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セリフ書き起こし NHKスペシャル「女たちの大震災〜最新医療が迫る 体と心のリスク〜」 2017.01.22

私たちを襲う巨大災害。
災害時男性に比べて女性の方がより深刻な影響を受ける事が最新の研究で分かってきました。
今日はこれまで見過ごされてきた女性の体と心のリスクに迫ります。
6,434人が犠牲となった阪神・淡路大震災
30万人以上が避難生活を余儀なくされた未曽有の都市災害でした
地震の3日後から被災地に入った私が目にしたのは過酷な状況に置かれた女性たちの姿でした
もう生きてる事だけで精いっぱいだったから水とか食べ物とか今晩寝る所…。
言いたい事がいっぱいあってもう眠れなくて…。

 

 

 


避難生活は被災した人たちにどのような影響を及ぼしたのか
詳しい実態が記された貴重な資料が残されていました
地震直後に体調を崩した3,500人の入院記録です
最新医学の分析で浮かび上がったのは特に女性で高まる命を脅かすリスク
震災から22年たって初めて明らかになったのです
地震直後の避難生活でできる血の塊血栓
血栓が原因で当時多くの女性が深刻な病気を発症していました
発症のリスクは20年以上たっても続いています
当時被災した女性の体から今も次々と血栓が見つかっているのです
更に女性が震災のストレスをより強く受けるメカニズムも分かってきました
ストレスをきっかけに分泌されるあるホルモン。
脳にダメージを与え心の病を引き起こすおそれがあると専門家は警鐘を鳴らしています
災害が相次ぐ日本。
女性を取り巻く過酷な現実は今も変わっていません
阪神・淡路大震災から22年。
初めて明らかになった女性のリスクに迫り対策を探ります
阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた港町神戸。
22年前私はここ神戸港で被災した人たちを取材しました。
誰もが過酷な状況に置かれた訳ですけれどもとりわけ印象的だったのがたくさんの荷物を抱えて子どもの手をしっかり握って必死に歩く母親の姿でした。
被災した女性たちはその後どうなったのか。
今回の取材で意外な事が分かってきました。
注目したのは性差医療という新しい分野です。
これまでの医学は主に成人男性を基準としてきましたがこの性差医療では男女の体の違いに目を向けて病気のメカニズムを解明。
性別に応じた病気の治療法や予防法を見いだそうとしています。
こうした視点で取材を進めていきますと災害時には女性の方が体や心のリスクが高まるという事が見えてきたんです。
阪神・淡路大震災の被災者およそ3,500人の入院記録です。
地震直後避難所から95の医療機関に搬送された人などの具体的な状況が記されています。
混乱した避難生活の中で突然現れた命を脅かす症状。
震災が被災者の体に及ぼした影響が分かる貴重な資料です。
これを分析すると災害時には男性より女性のリスクが高まる脳や心臓の病気がある事が分かってきたのです。
今回入院記録を分析した…脳や心臓の病気の男女差を研究し災害の対策に生かそうとしています。
この人かなり厳しい状況だったでしょうね。
河野さんは女性にある病気が目立っていた事に気付きました。
脳の血管の障害で起きる脳卒中。
通常は男性の方が多く発症する病気です。
ところが河野さんの分析では震災後の発症率は男性が通常の1.3倍だったのに対し女性は1.8倍に伸びていました。
女性の方がより伸びたのはこれまでの医学では考え難いといいます。
なぜ女性の脳卒中が増えたのか。
河野さんは避難生活のストレスによって血圧が急激に上昇したのではないかと見ています。
強いストレスを受けると全身の血管に張り付いている交感神経が活性化されます。
すると血管が締めつけられ血圧が上昇。
血圧の上昇が続き脳の血管が破れると脳卒中につながります。
最近の海外の研究ではこの血圧の上昇率には性別によって違いがある事が指摘され始めています。
ストレスを受けた時どのくらい血圧が上がるか男女の違いを調べたグラフです。
横軸が交感神経の働きの強さ。
縦軸が血圧です。
ストレスで交感神経が活性化されるにつれて女性の方が男性より血圧が上昇しやすい結果となっていました。
血圧の上昇の違いによってより女性に脳卒中が増加すると河野さんは考えています。
