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字幕書き起こし モーガン・フリーマン 時空を超えて「“生殖”は変化するのか?」 2017.01.13

私たちは皆1人の男性と1人の女性の遺伝子からつくられています。
その生殖のルールが今技術の進歩によって変わろうとしています。
2人の父親または2人の母親から子どもを生み出したり赤ちゃんを子宮の外で育てたり…。
人間と動物が入り交じった「ハイブリッド人間」さえつくれるかもしれません。
数百万年変わらなかったヒトの生殖に革命が起ころうとしています。
性の営みはなくなるのでしょうか?時間空間そして生命。
時空を超えて未知の世界を探究します。
性の営みセックスが持つ可能性は驚異的なものです。
なぜならセックスなしには誰もこの世に存在していないのですから。
「聖書」によれば私たちは皆人類最初の男性と女性いわゆるアダムとイブの子孫と言えます。
そして子孫を残す方法は人類の歴史上ほとんどずっと変わっていません。

 

 

 


しかし今技術の進歩と生物学の研究成果が有史以前から続く男女の性的な役割を大きく変えようとしています。
私たちの生殖行為そのものさえ一変させてしまうかもしれません。
子どもの頃学校の陸上選手になりたいと思っていました。
練習には必ず勝てる相手女の子を選びました。
位置について…用意ドン!行け!行け行け!私は負けてしまいました。
しかも大差で。
彼女は後にオリンピックで金メダルを取ります。
男と女は古くから競い合ってきましたが勝者として生き残るのがもしどちらか一方だけだとしたら?過去5億年にわたり複雑な生命体のほとんどが異性同士が遺伝子を交換する「有性生殖」によって子孫を残してきました。
鳥もハチもカンガルーも…。
しかし遺伝学者のジェニー・グレイブスはヒトは将来有性生殖をしなくなると考えています。
彼女はカンガルーの性別をチェックしながら人類の未来を予測します。
(グレイブス)かわいいわね。
(女性)ほんとかわいらしい。
ほらオスよ。
(グレイブス)確かに。
立派なのがついてるわ。
カンガルーの見た目は人間とはだいぶ違いますが遺伝子はよく似ています。
2万個ほどの遺伝子があり同じ働きをしているんです。
遺伝子はDNAの中にある遺伝情報です。
DNAは染色体の中にらせん状に折り畳まれておりヒトには23対の染色体があります。
性別を決めるのはそのうちの1対。
ヒトもカンガルーもX染色体が2つなら女の子X染色体とY染色体が1つずつなら男性になります。
私たちはこの仕組みを共通の祖先から受け継ぎました。
カンガルーは祖先の哺乳類からあまり変化していないので過去を知る手がかりになります。
ヒトのゲノムの成り立ちについて多くの事を教えてくれます。
カンガルーを調べれば私たちの性染色体が共通の祖先からどのくらい変化したかが分かります。
そして将来の見通しも。
グレイブスによると世の男性の未来は明るいものではありません。
孫のフィリックスも含め男性は絶滅に向かっているというのです。
じゃあ遺伝子の積み木を使って染色体を組み立てるわよ。
フィリックス青いのをこっちにちょうだい。
X染色体は男性も女性も持っています。
DNAの世界では1,000ほどの遺伝子から成るX染色体は超高層ビルのようなもの。
一方男性特有のY染色体はみすぼらしい掘っ立て小屋にすぎません。
こっちは女。
お父さんとお母さんからX染色体を1つずつもらっています。
こっちは男でX染色体は1つだけ。
ずっと小さなY染色体にはほとんど遺伝子がありません。
卵子はX染色体を1つ持っています。
卵子に殺到する何十億もの精子の半分はX染色体をもう半分はY染色体をそれぞれ1つずつ持っています。
