昔江戸に与太郎という男がいた。
大飯食らいの役立たずと笑い者になっても一向に平気でおっかさんに甘えて暮らしていた。
(与太郎)おかわり。
まだ食べるのかい?8杯目だよ?おや空っぽだ。
与太郎。
お前も25だ。
そろそろ身をかためるつもりはないのかい?うん…。
私を安心させておくれな。
どうした?与太。
元気ねえな。
誰だい。
そこで首出したり引っ込めたりしてるのは。
おやおじさんいたな。
「いたな」って挨拶はあるかい。
へへへおじさん。
何か用か?実はあたい相談があるんだ。
何だい。
馬みたいな図体して「あたい」たぁなんて言いぐさだ。
遊んでばかりいやがって。
で何だ?おじさん。
あたいも25になった。
おお25といや一人前だ。
それで何だ?へへへきまりが悪いや。
ほうおめえでもきまりが悪いってことがあるのかい。
はっきり言え。
じゃ言うぞ。
だから何だ!かみさんが欲しい!わ〜っ!!いきなりびっくりさせるなこの野郎!いったいどういう風の吹き回しだ?おっかあがねあたいのこと心配だって。
なるほど。
しかしおっかさんもおっかさんだ。
25にもなった息子に大飯食わせて甘やかすからこんなバカが出来上がるんだ。
しかしなんとかしねえとな。
でかみさんもらってどうやって飯を食う?箸と茶碗で。
バカ!!茶碗の中の食いぶちはどうやって稼ぐんだ!ああそれは兄貴の商売が近頃うまくいっているから。
バカ野郎!人の懐あてにして!おめえがそんな了見だからおっかさんも心配になるんだ。
しかしおめえにもおっかさんを安心させてぇ気持があるんだな。
うん。
その気持はてぇしたもんだ。
実はなわしの出入り先のお屋敷から養子口の相談が1つあってな。
そのお屋敷には23になるお嬢さんがおる。
ご両親も親族もいねえ身で大きなお屋敷にお住みだ。
年とった乳母が身の回りを見ているがお嬢様はたいそうな器量よしだ。
おじさん!いく!養子にいく!!こら待て待て。
落ち着け。
これにはそれなりの訳ってもんがあるんだ。
だからわしもこの話をおめえのおっかさんにも言うつもりはなかったんだ。
なんだいその訳ってのは。
お嬢様は悪い病を1つお持ちなんだ。
夜になるとな…。
草木も眠る丑三つ時つまり真夜中だ。
おやすみになっているお嬢さんの首がなひとりでにす〜っと長く伸びて行灯の油をペロペロとなめるんだ。
わ〜っ!!首が長くならないでそういう話はないの?ない。
いいから聞け。
財産目当てに何人もの婿が来たんだがみんなひと晩で逃げ出しちまった。
でも首が伸びるのは夜中だけかい?夜中だけだ。
昼間はごく優しいお嬢さんだ。
あたいね夜横になったらすぐにぐっすり寝ちまって地震だろうが火事だろうが目が覚めねえ。
そうか寝ちまえば見なくてすむ。
会ってみるか?うん行く行く。
善は急げ。
これがまとまれば与太郎のおっかさんも大喜びだろうと早速そのお屋敷で顔見せをしようということになった。
ただいまお話をいただきまして嬉しゅうございます。
まとまりますればお嬢様のご両親も草葉の陰でお喜びでございましょう。
ひとつよろしくお願い申し上げます。
与太お前だ。
ただいま後ろのお庭をお嬢様がお通りになります。
どうぞご覧あそばしてくださいませ。
(2人)は〜っ…。
お嬢様だ。
か…か…かわいい!!
