(出囃子)
(出囃子)
(拍手)たった一人で全てを演じきる究極の話芸落語。
時代時代の落語家によって数多くの名作が語り継がれてまいりました。
聞き手の想像力で無限に広がる落語の世界
ふだん聞いて楽しむ落語の演目を…。
噺に合わせてあえて映像化致しました。
目の前に鮮やかに現れる笑いと人情の物語
見る落語どうぞ一席おつきあい下さい。
おっそば屋か。
ちょっと寄ってくか。
いらっしゃいませ〜。
お一人ですか?はい。
ご相席でも大丈夫ですか?ええ。
すいません相席いいですか?どうぞ。
どうぞ。
はい。
すいませんかけそば下さい。
かしこまりました。
お待たせしました。
早いな!すいませんじゃあ僕もかけそばを。
かしこまりました。
江戸の町でもそばは庶民の味として愛されていました。
夜になると町のあちらこちらに屋台のそば屋が現れてなんと深夜0時ごろまでお客さんが来たんだそうです。
あっちなみに江戸時代では深夜0時ごろの事を九つと言ったんだそうです。
お待たせしました。
早いな。
頂きます。
(出囃子)
三代目柳家小さんが上方から江戸に伝えたという一席。
そばの値段をごまかす男の滑稽噺「時そば」
え〜一席申し上げますが。
よく昔は冬場はおそばなんてえのをね江戸っ子は食べたんだそうですよ。
二八そばなんて事をいってその時分そばのお代が二八の16文で商いをしていたから二八そばという説がございますがまあ本当のところはどうだか分かりませんがこういうようなまあ風情があったんだそうでございまして…。
「そば〜う〜い!」。
「おうそば屋さん!」。
「えいどうもいらっしゃいませ」。
「いや〜寒いね今日は」。
「今晩は随分冷えますなあ」。
「何できんの?花巻にしっぽく?じゃあなしっぽく一つな熱くこさえてもらおうかな。
どうだい?商売は」。
「いけませんね不景気で」。
「あっそう?まあな悪いあとは必ずいいってえからな飽きずにやらなきゃいけねえよ。
商えっていうぐれえだから」。
「お客様うまい事おっしゃいますね。
ええへえかしこまりました」。
「おめえんとこのこのね行灯変わってんね看板。
丸に矢が当たって何てえの?当たり屋?いいね当たり屋か。
これからねワキ行ってこんな事やろうってんだからポン。
その前に当たり屋に出くわすなんざうれしいやな。
この看板見たらひいきにするからねよろしくね」。
「ありがとうございます。
へいお待ち遠さまでございまして」。
「お待ち遠じゃないよ早いね。
何がって俺は江戸っ子だからよあつらえたもんがツッと出てこねえとイライラッとくんだ。
ひいきにするよ。
うれしいや。
またいいね割り箸使ってんだよ。
ワキ行くってえとね割ってある箸とかあれよくないよ。
誰が使ったんだか分かんねえんだからな。
こりゃきれい事でいいや。
頂くよ。
また器がいいね。
丼がきれいで。
ものは器で食わせるってえだろ?中身はちょいとま…まずい事はねえだろうけどねうまく食えるってもんだこんなきれいな丼だと。
頂こう。
う〜んだしおごってんでしょ。
匂いで分かっちゃうんだ本当だよ俺そばっ食いだから。
フッフッフ〜ズズズズ…」。
(舌鼓を打つ音)「あ〜案の定だ。
これねかつぶしおごってらあ。
なあ?いいねこら。
おめえんとこはこらそば細くて。
江戸っ子だから太いうどんみてえないけねえよやっぱな細くなきゃなそばはね。
頂くわ。
フッフッフッフッ…。
ズズズズ!うんうんうん」。
(舌鼓を打つ音)「腰が強くてポキポキしてらあこらなあ。
中にはおじやみてえなそばあるけどね別に俺胃が悪い訳じゃねえからおじやは勘弁してもらいてえ。
フッフッフッフッ…。
ズズズズ!うん。
フッフッフッフッ…。