卵子に入るのがX染色体を持つ精子だと母親と父親からX染色体を1つずつ受け継いだ女の赤ちゃんになります。
母親と父親のX染色体がくっつくと一部を交換し合います。
こんなふうにこの部分とこの部分を入れ替えてこっちとこっちを入れ替えるとこんな感じになります。
つまりX染色体は自分で自分を修復できるんです。
女の子になる受精卵ならX染色体に有害な遺伝的突然変異が起きても健康な遺伝子と交換できる可能性があります。
しかし男の子の場合Y染色体を修復するすべはありません。
Y染色体は部品交換がほとんどできずひとまとめに縛られたような状態です。
これは突然変異によって染色体の複製にエラーが出ても直す手だてがないという事です。
その結果遺伝子を失う可能性もあります。
そうなるとただでさえちっぽけなY染色体です。
500万年後には完全に消えてなくなってしまうかもしれないのです。
Y染色体がなければ男性の生殖能力は失われます。
人類の滅亡がそれに続くのでしょうか?進化生物学者のリーバイ・モランは有性生殖ができなくなったら生物はどうなるのか研究しています。
研究に熱中するとちょっとランニングします。
頭の中が整理されて何が大切かが分かってくるんです。
モランが突き止めたいのは根源的な謎。
「なぜ人間や他の多くの生物はセックスによって生殖を行うのか?」。
彼は生殖行動をじっくりと観察します。
顕微鏡の中でですが…。
これはCエレガンスという名の線虫です。
その性生活はかなりシンプルです。
オスは尾を自分の頭にくっつけてメスだと思い込みながら何時間も交わろうとする事があります。
涙ぐましい努力ですね。
メスの場合はもっと複雑です。
メスのCエレガンスは厳密にはメスではなく「雌雄同体」といいます。
オスとの交尾による生殖もできるし自分の卵子に自分の精子を受精させる事もできるのです。
モランはメスのDNAを操作して常にオスとの交尾を選択するグループとオス抜きで生殖するグループを作り出しました。
そして両者を病原菌だらけの過酷な環境にさらしどんな違いが現れるのか調べました。
シャーレの上の方にはCエレガンスにとっては猛毒のバクテリアが入っています。
この危険な赤い海を泳ぎきらないと下にある食べ物にありつけないという仕組みです。
オス抜きで生殖するグループは30世代にわたって生き続けましたが最後はバクテリアの侵入を防ぎきれなくなり壊滅状態となりました。
次にオスとの交尾のみで繁殖するようにしたグループをシャーレに送り込みます。
Cエレガンスが猛毒のバクテリアの海にさらされても有性生殖による繁殖を続けられるか調べてみました。
この画像を見れば分かるように多くの線虫が生き延びる事に成功しました。
交尾によって病気への防御法を進化させた事を実験は示しています。
数百万年にわたる人類進化の過程でもセックスが私たちを病気による全滅から救ってきたとモランは考えます。
大事なのは常に先を走り続ける事です。
私が一つの生物集団で一歩が一世代だと思って下さい。
セックスをしない無性生殖は直線を走るのに似ています。
A地点からB地点に行くには早い方法ですがもし敵となる寄生体に狙われたら簡単に追いつかれてしまいます。
一方有性生殖はジグザグコースを走るようなものです。
スピードは遅くなりますが遺伝子の交換で常に進化の道筋が変わり寄生体を寄せつけにくくします。
結果その種が生き残る可能性が最大限に膨らみます。
人類を付け狙う病原性寄生体はたくさんあります。
でも遺伝的多様性があれば寄生体がもたらす変化にも適応し生き延びる事ができるんです。
セックスは私たちの生き残りに不可欠ですがセックス自体も変わる運命にあります。
それは100万年後かもしれませんしあるいは10年以内に起こるかもしれません。
