺雅人)の激動の人生を描いた大河ドラマ「真田丸」総集編の第2章(全4章)。真田昌幸(草刈正雄)は、徳川家康(内野聖陽)の大軍を上田城で迎え撃つことになる。昌幸は、信繁や信幸(大泉洋)とともに策をめぐらせる。そして上杉景勝(遠藤憲一)とともに大坂城に向かった信繁は、豊臣秀吉(小日向文世)に気に入られ側近となる。昌幸は、ついに秀吉への臣従を迫られる
出演者
【出演】堺雅人,大泉洋,長澤まさみ,木村佳乃,黒木華,山本耕史,新井浩文,吉田羊,藤本隆宏,藤井隆,片岡愛之助,遠藤憲一,高嶋政伸,斉藤由貴,西村雅彦,中原丈雄,小林隆,近藤芳正,高橋和也ほか
原作・脚本
【作】三谷幸喜
音楽
【音楽】服部隆之