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字幕書き起こし プロフェッショナル 仕事の流儀「彩色復元師・荒木かおり」 2017.01.23

世界に誇る日本の宝。
数百年前につくられた文化財。
極彩色に彩られた日本の美を未来につなげる一人の女性がいる。
文化財に残る僅かな痕跡から創建当時の姿を突き止めるスゴ腕。
これまで復元が困難と言われてきた国の宝を次々によみがえらせてきた。

 

 

 


今回託されたのは清水寺に残る獅子の彫刻。
作者は不明。
文献など手がかりはない。
たどりついた衝撃の事実。
400年前のミステリーが今夜明かされる。
(鐘の音)平成の大改修が進む国宝清水寺。
その東側にある阿弥陀堂。
そこに彩色復元師荒木かおりの姿があった。
今回託されたのは阿弥陀仏の台座に施された獅子の木造彫刻。
記録では最後に修復されたのは明治時代。
劣化が進んでいた。
400年前の創建当時の色彩を復元させる。
それが今回のミッションだ。
京都市内にある荒木の作業場。
文化財の多くは色に関する資料などほとんどない。
荒木は僅かに残る色の痕跡から確実とされる根拠を導き出し色彩を再現する。
色つけには鉱石などを砕いて作った顔料が使われる。
着色された時代に合わせ限りなくその当時の色合いに近づける。
それだけではない。
図柄にはその作者の筆遣いにも注意を払う。
こう例えば…色なきところに色を見つけ作者の意図までもくみ取る荒木。
卓越した復元技術は他の追随を許さない。
清水寺のあの獅子に向き合う。
牡丹の花に囲まれた400年前の獅子はどんな色だったのか。
まず彫刻を寸分たがわぬように写し取り表面の色を確認していく。
次に表面の顔料を丁寧に剥がす。
復元師だけに許された特別な作業だ。
劣化し黒くくすんだ白い花。
しかしその下から赤い色が現れた。
考えられるのは前回の明治の修復で赤い花の一部を白に塗り直したのではないか。
目指すのは400年前の色彩の再現。
一見黄土色に見える獅子。
そこに潜む江戸時代の痕跡をたどる。
この黄土色らしき顔料で塗られている胴体。
明治の修理前は緑と金だった事が分かった。
緑っていう言葉は…目視で確認できたのはここまで。
だが荒木には奥の手がある。
この日荒木が招いたのは大学の研究チーム。
荒木が彩色復元の第一人者と言われるゆえんはこの世界では異例ともいえる科学調査にある。
ミリまでカラーで鮮明に見る事ができる顕微鏡。
突き止めるのは顔料の粒子の大きさだ。
平安時代から日本の建物に使われてきた岩絵の具と呼ばれる顔料。
同じ種類でも粒子の大小によって色の濃淡が変わるという。
倍率一緒ですよね?続いて蛍光X線装置による解析。
顔料の成分を見る事で退色する前の正確な色が分かる。
ところが胴体から緑と黄色の反応が同時に検出され明確な解析には至らなかった。
だが荒木は諦めない。
色の復元に必要なのは確たる根拠。
それが全て。
師匠でもある父が教えてくれた。
荒木さんの父川面稜一さんは彩色復元の礎を築いた重鎮だった。
祖父から続く美術一家に育ち物心ついた頃には荒木さんも画家を目指していた。
でもなぜか父親の仕事には関心が持てなかった。
そう思いながらもプロとしては芽が出ず画家を諦めた。
結婚し子育てが落ち着いた37歳の時美術に関わる仕事がしたいと父稜一さんに弟子入りした。
師匠として稜一さんが伝えたのはたったひと言だけだった。
図面や資料もまず残っておらず確かな正解などない彩色復元。
その中で稜一さんはモチーフとなる花の詳細から当時の生活食文化まで細かく調べ上げていた。
「続ける事が勉強」。
その言葉を体現するかのように稜一さんは調査に全力を尽くした。
世界遺産の二条城。
奈良の法隆寺。
稜一さんは数々の国宝の復元を成功させ彩色の基礎をつくりあげていった。
しかし2005年。
脳梗塞で稜一さんは他界した。
父と現場を共にしたのは10年ほど。
もっと学びたかった。
そんなある日稜一さんの講演の記録を見つけた。
その中の一文に胸を打たれた。
稜一さんの生前の肉声がある。
なぜ父はあそこまで調査に全身全霊をかけていたのか。
今は分かる。
清水寺の獅子。
科学分析は続いていた。
400年前の色彩その確たる根拠を求めていた。
ところがこれまでの常識が覆される。
調べていたのは獅子の毛先の部分。
これまでの調査では青一色であると見込まれていた。
モニターに映し出されたのはなんと小さな赤い顔料だった。
更に思いも寄らないものが出てきた。
同じ毛先の部分から今度はくすんだ黄色も見つかった。
たとえ一度塗り直したとしても3色では色が多すぎる。
複数の色が毛先に塗られる事もあるが青赤黄色の組み合わせは前例がない。
まだ冗談は言えた。
しかし謎は深まった。
京都…荒木さんの仕事は彫刻の彩色復元だけではない。
国宝二の丸御殿を飾るふすま絵。
その数は1,000枚を超える。
障壁画の最高峰と評される重要文化財だ。
経年劣化が進んだため模写へのはめ替えが順次行われている。
荒木さんはその現場の指揮を執る。
復元プロジェクトが始まったのは今から45年前。
荒木さんの父稜一さんが始めた模写の仕事を受け継いだ。
今挑んでいるのは傑作とされる虎の親子のふすま絵だ。
