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字幕書き起こし モーガン・フリーマン 時空を超えて「重力は幻想なのか?」 2017.02.10

介護のポイントは…。
私たちが常に感じている力それが「重力」です。
しかし物理学者にとって重力は今も未解決の謎です。
なぜ重力はあらゆるものを引き寄せるのでしょうか?最先端の科学がその謎に迫ろうとしています。
実は重力は別の力が姿を変えたものなのか?投影されたホログラムなのか?あるいは揺らめくしんきろうなのか?あらゆる物体には本当に重さがあるのか?あるいは重力とは単なる幻想なのか?時間空間そして生命。
時空を超えて未知の世界を探求します。
地球が宇宙の果てに飛んでいかないのも私たちがこうして地面に足を着けていられるのも全てこの世に重力が存在しているからだと考えられています。
リアルなものとして感じられる重力ですが最先端の科学によれば従来の説とは…かなり違うもののようです。
重力が実在しないという可能性などありうるのでしょうか?子供の頃時間を持て余した経験は誰にでもあるでしょう。
私はそんな時木の上から狙った場所に石を落とす遊びをよくしたものです。
常に重力が働き何を放っても当たり前のように下に落ちました。

 

 

 


ほとんどの科学者も重力の存在を疑っていません。
重力とはこの宇宙における最も基本的な力の一つだと考えられています。
しかし天体物理学者のナルギス・マヴァルヴァラは何事も科学的に疑ってみる主義です。
重力のような基本的な力は物質がどのように相互作用するかを説明するもので宇宙のどこでも通用するはずだと考えられています。
地球に重力があるかどうかは物体を落としその落下速度の変化を計測すればテストできます。
太陽系で重力を調べるのはそれほど複雑な事ではありません。
月レーザー測距とは地球上からレーザーを照射し月面に設置された鏡の反射を利用して月と地球の距離を測るものです。
この結果を分析すると私たちがよく知っている重力の性質は月面でも変化しない事が分かります。
重力はある意味非常によく理解されていますが別の面から見るとまだ謎だらけです。
ニュートンは物体の質量が大きければ大きいほどそして物体同士の距離が近ければ近いほど互いの引力が大きくなる事を明らかにしました。
なぜそうなるのかを説明したのがアインシュタインです。
時間と空間はいわば「時空」と呼ばれる織物の中に編み込まれています。
時空の織物は曲がりくねります。
そこで生じるゆがみこそが重力の正体だとアインシュタインは言ったのです。
アインシュタインは物体が時空のゆがみに沿うように動いて互いに引き合うのが引力の仕組みだと考えました。
「物体の質量が時空の曲がり方を決めその曲がり方が物体の動きを決める」という事です。
アインシュタインによれば質量を持つ物体が動くと時空という織物に重力のさざ波「重力波」が立ちます。
重力波は至る所に充満しているはずなので大きな波であれば検知できるはずだとマヴァルヴァラは考えています。
池にリンゴを落としてみました。
生じた波を岸辺で検知しようとしてもうまくいきません。
波が小さすぎるからです。
ではリンゴよりもはるかに巨大で重い物体ならどうでしょうか。
うわっすごい!宇宙でも事情は同じでしょう。
例えば銀河の衝突や巨大な星の爆発などは大きな重力波を生み出しその波が地球にも届いているはずです。
マヴァルヴァラは他の科学者や技術者と共に重力波を観測する方法を開発しました。
その成果は全米科学財団が建設した実験施設通称「LIGO」に生かされています。
実験施設の要は直角に交わった2本の検出器で1本が4キロメートルあります。
長さはレーザーで精密に測定されていて原子の直径の100万分の1の変化さえ見逃しません。
宇宙で大きな現象が起きそこから生じた重力波が地球を通り過ぎると検出器内部の空間にさざ波が立ちます。
すると違う向きに設置された2つの検出器の長さに僅かなずれが発生。
そのずれをレーザーが測定する仕組みです。
LIGOは2002年から観測を開始。
