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書き起こし ハートネットTV 傷ついた“脳” 見つけた“力”「GOMA×茂木健一郎」 2017.01.10

あなたは記憶が消えていく恐怖に駆られた事はありますか?

1人別の世界に連れていかれたような感覚

僕はそんな恐怖と隣り合わせで生きています。
僕の名前は…
ディジュリドゥ奏者。
オーストラリアの先住民族アボリジニの楽器です

7年前交通事故に遭い高次脳機能障害になりました。
記憶がうまくできない。
注意力が散漫になる。
計画的に行動できないなどさまざまな症状に悩まされています。

 

 

 


でも事故のあと僕は新しい自分に出会いました。
突然頭の中に浮かび上がる不思議な光の世界。
描きたいという衝動が僕を突き動かします

(ディジュリドゥ)
あれから7年
これからどんな変化が起きるのか?脳科学者の茂木健一郎さんに聞きました
おう!こんにちは。
どうもお久しぶりです。
ご無沙汰しております。
お邪魔します。
あっすごい。
へえ〜!すご〜い。
ここで描いてるんですか?そうなんですよ。
えっこれ今制作中の?あとここをもうちょっと塗れば完成です。
へえ〜。
赤富士。
あっ赤富士。
そう。
どれぐらい時間かけて描いてる感じですか?大体このサイズぐらいの絵だとまあ2週間…。
2週間。
一個一個ちょんちょんちょんちょんってやるんです。
大体朝始めて…。
バラバラなんです。
バラバラなんですか。
とにかく基本描きたくなる時は脳がちょっと混線してるみたいな状態になる時なんですよ。
それがこう一個一個この点を並べていると落ち着いてくるんですよ。
脳が整理されるんですよね。
これはどう表現したらいいのかがまだ自分でも言葉に落とし込めないんですけど。
もうこの…とにかくざわざわするんですよ。
このざわざわざわざわっていろんな記憶が混線してるような感覚がす〜っと余分なものがそぎ落とされてちょっとストレートなラインになるんですよ。
脳の中の情報が整理されるというのは実は脳にとって一番大事な機能の一つで我々眠っている間にまさに前の日に経験した事の記憶が整理されて記憶として定着していくと考えられているので今おっしゃった整理がないとそもそも記憶って定着しないんですね。
そういう意味においてはGOMAさんの場合やっぱり事故の後遺症で記憶がなかなかうまくできないという事もあったけどやっぱりそういう形で絵を描く事で整理して記憶を定着しようっていう脳の働きの一部なのかもしれませんけどね。
僕が事故に遭ったのは36歳の時。
国内外のライブに出演し忙しい日々を送っていました
高速道路を走行中に追突され病院に運ばれました
一時は意識を失いましたが検査の結果目立った異常がないと診断されその日のうちに帰宅
ところがその後次々に異常が現れます。
左半身に力が入らない。
味や匂いを感じない。
感情をコントロ−ルできない。
そして記憶が消えている
ディジュリドゥ奏者だった事。
家族との思い出。
僕の頭の中からは過去10年ほどの記憶が失われていたのです
これやっぱ強烈やもんこれ。
(笑い声)写真とか見せられても消えてるところってもう「あれ?これ何やったっけ?」すらならないんですよ。
その日の出来事がもう全部消えてるから。
「これ何やったっけ?」ってなる時はいいんですよねまだ。
何かがここに多分残ってるから。
「何かこれ知ってるぞ」みたいになるんですけどそれがやっぱ全くならない出来事なのにそこに自分がいてこういう事言ってるのを目の当たりにするとやっぱり消えてるんやなってちょっと落ち込みますね。
下手するとそういう時にね事故直後でそういう事があると脳の機能に基づく障害というよりは何か精神的なショックとかでそういう状態になってるって思われちゃう事もありますよね。
僕も最初脳の傷を見つけてもらえなくてもうちょっとほかの病院探そうっていうて何軒か回っていくうちにやっぱどこ行っても何かおかしいおかしいってなってきて。
妻が新聞の記事その時ちょうど見た時に高次脳機能障害って…。
新聞の記事で知ったんですか。
そうなんです。
あっそうですか。
最終的な診断は…
事故から半年がたっていました
事故して何かもう帰って下さいって言われて。
とりあえず生活してるけど何かおかしいおかしいっていうて。
あいつ変わってしまったぞみたいな。
仕事でもミスばっかりするぞみたいな人が多分すごい数いると思うんですよ。
いやいらっしゃると思いますよ。
運動機能の障害とかだと例えば体が動かないとかあと例えば視覚とか聴覚って特定の感覚の障害だったら見えないとか聞こえないっていう形で非常に分かりやすいんですけど高次脳機能障害って下手すると例えばその方の性格が変わって今までよりちょっといい加減になっちゃったとか。
怒りっぽくなっちゃったとか。
その人のせいっていうふうに極端な事言うとなっちゃうかもしれないぐらい微妙なものなので。
だから最近ですよ本当に。
徐々にそういう計測で分かってくるようになったの。
まだまだこれからですよね。
それがすごい。
やっぱちゃんとした検査を受けれるようになればいいなと思って。
僕がゆくゆくやりたい事の一つなんですけど。
自分がディジュリドゥ奏者だった事すら忘れてしまった僕