(与太郎)あたい決めた!しっ声がでかい。
ほら駆け出しちゃったじゃねえか。
こうして話はまとまり吉日を選んでささやかな婚礼も終えて…。
さてその夜。
横になればすぐに寝てしまうはずの与太郎も寝床が変わって寝つかれないまま夜は更けて草木も眠る丑三つ時となった。
ん?ひひえ〜。
うわわ食べてる食べてる!おおじさん!おじさん伸びた伸びたよ!そんなことは承知で行ったんじゃねえか。
横になったら目が覚めねえはずだろう。
それが開いちゃった。
あたいしなびたおっかあのそばで寝てえや。
そうはいかんおふくろは大喜びだ。
明日わしからいい知らせが来てるかと首を長くして待っておる。
えっおっかあも首を伸ばしてるの?首を伸ばしたおっかあをがっかりさせたくねえ。
だろう?じゃあどうするんだ。
酒たっぷり飲んで寝る!というわけで与太郎は目が覚めないように寝酒を欠かさなかったという。
スズメたちは元気じゃのう。
わしらもまだまだ頑張らにゃ。
それじゃあいってくるで。
あぁ気をつけてな。
昔むかしあるところに貧しいけれど心の優しいおじいさんとおばあさんがいました。
ある日おじいさんがいつものように山でしば刈りをしていると。
よいしょどっこいしょよいしょどっこいしょ!何じゃ?よっこいしょ!どこかで声がするようじゃが…。
よいしょよいしょ!おじいさんは声のするほうにそっと歩いて行きました。
すると2匹のねずみがすもうをとっていました。
なんじゃ何かと思ったらねずみたちの声じゃったか。
のこったのこったのこったのこった!うっ…わ〜!どっこいしょ!よいしょよいしょ…。
どっこいしょ!うわ〜!おやあのやせたねずみは…。
よく見るとそのやせたねずみはおじいさんの家に住むねずみでした。
そして太ったほうのねずみは長者様の家のねずみです。
どっこいしょ!うわ!太の山の勝ち!太の山やった〜すごいぞ!やせたねずみは何度も何度も向かっていきましたが力がないので簡単に負けてしまいます。
やせねずみ君もう休もうよ。
えへへまだまだもういっちょ。
ん?あっあ〜。
おじいさんの家は貧乏なのでねずみもやせて負けてばかりいるんだと思うとやせねずみがかわいそうでしかたがありませんでした。
家に帰ったおじいさんは山で見たことをおばあさんに話しました。
あんなに負けてばかりでうちのねずみがかわいそうじゃ。
どうにかして勝たせてやりたいもんじゃが。
それじゃあお餅をついて食べさせてあげたらどうじゃろうそしたらきっと力がつきますよ。
そうかそれはいいなそうしよう。
ほいほいほい!2人は早速お餅をつき始めました。
つき終わったお餅を団子に小さく丸めると。
さあ腹いっぱい食べるとええわしらも応援しとるで。
そう言ってやせねずみの穴にお餅を転がしてあげました。
次の日ねずみのことが気になったおじいさんは山へ見にいきました。
よいしょよっこいしょ!のこったのこった。
よいしょ!わわわ…。
わぁ!それ!それ!やせの里の勝ち!ねぇやせねずみ君今日はどうしてこんなに強いんだい?へへ〜それはね…。
昨日うちのおじいさんとおばあさんがお餅を作ってくれてねそれを食べたら力がどんどんわいてきてそれで強くなったのさ。
いいなぁ。
おいらの家の長者どんはケチでお餅をついたことなんて一度もないんだ。
だったらうちへおいでよ。
おじいさんは今夜もきっとお餅をついてくれるよ。
そしたらキミに半分あげるよ。
えっほんと?ありがとう。
楽しみだなぁ。
(2人)ははは…。
その夜おじいさんは残っていた餅米をついて2匹分のお餅を作りました。
おばあさんはねずみたちに小さなまわしを縫ってあげました。
ねずみたちはそれを見て大喜びです。
わぁ…うまそうな餅だなぁ!見てごらんよこっちにはまわしがあるよ。
うまいうまい。
どうだいこのまわし似合ってるかな?キミもつけてごらんよ。
うんあとでね…。
ははっおいらの分は残しておいてね。
あ〜うまかった。
ねぇちょっと手伝っておくれよ。
えいほっえいほっえいほっ。
お腹がいっぱいになって大満足のねずみはお礼に小判をおじいさんとおばあさんにあげました。
目を覚ましたらきっと驚くよ。
そうだねふふふ…。
次の日ねずみたちは赤いまわしをしっかり締めていつもより大きな声ですもうをとりました。
はっけよいのこった!頑張れ!お餅を食べた2匹のねずみはどちらも強くてなかなか勝負がつきません。