技術的な改良も加えられましたが10年以上にわたり重力波を観測できませんでした。
LIGOを使ってもそう簡単には観測できません。
何千人もの科学者が関わったプロジェクトで大きな成果が期待されています。
しかし技術改良を更に加えたとしても重力波が発見できる保証はありません。
(マヴァルヴァラ)改良されたLIGOでも重力波が発見できなかったらきっと泣きたくなるでしょう。
でもそれはそれで面白いとも思います。
理論的には必ず存在するはずの重力波が見つからなければ自然は私たちの想像以上に不思議で奥深いものだと分かるからです。
2015年LIGOはついに重力波を検知。
翌年世界に向けて発表され科学界に大きな反響を巻き起こしました。
しかしこの発見も重力という巨大な謎の一端を明らかにしたにすぎません。
物理学者はこの世の全ての出来事私たちが「力」と呼ぶエネルギーの動きさえもその正体は素粒子だと考えます。
重力も例外ではありません。
重力を形づくる素粒子とは一体どんなものなのでしょうか?ツヴィ・バーンは想像力豊かな量子物理学者です。
もし原子より小さなサイズのゴルフボールで量子力学の法則に基づいてパターゴルフをやったらどうなるか。
そんなとっぴな事を真面目に考えています。
量子力学は実におかしな世界です。
量子力学にかかると「ある場所に素粒子が存在する」という考え方さえ曖昧なものになってしまうんです。
素粒子は誰かに見られていないと位置が定まりません。
どこからともなく現れたり突然消えたりするのです。
そのような素粒子の中には自然界の基本的な力を媒介するものもあります。
現在基本的な力は4つあると考えられています。
このボールを光子だとしましょう。
電磁気力は電荷によって何かを引き付けたり遠ざけたりします。
こちらの2つのボールは「弱い力」を媒介するWボソンとZボソンだとします。
「弱い力」は放射性原子核の崩壊を引き起こします。
このボールをグルーオンだとしましょう。
「強い力」を媒介する素粒子です。
「強い力」は素粒子を結び付けて原子核を作り上げます。
これら3つの力と同じように重力を媒介する「重力子」もあるはずですがいまだに発見されていません。
今は理論上の存在である重力子がどのように働くかを導き出そうとすると大変な事になります。
重力は相互作用の仕組みがとてつもなく複雑です。
もし計算によって導き出そうとしたら世界中のコンピューターを総動員しても計算不可能なとんでもない計算式になってしまいます。
しかしバーンには重力子が存在するか否かを計算で導き出す秘策がありました。
量子力学とは「起こりそうな可能性」で進めていくゲームのようなものです。
パターゴルフでホールインワンを狙うのが難しいのはボールの転がり方が無数にあるからです。
しかしホールまでの道のりを細かく区切り少しずつ進めていけばより確実にボールを入れる事ができます。
私たちは「ユニタリ性メソッド」という方法を開発しました。
一つの大きな問題を小さな問題に分割する方法です。
そうやって分割された小さな問題を一つ一つ解きそれを集めて整理する方が一度に大きな問題を解こうとするよりもずっとうまくいきます。
ユニタリ性メソッドを重力子の解明に当てはめたところ思わぬ結果が出ました。
重力子の正体は2つのグルーオンがペアになったものだと考えれば説明がつきます。
強い力を媒介して原子核同士を結び付けるグルーオン。
そのグルーオンが2つ一組になったものが重力を媒介しているのではないか。
バーンたちはそう考えています。
その瞬間いきなり霧が晴れたような気がしました。
アルキメデスが「ユーレカ!」と叫んだのもあんな気分だったんでしょう。
私たちが何よりも驚いたのは出てきた答えがあまりにもシンプルだった事です。
シンプルすぎて信じられませんでしたが見事に筋が通るんです。
バーンたちの説が正しければリンゴが落ちる時に働く重力は「強い力」が別の形をとったものだという事になります。
極小の原子核をつなぎ合わせている力と極大の天体を軌道につなぎ止めている力は実は同じものかもしれないのです。
