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書き起こし 春日大社 よみがえる黄金の太刀〜平安の名宝に秘められた技〜 2016.12.26

 

 

暗闇に神様をお迎えする声が響きます。
1,200年余りの歴史を伝える春日大社。
20年に一度社殿を修復する式年造替。
その最後の儀式が執り行われました。
神様が新しくなったお社に還ります。
社殿を修復するだけでなく神様のご神宝や調度品も新調され奉納されました。
ご神宝の中には国宝中の国宝と呼ばれるお宝があります。
平安時代に奉納された…鍔の部分は今でも金色に輝き鞘には美しい貝を貼り付けた螺鈿細工。
絵巻物のように猫が何匹も生き生きと描かれています。
この太刀は昭和5年国宝という制度が出来た後神様の元から取り下げられ以来文化財として保存されてきました。
いつの日か太刀を神様の元へ戻したい。
春日大社は大きな決断をしました。
この太刀を復元新調して神様の元へお返しする事にしたのです。
復元にあたりまずCTスキャンにかけられました。
太刀はさび付いて鞘から抜く事ができないためどんな形をしているのかどんな成分で出来ているか分かりませんでした。
この科学調査で想定していなかった事が。
金箔ではなくなんと1キロもの当時珍しかった高純度の金がそのまま使われていました。

 

 

 

 


