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字幕書き起こし モーガン・フリーマン 時空を超えて「時間の正体は何なのか?」 2017.02.03

時間とは川の流れのようなもの。
その川に源はあるのか?時間はどのように始まったのか?「時間は絶え間なく流れ続ける」と考える人もいれば「時間は流れるのではなく次々と発生する」と考える人もいます。
科学者の間でも見解は一致していません。
時間の起源や正体は宇宙の歴史における最大の謎です。
しかしその謎が最新の研究によって明らかになるかもしれません。
時間空間そして生命。
時空を超えて未知の世界を探求します。
あなたはいつ生まれましたか?誰でも簡単に答えられる質問のように思えます。

 

 

 


しかし時間の捉え方はさまざまです。
今はイスラム暦では15世紀。
ユダヤ暦では58世紀。
地域ごとに異なる時間帯にも分かれています。
皆それぞれ独自の基準で時間を計っているにすぎません。
「本当の時刻」を知りたければ宇宙の時計がいつ動きだしたのかを知る必要があります。
そもそも時間は宇宙の誕生と共に始まったのでしょうか?子供の頃自転車でレースをしました。
友達にいいところを見せようと全力を出しました。
際どいレースになり私は引き分けだと思いました。
しかし一人の友達は相手の勝ちだと言いもう一人は私の勝ちだと言いました。
結局意見は一致しませんでしたがある意味誰もが正しかったのです。
時間とはいわば変化をはかるための尺度です。
物事の変化を知るため私たちは知覚に頼るほかありません。
最大の情報源は視覚そして視覚が捉える光です。
光の進む速度は一定で真空の空間では秒速およそ30万キロです。
光の速度は宇宙の絶対的真実とされています。
ジャンナ・レヴィンは光こそが時間の謎を解く重要な鍵になっていると考えています。
光の速度は絶対的なもので速くなる事も遅くなる事もありません。
光の性質について考え始めると日常的な直感が全てひっくり返されます。
でもこれが時間を理解する鍵になるんです。
私たちは空間的に動いていない場合でも時間的には前に動き続けています。
時間経過とは変化の体験です。
映画を見ていて砕け散ったガラスからコップが出来上がったらフィルムを逆回転したのだと気付きます。
現実とは変化の順序が逆だからです。
時間の向きは変わりませんが私たちが異なるスピードで動くと時計は異なる時間を刻み始めます。
光の速度は速くなる事も遅くなる事もありません。
この性質を利用すれば光の反射で時計を作る事ができます。
つまり光は私たちの動きを時間的にはかる尺度となり時間の本質を解明する重要な鍵にもなるという事です。
光の速度が不変ならその人の動くスピードによって時間や空間が変化するはずだと考えた有名な物理学者がいます。
光の性質について考え始めたアインシュタインはやがて重要な事に気付きました。
この宇宙においてどんな速さで動く人から見ても光の速度が一定ならその人の動く速さに応じて空間と時間が変化するはずだという事です。
時間はその人がいる場所や動いている速度に左右されます。
動く速度が極端に違ってくればあなた自身が感じる時間の流れと他の人が見るあなたの時間の流れはかなり違ったものになってきます。
例えばレヴィンの分身がニューヨークでタクシーに乗ったとします。
そのタクシーがすさまじいスピードで走ったとしたらレヴィンと分身の間で時間の流れ方が変わってきます。
私の視点では猛スピードのタクシーに乗った分身は時間の流れがゆっくり進んでいるように見えます。
一方分身の視点からは逆に私の時間がゆっくり進んでいるように見えます。
なぜそうなるかを理解するためにレヴィンが上下にレーザーパルスを出しているとイメージして下さい。
レーザーパルスは天井と歩道に反射して必ず一定の時間で戻ります。
いわば光の時計です。
レヴィンの目には上下にまっすぐ動くように見える光…。
しかし猛スピードで移動する分身の目には全く違った光景に映ります。
分身からは光が長い斜めの経路をたどり反射する時間も長くかかるように見えます。
つまり私の時間がゆっくり進んでいるように見えるという事です。
逆に分身がタクシーの中でレーザーパルスを出している場合も同じです。
歩道にいるレヴィンからはその光が斜めに動くように見えます。
光線が長い距離を進むように見える。