ズズズズ!うん。
ズッズッ…。
うんちくわを厚く切ったね。
こんな厚く切って大丈夫?本当に?薄っぺらいのあるよワキ行くと。
フッフッフッフッ…。
どうかするとねちくわぶとか使ってるとこあんだ。
まがい物はいけないよやっぱり。
フッフッフッ…。
おめえんとこは…ハフハフ…。
うんうんうん」。
(舌鼓を打つ音)「本物のちくわだ。
うれしいねこら。
フ〜フ〜フ〜。
ズズズズ!ズズズズ!」。
(舌鼓を打つ音)「あ〜。
ズズズズ!ズズ…ズズズズズ!」。
(舌鼓を打つ音)「ズズズズ!うまかった。
ごちそうさま。
もう一杯お代わりって言いてえとこなんだけどねえワキでまずいそば食っちゃったんだ。
一杯で勘弁してくれ」。
「へえよろしゅうございますよ」。
「いくらだい?」。
「へえ16文頂戴します」。
「16文。
ちょいと待ってくれな。
え〜銭が細かいんだな。
手ぇ出してくんねえか」。
「へえこちらに頂きます」。
「いくよ。
ひいふうみいよおいつむうななやあそば屋さん今何時だい?」。
「へえ九つで」。
「10111213141516」と払ってこの男ぷいとどっか行っちまった。
これを傍らで見ておりましたのが我々同様と申しますかもうちょいとばかりぽ〜っとした野郎で。
「あらよくしゃべるねあの野郎は。
あ〜べらべらべらべらはなからしめえまで。
男のおしゃべりってのはみっともねえんだよ。
噺家は別だけどね。
うん」。
(笑い)「何だか知らねえけど『さみいね』とか言って別にそば屋が寒くした訳じゃねえっつうんだよな。
『どうだい?商売は』とか言ってな大体まあ不景気なんだからそんなの聞く事はねえじゃねえかなあ。
それから何かいろいろ褒めてたよ。
『看板がいいね。
丸に矢が当たって当たり屋こんなんだ』とか言ってそれから何だ『出てくんのが早え』とか俺は江戸っ子だからとか言ってな気取ってやんだ冗談じゃねえやそれから世辞使ってたねえ。
まあはなからしめえまで世辞の言い通しだよ。
割り箸がきれいでもって器がきれいでもってそれからつゆ加減がよくてそばが細くって腰が強くってちくわが厚っぺらに切ってあって本物使ってるってんであんまり世辞ばっか言ってっから食い逃げかと思ったらそうじゃねえんだよちゃんと金払ってんだからな。
『いくらだい?』。
『16文頂きますよ』。
『銭は細けえんだ。
勘定してやろうじゃねえか。
ひいふうみいよおいつむうななやあそば屋さん今何時だい?』。
変な所で時聞きやがったね。
あんな勘定してるさなかに時なんか聞いたら勘定間違えちゃうじゃねえかよ。
『ひいふうみいよおいつむうななやあそば屋さん今何時だい?』。
『へえ九つで』。
『10111213141516』ってね。
ほら間違えた」。
(笑い)「あっ?『ひいふうみいよおいつむうななやあそば屋さん今何時だい?』。
『へえ九つで』。
『10』…と…?あっ!あの野郎一文かすりやがった!あら〜それではなからしめえまで世辞ばっか使ってべらべら…ああ!ハハハ!俺もやってみようかな」。
…ってねこれはいけませんなあ。
その晩は細かい鳥目がありませんからうちに帰る。
明くる日になるってえと袂にたんまりおあしを入れまして表へポンと飛び出していく。
「よしゆんべのそば屋じゃなくてもいいんだな。
どっかにいねえかしらね。
え〜っとそば屋はいねえかなと。
いねえねなかなか。
おい。
どこにいんだそば屋。
どこだい?」。
「そば〜う〜い!」。
「あっいたいた!威勢がいいねあの野郎は。
おうそば屋」。
「そば〜う〜い!」。
「おうそば屋さん」。
「そば〜う〜い!」。
「聞いてんのかそば屋おいそば屋!」。
「そば〜う〜い!」。
「おいそば屋!」。