2人の父親または2人の母親から赤ちゃんをつくれる可能性があるのです。
赤ちゃんをつくるにはどうしたらよいでしょう?卵子を受精させなければいけませんから男女共にいいお相手が必要ですよね。
ここ30年ほどは医師たちによって体外受精も行われるようになってきました。
そして今全く新しい方法が生まれようとしています。
男性の卵子または女性の精子細胞から赤ちゃんをつくるというのです。
人間の皮膚から採ったこの細胞がセックスの未来を変えるかもしれません。
生殖医療の専門家レネー・レイヨ・ペラはこの細胞を使って赤ちゃんのつくり方に革命を起こそうとしています。
私たちの細胞は成長しても変わりません。
皮膚細胞は皮膚細胞のままです。
しかし2007年に報告された大きな研究成果により皮膚細胞を生命の始まりつまり胚細胞に戻せるようになりました。
この皮膚細胞は遺伝子操作によって胚性幹細胞になっています。
本来はヒトの胚にしかない細胞であらゆる細胞に変化します。
心臓の筋細胞ニューロン肺の細胞。
ほとんどの研究者はこの幹細胞を治療目的で使おうとしていますがペラは人体が通常では作りえない細胞を作ろうとしています。
胚性幹細胞はどんな細胞でも作る事ができるという点でどんな形も作れる粘土細工に似ています。
指令さえ与えればこの幹細胞は216ある細胞型のどれにでもなる事ができるのです。
まるで芸術家が粘土で好きな形を作り上げるかのように。
胚性幹細胞は無数のタンパク質や有機化学物質から指令を受けて特定の細胞へと変化します。
ペラは精子や卵子の細胞を作り出すための化学的な指令を見つけ出そうとしています。
まず男性の皮膚細胞を採取してそれを再プログラミングする事で胚性幹細胞を作りました。
そして骨のタンパク質を使ってその幹細胞が精子細胞になるよう導いたのです。
丸い粘土の塊を手に取って最終的に望みのものを作り出すようなものです。
ペラは生殖力のない男性の胚性幹細胞から健康な精子細胞を作り出そうと取り組んでいます。
幹細胞のY染色体内部の指令を活性化させる方法です。
男性にはX染色体が1つあるので同じ手順で男性から卵子を作る事もできるとペラは確信しています。
同性のカップルが自分たちの遺伝子を受け継いだ子どもを持てるかもしれません。
特に男性同士の場合は可能性が高いでしょう。
一方が卵子を一方が精子を提供すればいいんです。
女性から精子細胞を作り出すのはまだ難しいとペラは考えています。
男性特有のY染色体から精子を作るための指令を取り込まなければいけないからです。
現段階では女性同士のカップルが自分たちの遺伝子を受け継いだ子どもをつくるのは難しいでしょう。
Y染色体にある精子を作るための遺伝子の数が50から100くらいしかないからです。
不可能とは言いませんがこの先10年というような時間では可能性はかなり低いでしょう。
ペラたちの研究により有性生殖に重大な変化が起ころうとしています。
胚性幹細胞を複製すれば性別や年齢に関係なくどんなカップルでも子どもを授かる事ができるようになりそうです。
しかし誰もが歓迎しているわけではありません。
批判的な意見が多い事にいつも驚かされます。
研究室で子どもをつくる人たちに世界が乗っ取られるとでも思っているのでしょうか。
この研究は不妊カップルには朗報です。
もちろん自然な方法で子どもをつくれる人たちはこれまでどおりでしょう。
男性の卵子と女性の精子が研究室で作れるようになったらどんなカップルでも子どもをもうけられます。
とはいえ胎児が子宮内で9か月間過ごす点は変わりません。
もし人工子宮でそれが可能になったらどうなるでしょう?私たちは皆人生のスタートを同じ場所から切りました。
子宮です。
赤ちゃんにとっては居心地のいい場所ですが母親は大変です。