つまり時間の流れが遅く見えるという事です。
私からはタクシーの中の光が長い斜めの経路をたどっているように見えます。
どちらの視点に立っても相手の時間がゆっくり流れているように見えるという事です。
この現象はスピードが速くなるほど大きくなります。
仮にタクシーが宇宙で最も速い光の速度に近づけば外の世界は時間が止まったように見えるはずです。
あのタクシーが光の速度で走る事ができたら外にいる私の姿は時間の流れが止まっているように見えるでしょう。
この場合一体どちらが正しいと言えるのでしょうか?どちらも正しいと言えます。
時間は絶対的なものではなく相対的なものだからです。
時間とは相対的なものであり絶対的な時間は存在しない。
しかしそうではない瞬間もあったかもしれません。
あらゆるものが1か所に存在していた瞬間ビッグバンの時です。
ビッグバンと宇宙の誕生を理解するうえで難しい問題は時間もビッグバンと共に始まったのかどうかという点です。
私は空間も時間もビッグバンと共に生まれたのだと考えています。
つまりビッグバン以前には空間も時間も存在しなかったという事です。
「時間はビッグバンと共に始まった。
以来それぞれの空間で異なった時間の流れが生じている」レヴィンはそう考えています。
では時間が止まりまた始まるような場所をこの宇宙に再びつくる事は可能でしょうか?光の動きに操作を加える事で可能だと考える科学者もいます。
かつてテニスプレーヤーとして鳴らしたアレックス・ガエータはコーネル大学の物理学者。
専門は超高速光学です。
超高速光学は主に高速データ通信に使われます。
ガエータはこの技術を応用すれば時間に隙間を作る事が可能ではないかと考えました。
光とは電磁場の変動の事です。
ものが何らかの変化を起こすと電磁場にも影響を与えます。
その電磁場の変動すなわち光によって私たちは時間の経過を測定しているんです。
そこで私たちは時間の測定基準となる光をほんの一瞬消し消した事に気付かれないまままたつける方法を発見しました。
時間の測定基準となる光を少しの間消す事ができたら何が起きるのでしょうか?例えばガエータが息子とテニスの試合で競り合っていたとします。
いよいよマッチポイント。
時間を止める事が可能になればガエータはこんなテクニックを使って勝つ事ができるはずです。
息子も観客も何が起きたのかよく分からないままガエータの勝利が決まります。
もちろん現在はこんな事は不可能ですがガエータはその糸口となる現象を見つけました。
これがガエータの実験の要となる「時間分割レンズ」です。
通常のレンズが光を空間的に処理するのに対しこのレンズは光を時間的に処理します。
真空では光の速度は一定ですが物質や他の光線の中を通り抜ける時には速度が落ちます。
時間分割レンズはこの性質を利用したものです。
まずレーザー光線の中を通す事で光の速度を僅かに遅くします。
その後グラスファイバーを通った光は波長の違う2つの部分に分かれます。
短い波長が長い波長より先に進むため間に完全な暗闇が生じます。
この部分にあるものは一切見る事ができません。
光がもう一度レンズを通ると元どおりに合成されます。
この装置によってできる光の隙間はおよそ10億分の1秒。
極端に短い時間のように聞こえますが高速情報伝達の世界では大きな値です。
あるデータの流れがあるとします。
そこにほんの少しの間情報を入れ後で取り除きたいとします。
そんな時この隙間を作るんです。
光の流れを妨げずに少し情報を差し込み伝達します。
その後情報を取り除き元どおりの流れに戻します。
その情報は時間の流れから隠される事になります。
今のところ光の隙間を1秒作るためには長さ30万キロメートルの装置が必要です。
テニスの試合に勝つのが目的なら普通に努力した方がいいでしょう。
しかし将来的には分かりません。
理論的には光の速度を1,000万分の1程度に遅くする事も可能です。
近い将来にはもっと遅くそれどころかほとんど止めるような事さえできるでしょう。
光を数秒間蓄積しそれから解き放って元の速さに戻すんです。
ガエータの研究とレヴィンの研究の大きな共通点はそこに観察者がいるという事です。
では観察者がいないところに時間は存在するのでしょうか?ある科学者はノーと答えます。
時間は我々が考えるよりもずっと後に始まったと言うのです。