震災後脳卒中で亡くなった…避難所から病院に搬送された時血圧の値は200を超えていました。
家族4人で身を寄せた避難所は最大3,000人が詰めかけライフラインが途絶えた過酷な状況でした。
夫はガスの復旧工事の仕事で忙しく大畑さんが一人家族を支えていました。
ずっと着とったなお母さんこれ。
当時高校1年生だった…地震から3か月後母親に異変が起きたといいます。
それから1か月後母親は避難所で突然意識を失い搬送先の病院で息を引き取りました。
子どもたちを不安にさせないよう気丈に振る舞っていた母親。
声をあげられずストレスをため込んでいたのではないかと娘の知子さんは考えています。
3,500人の入院記録から明らかになった女性で高まる脳卒中のリスク。
記録の分析を進めると女性の命を脅かすもう一つの深刻なリスクが見えてきました。
血管にできる血の塊血栓です。
失礼します。
先生よろしくお願いします。
災害時の血栓が体に及ぼす影響について長年研究してきた…榛沢さんの分析では血栓が原因で病気になった疑いがある人は男性38人に対し女性は52人。
女性が男性を上回っていました。
榛沢さんによると女性の方が避難所で運動不足になったりトイレを我慢し水分を控えたりする傾向があるため血栓ができやすいといいます。
血栓はエコノミークラス症候群など命に関わる病気につながると警鐘を鳴らしています。
当時血栓の疑いがあった52人の女性。
(チャイム)こんにちは。
こんにちは。
そのうちの一人が取材に応じてくれました。
神戸市で被災した…22年前の地震のあとで突然倒れ入院しました。
地震から11日後突然胸の痛みを訴え意識を失っていました。
診断は肺塞栓症。
いわゆるエコノミークラス症候群でした。
家族6人で車中泊をしていた安川さん。
トイレの回数を減らそうと水分を控えていました。
血管にできる血の塊血栓。
避難生活では特に足にできやすいといわれています。
血栓が剥がれると血管を通って体内を移動。
全身を巡り細い血管で詰まると血流が止まって細胞が壊死します。
血栓は肺の血管で詰まるエコノミークラス症候群や心筋梗塞などにつながり命を脅かすおそれがあるのです。
血栓のリスクは阪神・淡路大震災から22年たった今も続いているのではないか。
神戸で調査が始まっています。
問診票を記入して頂きたいんですけれども。
地震直後血栓が原因で倒れた安川孝子さんも調査に協力しました。
この22年血栓の検査を受けた事はありません。
今またさっきみたいに…。
左足に血栓が見つかりました。
長さは5cm。
血管から剥がれかけていました。
そうですか。
安川さんはその後病院で詳しい検査を受ける事になりました。
実は血栓は一度できるとその後もできやすくなる事が分かっています。
血栓があった場所には痕が残ります。
すると血液が固まりやすくなり繰り返しできる場合があるのです。
榛沢さんは2004年に発生した新潟県中越地震の被災者を毎年調査してきました。
血栓が見つかった女性の割合は全国平均と比べるとおよそ2倍の水準で続いていました。
地震から長い時間がたっても女性のリスクは続くと榛沢さんは考えています。
この日検査を受けた女性21人のうち足の血栓が見つかったのは8人。
被災していない地域の同じ年代の女性と比べ2倍の多さでした。
3,500人の入院記録から地震直後に血栓があった女性は被災地全体で1万人に上っていたと榛沢さんは推計しています。
震災から22年。
女性の体に潜むリスクに今ようやく目が向けられ始めています。
地震直後にできた血栓がまるで時限爆弾のように長年残ってしまう。
これは女性にとってとても怖い事です。
実際血栓によってエコノミークラス症候群になった女性は去年の熊本地震でも相次ぎました。
熊本県によると入院が必要と判断された54人のうちなんと42人が女性でした。
震災の時に多くの女性に血栓ができてしまう。
その現実は今も変わっていません。
その対策なんですけれどもまずは震災直後の女性のストレスが減るように避難環境を改善する事です。
そして私たちにも手軽にできる事があります。
日本循環器学会は足首のストレッチやこまめに水分をとる事を勧めています。
またこちらの弾性ストッキングは血行をよくして血栓を防ぐ事ができます。
こうした対策は足に血栓がある人でも改善する効果があるんです。
震災が女性にもたらす長期的な影響は体だけでなく心にも及んでいます。