かなりこう…。
くっついてる。
そして復元のため人間国宝など5人の名匠たちが全国から集められました。
復元は困難の連続でした。
そして高度な技術が次々と分かってきました。
魂が込められた刃の輝き。
神にささげられた日本の心。
平安の名宝がよみがえり神様の元に戻るまでの3年間の記録です。
こんにちはさだまさしです。
私は今春日大社に来ております。
20年に一度行われるご造替…第60回目のご造替が11月に完了しました。
ここには既に1,200年の歳月が流れているんです。
平安時代の終わりから長い間神様の元に納められていた太刀が800年の時を経てようやくどんな刀か明らかになりました。
そしてこの度のご造替を機にこの刀が復元される事になったんです。
復元に携わったのは現代の名工たち5人です。
持てる全てを技を出し尽くしてこの太刀を復元していく。
その名工たちの姿には心揺さぶられるものがありました。
奈良春日山の麓にたたずむ春日大社。
768年平城京を守る神社として時の権力者藤原氏によって創建されました。
瑞垣の向こうには四柱の神様が祭られています。
第一殿第二殿には国造りに力を発揮された神様。
第三殿四殿には神事と政をつかさどる神様。
今回復元される事になった金地螺鈿毛抜形太刀は第二殿剣の神様経津主命のお社に納められてきました。
しかし昭和5年国宝の制度が出来た後に収蔵庫へと移されました。
以来春日大社にとって太刀を神様の元へお戻しするのが悲願となっていました。
花山院宮司がこの太刀を復元する事を決断しました。
古都奈良の遺跡を発掘調査してきた…太刀の復元はまず科学調査をする事から始まりました。
太刀はさび付いています。
神様にささげられて以来800年一度も抜かれた事がありません。
研究室長の妻さんはX線を使ったCTスキャンで太刀の材質や成分のデータを解析しようと考えました。
お〜出た。
最先端の調査によって想定すらしていなかった事実が分かってきました。
(妻)こういうところがほとんど…これ何かと。
これ金なんですよ。
要は…分析の結果太刀にはこの時代に手に入れる事が困難な純度の高い金が金箔ではなく無垢の状態で使われていました。
柄の部分の金具鍔帯留鐺。
太刀全体の80%。
金は重さにして1キロにも上りました。
この結果が復元を担う名匠たちに伝えられました。
金具まわりが金無垢であると。
ですから銀地の鍍金とかではなく金無垢であるという事がこの調査で分かりまして。
純度の高い金がそのまま使われていたという意外な事実。
名匠たちを驚かせたのは金だけではありません。
鞘の部分にびっしりと施された美しい螺鈿細工。
そして刀の金具に施された細かな彫金。
電気もなく拡大鏡のない時代に作られたとは思えない細かさと技術力の高さ。
本当に細かい細工で。
細かいですね。
うわ〜これは螺鈿なんですよね?そうですねはい。
しかもこれちょっとカーブですよね。
そうですね。
特にカーブしてるとこに螺鈿するのすごく難しいんですよね。
いや〜。
これ猫の目が光ってるのは水晶か何か入れてある…。
ガラスなんですね。
ガラスがこのころあったんですか?そうですね。
この猫のまだらですとか笹の葉ですとかたくさん色ガラスが使われているんですけれども当時は本当に宝石並みの貴重品だったんです。
ガラスですか。
うわ細かいですね〜。
本当に生き生きとしてますね。
立体感があって。
これだけのものを昔の人はルーペも使わずにね。
このころのこの技術っていうものは想像を絶する技術ですね。
そうですね。
これを作れと再現しようと言われた…。
この名工たちの思いはどうだったんでしょうね。
うれしさもあるでしょうけど怖かったろうな〜。
「金地螺鈿毛抜形太刀」の復元が始まりました。
刀匠月山貞利さんの工房で初打ちと呼ばれる儀式が行われました。
工房をはらい清め祝詞を奏上します。
春日大社の花山院宮司が火に焼かれた玉鋼をたたきます。
この瞬間から太刀復元は職人たちにとって精進の日々となります。
白い服に身を包み食事も肉などが制限され身を清めて日々の作業に臨みます。
刀身作りと時を同じくして刀の鞘作りも始まっていました。
鞘の螺鈿細工を担う人間国宝北村昭斎さん。
正倉院をはじめ数々のご神宝の復元を手がけてきました。
螺鈿とは漆器などの装飾に使われる技法です。
貝の内側の真珠層を切り出し漆器にはめ込んでいきます。
奈良時代に唐から伝わりました。
今回復元する太刀には鞘の表と裏に最高級の螺鈿を使って細工が施されていました。
しかも鞘の曲面にまで細かく。
北村さんはこれほどまで表現力の豊かな螺鈿細工を見た事がないと言います。
鞘をよく見ると…猫がすずめを追いかけています。
そして捕まえます。
最後に走り去っていく猫。
絵巻物のように描かれていました。
なぜこれほどまで丁寧に猫が描かれているのか。
この太刀を奉納したといわれているのは時の権力者摂関家の藤原頼長。
春日大社への信仰が人一倍強かったといいます。
そして大の猫好き。
日記「台記」にはその様子が記されています。
幼少の頃飼っていた猫が病気になった時自ら千手観音の絵を描き猫が10歳まで生きるようにと祈ります。
すると病気が治り猫が10歳まで生きたというのです。
猫好きだった頼長が当時の最高の絵師に下絵を描かせたのではないか。
北村さんはそのように想像しました。
これを作った人の意欲っていうかなこういう技術でやったという。
螺鈿貼りの作業が始まりました。
大小合わせて150以上の螺鈿。
特別に混合した漆を糊代わりにして貼っていきます。
太刀の猫が生き生きと見えるのはなぜなのか。
よく見ると猫の周りだけ違う種類の金粉が使われ輪郭が浮かび上がっているように見えます。
北村さんはこれと同じ手法を使い主に2種類の金粉で鞘を飾る事にしました。
まず最初に目の粗く光沢の強い金粉を。
そしてその上から光沢が弱い目の細かい金粉をまきます。
光沢の違う2種類を重ねる事で立体感を生み出し螺鈿の猫を浮き立たせようと考えたのです。