暗い部屋で目覚め今が何時なのか分からなかった経験はありますか?眠ってから一体何分あるいは何時間たったのか。
睡眠中は時間の感覚というものがありませんが宇宙もそれと同じような経験をしているかもしれません。
ビッグバンで宇宙が誕生した時時間も同時に始まらなかった可能性があるからです。
宇宙に時間の無い時期があったのでしょうか?物理学者のラリー・シュルマンは今はドイツに滞在中ですが本拠地はニューヨークにあるクラークソン大学です。
誕生して間もない時期の宇宙には時間は存在しなかったというのが彼の持論です。
シュルマンは噴水の水や宇宙など多数の小さな粒子から成るシステムの振る舞いを研究しています。
光はさまざまな情報を運びます。
しかし宇宙で最も速い光でも速度には限りがあります。
私たちが見ているものは程度の差こそあれ全て過去に起きた出来事なのです。
太陽と地球の距離はおよそ1億5,000万キロ。
ですから太陽から出た光が地球に届くまでに8分ほど時間がかかります。
突然太陽が爆発したとしても私たちがそれを知るのは8分後だという事です。
宇宙の最も遠い部分からやって来る光は138億年前のもの。
すなわち宇宙が始まった時のものです。
では時間もその時に始まったのでしょうか?シュルマンによれば「時間」という言葉が何を意味するかによって答えは違います。
時間とは方程式のパラメーターだと考える事ができます。
つまり粒子などの動きを特定の法則に基づいて決定づける要素です。
しかし粒子の運動だけでは時間が流れているとは言えません。
粒子そのものは時間的な方向性を持たないからです。
宇宙がビッグバンによって誕生したのは138億年前。
その時宇宙は一体どんな状態だったのでしょうか?生まれたばかりの宇宙は荷電粒子に埋め尽くされていました。
高温で高密度なプラズマの海です。
この状態では光は他の粒子に邪魔されて自由に動けません。
しかし38万年ほどたった頃「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる変化が起きます。
この時原子が作られ始め光が直進できるようになりました。
宇宙の晴れ上がり以前は電子と陽子が一旦結合してもそこに光の粒子が衝突してくるためまたすぐに分離してしまいました。
宇宙の晴れ上がりとはバラバラだった電子と陽子が結合し原子を形成するようになった現象です。
アイスホッケーで使われるパックが光の粒子だと仮定してみましょう。
この川は冬になるとたまに凍りつきます。
そんな時私がホッケーのパックを打って向こう岸に届かせるのはそれほど難しい事ではありません。
しかしビッグバン直後の宇宙は障害だらけでした。
大勢のゴールキーパーが私の周りを囲みパックを通さないようガードしている状態です。
これだけ周りを囲まれたらどこにパックを打っても誰かに止められてしまいます。
隙間を通り抜ける事はできません。
これが初期の宇宙です。
光の粒子はこのパックのように周りを取り囲む電子と陽子に邪魔され直進する事ができませんでした。
しかしこのキーパーたちは実は男性と女性が交互に並んでいました。
キーパーがマスクを外し男女のカップルが誕生すると守備に隙間が出来始めました。
ようやく光は宇宙空間をまっすぐ進めるようになり世界は劇的な変化を遂げる事になります。
初期の宇宙では光は自由に動けなかったため変化をはかる基準とはなりえませんでした。
それは時間が存在しなかったのと同じ事だとシュルマンは考えています。
つまり宇宙の晴れ上がりによって原子が形成され光が自由に動き回れるようになった時こそ時間が始まった瞬間だという事です。
初期の宇宙に時間は存在しませんでした。
時間が誕生した事で物事の変化をはかれるようになりました。
これは時間はいつ始まったのかという疑問に対する一つの答えです。
では宇宙が終わりを迎えたら時間も消滅するのでしょうか?時間とは常に存在するものであり空間だけが生成と消滅を繰り返すのだと考える学者もいます。
時間は前に進み決して後戻りしません。
物理学者によればエネルギーは常に拡散していくからです。
もし時間を巻き戻す事ができれば宇宙の全エネルギーが一点に集まっていくのを見られるでしょう。
ビッグバンの時点では全てが一点に集中していました。
更に前には遡れないように思えますが…そうでしょうか?カリフォルニア工科大学のショーン・キャロルは時間について専門的に研究をしている物理学者です。