でも体は覚えていました
すごいな…。
反復練習を繰り返し1年半後音楽活動を再開しました。
脳で覚えるのは難しくても体で記憶する事はできる
すごい。
昔自分が吹いてたやつ録音を聴いて勉強してまたできるように練習するじゃないですか。
それを練習してバンドのメンバーとスタジオ入ると何か違うって言われるんですよ。
へえ〜!その違いがもう自分では分からないんですよ。
ただ何か…聞こえ方が変わってるんだと思うんですよ。
そっか自分では同じだと思ってるんだけど。
思ってるんだけどそう。
そこが認識できるようになるともうちょっといろんな事が生きやすくなったりするのかなとも思ったりするけど。
この中ではこれが一番古いと思う。
トンネルのような絵ですよね。
そうです。
けどこういうのあったのは覚えてるんですよ。
あっ光のトンネル。
光を追っかけていってそこに人だかりみたいなのがあってその人だかりの方に僕行きたかったんですけど行けなかったんです。
それが次のあの世というか象徴するっていうか。
その人だかりの方と違う方向にこういう光の何か…。
ああそうなんだ。
明るいのがあってそっちの方は行けたんですよね。
そこの中にば〜って入っていくとすごいまぶしい光の中で病院のベッドで寝てるんですけど。
あっそこで意識が戻ったんですか。
そうなんですよ。
う〜ん。