もしそうなら宇宙はグルーオンという素粒子に満ちあふれていて物体と物体の間でグルーオンのペアが交換される度に物体同士が少しずつ近づいているのかもしれません。
このように重力に関する考え方が近いうちに根底から覆される可能性が出てきました。
そして私たちは間もなく物体が「上に落ちる」光景を目にする事になるかもしれません。
ほとんどの物理学者は重力を「引き寄せるだけの力」だと考えています。
しかし最近は銀河同士が互いを押し合いしかもその勢いが増しているという説も出てきました。
重力に関する認識を改めるべき時が来ているのかもしれません。
ドラガン・ハジュコヴィッチはスイスにある素粒子物理学の研究所CERNで働く物理学者です。
彼は祖国のモンテネグロにしばしば帰り古くからの友人たちと情報交換をしながら重力に関する新たな理論作りに取り組んでいます。
彼が研究対象にしているのはこの世で最も危険なもの「反物質」です。
赤いリンゴは通常の「物質」で出来ています。
一方青いリンゴは「反物質」で出来ています。
幸いな事に本物ではありません。
もし本物だったとしたら何が起きるか今お目にかけましょう。
地球の周りには反物質がほとんど存在しないのでこのような大惨事は起こりません。
しかしハジュコヴィッチは反物質のリンゴが持つはずのユニークな特性に心を奪われています。
反物質なら「上に落ちる」事もありえます。
ハジュコヴィッチによれば物質と反物質は反発し合います。
そして反物質こそがこの宇宙を膨張させている原因だと考えています。
物理学者は宇宙の隅々まで占める空間を「量子真空」と呼びます。
しかしそこは「真空」という言葉に反しミクロレベルの活動が盛んに起きています。
あらゆる空間で物質の粒子と反物質の粒子が小さなペアを組むのです。
ただしペアになった途端すぐ消滅してしまうため生成と消滅が果てしなく繰り返されています。
何十億掛ける何十億掛ける何十億と気の遠くなるような数です。
物質と反物質のペアが限りなくたくさん存在しているんです。
それが宇宙の重力にも影響を与えているはずです。
量子真空をモンテネグロの町に例えてみましょう。
あらゆる物質の粒子が反物質のパートナーと組んでダンスをします。
ペアが誕生しては消滅する度に物質が持つ重力は反物質が持つ反重力によって打ち消されます。
ですから物質と反物質のペアがいくら出来ても結果的に重力はゼロになるはずです。
しかし量子真空には銀河のように物質が集まった場所がたくさん存在しています。
物質を多めに配置すれば物質と反物質のバランスが崩れ重力効果が生まれます。
モンテネグロのフォークダンスも最後に男性の踊り手だけが集まって塔を組みます。
女性たちは外側に外れます。
物質と反物質のペアもこれと同じような経過をたどるのではないかとハジュコヴィッチは考えています。
「物質」で出来た銀河は量子真空において同じ「物質」を引き付け「反物質」を銀河の外へ追いやります。
すると銀河と銀河の間には物質よりも反物質の方が多く存在する事になります。
そのため銀河と銀河の間の空間は斥力を持ち銀河を互いに押しやるのです。
銀河が押し流される現象は既に確認されています。
しかしその現象を引き起こすエネルギー源はまだ分かっていないため科学者はそれを「ダークエネルギー」と呼んでいます。
ハジュコヴィッチはこの考え方に否定的です。
多くの物理学者はダークエネルギーによって重力を説明しようとしています。
しかしどちらの説明がよりシンプルだと思いますか?ダークエネルギーという未知のものを想定するかそれとも物質と反物質の間に反発が起きると考えるか。
(拍手)ハジュコヴィッチの大胆な理論が正しいかどうか近いうちに分かるかもしれません。
CERNで大型の加速器を使って「反水素」を作り出そうとしているからです。
もし反水素が「上に落ちれば」ハジュコヴィッチの説が証明されるかもしれません。
しかし場合によっては重力に関する謎をますます深める結果になるかもしれません。
人類はまだ重力について何も分かっていません。
最新の物理学をもってしても宇宙スケールの現象を説明するには不十分です。
