この鳥超キケンだといいます。
(鳴き声)大声で鳴きながらトビを襲撃。
鳥の名はケリ。
何にでも襲いかかる暴れんぼうです。
大きなサギにも向かっていきます。
近づくヘビを見つければキ〜ック!相手が人間だって全く恐れません。
どうしてこんなに攻撃的なの?そこには田んぼで生き抜くための秘密があるんです。
里山の暴れんぼう鳥に迫ります!3月下旬。
北陸の里山を訪ねると…。
けたたましい鳴き声とともに早速やってきました。
ケリです。
本当に登場早々やかましいですね。
(鳴き声)この鳴き声からケリという名前が付いたんだそうです。
(鳴き声)公園のハトより少し大きいくらい。
チドリと呼ばれる鳥の仲間です。
長い脚が特徴です。
もう1羽いました。
2羽はつがい。
ケリはオスもメスも外見ではほとんど見分けがつきません。
春から夏にかけ夫婦は田んぼで子育てをします。
水がたまった田んぼにやってきた夫婦。
食べ物を探し始めました。
足を小刻みに動かして水面を揺らすと…驚いて何か走りだしました。
クモです。
それを逃がさずパクッ。
なかなか賢い狩りですね。
今度はあぜにやってきました。
お目当ては土の中にすむケラ。
とりました!こうした虫などの小動物がケリの主食です。
そこへ…。
(ケリの鳴き声)別のケリが現れました。
近くで食事を開始。
先にいたケリが怒っています。
おっといきなり襲撃!侵入者を追い出しにかかります。
急に襲いかかるとはうわさどおり攻撃的な鳥です。
(鳴き声)攻撃の中心は急降下からの突進。
これを連続で繰り出します。
方向転換すると羽ばたいてぐんぐんスピードを上げます。
胸を突き出してアタ〜ック!強烈な体当たりで相手を突き飛ばしました。
さらに両者飛び上がってくんずほぐれつの大乱闘!もうもみくちゃです。
地面を転げ回っております。
激しい争いの末夫婦は侵入者を追い払いました。
繁殖期ケリは食べ物や巣の場所を確保するため夫婦で縄張りを作ります。
はじめのうちは夫婦同士で争いが頻繁に起こります。
しかし一度縄張りが決まるとそのあとはほとんど争わなくなるんです。
桜が田んぼを彩る4月。
この辺りを縄張りとするケリの夫婦がいました。
1羽が地面におなかを押しつけています。
こうして田んぼに穴を掘って巣を作るんです。
ケリはオスもメスも巣作りをします。
この夫婦は着々と繁殖の準備が進んでいるようです。
数日後。
巣作りを観察した田んぼにケリが座っていました。
立ち上がった隙にそっとのぞいてみると…。
卵です!大きさは5センチほど。
ヒナが生まれるまでの1か月。
夫婦交代で卵を温めます。
でもこんな田んぼの真ん中に巣を作って平気なんでしょうか?案の定何か気にしています。
遠くの電線に鳥。
カラスです。
卵を奪うこともある強敵。
ケリの巣にはまだ気付いていないようです。
カラスが田んぼに降りてきました。
見張りをしていた1羽。
カラスを追い払いに行きます。
(鳴き声)攻撃開始!カラスはとっさに身をかがめてかわしました。
でも突然の攻撃にびっくり。
逃げ出します。
ケリはそれを逃がしません。
カラスが身を翻しました。
ケリが翼を振り回したため驚いたんです。
これは翼を使った脅し。
名付けて…圧倒的なスピードでカラスを追い立てるケリ。
スピードを生み出すのがこの翼。
カラスと比べるとケリの翼のほうが細長く先がとがっています。
この形は開けた場所での高速飛行に向いているんです。
ケリの追撃を振り切ろうとするカラス。
しかしケリはぴったりとマーク。
あっという間に追いつきます。
そして必殺翼スイング!おっとカラスが逆襲です。
しかし追いかけるカラスをケリは右へ左へ自在に翻弄します。
小柄な体を生かして小回りでもカラスを圧倒できるんです。
さあケリが再び後ろを取りました。
今度は両方の翼でダブル翼スイング!さらに急降下の連続技。
勝負あり!カラスは去っていきました。
しかし安心したのもつかの間。
ケリの頭上にさらなる強敵が現れました。
トビです。
上空から獲物を狙う田んぼの危険なハンター。
卵が見つかったら大変です。
あっ巣で卵を温めていたもう1羽も飛び立ちました。
夫婦で協力してトビを追い払う作戦です。
今度の相手は体重が倍以上あります。
夫婦が力を合わせないと危険なんです。
1羽が行くとすかさずもう1羽。
見事な連係でトビに反撃の隙を与えません。
トビも嫌がっています。
それにしてもなんてしつこいんでしょう。
2分に及ぶ激しい攻撃の末トビを見事追い払いました。
いやぁ空中戦迫力ありましたな。
でしょヒゲじい。
でもちょっと待った!どうしてケリはこんなに目立つ田んぼの真ん中に巣を作るんですか?もっと目立たない草の茂みとかに作れば大変な戦いをしなくても済むんじゃないでしょうかね?そうですねぇ。
でもケリはあえて見晴らしのいい田んぼに巣を作ってるんですよ。
は?どういうこと?見て下さい。
ケリの巣から見ると遮る物がなんにもないので周りがよ〜く見えるでしょ。
ありゃりゃホントだ。
丸見えですな。
これなら空から敵が来ても真っ先に見つけられます。
あ〜はいはいはい。
ですから巣の上にトビがやってくるとケリは相手が気付く前にすかさず飛び立ちます。
おっ行きましたな。
こうして先手を取って攻撃し続ければトビは防戦一方。
巣を見つけるどころではなくなってしまいます。
そうか。
「先手必勝」ということですな。
そのとおり!ケリの先手必勝作戦にとって見晴らしのいい田んぼは絶好の場所なんです。
う〜んなるほどなるほど。
ケリは田んぼを上手に使って先にケリをつけるというわけか。
ムフフフ。
これで私の疑問にもはいケリがつきました。
なんちゃってね。
では〜。
第2章ではケリの巣に最大の危機。
さらに生まれたヒナにもピンチの連続。
恐ろしいヘビが急接近。
ヒナは大丈夫?大きな敵を先手必勝作戦で追い払うケリ。
ほかにも驚きの方法で巨大な相手を翻弄する生きものたちがいます。
こちらはケニアにすむハネジネズミ。
天敵のオオトカゲが近づいてくると逃げ出しました。
それを追うオオトカゲ。
ハネジネズミは猛スピードで地面を駆け抜けます。
走っているのは自分で作り整備した道路。
入り組んだ道路を使って逃げるんです。
T字路に来ると猛スピードで左折。
対するオオトカゲは直進。
鮮やかな逃走劇でした。
続いてはサバンナで子育てをする…卵を温めているとなんとゾウの群れに囲まれてしまいました。
卵が踏まれたら大変!その時翼を広げました。
あっゾウが後ろに下がっていきます。
目の前で突然翼を広げることでツルはゾウを驚かせて撃退したんです。
すごい!最後は南アフリカの海に暮らすオットセイ。
天敵は魚類最強のハンターホホジロザメ。
こんな危険な相手からオットセイはどうやって逃げるんでしょう?それがこちら。
ジグザグ泳ぎ。
ホホジロザメは獲物の泳いでいく方向を予測し海底から一直線に襲います。
オットセイに細かく方向を変えられると対応できないんです。
見事にかわしました!小さくても工夫しだいで大きな相手を翻弄。
生きものってたくましいですね。
再びケリがすむ北陸の里山です。
4月中旬。
卵を守り続けてきた夫婦が突然警戒を始めました。
どうしたんでしょう?現れたのはトラクター。
米作りの準備のため田起こしが始まったんです。
夫婦にとって最大のピンチです。
トラクターはどんどん巣に近づいてきます。
親鳥は精いっぱい翼を広げ威嚇します。
しかし威嚇が通用する相手ではありません。
あ〜もう巣の目の前。
危ない!あれ?止まりました。
そして巣をよけていきます。
農家の人が巣に気付いて守ってくれたんです。
親鳥がすかさず巣に戻ります。
卵は無事だったようです。
しかし農作業はどんどん本格化していきます。
今度は田んぼの水入れです。
ケリの巣にある卵が水につかってしまえばヒナがかえることはありません。
案の定巣は水浸し。
大丈夫でしょうか?あれ?ヒナです!水没するギリギリのところでヒナがかえっていたんです。
あ〜よかった!ちょっと待った!どうしたんですか?そんなに怒って。
そりゃそうでしょ!何が「よかった」ですか。
やっぱり田んぼは危ないですよ。
田起こしだ水入れだってこれじゃいくつ命があっても足りませんぞ。
そうですよね。
残念ながら農作業によって繁殖に失敗することは少なくないんです。
ほらねやっぱり!でもねヒゲじいケリが田んぼを使うのには切実な事情があるんですよ。
どういうこと?もともとケリが繁殖するのは川が氾濫したあとに出来る荒れ地や湿地です。
草が少なく見晴らしがいいため敵から卵を守るのに適しています。
あ〜はいはい。
でもこうした環境は時代とともに減り続けています。
特に近年は河川改修などが進んで激減しているんです。
ほう。
そこでケリが目を付けたのが田んぼです。
ここ数十年で田んぼで繁殖するケリが急増しているんです。
つまり田んぼは本来の住みかの代わりということなんですな。
はい。
そんな中でもケリは農作業の危険を回避するため必死で頑張っていることが分かったんですよ。