初打ちが行われた月山工房では刀身作りが続いていました。
種類や強度の違う鋼を合わせておよそ1,200度の炉に入れます。
たたいて伸ばして折り曲げて。
また炉に入れてたたく。
この繰り返しを鍛錬といいます。
普通刀作りは刀身ありきで…刀身の大きさを最初から決めて作るのは極めて難しいからです。
しかし今回国宝の太刀と全く同じ大きさで復元しなければなりません。
科学調査で解析された…これを寸分たがわず再現するのは名匠といえども至難の業です。
1ミリでも違うと鞘に収まらなくなってしまいます。
やあ!刀身は東京に運ばれていました。
研ぎ師のもとで研ぎの工程に入ります。
白装束に身を包むのは人間国宝本阿彌光洲さん。
数々の日本の名刀を手がけてきました。
太刀はさびていたためCTスキャンでは刀身がどんな輝きをしていたのか分かりませんでした。
本阿彌さんは神様の宝物なので白く美しく輝く刃にしなければならないと考えました。
金地螺鈿毛抜形太刀の刀身が完成しました。
刀身の上の部分が青黒く下の刃が雪が降り積もったようにムラなく真っ白に輝いています。
研ぎが終わった刀身は太刀の最大の特徴でもある高純度の金を使った金具制作に入りました。
ほぼ純金の延べ板を20以上の金具に切り分けそれに唐草模様や鳥などを彫刻していきます。
これがいいんだよ…。
宮島さんは春日大社で初めて太刀と対面した時驚いた事があります。
思った以上に細かい彫金がされていた事です。
1センチに満たない小さな鳥にも彫りが施してありました。
そのため特別な顕微鏡を使いそして刃先1ミリ以下の工具鏨を自分で作り彫金に臨みました。
宮島さんが最も神経を使ったのが魚子と呼ばれる細かい点を使った装飾です。
太刀の柄と鍔の部分に3万個もの点を打ち込んだ魚子がありました。
(魚子を打つ音)息を止めながら打ち続けます。
当時は魚子専門の職人がいたといいます。
集中力を要するため一日4時間が限度。
半年間かけて3万個の点を打ち込んでいきます。
宮島さんが完成させた金の装飾です。
太刀のきらびやかさがよみがえりました。
宮島さんが復元した柄の部分の小さな鳥。
躍動感を表現するため近くの川に幾度も赴き鳥の観察をしました。
螺鈿細工の北村さんの工房です。
鞘の螺鈿細工にいよいよ彫刻をする日がやって来ました。
猫の躍動感を生み出していたのは猫に彫られた細かな線。
毛彫と呼ばれています。
この日精神を集中したいという北村さんの要望で小型カメラを設置して無人状態での撮影となりました。
削りミスは許されません。
ミスをすると螺鈿を一から貼り直さなければなりません。
2時間たっても…猫を全く彫れません。
北村さんが休憩時間にこぼしたひと言。
腹をくくった北村さん。
撮影の許可を出してくれました。
しかし…。
なかなか削り出せません。
開始から4時間後の一彫り。
北村昭斎さんは2年をかけて鞘の装飾を完成させました。
金を使った金具の制作を終えた宮島さんが北村さんの工房にやって来ました。
こんにちは。
(北村)こんにちは。
出来上がった鞘に刀身が入るのか。
ここでもしピタリと合わなければこれまでの作業が無駄になります。
緊張の一瞬です。
金地螺鈿毛抜形太刀が現代によみがえりました。
刀身は74.3センチ厚さ6ミリ僅かな反り刃が真っ白に輝きます。
平安時代の国宝と平成の名匠たちが作った金地螺鈿毛抜形太刀。
藤原頼長が好きだった猫。
躍動感がよみがえりました。
そして高純度の金に彫られた3万個の点魚子。
太刀の豪華さを醸し出しています。
昭和5年神様の元を離れたご神宝をいつの日か神様の元へお戻ししたい。
春日大社の悲願が間もなく実現します。
職人たちが作った神様に納めるご神宝や調度品を宮司や神職たちが検分する儀式です。
最後に名匠たちが復元したあの金地螺鈿毛抜形太刀が検分されました。
職人たちにねぎらいの言葉がかけられました。
大変名誉なお仕事をさせて頂きまして感激している次第でございます。
私もこれから精進を重ねて立派な刀を作るように心がけてまいります。
平安時代のああいった技術というものがですね今回の復元によって新しく分かった部分もありますし…。
まあ今後はやっぱりこの経験をできるだけね自分なりに健康を維持しながら次の世代の人たちに受け渡していければと思っております。
いや〜本当に大変な工程です。
それぞれの名工たちが宝物を作るんだという感謝と喜びに満ちていたそんな感じがしますね。
そして最後に太刀が鞘に収まったあの音カチンという音を聞いた時に僕本当に感動で涙がこぼれました。
800年の時を経てよみがえった太刀。
名工だからこそ作りえたこの太刀は遷座祭の折に神様の元に納められたその瞬間に宝物になって二度と私たちの目に触れる事はありません。
この太刀は数百年あるいは1,000年の後未来の人々に何を語りかけるのでしょうか。
日本人の思いや技がつながって歴史になっていく。
その事に私は大きな感動を覚えました。
あら…。
2016/12/26(月) 19:30〜20:15
NHK総合1・神戸
春日大社 よみがえる黄金の太刀〜平安の名宝に秘められた技〜[字]

奈良・春日大社で、国宝中の国宝といわれる黄金の太刀の復元が進められた。日本各地から人間国宝級の職人が集結し、平安の名宝に秘められた高度な技と格闘した3年の記録。

詳細情報
番組内容
世界遺産の一つ奈良・春日大社では今年、20年に一度の大規模修繕である、式年造替が行われた。中でも注目されたのが、ご神宝である国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」の復元だ。経年劣化によって錆ついたこの太刀を復元するため、最新科学で分析した結果、多くの部分にほぼ純金が使われた、類を見ない豪華な刀であることがわかった。復元に携わるのは人間国宝級の職人たち。平安の名宝に秘められた神聖で高度な技と格闘した3年の記録。
出演者
【出演】さだまさし,【語り】三宅民夫