その様子を木の陰から見ていたおじいさんとおばあさんはわくわくしながら応援していました。
のこったのこったやせの里頑張れ。
のこったのこった太の山頑張れ。
それからというものおじいさんとおばあさんはときどき山へ行きねずみたちの元気なすもうを見て楽しんだということです。
昔人里離れた山のふもとに年老いた父親とその娘が暮らしていた。
母親は娘が幼い頃に病で亡くなり父は男手ひとつで育ててきた。
山のふもとの荒れた田んぼを耕すのはつらい仕事だった。
なんとかして馬っこをほしいもんだな。
ある年の秋いつもより稲の実りがよくなんとかやせ馬1頭を買うほどの銭が入った。
父親は娘に留守を頼んで町へ出かけていった。
そしてその日の夕方栗毛のやせ馬を連れて帰ってきた。
やっと買ってきたぞ。
めんこい子馬だ。
春までにこの馬っこをうんと肥えさせて田おこしや田かきにうんと手伝ってもらうべ。
そうだなおらがこの馬っこの世話をしてやる。
うんと肥えさせてみせるから。
その日から娘はこの栗毛の馬をかわいがり世話をした。
早く丈夫な馬になれや。
(いななき)日が経つにつれて馬は大きく丈夫になり栗毛もつややかになっていった。
おめえのおかげだな。
この調子じゃったら春にはうんと働いてもらうべや。
しかし初めは喜んでいた父親だったが娘が馬の世話ばかりするのが気がかりになっていた。
やがて冬になり雪が降ってきた。
馬っこは風邪引かねえだろうか?そんなことより家のことを少しは心配しろ。
吹雪の夜のことだった。
お父馬っこは大丈夫だべか?吹雪くらいどうってことはねえ。
だどもおら心配だ。
お前寂しかったろ怖かったろ。
おらが来たからもう大丈夫じゃ。
(いななき)今夜はこうしてお前を温めてやっからな。
吹雪なんぞ心配ねえよ。
ゆんべなんでおめえは家さ帰ってこなかったんだ?だって馬っこが心配で。
それでおめえ馬小屋で夜を明かしたのか?もうそったなことはするな!しかし娘はそれからも父親の目を盗んで馬小屋に寝泊まりするようになった。
《あったけ〜!お前とこうしているとおっかあのこと思い出すだ》春になった。
木の芽が萌えかぐわしい春のにおいに満たされた。
娘は父親にいくら言われても馬と一緒に寝るのをやめなかった。
父親の怒りはついに我慢を超えた。
娘が裏山に出かけている間に馬を桑の木に縛りつけ…。
こんちくしょう!こんちくしょう!おらの恩を忘れておらの娘に近づくな!
(馬のいななき)馬っこがどうしたべか?こんちくしょう!お父やめてけれ!こんなひどい目に!お父なんてことを!どけ!この馬っこは生かしておけねえ!やめてけれ!どけ!どかんか!やめて!死んじゃいや!死んじゃいや〜!はぁはぁはぁ…。
あ!馬と娘はまばゆい光に包まれた。
そしてゆらゆらと空に昇ってゆきやがて春がすみの中へ消えてしまった。
その夜のこと。
うっ…う〜ん。
お父!お父!お父急にいなくなったりして申し訳ねえ。
そんなこと…おめえたちをひどい目にあわせたのはこのわしじゃ。
泣かないで。
もうすぐ夜が明けます。
そしたら裏庭の臼をのぞいてください。
その中に馬っこの頭の形をした黒い虫がいっぱいわいているはずです。
その虫に桑の葉っぱをいっぱい食べさせてください。
虫は大きくなると絹の糸をはきます。
大事に飼ってくださいね。
朝になって庭の臼の中をのぞいてみると黒い虫がいっぱいわいていた。
桑の葉っぱをやるとうんと食べ大きくなって透き通るような白い虫となりやがて絹の糸をはいた。
そして真っ白な繭を作った。
父親はこの繭のおかげで貧乏暮らしから抜けることができた。
父親は馬と娘の霊を弔うため人形を作り神棚に祀り拝んだ。
こうして馬と娘は養蚕の神となり人々からおしらさまと呼ばれるようになった。
2016/10/23(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「ろくろ首」
「ねずみのすもう」
「おしらさま」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
【オープニングテーマ曲】
『ふるさとほっこり村』
歌:水森かおり
作曲:大森俊之
作詞:山之内一
(徳間ジャパンコミュニケーションズ)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン