全文書き起こしサイト

地上波テレビの字幕を全文書き起こします

スポンサードリンク

字幕書き起こし 日本の話芸 笑福亭仁智 落語「多事争論」 2017.01.16

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)ありがとうございます。
昨年は不倫の一年でございましてゲス不倫てな事言うてねえらいもんでございます。
正月早々歌手が不倫するやら国会議員が不倫するやら噺家が不倫するやら…。
(笑い)歌舞伎役者も不倫を致しましてえらいもんですね。
あの〜嫁さんがちゃんとねフォローしてうまく収まったなんてね日本はそうなんですけどアメリカ違うんですね。
アメリカはもう即離婚や。
あんなんあったらね即離婚。
アーノルド・シュワルツェネッガーとかねタイガー・ウッズとか即離婚でしたね。
タイガー・ウッズなんか不倫相手19人おったっちゅうねん。
19人。
えっ。
ゴルフでも18ホールしかないのにやで。
19人おったっちゅうねん。
すごいですねぇ。
ええ。

 

 

 


でまた慰謝料は100億円やそうです。
100億円ですよ。
100円置くんちゃいますよ。
まっこれトミーズのネタですけどね。
100億円。
私100億円稼ごうと思うたらここの高座へ何回上がってこないかん?これ。
5回も上がらなあかんがな。
これWヤングさんのネタですけどね。
まあまあ噺家はありがたい仕事でねこうしていろんな所でいろんなお客さんの前でやらして頂きましてねちょっと大阪離れますとね何て言いますかね観光気分といいますか仕事なんですけどね観光気分を味わえたりなんか致しましてねちょうどおととしですかね。
1週間ほど北海道へ。
いいですねぇ。
あの釧路の先に根室という所がございますが釧路湿原の間をねトコトコトコトコ2両連結ですわ。
ワンマン電車でねきれいな景色のとこ途中でパッと駅でもないのに止まって運転士さんがねマイク持って観光案内してくれるんですね。
「右手前方ご覧下さい。
ただいまエゾシカの群れがご覧頂けます」言うてね。
「わ〜エゾシカや」言うたら向こうも「わ〜噺家や〜」。
(笑い)もういろんな楽しみがありましてねありがたいんですけど。
まあまあ最近はねそうやってこう何か便利な乗りもんが出来ましてねえ〜前まで行けなかった仕事が行けるようになるというね。
えらいもんですよ。
私もね2〜3年前でしたかね。
豊岡で仕事が5時にあるいうてねほんで大阪で3時に終わって5時に豊岡行けないんで…普通やったらですよ。
車でも電車でも行けないですよ。
ところが探したらあるんですね飛行機が。
大阪伊丹空港から4時に出発するというね。
豊岡の但馬空港いうんですかね。
コウノトリ但馬空港いうとこでねプロペラの飛行機です。
プルプル〜のやつがね。
ほんで4時に乗ったら4時半に着いて仕事間に合うんですよね。
えらいもんですねぇ。
ところが行きました当日ね何か天候が悪くてね案の定「天候調査中」とかいうて飛べへんかったらあかんのです。
飛べへんかったら…飛行機飛べへんかったら仕事が飛ぶんです。
「え〜どうすんねん」って話や。
「なんとか飛びます」言うてね乗してもうたんですけど30人乗りのちっちゃいやつですわ。
ほんまに。
ほんでこう大阪国際空港いうたってこんなトンネルみたいなね「雨降っても大丈夫」みたいなとこでここから飛行機へパッと乗れないんですね。
小さい飛行機ですからとりあえずバスで移動や。
バスで飛行機まで移動すんねん。
とりあえずバスより飛行機がちっさいんやもん。
(笑い)恐らくやで。
バスは40〜50人乗れるけど飛行機30人乗りやからな。
ほんでペ〜ッと行って隅の方へパ〜ッと行ったら隅の方でジャンボとかこんな大きい飛行機の横で…。
「飛行機あれですか?」言うたら「あれや」。
ほんでこんな大きなタラップでぐわ〜っと行くとかそんなんちゃうんです。
自分であ〜って出してその上こう乗って…。
ほんで一番後ろの席やったからね「前ちょっとすいてるし前へ座りますわ」言うたら「前座ったらあかん」ってスチュワーデスさんがね。
「何でですか?」言うたら傾くちゅうて。
まあしゃあないですから乗りましたけどね。
プロペラぐるるるる〜!ぐるるるる〜!何かアナログですね。
3,000メーターの滑走路まで行くっていらんやろそんなん!パパッと飛べるやろと思うんですけどね。
滑走路のとこへ行ったらうう〜って思いっきりうう〜って何かこうびゃっとスピード瞬発力つけるんですかね。
うう〜!うう〜!うう〜!何か「もう頑張ってや!」って飛行機に手ぇあったら握手したい。
そんな感じ。
「ううううう…」いうて。
大丈夫かなと思ったらスチュワーデスさんが「ああ〜!」やっとるし。
こないになってこないになって行ったんでございますが。
まあそんなんでね。
ちょっと息があがって…。
(笑い)何か楽しいですね。
たまに東京なんかも行きましてね。
東京はいいですね。
何か落語会見てますと東京のお客さんは通の方がねたくさんにおられましてね。
東京の噺家さんが出ていきましたら客席から声がかかるんですね。
「待ってました!」。
うまい事言いまんな。
「待ってました!」。
待ってたよという事やあれね。
「たっぷり!」てな事言うてね。
タイミングがええですね。
チャカチャンチャンチャンチャンチャンチャンってパッと顔上げたら…。
「たっぷり!」。
うまい事言いまんな。
私もこの前大阪で落語会出ましてチャカチャンチャンチャンチャンチャンチャンってパッと顔上げたら客席から…。
「手短に!」。
(笑い)まあこれはこれで期待に応えたんですけどね。
「たっぷり」言われても私言葉用意してるんですよね。
客席から「たっぷり!」言われたら「お断り!」。
(笑い)まあそんなんで気楽にやらせて頂いておりますが。
ただ東京行きますと何か大阪の人間が行くとね緊張感があるというかね何か変な感じなんですね。
別に向こうの方は何とも思ってないんでしょうがね。
対抗意識といいますかね何か変なね居心地あんまりよくないというかねそんな感じがするんですね。
東京行きますとね何か例えば落語界でいいますと米朝一門の落語会出てるようなね何かそんな…。
何かね家で言いますと嫁はんの実家へ帰ってるようなね。
何かあんまり落ち着かないんでございますよね。
まず山手線いうんですか?パッと降りたらこうきれいに並んでる。
きれいに並んでんねやあれ。
どうよ?あれ。
あんなきれいに並ばれたら気持ち悪いよかえって。
何でそないきれいに並ぶの?大阪へ帰ってきたら安心する。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ〜。
ぐちゃぐちゃ〜。
あれ一応ルールがあるんですよ。
早いもん勝ちというねルールはあるんですけど。
何かね東京はう〜ん…。
そういうふうなね上から目線といいますかね何となく我々行きますとちょっとした緊張感がねありますね。
何かあんまり親切じゃないですね電車の案内でもね。
大阪でしたら「先発」先やで。
「次発」次やで。
こんな分かりやすいのないけどね。
アホでも分かる私でも分かるわ。
先発次発!東京行きましたら「今度の電車」横に「次の電車」。
どっちが先ですか?
(笑い)自分で考えなさいよ。
何言ってんの自分で考えなさい。
東京はねもう冷たいような感じがしますね。
何かポスターでもそうですね。
痴漢防止のポスターね。
東京は「痴漢は立派な犯罪です」って。
どこが立派やねん。
(笑い)何か文法がおかしいんじゃないですか?自分で考えなさいよそんな事は。
東京はもう自分でやらなあかんですね。
大阪はそんなん考えんでもええ。
分かりやすいように「痴漢あかん」やもんね。
(笑い)合わしてくれてるわほんま。
ほんまね。
警察の犯罪防止月間っていうのがありますよね。
犯罪防止月間。
東京は何かそんなポスターでも文句が堅苦しいですね東京は。
「犯罪防止月間。
犯罪防止にご協力下さい。
あなたの情報待ってます」。
何か官僚の仕事いう感じが致しますね。
大阪はまあほんまに親しみやすいよ。
「大阪府警たれ込み歓迎」。
(笑い)人を誰やと思てんのっちゅうようなもんや。
うんねえ何か動物園行ってもちゃいますね。
動物園行きましてトラとかライオンのおりの注意書きなんかね白い看板に赤い字で「危ない!」って東京はね書いてある。
「危ない!」って書いてもう細かい「危険ですから近づき過ぎないようにしましょう」って。
字が細かいさかい近づくっちゅうねん。
(笑い)ねえほんまに。
その点大阪分かりやすいですよ。
神戸王子動物園大きな字で「かみます」。
(笑い)かむんやもん。
注意せなかむんやから。
こんな分かりやすいもんないわねほんまに。
いろいろと東京と大阪は違いますね。
子どもの叱り方が違いますね。
私一回ね長野県の黒四ダムいうところ行きましてね同じように子どもに注意してる東京のお母さんと大阪のおかんを見たんですけど微妙に違いましたね。
えらいもんですね。
東京は何か怒り方もシュッとしてまんなやっぱりね。
子どもに「これケン坊!」。
東京のケン坊もシュッとしとるわほんま。
あれ毎晩風呂入っとんなあれ。
「これケン坊」。
どういうふうに言うかいうと「これケン坊そんなとこにのぼって落ちたらどうするの?」。
落ちたらどうするの?落ちたらどうなるかどうなってどうなるか自分で考えて自己責任。
自分で考えなさいってね。
教育的指導ですね。
大阪はちゃいますよ。
「これケン坊」。
大阪のケン坊はな垂らしとんのや。
「これケン坊」。
大阪はね責任の所在をはっきりさしますわ。
えらいもんですよ。
「これケン坊そんなとこにのぼって落ちても知らんで!」。
知らんで!?言われたら頑張るっちゅう話や。
ねええらいもんですね。
おじいちゃんが亡くなってどうなるか。
東京ですと「おじいちゃん亡くなってどこ行くの?」。
子どもに聞かれたらね「そうねお空のお星様になるのかしら?天国へ行くのかしら?」。
メルヘンですね。
大阪は現実的ですね。
「おじいちゃん亡くなってどこ行くの?」。
「うん焼き場」。
(笑い)「どうなんの?」「骨」。
せやろうけども。
ね。
それから自分の旦那の生命保険に入る時の入り方が違うんですね東京と大阪と。
えらいもんですね自分の旦那の生命保険に入んのに東京の奥さんはまず第一に何聞くかいうとセールスレディーの人に「すいませんこれ掛金いくら?」。
毎日…毎月なんぼかな?大事なもんですよ。
「すいません掛金いくら?」まず第一に東京は聞きます。
大阪ちゃいますよ。
「ごめんこれ死んだらなんぼ?」。
(笑い)せやろうけど…。
まあまあ東京大阪ね近いんですけどいろいろと違いがありますね。
食文化もだいぶ違うようでございまして。
「ちょっとあんた!ちょっとあんた!早い事朝ごはん食べんと冷めてしまうし!」。
「ごめんごめんえらい遅なってしもうた。
今日の朝ごはんおかずは?おっ目玉焼きか!久しぶりやな俺目玉焼き好っきやねん。
これ大好きや。
おいちょっとソース取って。
ソース取って」。
「ごめん今日ソース切らしてんねん。
悪いけど今日はしょうゆかけて食べといて」。
「何言うてんねんなおい。
な!しょうゆはええねや。
ソース取って言うてんねん」。
「ごめんソース切らしてるさかいな今日はしょうゆかけて食べといて言うてんねん。
な!」。
「何言うてんねんなお前。
目玉焼きにはソースやろ!」。
「何言うてんのあんた。
ないもんしゃあないやないか。
しょうゆかけて食べた事ないか?ないもんしゃあないさかいな今日はしょうゆかけて食べといて」。
「あかんはっきり言うてなわしゃ今年定年や。
な!今まで家庭に波風立てんようになものすごい我慢して生きてきたんや。
せやけどこれからはな言いたい事は何でも言う事にしたんや。
な!」。
「それが目玉焼きにソースかいな」。
(笑い)「ええやないのないねんさかい」。
「あかんちゅうたらあかんねやお前。
あのな朝ごはんちゅうたら一日で一番最初の大事な食事や。
目玉焼きにはソースて決まってんねん!」。
「あんたなあんたそこまで言うのやったら私言わしてもらうけどな前からあんたに言いたかったんやけどあんた何でもかんでもソースかけて食べ過ぎちゃう?カツにソースは分かるよ。
カレーライスにソース肉まんにソースあんた天ぷらにまでソースかけて食べてるやないの」。
「お前なお前東京の人間やと思って大阪の人間の食生活バカにしとるやろお前。
お前天ぷらにソースかけて食ったらどんだけうまいと思ってんねんお前。
レンコンの天ぷらにソースサツマイモの天ぷらにソースタマネギの天ぷらにソース…なあ?お前紅ショウガの天ぷらにソースかけて食べたらどんだけうまいかお前知らんやろお前。
おっ!ちょうどええがな大阪生まれの…なあ!大阪育ちが起きてきた。
おいカズオカズオ…!おい座れ。
お前…目玉焼きに何かける?」。
「俺はケチャップ」。

(笑い)「えっ?何やて?」。
「俺はケチャップ」。
「あっごめん。
カズオはケチャップやったね。
はいケチャップ」。
「ちょっと待ったオラ!おいカズオのケチャップはようて俺のソースが何であかんねん」。
「何言うてんの。
卵料理にケチャップ普通やないの。
あんた考えてみいな。
ええ?大阪・梅田の百貨店の大食堂のオムライスに何かかってる?」。
「ケチャップ」。
「そやろ?卵料理にケチャップ普通や。
なあ?ソースかけて食べんのはカツかフライもん。
なあ?それかお好み焼きか焼きそばぐらいなもんや。
目玉焼きにソースかけて食べるっておかしいんちゃう?変態や変態!」。
「やかましいアホンダラ。
ああ…あのなそれはお前は東京生まれの東京育ちお父さんもお母さんも東京の人やさかいな。
言葉はしゃあない言葉はしゃあないよ。
忘れもせんわ忘れもせん。
新婚当時な俺会社行こうと思って服着替えててお前に言うたな。
『おいカッター取ってくれ』言うたらお前何持ってきた?カッターナイフ持ってきたやろ。
それはカッターシャツやろ」。
「何言ってんの。
あれはワイシャツやないの」。
「そらな東京でワイシャツ言うかもしれんけどな大阪ではカッターシャツっちゅうねん。
ほんで玄関先で鼻かんでかんだ鼻紙をお前に渡して『これほかしといてくれ』って渡したらお前わしが家帰るまで冷蔵庫で保管しとってん」。
「知らんもんしゃあない」。
「しゃあない言うてるやん。
言葉はしゃあない言葉はしゃあないけどなお前何年大阪に住んでんねん。
なあ?『郷に入っては郷に従え』いう事があるやろ。
そらな東京でな肉言うたら豚肉かもしれんよ。
そやけど大阪で肉言うたら牛肉牛肉牛肉や!なあ?お前が『肉じゃがやで』言うさかい楽しみに帰ってきたら肉じゃがは肉じゃがでも豚肉の肉じゃがやないかい。
カレーライスの肉も豚。
肉うどんの肉も豚。
ハッシュドビーフが何で豚やねん。
アホ!ええ?トンカツまで豚やないか!おい!ここはつっこむとこやろアホ!バキュ〜ン!死んだマネせえ言うとるやろアホ!」。
「何であんたにつきあわなあかんの。
うるさいわほんまに。
何でそない大阪の人間声大きいの?ほんまに。
もうほんまに近所のおばちゃんでもそやわ。
『ここだけの話やけどな』って町内中聞こえてるわ。
何で自転車のハンドルに傘ささってんの?おかしいやん。
何でアメ持ってんの?冬になったらミカン持ってるしほんまに。
おかしいんちゃうか?誰とでもようしゃべるし。
この前隣の犬としゃべってたわおばちゃんほんまに。
もっとな自分の言葉に責任持ってほしいわほんまに。
あんたもそうやないの!自分の言葉に責任持って生きてみれ。
昔から言うやろ『これと…この服とこの服どっちがええ?』って私が聞いたらこっちがええんちゃうかやったら『こっちがええんちゃうか』でええんちゃうの?そのあとに何で責任逃れの言葉つけるの?『こっちがええんちゃうか分からんけど』。
分からんかったら言いなっちゅうねん。
そやろ?『これどうやった?』言うて『ああやったんちゃうか知らんけど』。
知らんかったら言いなっちゅうねん。
ほんまにボ〜ッとして一日中朝から晩までテレビ見て。
見んのはええよ。
そやけど集中したらどうやの?相撲とそれから時代劇とこの前なんかあんたBSの世界の天気見てたな。
えっ?あれ見て何かあんの?えっ?最後にあんたひと言つぶやいたの聞いてビックリしたわ。
『ロンドンは今日は昼から雨か』っておかしいんちゃうか?時代に取り残されるであんた。
あんた芸能界疎すぎんのとちゃうか?ほんまにこの前もAKB48が出てんの見て『おお!おニャン子頑張っとんな』。
いつの時代や!あんた峰竜太と竜雷太の違い分かるか?上戸彩と綾戸智恵の違い分かるか?私なハッキリ言うてなあの…しょうゆ顔の男と結婚したかったんやほんまに。
もう結婚してよう見たら何かコテコテの中濃ソースみたいな顔して…。
ほんまに何でもかんでもソースかけて食べるわほんまに。
あんたこのごろ何か中濃ソースのラベルの犬の顔に似てきたんちゃうか?」。
「やかましいわお前お前こそお前…焼きそばにかけるソースのお前こう…こんな顔に似とるやないかい!」。
「悪いけどな私の前でお好み焼きをおかずにごはん食べんのやめてくれるか」。
「お前こそな俺の前で納豆かき混ぜんのやめ」。
「何言うてんの。
納豆は日本で一番おいしい健康食品やないの。
納豆のおいしさが分からんなんて味覚音痴や味覚音痴!」。
「やかましいわお前。
東京のいなか者!」。
「大阪の贅六!」。
「このガキほんまに生意気な事言いやがってほんまに。
どついたろか!」。
「何か言うたら『どついたろか!』ふ〜ん!ぶてるもんならぶってみな」。
「中途半端な江戸っ子使うな。
アホンダラ」。
「たたいたな。
親にもたたかれた事ないのに。
殺せ!」。
「殺したろか!」。
「ちょっと待った待った待った。
待った待った待った待った」。
「ああこれは家主さん」。
「家主さんやないでお前。
どないしたんや?お前ええ?大きな声で朝っぱらから」。
「いや〜それがねええとこに来とくんなはった。
うちの朝ごはん何やと思いなはる?」。
「朝ごはん。
何や?」。
「目玉焼きでしてん」。
「おお目玉焼き。
ええやないか」。
「それがね目玉焼き私半熟のやつにねソースピュッとかけて食べんのが好きでね。
せやさかい『ソース取って』言うたら『ソースがない。
切れてる。
今日はしょうゆかけて食べといて』。
大阪の人間が目玉焼きしょうゆかけて食べられまっか。
『ほんだら何でもかんでもソースかけて食べてあんたこのごろソースのラベルの犬の顔に似てきたんちゃうか』。
こんな事言いよりまんねん」。
「うまい事言うやないか」。
「どういう事?よ〜しお前こそ…お好み焼きのソースのラベルのこんな漫画に似てるやないかい」。
「おおこれもうまい」。
「何言うてまんねんあんた。
『どついたろか!』『ぶてるならぶってみな』『中途半端な江戸っ子使うな』『さあ殺せ』とこうなった訳で」。
「ようやるでほんまに。
ええ?何か目玉焼きにしょうゆかけるかソースかけるかでそこまでいったん?長生きせえお前らほんまに」。
「家主さんええとこに来とくんなはった。
目玉焼きにはソースでっしゃろ?」。
「何言うてんのあんた。
目玉焼きにはしょうゆでしょ?」。
「うちは塩やで」。

(笑い)「目玉焼きに…目玉焼きに塩でっか?」。
「そうや。
目玉焼きにひとつまみ塩をかけて食べんのが正統派目玉焼きの食べ方や」。
「何を言うてんな。
目玉焼きに塩てあんた煮抜きやないねんさかいそんなんおかずになりまへんがな」。
「何を言うとんのや。
目玉焼きに塩。
天ぷらに塩。
ごはんに塩じゃ」。
「ブブブのブ〜。
家主さんそれは違います。
目玉焼きにはしょうゆ。
天ぷらには天つゆ。
ごはんにはふりかけと違うんですか?じゃあ家主さん家主んとこはええ?トマトには何かけて食べはるんです?」。
「もちろんトマトにも塩じゃ」。
「ブブブのブのブのブ〜!うちはトマトにはマヨネーズです〜。
ねえ?あんた」。
「俺はソース。
これからも何でもソースかける。
もうあの刺身にもソース。
歯ブラシにもソース。
トーストにもソース。
もうソースと共に死んでいく」。
「何言うてんのあんた。
こんな老いぼれに惑わされてどうするん」。
「ちょっと待ったこら。
聞き捨てならんな。
老いぼれって誰に言うてんねん。
老いぼれって。
ああ?このお多福!」。
「お多福!?お多福って何なんですか?」。
「お多福やないかいお前。
ええ?もうこの家がなここの家が気に入らんのやったら出ていってな。
お前んとこみたいななあげて物夫婦にいてもらう筋合いない」。
「ちょっと待った。
家主さん何だねそのげて物ってどういう…?」。
「げて物やないかい。
トマトにソースかけて食べるとげて物以外の何ものでもない」。
「やかましいわこのはげちゃん」。
「はげちゃん!?一番気にしてる事言いやがって。
お前らほんだら今日中に出てってもらう。
頭から塩か…塩かけて塩…」。
「かけてもらおうやないかい」。
「ちょっと待った待った待った待った待ちなはれ。
大きな声で。
どないしはりましたんや?」。
「おお隣のタナカはん」。
「タナカやおまへんであんた。
どないしはりましたんや。
朝っぱらから塩やソースやはげちゃんって何があったんでっか?」。
「いいやいなええとこに来とくんなはった。
これこれこういう訳でね目玉焼きにしょうゆかけるか塩かけるかソースかけるかでもめてまんねやほんま。
ええとこに来とくんなはった。
あんたの意見で我々夫婦がげて物夫婦かそれとも私が変態かまともか決まりまんねん。
タナカはん!目玉焼きにはソースでっしゃろ?」。
「何を言うてんのあんた。
タナカさん目玉焼きにはしょうゆでしょ?」。
「何を言うとるんじゃほんまに。
タナカ目玉焼きには塩かけるよな?」。
「うちはタバスコです」。

(笑い)「タ…タバ…タバスコ!?目玉焼きにタバスコ!?ほなトマトには何かけまんねん?」。
「トマトにはバルサミコ酢」。
「バルサミコ酢!?ババババ…バルサミコ酢!?トマトにバルサミコ酢て!何ででんねん」。
「いやうちのワイフがイタリア人なもんで」。
「イタリア人!?イタリア人…」。
「あんた何でそんなとこ反応すんねん」。
「ちょっとタナカさんじゃあ聞きますけどねあの肉まんには何つけて食べはるんです?」。
「ちょっと待った!お前。
何年大阪に住んどんねん。
『肉まんと言わんと豚まんと言え』言うとるやろ。
アホ。
タナカはん!豚まんには何つけて食べはる?」。
「豚まんにはマスタード」。
「マスタード!?」。

(笑い)「何言うてるんですか。
豚まんこそ…豚まんこそウスターソースをジャボッてつけて食べんのが一番うまいとちゃいまんのか」。
「何言うてんの!豚まんはからしじょうゆやないの!ねえ?家主さん」。
「うちはゴマだれ」。

(笑い)「ゴマ…ゴマだれ?ゴマだれ。
ちょっと向かいの木村はん」。
「へえ」。
「お宅は何つけて食べはります?豚まんに」。
「うちは大根おろし」。
「大根おろし!?」。
「分かりました。
という事で裁判所へ判断を仰ぎに来たとそういう事ですな?」。
「はいおっしゃるとおりでございます。
せめて目玉焼きに何をかけて食べたらいいか判定を下して頂きたいと思いまして」。
「分かりました。
じゃあここはひとつ裁判員裁判で判定を下しましょう。
今日は本当にたくさんの裁判員の方がお越しです。
裁判員の方の拍手で目玉焼きに何をつけて食べるべきか目玉焼きだけに…黄色白はっきりさせましょう。
じゃあいきましょう。
大きな拍手でお願いしますね。
はっきりと意思表示をお願いします。
では目玉焼きには私はしょうゆをかけるわよという方お願いします」。
(拍手)「私は塩ですよという方」。
(拍手)「何言うてまんねん!ソースでんがなという方」。
(拍手)「ケチャップですよという方」。
(まばらな拍手)
(笑い)「タバスコですよ」。
(拍手)「お〜っ!じゃあほかには?」。
(観客)マヨネーズ。
「マヨネーズ!」。

(笑い)「マヨネーズ…。
はいほかに?」。
(観客)ポン酢。
「ポン酢!」。

(笑い)「ポン酢…。
もうないですか?」。
(観客)砂糖。
「砂糖!」。

(笑い)「いや〜結論が出たようですね。
目玉焼きにはそれぞれ好きなものをつけて食べる」。
(拍手)「これが一番ですな。
私もいろんな裁判につきあいましたがこんな無駄な時間を使ったんは初めてでございます」。
「すいません。
しょうもない問題を持ち込みまして…。
我々一同が未熟でございました」。
「何ですと?」。
「我々一同が未熟でございました」。
「未熟は駄目ですね。
目玉焼きは半熟に限ります」。
(拍手)2017/01/16(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 笑福亭仁智 落語「多事争論」[解][字][再]

第369回NHK上方落語の会から笑福亭仁智さんの口演で「多事争論」をお送りします(平成28年12月8日(木)NHK大阪ホールで収録)。

詳細情報
番組内容
第369回NHK上方落語の会から笑福亭仁智さんの口演で「多事争論」をお送りします(平成28年12月8日(木)NHK大阪ホールで収録)【あらすじ】東京と大阪では日常生活の中でもさまざまな違いがある。東京出身の妻とコテコテの大阪の夫とのいさかいをコミカルに描く。まずは、目玉焼きにソースかしょうゆかというところでの夫婦での言い合いから始まるのだが、さまざまな人たちを次第に巻き込んで大論争に発展していく…
出演者
【出演】笑福亭仁智,桂米輔,桂米平,桂二乗,増岡恵美