もし妊娠の苦労が過去のものになるとしたら?生殖における革命は既に始まっています。
海洋生物学者ニック・オトウェイは全く新しい方法で生物を誕生させました。
私たちの研究をかなり奇妙に感じるかもしれません。
将来的に波紋を呼ぶようなものだとね。
彼が作ったのは生きたサメを誕生させる装置です。
このグレーの箱のようなものが人工子宮です。
ある特定の種のサメから胚を取り出して人工的な環境で発育できるかどうか調べるためにこの装置を開発しました。
開発の目的は絶滅危惧種シロワニの個体数を増やす事。
オーストラリアの政府高官からじきじきに命じられた任務です。
成長した魚なら水槽の中で飼育する方法が確立しています。
水中の化学物質のpHレベルを調整し水質をきれいに保ち栄養分を補給するといったように。
しかし生まれる前の魚となると話は別です。
あのグレーの箱の中に胚に適した環境を作らなければなりません。
細心の注意を払うのは母親ではなく私です。
サメの胚が必要とする環境は成長とともに大きく変化します。
最初サメは複雑な成分の子宮液の中で育ちます。
3か月たつと母ザメは子宮に海水を入れ海の環境に切り替えます。
ですから私たちも複雑な液体の成分を正確に把握して人工子宮の中を満たしていかなくてはなりませんでした。
人工子宮内の水分は母ザメの生体リズムに従って体液から海水へと変わるようプログラムされました。
人口子宮の試運転は絶滅の危機にあるシロワニではなく生息数が多いテンジクザメで行われました。
(オトウェイ)テンジクザメは人工的な環境でも飼育が簡単です。
飼育下で繁殖させられる事も分かっています。
もちろん絶滅の危機にひんしているわけでもありません。
そこで最初の実験台としたんです。
まずは妊娠中のメスから発育途上にある胚を取り出し人工子宮の中に移します。
そして人工子宮を調整しながらサメの胎児が死なないよう絶えず見守るのです。
(オトウェイ)愛着が湧きますよ。
無理やり母親から引き離したわけですからうまくいくよう祈るような気持ちでした。
実験は大成功。
9週間後14匹の健康な赤ちゃんザメが誕生しました。
サメでできたなら将来は人間でも可能なはず。
オトウェイはそう信じています。
鍵はヒトの女性の子宮内でいつどのような化学的変化が起こるのかを把握する事です。
技術はここ数年で飛躍的に進歩しました。
大きな変化はすぐそこまで来ています。
未熟児を現在より更に早い段階で誕生させる事もできるようになるかもしれません。
当然倫理的な問題を無視する事はできませんが。
研究室で育った赤ちゃんは母親の胎内で大きくなった赤ちゃんと同じでしょうか?社会は人工子宮から生まれた赤ちゃんを差別しないでしょうか?答えが出るにはまだ時間が必要でしょう。
しかし出生前の合併症や流産死産が過去のものとなるのは予想以上に早いかもしれません。
赤ちゃんが体外受精と人工子宮によって生み出されどんな性別のカップルからも生まれるようになった時「家族」という言葉はどんな意味を持つのでしょうか?家族は社会の根幹です。
では家族とは何でしょうか?1人の男性と1人の女性から始まるものでしょうか?しかし一夫多妻制を認める国もあれば女性2人で営む家族も存在します。
科学技術の進歩により出産や親子関係が変わった時社会はどうなるのでしょうか?私たちに最も近いとされる動物にそのヒントがあるかもしれません。
大型類人猿の社会を研究するフランス・ドゥ・ヴァール。
(鳴き声)野生の大型類人猿は生き残りをかけて戦い命を落とす事も多いといいます。
チンパンジーは縄張り争いが原因で殺し合う事があります。
また群れのボスの座をめぐってオス同士が激しく戦います。
私たち人間にも思い当たる節があります。
ああやられた。
(ため息)霊長類のオスとメスの社会的役割を決めるのは何なのでしょうか?
(ドゥ・ヴァール)チンパンジーの社会には男女とその子どもといったような家族構造がありません。
子育てをするのは通常メスだけです。
チンパンジーのゲノムの98.5%はヒトと同じです。
しかし私たちに近い類人猿は他にもいます。
長年チンパンジーの研究を続けたあとに出会ったのがボノボでした。
当時はまだ小型のチンパンジーのように考えられていましたが私は一目でボノボがチンパンジーとは全く違う事に気付きました。
そしてボノボの事をもっと知りたいと思ったのです。
チンパンジー同様ボノボのゲノムも98.5%はヒトと同じです。
しかしボノボの社会はチンパンジーの社会とは大きく異なるものでした。
ボノボのメスは集団としてはオスより優位に立っています。
一対一では負けますが集団ではメスがオスより上です。
オスの方が大きくて力も強いのですがメスは同盟を結ぶ事で平和を維持します。
暴力沙汰はまれで殺し合いはもっとまれです。
先に食べるのはメスでメスがオスに食べ物を分け与えます。
群れに争い事が起こった時ボノボには特別な解決法があります。
ボノボはいつもセックスをしています。
オスとメスの間はもちろんの事メス同士やオス同士でも。
チンパンジーの社会ではこれほど頻繁に性行為が見られる事はありません。
セックスはメス同士の絆を強め争いを防いだり和解したりするのに役立ちます。
だからボノボは「霊長類のヒッピー」と呼ばれます。
「争いはやめて愛し合おう」というわけです。
メスが互いに同盟を結ぶ手段がセックスなのです。
セックスで同盟関係を結んだメスの集団はオスに対して優位に立てます。
メスはその地位を利用して自分たちとりわけ子どもを暴力から守ります。
こうした行動は飼育環境のみならず野生においても広く観察されています。
ボノボのオス同士がケンカを始めたとします。
1頭がもう1頭を追い詰めるとメスが走ってきて間に入ります。
追い詰められた方の母親です。
メスは息子をしっかりと守るので位の高いメスを母親に持ったオスはその後ろ盾のおかげで自分も高い地位を得る事ができるんです。
後ろ盾がなかったり母親が死んでしまったり母親と違う動物園に移されてしまったりするとオスの運命は悲惨です。
メスたちから袋だたきに遭ってしまうのです。
チンパンジーのメスが徒党を組む事はまれで緊張状態が高まると幼い子どもが父親や他のオスに殺される事も珍しくありません。
遺伝的にはほとんど同じボノボとチンパンジーですがその社会はこれほど違います。
原因はオスとメスの役割が遺伝子ではなく生息環境によって決まるからだとドゥ・ヴァールは考えています。
ボノボは食べ物が多い豊かな森に住んでいます。
ゴリラとの生存競争もありません。
チンパンジーと比べて暮らしやすい生息環境だと言えるでしょう。
その結果ボノボのメスは効果的な同盟関係を構築する事ができました。
チンパンジーのメスがオスと一対一で向き合うのとは対照的な事です。
両者の違いはヒトの男女の役割についてどんな示唆を与えてくれるのでしょうか?ここ数世紀の間に人間を取り巻く生態環境は劇的に変化しました。
ほとんどの人はボノボ同様食べ物と住まいには困りません。
そして多くの人が望んだ時にセックスができます。
ヒトはオスが支配し争い事が多いチンパンジー社会から遠ざかり愛と平和を尊ぶボノボのような社会に向かっているのでしょうか。
もめ事はフリーセックスで解決するような社会です。
食べ物に困らなくなったからといって大人が子どもに見せる反応や大人同士の反応まで変化するとは限りません。
「環境がヒトの行動を変えるのは事実だがそれには多くの世代を重ねる必要がある」。
ドゥ・ヴァールはそう考えます。
現代人の行動の起源も数万年前にまで遡るのです。
(ドゥ・ヴァール)森林で暮らすチンパンジーやボノボと違いヒトはサバンナへと出ていきました。
逃げ場所が少ない危険な場所です。
今よりも大きな体をした肉食動物がそこにはいました。
このためヒトは独自の社会を作る必要に迫られたのです。
男性も子どもを守る役割を担い男女の間で絆が結ばれ核家族が出現します。
オスがほとんど子育てをしないチンパンジーやボノボとは大きな違いです。
ヒトはメスだけが子育てをする大型類人猿とは違い通常男女がペアとなって子どもの面倒を見ます。
それは脳内で生成される化学物質に根ざした行動です。