アインシュタインの理論も量子力学の理論も実際に観察されている現象を完全には説明できないでいます。
重力とは人間が作り出した幻想なのでしょうか?それとも私たちが現実だと思っているものの方が幻想なのでしょうか?かつて地球は平らだと信じられていました。
しかし船乗りたちがその幻想を打ち破りました。
水平線が平らに見えるのは地球が大きいからです。
視点をはるか上空に移す事ができれば地球が丸い事はすぐに分かります。
同じように新たな視点を見つければ重力が幻想である事が分かるかもしれません。
理論物理学者のハーマン・ヴェリンデは重力について考え続けています。
重力の正体は時空のゆがみだというアインシュタインの説は多くの実験によって証明されてきました。
しかし量子力学はアインシュタインの理論では重力の成り立ちが説明できない事を示しています。
アインシュタインは「空間には何も存在しないのでそこを通り抜けても通り抜けた事に気付かない」と考えました。
しかし量子力学によれば空間にはたくさんの粒子が存在しています。
この砂のようにです。
アインシュタインの理論では重力を媒介する重力子は何も無い滑らかな空間を漂っているとされています。
海面に浮かんだボールのようなものです。
しかし量子力学では空間は滑らかではなく小さな粒子で出来た凸凹したものだと考えられています。
この食い違いは100年以上にわたって物理学者たちを悩ませてきました。
しかしヴェリンデはどちらの理論も正しく現実が私たちをだましているだけではないのかと考えています。
アインシュタインは現実というものを観察者がいなくても存在する客観的なものだと考えました。
しかし物理学の発展は世界が見かけどおりではない事を明らかにしました。
光と同じ速度で移動できると考えられている重力子は私たちとは違う世界を見ているはずです。
もしボールが光の速度に近づけば周囲の世界の長さが短くなるように見えます。
速く進めば進むほど短くなり最終的には平面のようになります。
もしあなたが重力子だとすればあなたはただじっと立っていて周りの世界が目の前に置かれた平らなシートのように感じられるはずです。
私たちが素粒子を観察すると素粒子は線のような経路をたどりますが素粒子の視点では全く動いていないのかもしれません。
1960年代後半数学者のロジャー・ペンローズはツイスター理論を提唱しました。
光子や重力子のように光の速度で動く素粒子は「ツイスター空間」と呼ばれる別の現実を経験しそこでは点や線が全く違ったものになると論じています。
ツイスター空間では重力子が移動する通り道は「点」になります。
空間と時間の新たな座標です。
ペンローズのような考え方は50年前には衝撃的なものでした。
しかし最近の物理学で提唱されている「ホログラフィック原理」はペンローズが時代を先取りしていた事を示しています。
ホログラフィック原理とは「私たちが空間で目にする物事はどこかよその現実が立体的なホログラムスクリーンに投影されたものだ」という考え方です。
現実とは壁に映った映像のようなものです。
ヴェリンデは2つの説を結び付け「ツイスター・ホログラフィー」という説を展開しています。
現実というものの概念を覆しアインシュタインの重力理論と量子物理学がうまく折り合う考え方です。
ヴェリンデの説では重力子の通り道を「点」だと考えます。
重力子の漂うところが水のように滑らかだろうと粒子で凸凹していようと関係ありません。
なぜならこの理論における現実では重力子自体は全く動かないからです。
もしヴェリンデの説が正しければ重力は別の現実に存在します。
そして私たちが体験している現実は一種の幻想だという事になります。
例えるならよく出来たテレビ番組を見ているようなものです。
私たちは番組を作っている裏方の存在に気付いていないだけです。
(ディレクター)カット!人生の現実と物理学における現実の違いは?物理学における現実は必ずしも唯一無二のものではなく時には客観的ですらない人を欺くものです。
そこに座っているあなたはリアルな現実に思えますが分からないですよ。
誰かが私をだましているのかも。
もし重力が宇宙の見せるしんきろうだとしたらそれを生み出すものが必要です。