震災のストレスが特に女性の心をむしばむ詳細なメカニズムが最新の研究で解明されてきました。
NHKが被災した人を対象に実施してきたアンケート。
この20年延べ1万人以上の男女の声を聞き続けてきました。
今も癒えぬ悲しみ。
不安の声などが記されています。
「20年たった今も夜中突然に思い出し涙する」。
このアンケートを男女の違いで見ると顕著に表れるある傾向がありました。
多くの女性が震災を思い出し夜眠れないと答えていたのです。
3年目のアンケートで眠れない事があると答えた男性は51%。
女性は55%でした。
これに対し20年目のアンケートでは男性は36%女性は47%でした。
女性の方が減り幅は小さく眠れない症状が長く続く傾向が初めて見えてきたのです。
アンケートで眠れないと答えた…大利さんが育った町は地震で大きな被害を受けました。
町が復興した今でも近くを歩いただけで当時の光景が思い出されるといいます。
女性に眠れない症状が長く続く背景には何があるのか。
最新の研究で明らかになってきています。
脳とストレスの関係を研究している…不眠は心の病の症状としてよく見られるといいます。
功刀さんが原因の一つとして指摘するのはコルチゾールというホルモンの影響です。
ストレスを感じた時に分泌されるホルモンコルチゾール。
過剰な状態が続くと脳にダメージを与えてしまう事があります。
そのため通常視床下部などから指令が出てコルチゾールは減ります。
しかし女性では男性に比べこの減らす働きが弱いと考えられています。
女性ホルモンの影響です。
女性ホルモンは視床下部に作用しコルチゾールを減らす働きを弱めます。
災害時のようにストレスを繰り返し感じるとコルチゾールを十分に減らせず過剰な状態が続く傾向があるのです。
その結果脳がダメージを受けやすくなりうつ病など心の病になるリスクが高まると考えられています。
不眠が長引き治療を受け続けている人がいます。
22年たった今も睡眠薬を服用しなければ眠る事ができません。
浅井さんは当時小学5年生だった娘の亜希子さんを亡くしました。
あの日浅井さんの家は倒壊。
隣で寝ていた亜希子さんと共に下敷きとなりました。
暗闇の中で唯一感じたのは僅かに触れる我が子の指先。
今でも夜になると救えなかった娘への思いが込み上げてくるといいます。
長年神戸で心のケアに当たってきた医師は今も多くの女性が心に傷を抱えていると指摘します。
震災から22年。
最新の医学によって明らかになってきた女性の心のリスクです。
私はこれまで阪神・淡路大震災だけではなくその後の震災の現場でも過酷な状況の中でとにかく気丈に振る舞う女性の姿もたくさん見てきました。
でも今回改めて女性というのは心の傷を抱え込んでしまってしかもそれが震災後も長く続いてしまうという事をはっきりと分かりました。
こうした事をこれから被災した女性たちを支えるために必ず役立てていかなければいけないと思いました。
阪神・淡路大震災では女性の中でも特に厳しい立場に置かれた人たちがいました。
新たな命を宿した妊婦さんです。
災害弱者である妊婦が支援を求める声すらあげられなかった実態が見えてきました。
地震直後多くの妊婦を診察した…あの時妊婦の体に何が起きていたのか。
大橋さんは当時の妊婦の被災状況や健康状態出産について大規模な調査を行いました。
被害の大きい地域にいた妊婦256人のうち46人が流産や死産を経験していたのです。
更に被災地とその周辺では18%にあたる1,000人近くが流産の一歩手前の切迫流産など危機にさらされていました。
妊婦はどのような状況に置かれていたのか。
妊娠7週で被災した…当時避難した体育館です。
自宅が半壊したため家族と共に身を寄せました。
真冬の避難所小野さんは寒さで夜も眠れませんでした。
しかし毛布や食料などの物資は子どもや高齢者が優先され十分に行き渡りませんでした。
小野さんは流産を心配しましたがおなかが大きくなかったため声をあげられませんでした。
突然出血が始まります。
救急車が来なかったため周りの助けを借りて病院に向かいました。
診断は…避難所に戻ればおなかの子の命は保障できないと言われました。
その後親戚の家に身を寄せなんとか出産する事ができました。
声をあげられず大きなストレスを受けた妊婦たち。
災害時にどのように支えていけばいいのか。
東日本大震災の被災地では医師による新たな取り組みが始まっています。
宮城県の妊婦9,000人余りを対象に生まれた子どもの発育を定期的に調査。
妊婦のストレスを減らすためのより効果的な支援を見いだそうとしています。
妊婦さんという最もケアされるべき女性が声すらあげられない。
同じ女性として人として本当に切ない気持ちになります。
22年たってこうした女性特有のリスクがようやく明らかになってきた一方で女性が声をあげづらいという課題は残されたままです。
私たちは去年熊本地震でその課題と再び向き合う事になりました。
熊本地震では18万人余りが避難生活を余儀なくされました
3歳と6歳の息子を連れて避難所での生活を1か月間続けた母親です
子どもの世話と周りへの気遣いで次第に追い詰められていったといいます
余震が相次ぐ中3か月間車中泊を続けた女性もいました
4歳の息子がいる母親です
親子共に体調を崩しましたが周りに助けを求める事はできませんでした
人知れず痛みを抱え声をあげられない女性たちが今なおいる現実
その一方で熊本では女性の声を取り入れ災害を乗り越えようとした動きもありました
あっ天気がいいからお野菜も干してはる。
洗濯もして。
こんにちは。
こんにちは。
すいませんNHKの有働と申します。
ああどうぞ。
吉村さん?吉村です。
初めまして。
今日はお邪魔します。
お忙しいところありがとうございます。
よろしくお願いします。
これ何か月ぐらいたってからですか?
益城町の避難所でリーダー役を4か月間務めた主婦の吉村静代さんです。
これまで家庭を支えながら自主防災組織の代表として長年活動してきました
地震翌日の避難所の様子です。
最大400人の被災者が詰めかけ足の踏み場もないような状態でした
少しでもストレスなく過ごせる場にしようと考えた吉村さん。
プライバシーを確保できるカーテン。
体への負担が少ない段ボールベッドも取り入れました
更に避難所の人たちが互いに悩みを相談できるスペース
母親が子どもを安心して遊ばせておける場所も設けました
吉村さんが大事にしたのはふだんの生活に少しでも近づけたいという女性の声でした
こんにちは。
お邪魔します。
女性の声はどう生かされたのか。
当時一緒に避難生活を送った人たちに話を伺いました
こうするとうまくいくよというのってありますか?それは確かに女性じゃないと言えないですね。
女性たちが口にしたのは少しでも日常を取り戻したいというささやかな願いでした
女性が声をあげやすい環境を作る事がストレスを減らし体と心を守る事につながるのではないかと感じました
今各地の自治体は女性の視点を生かして災害に備えようと動き始めています
避難所を作る訓練では着替えや授乳のスペースを設けるなど女性のニーズを取り入れています
妊婦と小さな子どもを守る取り組みも進められています
国は先月リエゾンという災害時に活動する医師の育成に乗り出しました
リエゾンは避難所などにいる妊婦と子どもの状況を迅速に把握し行政や病院からの支援につなげます
女性の命を守るための模索が続いています
(時報)黙とう。
阪神・淡路大震災から22年。
今思うのは災害は社会のひずみを浮き彫りにするという事です。
声をあげる事さえ遠慮していた女性たちの姿は忘れられません
災害の時に一人でも多くの命を守るために女性の痛みを声を見過ごさない社会を目指す事が次の災害への備えにつながるのではないか。
私はそう思います。
2017/01/22(日) 02:15〜03:05
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「女たちの大震災〜最新医療が迫る 体と心のリスク〜」[字][再]

阪神・淡路大震災から22年。最新の医学で、災害が今なお心身に影響を及ぼす女性特有のリスクがわかってきた。その実態に科学の視点で迫り、対策のヒントを探る取材報告。

詳細情報
番組内容
災害が起きた時、女性の体と心に何が起きるのか。22年前の阪神・淡路大震災。当時残された被災者の記録を最新医学で分析すると、女性特有のリスクが浮かび上がってきた。震災後、脳卒中を発症する女性が急増。被災体験が女性の心に、より深刻な傷を与える仕組みも明らかになってきた。そのリスクは長年にわたって潜み、今なお心身をむしばみ続けている。災害列島・日本、女性が抱えるリスクに科学の視点で迫り対策のヒントを探る
出演者
【キャスター】有働由美子