「そば〜」。
「そば屋コノヤロー!呼んでんだろおい!そば屋!」。
「ええ?何すか?ちょっと耳が遠いもんで。
はい何すか?」。
「客だ客!」。
「あっお客さんすか。
そうすか。
いらっしゃいませ。
ヘヘッ!」。
「何だねそば屋さんね。
寒いね今日は」。
「えっ?」。
「寒いね」。
「そうすか?今日は随分汗ばむ陽気だってみんな言ってますけどね。
昨日は寒かったけど」。
「ああそうだな昨日寒かった。
今日暖かいな。
駆けだしたら汗ばんじゃった。
何できんの?花巻にしっぽく?じゃあしっぽくね一つ熱くこさえてくれ。
どうだい?商売は景気は」。
「あっ景気ですか。
そうっすか。
あのあんまり言いたくないんですけどね」。
「悪い?」。
「悪いっていうかまあね世間じゃ景気悪いみたいですけどうちはお得意様大勢いるんでまあもうかってもうかってしょうがないっていうかヘヘヘ!正直笑いが止まらないというかまあねヘヘヘヘヘ!」。
「感じ悪いなお前おい。
ああそうなの?まあ飽きずにやらなきゃいけないよ」。
「ええ商いって言いますからね」。
「知ってんのねお前ああそう。
おめえんとこのこのねあの行灯変わってるこれね」。
「変わってる?何が?」。
「まっ丸に矢が当たってね…当たってねえなおい。
外れてるなこれ。
おめえんとこ何屋っていうの?」。
「手前どもはずれ屋といいますよ」。
「やな屋号だね。
はずれ屋?あっそうなの?俺これからワキ行ってこんな事やろうってんだ。
まあまあ…まあいいや看板なかった事にする。
そば屋さんあのまだかな?あつらえてから随分たってんだけど。
まだ?俺江戸っ子だからねツッと出てこねえとイライラッとくんだけどまだかな?」。
「今火落としちゃったんでねおこしてますからちょっとお待ち頂けますか?」。
「これから火ぃおこすの?俺江戸っ子だよ?江戸っ子ったってまあごく気の長い江戸っ子だけど北関東の方の江戸っ子なんでね。
まだかな?まだかな?」。
「へいお待ち遠さまで」。
「お待ち遠じゃないよ早いよね。
うれしいや。
何がうれしいってねおめえんとこはいい。
割り箸使ってんでしょ割り箸。
これがいいよな本当にね。
割り箸…割ってあるねこれ。
汚いね先がぬれてるよこれ。
拭いときゃ分かんねえかなこれ。
まあ丼がきれい丼が。
ものは器で食わせる。
おめえんとこはきれ…汚いねこら!底に泥がついてるよこれ。
これ植木鉢じゃねえかこら。
本当かよ。
縁が欠けてる。
危ないよ回すよ。
ここも欠けてるこれ。
ここも欠けてる。
俺茶の湯やってんじゃねえんだから。
ぐるぐる回しっ放しじゃない。
気を付けてよ。
匂いがいい。
だしおごってる。
本当だ。
分かる。
うん。
ズズズズズ!ブ〜ッ!」。
(笑い)「俺甘い辛いって飲んだ事あるけど苦いってのは初めてだこれ。
ちょっちょっちょっ!湯でうめてくんねえかなこら。
驚いたなこら。
目が覚めるねこれ。
おめえんとこは細い」。
「何が?」。
「そばだよ。
分かるよ。
太いのいけないようどんみてえな細くなきゃいけねえ。
きしめん頼んだかおい!太すぎやしねえ?これそばかいおい!本当に?まあいいや。
1本で10本分食べられると思やな。
腰が強いよおめえんとこは。
分かるよポキポキしてらあ。
フッフッフッフッ…。
ズズズズズズズズズ〜!」。
(笑い)「クチャクチャクチャクチャクチャクチャ…。
ああ…ネトネトだなお前んとこ。
ちょうどいいや俺胃が悪いとこだったから。
これぐらいが消化によくていい。
そばが長すぎる。
地べた置いちゃった丼。
それで底に泥がつくんだなこれな!そういう事かアハハハ!クチャクチャ…ズズズ…。