あるものが別の形をとったのが重力だという説があります。
あるものとは…「熱」です。
古代ギリシャ人は「火」を宇宙の基本構成要素の一つだと考えました。
しかしミクロな物質がどのようにしてマクロな効果を生むのかを探る熱力学はギリシャ人が間違っていた事を証明しました。
火とは原子の激しい動きによって生じる現象です。
現在ある大胆な説が物理学界を熱くしています。
その説によれば重力も火と同じように熱力学的に生じた現象なのです。
ある重大な発見によって重力に対する見方が根本から変わるかもしれないと期待されています。
全てはこの人物のおかげ。
先ほど登場したハーマン・ヴェリンデの双子の兄弟エリック・ヴェリンデです。
子供の頃から何か興味深い事を見つけるとハーマンと話し合ったり本を読んだりして物理学の面白さを共有してきました。
オランダで生まれ育った兄弟は共にユトレヒト大学で物理学の博士号を取りよく似た人生を歩んできました。
しかし自宅で起きたある事件がエリックの人生に劇的な変化をもたらす事になります。
ジョギングを終えて部屋に戻ると空き巣に入られていたんです。
車のキーパソコンパスポートなど大切なものがいくつも盗まれていました。
物理学者はあるシステム内における乱雑さの程度を「エントロピー」と呼びます。
物理学においても人生においてもエントロピーは常に増大すなわち秩序から無秩序に変化します。
エントロピーを減少させるには外からエネルギーを加える必要があります。
エリックが苦労して部屋を片づけたように。
しかし部屋の中のエントロピーを減少させているうちに彼は突然ひらめきました。
「エントロピーと重力には深いつながりがあるに違いない」と。
極端に重力が強い天体を訪れたとしましょう。
そこであなたの体重は地球上の140兆倍にもなります。
体内の原子のエントロピーは著しく増大します。
物体は巨大なものに向けて落ちる時より強い重力を体験し同時にエントロピーも増大します。
重力の正体についてこう考えました。
手に載せている時リンゴ内部のエントロピーは床に落ちた時よりも小さな状態です。
エントロピーは基本的に増大する性質があります。
だからリンゴから手を離すとリンゴはエントロピーを大きくしようと下に落ちるんです。
質量を持つ物体が重力を感じるのは宇宙がその物体の内部でエントロピーの量を増大させているためではないかとエリック・ヴェリンデは考えました。
エントロピーが力を生み出すという考え方は実はそれほど目新しいものではありません。
例えば熱気球は気球内部のエントロピーを増大させる事で空に浮かび上がります。
熱気球内部の空気分子は激しく動き回っています。
エントロピーを増大させたいからです。
そのため気球内部の空間が膨らみ全体が上に持ち上がるというわけです。
熱せられた気球内部の空気はエントロピーを増大させようとして気球を外側すなわち上へと押しやります。
それが浮力と呼ばれる力を発生させるのです。
浮力は自然界の基本的な力ではなく空気分子のエントロピーから発生したものです。
それと同じように重力も何か別のもの例えば時空の織物のエントロピーから発生したものかもしれません。
発生源はまだ突き止められないものの重力は自然界の基本的な力ではないとエリック・ヴェリンデは考えています。
エントロピーの変化によるものかもしれないと推論できる以上重力をこれまでと違った視点で見る必要があります。
重力を自然界の基本的な力だと決めつけて考えるべきではありません。
重力の正体を突き止めるには地球上では考えられないほど強烈な重力が働く場所を調べればよいのかもしれません。
宇宙でそれが可能な場所といえばブラックホールです。
しかしブラックホールの内部では重力の炎の壁が物質を焼き尽くすかもしれないのです。
ふだんと違う状況では…。
(高い声で)「物事は予想どおりに運びません。
しかしそれが新たな発見につながる事もあります」。
重力の正体を知るために物理学者たちはある場所に目をつけました。
重力が…。
(高い声で)「奇妙な振る舞いをする場所です」。