こちらは今回取材した田んぼを上から見たものです。
この中に田起こしのスタートが1か月ほど遅い田んぼがありました。
あ〜はいはい。
ここに巣の場所を重ねてみると…。
お〜!田起こしが遅い田んぼに巣が集まっておりますな。
はい。
どうやらケリは田起こしが遅い田んぼを選んで農作業が始まる前にヒナをかえそうとしているようなんです。
へえ〜!賢いですなぁ。
でもケリはどうして田起こしの早い遅いが分かるんでしょうかね。
はい。
ケリは子育てに成功した場所で毎年繁殖を繰り返す習性があります。
前の年の経験から田起こしの遅い田んぼが分かるのかもしれません。
うんなるほど〜。
ケリは田起こしの時期を見極めて「田」んぼに「おこし」になっていたということですな。
ケリさんたち子育て頑張ってケリ〜!水没ギリギリで誕生したヒナ。
生まれてすぐに歩き回ります。
さらに食べ物を探し始めました。
こんなに小さいのにたくましいですね。
しばらくすると親鳥がヒナを連れて移動を始めました。
ところがヒナたちの行く手を水が遮ります。
怖いんでしょうね。
なかなか進むことができません。
あっ1羽が渡りました。
残りのヒナたちもあとに続きます。
親鳥のおなかに潜り込むヒナ。
まだまだ甘えん坊なんですね。
5月上旬。
田植えの時期を迎えました。
この時期ケリは子育て真っ盛り。
かわいいヒナが田んぼのあちこちで見られます。
そんな中恐ろしい事件が起こりました。
親鳥が興奮しています。
アオダイショウです。
2メートル近くはあるでしょうか。
逃げ遅れたヒナを狙っています。
ヒナは動くこともできません。
親鳥は翼を広げヘビの注意を自分に引き付けようとします。
するとヘビが寄ってきました。
作戦は大成功…と思いきやヘビが再びヒナのほうへ向かっていきます。
あと1メートルもありません。
突然親鳥たちが飛び立ってキック!さらにもう1発!でもヘビも簡単には諦めません。
夫婦はかわるがわる攻撃を続けます。
ようやくヘビが逃げていきます。
夫婦が力を合わせ無事大切なヒナを守ることができました。
ある日私たちはケリの驚くほどのたくましさをまた一つ目の当たりにしました。
親子が田んぼからあぜに移動した時。
突然親鳥が警戒を始めました。
(鳴き声)トビです。
ヒナを狙ってやってきたんです。
あっトビが急降下!
(鳴き声)身を伏せるヒナ。
(鳴き声)夫婦はすかさずトビを追い払いに向かいます。
しかしトビは今回諦めようとしません。
この時期のヒナはトビにとって願ってもない獲物なんです。
親鳥は何とかトビを追い払おうと必死です。
全速力でトビを追う親鳥。
そして翼スイングで威嚇!でもトビは諦めません。
その時です!
(鳴き声)周りにいた親鳥たちが飛び立ちました。
次々に集まってきます。
そして集団でトビを襲い始めました。
ふだんはそれぞれ別々に子育てをしていますがいざという時は協力して敵に立ち向かうんです。
見事な連続攻撃にさすがのトビも退散です。
里山の暴れんぼう最後の切り札は仲間とのチームワークだったんです。
ヒナの誕生から1か月ほどがたちました。
ずいぶん大きくなりましたね。
羽もすっかり大人の羽に生え変わりました。
あっ飛び立ちました!子どもたちは里山を飛び回り成長していきます。
翌年の春からは親鳥としてわが子を守る雄姿を見せてくれるはずです。
里山の暴れんぼうケリ。
変わりゆく環境で田んぼをよりどころにして命をつないでいました。
これからも賢くたくましくそして何より勇ましく里山を生き抜いていくことでしょう。
2017/01/01(日) 17:00〜17:30
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「超キケン!里山の暴れんぼう鳥 ケリ」[字][再]
北陸の里山に超キケンな鳥が出没中。暴れんぼう鳥・ケリだ。トビやカラス、ヘビ、人にまで襲いかかる。凶暴な性格の裏には、田んぼで命をつなぐための秘密が隠されていた!
詳細情報
番組内容
春、北陸の美しい里山に超キケンな鳥が現れる。近づくものには何にでも襲いかかる暴れんぼう鳥、ケリだ。トビやカラスに対しては高い飛行能力を生かして派手な空中戦を繰り広げ、必殺技“翼スイング”で追い払う。人間が農作業のため近づいても、恐れることなく向かっていく。さらにヒナを狙う恐ろしいアオダイショウには体当たり!なぜこれほど攻撃的なのか?そこには、田んぼで命をつなぐための秘密が隠されていた。歌:平原綾香
出演者
【語り】龍田直樹,豊嶋真千子,秋鹿真人