ブ〜ッ!あ〜!うめてもこれぐらいの味がすんだおめえんとこは。
えれえもんだなこら。
ああちくわがないちくわが。
入ってます?入ってないよ。
えっ?本当?あった!丼の縁にへばりついてたわこら。
あら〜薄く切ったねこら。
月が透けて見えるぞこれおい。
これ鉋で削ったの?包丁で切った?いい腕してるなお前は!ああそうかい。
本物だよ。
でもね分かるよちくわぶとかまがい物はいけませんよ。
本物本物おめえんとこ…。
フッフッ…ズズッ!本物の麩だねこらおい。
驚いたなこら。
フッ…ズズズズ!クチャクチャクチャクチャ…。
ハァハァハァ…。
悪いけどこれで勘弁してくんねえかなおい。
もう一杯お代わりって言いてえとこだけどねワキでまずいそば食っちゃったんだ。
一杯ですまねえな」。
「ええよろしゅうございますよ」。
「いくら?」。
「へい16文頂戴します」。
「16文!これをやりに来たんだ。
銭が細けえんだけどな手ぇ出してくんねえか」。
「へいこちらに頂きます」。
「エヘヘ!いくよ。
ひいふうみいよおいつむうななやあそば屋さん今何時だい?」。
「へい四つで」。
「いつむうななやあ…」。
(拍手)あ〜うまかった〜。
お勘定ここ置いとくよ。
毎度どうも!
(戸が閉まる音)いらっしゃいませ〜。
お一人様ですか?は〜い。
こちらでお願いします。
たぬきそば下さい。
かしこまりました。
たぬきそばお待たせしました。
やっぱり早いな。
あの…そばのびますよ?あ?いや何でもないです。
ん!んん…。
(せきこみ)ちょっと!何よこれ!のびちゃってんじゃないのよもう〜!「髪は女の命」とよく言いますが…。
あっ昔は人が亡くなるとちゃんと成仏できるように亡くなった方の髪の毛を剃って供養したんだそうです。
髪を大事にするのも…。
(小声で)時と場合によりますがね…。
(出囃子)
今からおよそ200年前の噺を基にしたある夫婦の物語。
四代目橘家圓喬が得意とした一席「三年目」
え〜一席おつきあいのほどを願っておきますが。
昔あるところに大変に仲のいいご夫婦がおりまして。
ところがこのおかみさんの方がちょっとした風邪がもとでもってどっと患いついちゃう。
「さあさあさあ煎じ薬が出来たからねこれおのみ。
ねっ?いいからおのみ」。
「あの…これをのんでも無駄かと思います」。
「無駄てえ事はないでしょう。
病人が薬をのむんだ。
無駄てえ事はないでしょう。
そうでしょう?う…裏の海苔屋のおばあさん。
あの海苔屋のばあさんに花嫁衣装。
これは無駄だよ。
ねっ?だけどもそうじゃない。
病人に薬なんだから無駄てえ事はない。
苦いだろうけれどもねあの…のんで」。
「いいえ。
私…自分の体の事でございますから自分が一番よく分かっております。
もう私そう長い事はございません。
どうせ長くない命ならば早くあの世とやらへ行ってあなたを楽にさせてあげたいとは思いますがどうしても胸に思っている事があって目をつむる事ができないのでございます」。
「何だそんな弱気な事を言って…。
それに何か今妙な事を言ったね。
えっ何だって?胸に思ってる事がある?そんな事を悩んでいるから治る病も治らないんだ。
あの何かあるんだったら言ってごらん?かなえられるもんだったら何でもかなえてあげる。
ん?言ってごらん。
何なんだい?」。
「ではお話を致しますが…。
私にもしもの事があったらあなたまだお若いのですからきっと後添えをお持ちになるでしょう。
そしたらその新しい奥さんが私同様あなたにかわいがられるかと思うとさあそれが悔しくって悔しくって目をつむる事ができないのでございます」。
「フッハ!何をお前バカな事を言ってんだいえっ?いいかい?私はねもうこの世の中に女てえものはお前しかいないそう思ってんだよ。