物理学者のショーン・キャロルは重力という難問に真っ向から取り組んでいます。
我々は突破口を探しています。
これまでとは違う重力の考え方です。
重力の謎を解くため今物理学者が注目しているのはブラックホールの内部です。
ブラックホールは質量の大きな星が崩壊した時に形成されます。
一つの星が一点に凝縮され大きな重力を持つようになった天体です。
ブラックホールの縁にあたる部分は「事象の地平面」と呼ばれています。
事象の地平面を越えると光さえ逃れる事はできません。
従ってブラックホールの内部に何があるのかを直接観測する事は不可能です。
ブラックホールへの旅は片道切符です。
入れば内部を調査する事はできますが決して戻ってくる事はできません。
そこで理論物理学者たちの想像力が駆使されます。
ある勇敢な宇宙探検家がブラックホールに飛び込んだとしたらその時一体何が起きるでしょうか?現在のところ探検家は事象の地平面に気付きもしないという説が有力です。
(キャロル)従来の説は通称「ノー・ドラマ」と呼ばれています。
事象の地平面を越えたとしても他の場所と全く変わらず何も気付きません。
変わった事は何も起きないという事です。
物理学の世界では長年この説が支持されてきました。
もちろんブラックホールの奥深くまで進めば重力が更に強まり探検家は悲劇的な最期を迎える事になります。
しかし最近この考え方に異議が唱えられるようになってきました。
私たちが知る重力の法則は事象の地平面で崩壊しブラックホールの内部では全く違う法則が働く可能性があるのです。
ブラックホールの内部や周辺にある素粒子が「量子もつれ」と呼ばれる現象を起こした時どのように結び付くかを計算した結果矛盾が生じたためです。
ここにある2つの電子が量子もつれを起こしていた場合片方が時計回りに回転しているのが分かればもう片方も同じ動きをしている事が分かります。
「素粒子は必ず一体一で対応する」というのが物理学の原則でした。
量子もつれのパートナーは一度に一つだけという事です。
しかしブラックホールの物理的特性を考えた場合事象の地平面で素粒子が複数のパートナーと量子もつれを起こすと考えないと矛盾が生じます。
従来の物理学は通用しないという事です。
提唱者たちの名を取り「アルムヘイリ・マロルフ・ポルチンスキー・サリー・パラドックス」と呼ばれています。
この説を提唱した4人の物理学者は矛盾を解決するための考え方も示しました。
事象の地平面ではノー・ドラマどころか非常にドラマチックな事が起きると言うのです。
事象の地平面にたどりついたものは炎の壁で焼き尽くされます。
ブラックホールは炎の壁に囲まれていて中に入る素粒子をことごとく焼き尽くす。
それどころか時空そのものさえ焼き尽くしてしまうというのです。
炎の壁があるとすればこの世界とブラックホールとの間に明確な境界線が存在する事になります。
つまりブラックホールの内側はアインシュタインのような古典的な時空の理論では説明できない可能性があります。
炎の壁の向こう側では重力は全く新しい形をとる可能性があります。
それがどんなものか分かれば重力の秘密に大きく迫る事ができるでしょう。
問題は事象の地平面を見るのが不可能な事…。
しかしある天文学者はそれが可能だと考え世界一巨大な望遠鏡を作っています。
地球から2万6,000光年離れた場所で重力の秘密を探る事ができます。
銀河系の中心にある巨大なブラックホールです。
ただし質量は膨大ですが大きさはそれほどでもありません。
光も出さないので観察するには地球と同じサイズの望遠鏡が必要です。
では作ってみたらどうでしょうか。
シェップ・ドールマンは大きな期待に胸を膨らませて天文学者としてのキャリアをスタートさせました。
そしてやって来たのが…ここでした。
世界中を飛び回る事ができると思っていました。
「僕にピッタリの仕事だ。
バリバリ働くぞ」と思って来てみたらこう言われました。
「君の希望する仕事はもうほぼ終わったから」。
オフィスで淡々とデスクワークをこなすドールマン。
やがて現実逃避に走りブラックホールを初めて観測する天文学者となる事を夢想し始めました。