ヒトは絆を結んだパートナーと交流すると脳内にオキシトシンなどのホルモンが分泌されます。
それらのホルモンが互いを信頼するよう私たちに働きかけるのです。
こうした男女の協力関係はヒトの際立った特徴と言えるでしょう。
2人の絆をもとにして家族を作ろうとする傾向は数千年たっても変わらないとドゥ・ヴァールは考えています。
食料が豊富になりどんなカップルでも生殖が可能となり人工子宮が実用化されても子育ては集団の中ではなくパートナーとの間で行われるというのです。
習慣を変えるのは難しいというわけです。
しかし2人の人間による有性生殖では不十分と見なされる日が来るかもしれません。
この医師は遺伝上の親を3人にする事でより健康な赤ちゃんを授かる方法を見つけました。
セックスは新しい命をつくり出す偉大な力を持っています。
2人のDNAの組み合わせから時に驚異的な人間を生み出します。
後世に名を残す芸術家超一流のスポーツ選手など…。
組み合わせの数が多いほどより多様な才能が生まれるのなら親は2人以上いた方がよいのではないでしょうか?医学界の反逆児と言われたニューカッスル大学のダグ・ターンブル。
彼が考案した手法は当時はまだ法律違反でした。
(ターンブル)私たちは深刻な病気を未然に防ぐためにこの方法を開発しました。
それ以外の目的でこのような医療技術を使うのは間違いで適切な事とは言えません。
ほとんどの科学者が私と同意見だと思いますよ。
ターンブルは細胞のエネルギー不足が原因で発症する病気に治療の可能性を開きました。
私たちの細胞は全てミトコンドリアを持っています。
私たちが食べるものはミトコンドリアによって有機的なエネルギーに変換されています。
ミトコンドリアが正常に働かないと細胞は時に機能不全に陥ります。
(ターンブル)それが中枢神経や心臓に悪影響を及ぼしてんかん脳卒中認知症などを引き起こすおそれがあります。
ミトコンドリアは細胞核にあるものとは違う独自のDNAを持ち子どもは全てのミトコンドリアを母親から受け継ぎます。
ターンブルが考案した方法とは子どものDNAの大部分が入った「胚の細胞核」を取り出しそれを健康なミトコンドリアを持った別の細胞に移植するという事です。
同じような事を彼は庭仕事でよく行っています。
(ターンブル)土が悪ければ植物は育ちません。
同じようにミトコンドリアに問題のある卵子から生まれた子どもは健康に育たないのです。
でももしそうした卵子の遺伝情報を健康なミトコンドリアを持った別の卵子に移植できたとすればどうでしょう?その子どもは健康に育ってくれるはずです。
つまり不健康な卵子から健康な卵子に細胞核を移し替えるというわけです。
植物の種の移し替えはともかくヒトの胚の細胞核を移植するとなると細心の注意と正確さが必要となります。
何か手違いがあれば生まれてくる赤ちゃんが深刻な障害を負いかねません。
ターンブルと彼のチームは法律で許可された実験を繰り返し正しい手順の確立を目指しました。
研究用の卵子はドナーから提供を受けます。
それを使ってある特殊な体外受精を行います。
最初にドナーの卵子から細胞核を取り除き健康なミトコンドリアを持った「器」を作ります。
その器にミトコンドリアに問題のある受精卵から取り出した細胞核を移植するのです。
新たにできた健康な受精卵を母親の胎内に戻せば生まれてくるのはかつてない特徴を持った子どもです。
その子は両親の細胞核から2万3,000個の遺伝子とドナーのミトコンドリアから13の遺伝子を受け継ぎます。
遺伝的に言えば3人の親を持つ事になるのです。
どんなに医学的なメリットがあろうと第三者の遺伝子を子どもに与えるのは行き過ぎだとする意見も多くあります。
(ターンブル)遺伝子の数で言えば2万3,000対13ですから影響はごく僅かです。
それで病気を防げるならいい事だと思うのです。
しかし受け入れ難い人がいるのも事実です。
ターンブルが考案したこの特殊な体外受精。
彼はこの手法によってミトコンドリアの異常による病気を根絶できると確信しています。
論議を呼ぶのはもちろんですし宗教的に好ましくないと言う人たちもいるでしょう。
ただ私の見解は異なります。
それはミトコンドリアが原因の病気で苦しむ患者とその家族を私がこの目で実際に見てきているからです。
彼の手法は新しい医学の先駆けでしょうか?遺伝子疾患を防ぐためならミトコンドリア以外の遺伝子でさえ第三者から譲り受けるという世界です。