私は後添えなんか持ちゃあしないよ。
本当だよ」。
「でも親類に勧められます」。
「そんなものは断りゃいいんだよ」。
「でも本所のおじさんなどはしつこい人でございますから…」。
「う〜んまあ確かにねあのおじさんはしつこいけど。
いやいやだったらこうさあの…あんまりしつこかったらじゃあその後添えを持つ事にしましょう。
いやいや持つ事にしようだけれどもそしたらどうだい。
お前そこまで私の事を思ってくれるならその婚礼の晩に幽霊になって出ておいで」。
「幽霊に?」。
「ああ。
お前の幽霊がす〜っと出てくりゃそのお前後添えだってギャッてんで驚いてザッ…里方へ帰るよ。
こんなのが二度三度続いてごらん。
『あの家には先妻の幽霊が出る。
先妻の幽霊が出る』。
そういう噂が立って私んところに二度と嫁の来手はなくなるよ。
幽霊んなって婚礼の晩出ておいで」。
(笑い)「出てもよろしいんですか?」。
(笑い)「ああいいよお前の幽霊だったら私は喜んで待ってるよ。
じゃあじゃあこうしよう。
婚礼の晩そう八つの鐘を合図に出ておいで」。
「きっとですよ」。
「待ってるよ」。
「あなた」。
「お前」。
…ってバカバカしい話があったんで。
おかみさんの方何日かしますというとこれない寿命と見えましてぽっくりお亡くなりになる。
さて四十九日が過ぎた頃から後添えを持て持てと親類縁者から言われます。
「いえ私はもう女房は持ちませんので」。
一生懸命断っておりますがやはりこの本所のおじさんってのはしつこいもんで。
「はいこんにちは本所のおじさんです。
はいはいはい。
お前ねそんなもの嫁持たないなんてのは駄目だ。
あの…嫌?何が?うん?どうしても?どうしても嫌か。
あ〜そうかい。
え〜いやいやあの〜私は諦めないよまた来るよ」。
「はいこんにちは本所のおじさんです。
はいはい。
いや嫌いなもん中から選べってんじゃないんだよ。
好きな人の中から選んでいいってんだ。
そんな事を言わずにお前…いいまた来るよ」。
「はい本所のおじさんです!」。
ああ毎日毎日でございますからまあこらしょうがない。
じゃあ後添えを持つ事にしましょうという話に。
さあ今日がその婚礼の日。
二度目でございますからそう派手な事は致しません。
夜んなる。
2人でこのまんま床に入る。
もちろん旦那の方は寝る訳にはまいりません。
やがて夜もしんしんと更け渡る。
どこで打ち出しますか八つの鐘が陰にこもってものすごくもゴン〜。
「さあさあさあさあ。
ああ。
これだよ八つの鐘間違いない。
約束どおり出てくるんだろうねえ。
どういうふうに出てくるんだろうね。
『お久しぶり』なんか出てくんのかね。
いいね。
は〜てう〜ん…。
う〜んそれにしても遅いね。
あれ?婚礼の晩に必ず出てくるってそう言ったんだけどな。
あ〜ん?何だろ。
んん〜。
まだ出てこないね。
ふう…あれほど固く約束をしたんだから必ず出てくるはずなんだけもな…。
おっちょこちょいだったからね。
う〜ん。
案外隣のうちへ出てんのかな。
おかしいね出てこないね。
どうしたんだろう」。
…と思っているうちにがらりと夜が明ける。
「おかしいねとうとう出てこなかったね。
あ〜まあでもな初日てえのはそうだ。
10万億土てえ遠いとこから来てるんだからまあまあ遅れる事もあるだろう。
まあ明日出てくるだろう」。
…てんで2日目待っておりましたが出てこない。
3日目も出てこない。
5日10日15日20日…。
とうとうひとつき出てまいりませんで。
「チッとうとう出てこなかったね。
どういう事だ?そうだなこういうお嫁さんも来たしまああとはあの人に任せようってんで往生してくれたに違いない。