家族や仲間に支えられ再びステージにも立てるようになりました
けれど今も体の異常は続いています
極度に緊張したり集中したりすると突然意識を失う事があります
自分がどこにいるかっていうのがよく分からないって事ですよね。
そうなんです。
ちょっとずつ何かビリビリビリってこうしびれみたいなのから指先とか足先から感覚が戻ってきてこの体の縫いぐるみを感じ始めるんですけど。
縫いぐるみという感覚なんですね。
そうなんですよ。
終わってない終わってない今リハリハリハ。
それでこっち側に帰ってくる時にいつも自分が感じるような世界があるんですよ。
それの第1段階があれですね。
ああこういう。
そういうのを最近描く時は倒れて意識戻ったあととかにそういうのを描きたくなる。
あの光のあとの世界がこういうこっちの…。
あっ…。
こういう感じなんです。
え〜?わっこれはすごいな。
戻ってくる時のこのイメージってGOMAさんにとってはどういう感じのものなんですか?神々しいとか気持ちいいとか何か不思議な感じがするとか。
何かチラチラしてきれいなんですよ。
きれいなんですか。
でもあれですよね。
という事はこういう絵はその事故があってそういう脳のいろんな事がなかったら絶対描いてないですよね。
絶対描いてない。
描いてないですよね。
絶対描いてない。
ふ〜ん。
絵自体そんな事故の前全く描いてなかったから。
無数の点が織り成す僕の脳に現れる世界
7年間で描いた絵は400点を超えました
僕見てるとやっぱりあの…何て言うんですかね描く時にこういう徐々に何かイメージの広がりっていうか構造がより見えてきてる気がするんですよ。
という事は脳が次第に回復すると同時にイメージ自体も変化してきて脳の回路で言うとその部分的な回路だけじゃなくていろんな回路のつながり?連携?ネットワークがよみがえってきてるのかなって感じがするんですよ。
それは実際あるかもしれないです。
ちょっと前は脳が疲れてくると文字とかが理解できなくなってたんですよ。
見えてるんですけど意味が入ってこないんですよね。
日本語ですよ。
日本語見てるのに何か象形文字とかアラビア文字見てるような感覚になる時が昔結構あったんですよね。
そういうのが徐々に少なくなりつつあるっていうのは自分のリアルな体験として感じてるんですよ。
やっぱそういうところはすごい絵に反映されてきて何かより瞬時にコンピューターのスペックが上がったじゃないですけどそういう脳の動きがスムーズにはなってきてるのかなっていう気はしますね。
脳って常に変化するんで代償作用とかあるし。
それがやっぱ絵を描く事で随分脳の回復が助けられてるとこもあるんじゃないかなっていう。
だから最近言われてるのはGritっていってね才能とかそういう事じゃなくてとにかく続けるという事が一番の才能であるって。
やっぱり脳科学とか認知科学の研究の結果とにかくず〜っと続けてる人ってのが一番遠くまで行けるって事をいわれてて。
GOMAさんは明らかに絵についてGritが今ある訳じゃないですか。
とにかく描き続けてるって。
それが事故に遭う前はそういう事なかったのに事故に遭ったあとにそういうふうになってしまうというのが人間の脳の不思議さというかすごさというかご本人も分かんないんですもんね。
分かんないんです。
何で絵描いてるのかって。
意識っていうものはどういうものなんだろうって最近すごい考えるんですよ。
あっちの世界行ったりこっち戻ってきたり体は別にここにある訳じゃないですか。
だからない時の体の状態とかどこに行って何がきっかけでこっち戻ってくるんだろう…。
そのまま戻ってこなかったら単純にもう死んじゃうって事じゃないですか。
意識って何なんだろうって思うんですよね。
意識とは何かというのは脳科学の最大の謎なんで。
謎…。
はい。
いまだに解かれてないですし。
ただ一般にいわれているのはやっぱり自分を観察するっていう普通の科学では使わないような内省的なアプローチっていうのは大事だって事はいわれてるんですね。
意識の科学に関して言うと。
なんでGOMAさんのようなこの絵とか体験は科学者にとっても非常に貴重なデータ。
体が例えば縫いぐるみのように感じるとかそういう事があるんだって。
実際にそういうケースを研究対象にして書かれている論文もあるんですね。
へえ〜。
なのでひょっとしたら脳科学にとっても非常に重要なサンプル。
サンプルって言ったら変ですけど。
いやいやもう何でも。
…になるのかなって思いますけどね。
人類のそれが貢献になるんだったら何でもやりたいですよね。
まあですからそういう意識の研究をしてる脳科学の研究者海外のねそういう人の所を訪ねていろいろ調べてもらうというのも有意義かもしれませんよ。
確かに…。
(サイレン)こうやって絵を描かれて今ちょっと活動の幅を広げられてる事についてはどう感じてらっしゃいます?絵に関してはすごい感謝してます。
絵というものが出てきた時。
何かとにかくもう家じゅうが暗黒の世界だったから。
最初事故当初っていうのはもう…。
特に最初の1か月ぐらいってどこまで記憶が消えてるのかっていう事を私の中で探ってたから。
で私の言葉とか写真を見せると知らないっていう事が出てきて落ち込むんですよね。
どんどんどんどんこう家の中空気自体もすごく重かったんですけど絵を描き始めるとそういうのが重い波がスタッと消えて。
へえ〜。
本当に日常に瞬時に変わるし。
すごいね絵の力って。
すごい…。
だからこう…絵を描いてくれてなかったら逃げ出してたかもしれないなって思うから。
それはすごい絵というものに出会った事は感謝してます。
えっ?田吾作やで。
田吾作?米八が無くなって田吾作になった。
ふ〜ん。
お弁当屋が。
田吾作。
田吾作。
米八じゃないで。
今日はうまくつじつまが合ってるって思っても次の日にあったらつじつまが合ってない事とかがこう…。
記憶が交錯しちゃう。
これで進めますよみたいな話しててもそんなん言ったっけみたいな事が結構あったりするから。
ああ〜。
全部責任というかジャッジをしなきゃいけなくなったから。
家族の将来に関わる事とか?…とか仕事の事とかも。
仕事の事とかを。
それが一番大変です。
でもできないっていうと二度と前に進めないからやっぱ残された可能性を育てた方がいいなっていうのをすごい考えるようには最近はなって…。
いやでも本当にすてきなご家族ですね。
僕はありがたい。
(笑い声)絵なんか描いてる場合ちゃうやろって言われたら…。
(笑い声)もう生きてけませんってなってた。
だから何かをやりたいって気持ちがあった時にそれを否定されちゃうと人間つらくなるからとりあえずやってごらんなさいって周りが言ってあげられるかどうかですよね。
そこだけでも本当にすばらしい。
へえ〜。
そこは本当に感謝してる。
茂木さんにそういえば聞きたかった事もう一つあったな。
(取材者)何聞きたかったんですか?2017/01/10(火) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV 傷ついた“脳” 見つけた“力”「GOMA×茂木健一郎」[字]

高次脳機能障害と生きる、ディジュリドゥ奏者で画家のGOMAさん。「僕の脳はいま、どうなっているのか」脳科学者・茂木健一郎さんとともに、自らの脳の不思議を探る。

詳細情報
番組内容
世界最古の管楽器と言われる「ディジュリドゥ」の世界的奏者・GOMAさんは、交通事故で脳を損傷し、高次脳機能障害をおった。記憶の一部を失い、一時は自らがミュージシャンであることも忘れてしまった。しかし事故をきっかけに突如“絵の才能”が開花。海外で個展を開催するなど、画家としても活躍するGOMAさん。「僕の脳はいま、どうなっているのか」脳科学者・茂木健一郎さんとの対話を通し、自らの脳の不思議に迫る。
出演者
【出演】デジュリドゥ奏者、画家…GOMA,脳科学者…茂木健一郎