原画から読み取れる僅かな情報に目を凝らし毛先の一本一本まで忠実に描いていく。
原画は劣化しあごひげの痕跡はない。
しかし荒木さんは同時代に描かれた名古屋城の虎にはあごひげがあった事を指摘。
作者の意図を反映するために描き込むべきだと主張した。
昔の職人たちが手がけた仕事を徹底して踏襲する荒木さん。
そのために自らに課す流儀がある。
荒木さんには大切にしている日課がある。
仕事前に季節の草花のスケッチを欠かさない。
草花の形一つ一つを脳にしみこませる。
そうしなければ復元の仕事は成り立たないと荒木さんは言う。
そして今日もまた二条城のふすま絵に向き合う。
ふすま絵完成まではあと14年はかかるそうだ。
舞台は京都清水寺。
阿弥陀堂の台座に施された獅子の彫刻。
色あせた獅子を400年前の色彩に戻す。
挑んだのは日本屈指の…僅かに残る痕跡から獅子の色は緑色と考えられた。
ところが…。
科学的な分析で浮かび上がってきたのは青赤黄色の謎の3色。
一般的に彫刻は単色の顔料で重厚に塗られる。
1か所に3色を用いる例は荒木も見た事がなかった。
そして謎が謎を呼ぶ。
荒木は学芸員と共に二条城にいた。
ここに清水寺と同じ時代につくられた獅子の彫刻があった。
おととしある事実が見つかった。
彫刻の裏に書かれていた「山益」という名前。
これまで史実に残っていなかったその人物が日本絵画で最も有名なあの流派に属していたという。
「狩野派」。
天才絵師狩野探幽らで知られる幕府専属の絵師集団だ。
日本画の写実性を極め各地の寺社仏閣のふすま絵などを一手に引き受けていたという。
一つの仮説が浮かんだ。
絵画の狩野派が彫刻の彩色を手がけたのではないか。
早速絵画資料をあさり始めた。
狩野永徳の代表作…躍動感あふれる獅子の毛先には赤や茶色緑色などが複雑に施されていた。
狩野派特有の色の塗り重ね。
それが彫刻にも取り入れられたとすればつじつまが合う。
だが狩野派の複雑な技法が使われていたとするには確かな根拠が必要だ。
美術史の常識を打ち破る大胆な仮説。
それが正解なのか誰にも分からない。
荒木は徹底的に調べる。
そう師匠である父がそうだったように。
(鐘の音)翌日。
荒木は清水寺にいた。
何か見落としたものはないか。
改めて修復責任者を訪ねた。
すると意外な手がかりが見つかった。
それは隣町にある国宝石清水八幡宮の瓦だった。
清水寺と同じ瓦職人が手がけたと見られる。
これが意味するものは何か。
1600年代初頭徳川幕府により次々と寺社仏閣が建築された。
瓦職人や石垣職人など幕府専属の職人集団が各地を移動し建築を続けた。
清水寺もそのうちの一つだという。
狩野派も同じく幕府専属の絵師集団だった。
もし同様に転戦したとすれば手がかりは清水寺の前後に建立された建物にあるはず。
これも日の目を浴びたらうれしいです。
撮ってあげて下さい。
荒木はすぐに江戸時代の建築年表を開いた。
そこに清水寺から10年後に石垣職人が仕事をした寺があった。
見つけた。
清水寺のものとそっくりの獅子の彫刻。
すぐさま高野山の専門家に問い合わせた。
荒木が注目したのは彫刻の周りに描かれた壁画だった。
それは狩野派によって描かれた獅子だった。
ならば彫刻も。
獅子の彫刻瓦石垣。
共通する証拠を年代順に並べていくとある道筋が浮かび上がる。
これらの建物を絵師を含む職人集団が転戦し建築した。
そして最後の高野山の寺では狩野派が彫刻を手がけた可能性が高い。
つまり清水寺の獅子も狩野派によるものと考えられる。
他の資料と突き合わせてもこの説に信憑性があった。
線がつながった。
復元案の作成に取りかかった荒木。
獅子をトレースした絵に彫刻に実際に使われる顔料を塗っていく。
この作業で復元の成否が決まる。
狩野派の作者ならば3つの色をどう扱うか。
ためらいはもうない。
作業を始めて3日後。
狩野派の繊細さと彫刻特有の重厚さ。
毛先の折り重なる3色が表現するのは獅子が極楽を舞う躍動感。
これが荒木が感じた400年前の心。

(主題歌)翌日。
荒木は清水寺を訪ねた。
修復責任者も大きくうなずいた。
完成予定は今年3月。
400年前の心がよみがえる。
最善を尽くす努力を惜しまず困難な事が起きてもどこかからヒントを求めて軽やかに乗り越える事を楽しんでいる人だと思います。
2017/01/23(月) 22:25〜23:15
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「彩色復元師・荒木かおり」[解][字]

歴女(れきじょ)必見!清水寺、二条城、平等院鳳凰堂…日本の文化財の失われし美をよみがえらせる、京都の女性絵師。四百年の謎に挑む「彩色復元」の流儀とは!?

詳細情報
番組内容
さん然と輝く江戸時代のふすま絵、華やかな文様に彩られた寺社。日本全国の文化財を、当初の美しい色に戻す、それが「彩色復元師」荒木かおりの仕事。当時の生活にいたるまで文献を調べ、さらに科学調査で見えない色すらも追跡する、“色のミステリーハンター”だ。この秋託されたのは、国宝・清水寺に残る四百年前の獅子の彫刻。思いもよらない痕跡が見つかる中、たどり着いたのは、美術史の常識を打ち破る事実だった!
出演者
【語り】橋本さとし,貫地谷しほり