光を出さないブラックホールの観測は天文学における最大の難問でした。
観測とは星が出す光や電波を捉える事すなわち「見る」事です。
ところがブラックホールは…そもそも「見る」事ができないんです。
ブラックホールに入った光は全て吸い込まれるため直接観測はできません。
しかし事象の地平面の周辺では光が曲がるためブラックホールの影が作り出されます。
その様子を観測できればどのように重力が働いているかが分かるかもしれません。
その光は地球へ届くまでにかなり弱まるため観測するにはかつてないほど巨大な望遠鏡が必要です。
ドールマンはそれを実現しようと決心しました。
大規模な国際共同研究プロジェクトを立ち上げるため彼は世界中を訪ね歩きました。
そしていくつもの天体望遠鏡を連携させ銀河の中心部にあるブラックホールを観測するシステムを作り上げました。
(ドールマン)私たちの銀河の中心には巨大なブラックホールがあります。
他のブラックホールに比べると地球に近い位置にあるので実態を解明できる可能性があります。
ブラックホールを観測するためドールマンたちが編み出したのはいくつもの望遠鏡を連携させる事で地球サイズのバーチャルな望遠鏡を作る技術でした。
この野球場が地球だとします。
ここでホースから水が噴き出す様子を観察します。
噴き出す水をブラックホールの周辺から出る光だと思って下さい。
1台の望遠鏡では僅かなデータしか得られないのであちこちに配置します。
するとあらゆる角度から放水の様子を捉える事ができて観測対象をイメージ化しやすくなります。
ブラックホールに物質が吸い込まれる時物質から光が出る事が確認されています。
ドールマンが目指しているのはその光が出てくる時の様子を正確に再現する事です。
それはホースのノズルから水が出てくる時の様子とよく似ています。
遠くへ飛べば飛ぶほど水しぶきは大きく広がり元の形は分かりにくくなります。
しかし十分な数の計測器をエリア全体に配置すればそれぞれが捉えたデータを総合する事でノズルの形を再現する事が可能です。
ホースのノズルが情報を噴き出しています。
望遠鏡1台つまりコップ1つでは情報の一部しか捉える事ができません。
しかし野球場のあちこちにコップを置けばかなりの情報を網羅する事ができます。
噴き出した水全体からすればコップに残された水はごく一部にすぎませんがそこから何が起きているか全体像を再現できるんです。
地球サイズのバーチャルな望遠鏡はブラックホールと重力の関係について多くの事を教えてくれるはずです。
現在の重力理論は地球上では問題なく通用します。
しかし桁違いの重力が支配するブラックホールの縁でも通用するかどうかは分かりません。
重力が崩壊すると考えられる場所で理論を検証する事が大切です。
それが現実というものを知る唯一の手段だからです。
宇宙について人類が信じてきた事が正しいかどうかが試されているんです。
重力はリアルなものに感じられます。
私たちをこの星につなぎ止めているのは重力です。
しかし重力は見かけとは違うものかもしれません。
もし重力が幻想だとすれば私たちは宇宙に関するあらゆる知識を根本から考え直さざるをえません。
それを恐れぬ勇気を持つ事で初めて真実を味わう事ができるのです。
2017/02/10(金) 22:00〜22:45
NHKEテレ1大阪
モーガン・フリーマン 時空を超えて「重力は幻想なのか?」[二][字]

「重力」は非常に身近で、その存在を疑うことはほとんどない。しかし、科学的には非常に謎に満ちた存在だと言われている。さまざまな角度から重力を考察、その謎に迫る。

詳細情報
番組内容
ニュートンによる「万有引力の法則」の発見以来、身近な存在とされている「重力」に焦点を当てる。自然界の基本的な4つの力「電磁気力」「強い力」「弱い力」「重力」のうち、力を媒介する素粒子が発見されていないのは、重力だけ。「重力子」は存在するのか?するならどんなものなのか?また、重力の謎を解く鍵はブラックホールにあると考え、世界各地の望遠鏡を連携させ、ブラックホールを観測しようという壮大な試みも紹介。
出演者
【語り】菅生隆之
制作
〜ディスカバリー制作〜