ねっ。
いろいろ苦労かけたけど安らかに成仏しておくれ。
なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ…」。
さあこれからまあせっかくでございますこの奥さんと仲よく暮らしております。
しばらくすると玉のような男の子が生まれその年が過ぎまして翌年が過ぎて三年目。
ある晩の事家族3人仲よく川の字なりに寝ておりますという。
旦那さんだけがどうにも眠れませんで…。
「ううう〜んあっあ〜あ。
はあ…。
何だろうなあ。
今日は眠れないね。
う〜ん。
しょうがねえ。
たばこでも吸おうか。
ああどういう訳だろうね」。
スッ…手を伸ばしますというとどこで打ち出しますか八つの鐘がゴン〜。
なま暖かい風がスゥ〜。
背中に水を浴びせられたようにぞ〜っと。
「おおっう〜ん何だ今日おかしい。
どうしたんだろう?誰だい?誰だ?」。
雁首でもって枕屏風パッ…引っ掛けるってえとぐおっ!引っ張った途端に先のかみさんの幽霊がスゥ…。
「はあたたたたた!なむあみだぶなむあみだぶだぶだぶだぶ…」。
「恨めしや…。
あなたは恨めしい人でございます。
まだ私が死んで百か日もたたないうちにこんなきれいなお嫁さんをもらってこんなかわいらしい赤さんまでこしらえて…。
あなたそれじゃあ話が…約束が違うじゃありませんか」。
「ちょっちょっちょっと。
約束が違う?そっちだよ。
こうなったら幽霊に掛け合うよ私は。
約束が違うのはあなただ。
いやお前の方だよ。
そうだよ。
あん時あれほど約束をしたろ。
そんで婚礼の晩に出てくるってそう約束をした。
それがな出てこなかったろ。
いやいや私はねまあ初日は遠いとこから来るんだろうからしかたがない。
次の日も待ったよ。
3日目待った。
それでも出てこない。
5日10日とうとうひとつき。
私はねこうもりじゃないけども昼間寝て夜起きて待ってたんだ。
その時にちっとも出てこないでほんな赤ん坊までできて3年たってから出てきたって困るじゃあないか。
そんな事言われても。
そうだろ。
なぜもっと早く出てこなかった?」。
「だってしかたがないじゃあありませんか。
あなた私が死んだ時私の事坊主頭にしましたでしょ?」。
「そらそうだ決まり事だ。
親類中が集まって一剃刀ずつあててお前を坊主にしてお棺へ入れたん」。
「そ〜れご覧なさい。
坊主頭のまま出るとあなたに嫌われると思って毛の伸びるまで待ってました…」。
(笑い)
(拍手)「落語THEMOVIE」いかがでしたでしょうか?落語に興味を持たれた方は是非寄席に足を運んでみて下さい。
あなたの想像力で無限に広がるエンターテインメント。
それが落語です。
2016/11/11(金) 01:25〜01:50
NHK総合1・神戸
超入門!落語 THE MOVIE「時そば」「三年目」[字][再]
ふだん、想像で楽しむ落語の演目を、落語家の語るはなしに合わせてあえて映像化。完璧なアテブリ芝居をかぶせてみたら…初心者でも楽しめる新たなエンタメが誕生しました!
詳細情報
番組内容
(1)「時そば」…屋台のそば屋で、やたらと調子のいい男がことば巧みに勘定をごまかす。その様子を目撃した男(今野浩喜)は、自分もまねをして勘定をごまかそうとするのだが…(2)「三年目」…仲むつまじい夫婦。ところが女房(島崎和歌子)が病で亡くなってしまう。必ず幽霊になって夫の元を訪ねると約束するのだが……泉谷しげるも思いがけない役どころで登場!▽案内人・濱田岳による「現代版マクラ」も必見です。
出演者
【ナビゲーター】濱田岳,【出演】今野浩喜,島崎和歌子,泉谷しげる,泉春花,春風亭一之輔,三遊亭兼好