未来の子どもたちは育ての親以外にも何人もの遺伝上の親を持つのかもしれません。
更に一歩進んでヒト以外の遺伝子を取り入れてより強く健康な子どもをつくれるとなったらどうなるでしょう?スフィンクス人魚スパイダーマン。
人間の知性と動物の能力をあわせ持った生物は想像の産物です。
しかし近い将来そのような生き物が現実に現れるかもしれません。
ランディ・ルイスはユタ州の農場で研究をしています。
彼が実践する農業は科学の限界を押し広げる可能性を秘めています。
それを「神のまね事」と批判する人もいます。
私は高校時代に化学に興味を持ちました。
当時の教師が授業とは別に1人で化学実験するのを許してくれたんです。
ある日いろいろな化学薬品を混ぜ合わせていたら蒸気と煙が天井まで噴き上がってしまいました。
先生は「窓を開けるように」と言っただけ。
叱られはしませんでした。
怖いもの知らずの精神は当時と変わりません。
ルイスが今取り組んでいるのは種の異なる遺伝子を混ぜ合わせる事。
手始めはこの生き物のDNAです。
これはジョロウグモの一種です。
クモがおなかから出した糸にぶら下がっているのを見た事があると思いますがあの糸はタイヤに使われるアラミド繊維よりも強くナイロンよりも伸縮性があるんです。
ずばぬけた強度と軽量性をあわせ持ったクモの糸。
その用途は無限と言ってもよいほどです。
しかしクモの糸の大量生産に成功した農場はありません。
クモは縄張り意識が強く肉食性なので1か所に集めるとすぐに殺し合いを始めてしまうのです。
ルイスはクモの糸を作るのにクモは必要ない事に気付きます。
糸を作るための遺伝子が分かれば事足りるというわけです。
このクモは6種類の糸を作りますがそのそれぞれを作り出す遺伝子を特定しました。
その遺伝子をクローン技術で複製し他の生物に移植します。
ルイスはクモの遺伝子をヤギの受精卵のDNAに移植しました。
生まれてくる子ヤギにはヤギ本来の遺伝子の他に特別な能力が備わっているはずです。
ヤギのゲノムにクモの糸を作る遺伝子を挿入しました。
そしてヤギの乳からクモの糸を作るタンパク質がとれるようにしたのです。
ルイスは「クモヤギ」の乳を搾ると研究室でろ過します。
一回の搾乳で得られる糸の長さは56km。
異なる生物の遺伝子を掛け合わせて作ったバイオ素材が新たな産業革命を起こすかもしれません。
全ての生命体がDNAを持っています。
異なる種のDNAであっても適切な状態に置いてやれば遺伝子は機能するのです。
この考えによれば人間にも動物の遺伝子を取り込む事ができるという事になります。
クモの遺伝子を一定の状況に置けばヒトからクモの糸を生産する事だって考えられなくはありません。
技術の進歩が驚くべき進化を人類にもたらすのでしょうか。
今は両親からの遺伝だけですが将来の子どもは全生物からえりすぐった能力を与えられる可能性があります。
私たちの孫の世代はヤモリのように木を登りチーターのスピードで走り赤外線でもモノを見られるようになるかも…。
「セックスは自然の一部。
私は自然のままに生きていく」。
マリリン・モンローの言葉です。
楽しむ事だけが目的ならセックスは今のまま変わらないでしょうが生殖が目的となるとそうはいかなくなるかもしれません。
遺伝子操作で生まれた赤ちゃんが研究室で育てられる光景を異様に感じる人もいるでしょう。
しかしいつの世も親は子どものために最善を尽くしてきたその本質だけは変わらないのです。
2017/01/13(金) 22:00〜22:45
NHKEテレ1大阪
モーガン・フリーマン 時空を超えて「“生殖”は変化するのか?」[二][字]

数百万年変わらなかった、ヒトの生殖に革命が起きるかもしれない。二人の父親、二人の母親から子どもが生まれる?性の営みがなくなる?命の誕生を巡る様々な研究に迫る。

詳細情報
番組内容
ある遺伝学者は、カンガルーと人間の遺伝子を比較し、人類の未来を予測。人間は将来的に有性生殖をしなくなる可能性を指摘。ある生殖医療の専門家は、胚性幹細胞に着目。どんな細胞でも作り出せるということは、男性から卵子を作ることもできるかもしれないと考えている。遺伝上の親を三人にすることで、深刻な疾患を未然に防ごうという試みも。生殖を巡る驚きの研究の数々。性の営みは、本当に消えてなくなるのか?
出演者
【語り】菅生隆之