キャロルが確信している事が一つあります。
この宇宙において時間とは一定の方向に向かって進む「矢」のようなものだという事です。
そのため時間は宇宙の変化をはかる物差しとなります。
もし何一つ変化するものがなければ時間が過ぎた事を知る方法はないでしょう。
時間そのものの意味が失われます。
しかしどんな小さな事であれ何かが変化すれば時間は流れます。
実際宇宙は絶えず変化しています。
宇宙が生まれる時全てのエネルギーが一点に凝縮されていましたがそれがビッグバンによって解放されました。
以後エネルギーは絶え間なく拡散しています。
このエネルギーの拡散をはかる尺度は「エントロピー」と呼ばれています。
キャロルによれば時間の矢は常にエントロピーが低い方向から高い方向へと向かって進みます。
一体何が時間の矢を動かしているのでしょうか?ビッグバンの時点では全てが一点に凝縮されていたためエントロピーはこれ以上ないほど低い状態でした。
それ以降エネルギーが拡散してエントロピーは高くなる一方です。
これは宇宙に存在するもの全てに当てはまる現象ですがなぜそうなるのでしょうか?「我々の宇宙は別の宇宙の子供である」というのがキャロルの考え方です。
宇宙が宇宙を生むとは一体どういう事なのでしょうか?エネルギーが拡散しきった宇宙をイメージして下さい。
エントロピーは高く何の動きも見られません。
ただ静かに存在するだけです。
しかしエネルギーが拡散しきったいわば死んだ宇宙に突然高密度のエネルギー空間が発生します。
静かな水中に発泡性の錠剤が投げ込まれたようなものです。
宇宙は小さく高密度でエントロピーが低いビッグバンの状態から始まります。
それが膨張し天体がつくられ時間の矢が過去から未来へと進むようになります。
炭酸水も同様で錠剤が周りの水と混ざるにつれてエントロピーが高まります。
最後には錠剤と水が混ざりきって何の反応も起きなくなります。
宇宙も同様で全てが拡散しきって何の変化も起きない状態となり時間の矢は進まなくなります。
しかし生命も天体も存在しない死んだ宇宙がどうして別の宇宙を生み出せるのでしょうか?量子物理学によれば空っぽの空間にもエネルギーのゆらぎが起こります。
つまり無から有が生じる可能性があるという事です。
例えばウランなどの放射性元素を考えて下さい。
何も変化しないように見えますが次の瞬間にも原子核が自ら崩壊し新たに放射線を出すかもしれません。
時空そのものにも同じような性質があるのではないかと考えています。
ただしそこから出てくるものは放射線ではなく新たな宇宙です。
新たな宇宙はある時突然発生するかもしれません。
エネルギーが全て拡散しもはや時間さえも死に絶えた古い宇宙から私たちの宇宙が生み出されたのでしょうか。
時間の矢が止まった古い宇宙から新たな宇宙が生まれ再び矢が進み始めます。
時間の矢は宇宙が膨張している間は進み続けます。
しかしエネルギーが拡散しきりもはや宇宙が何の変化も起こさないようになると再び止まります。
こうした事が数えきれないほど繰り返されているのかもしれません。
ビッグバンとは途中経過にすぎないのかもしれません。
私たちの宇宙にはそれに先立つ祖先がありこの宇宙が終わった後また新たな子孫が生まれるのかも。
時間について更に大胆な考え方もできます。
実は「時間」などというものは存在しないかもしれないのです。
もし時間が存在しなかったら?年月日のような区切りなしに人生の出来事をどうやってたどればいいのでしょうか?しかしそんな区切りは無意味なのかも。
時間とは単なる幻にすぎないかもしれないからです。
そんな説を唱えているのが理論物理学者のカルロ・ロヴェリです。
ロヴェリは母国イタリアでの学生時代バリケードを築きネオ・ファシズム運動と闘っていました。
1970年代若かった私は世界を変えようと意気込み挫折しました。
そして私は科学の道に進みました。
科学もまた世界を変えるもう一つの道だと思ったからです。
ロヴェリはフランスのマルセイユにあるリュミニ理論物理学センターに所属しています。
科学の世界にいても革命家としての血が騒ぐのでしょうか。
ロヴェリの唱える説は驚くほど型破りで物理学の基本を覆すようなものです。
彼の理論はこうです。
「時間は存在しない。
少なくともミクロのレベルに視点を置けば」。
それほど複雑な話ではありません。
例を挙げてみましょう。
時間の中で起きている出来事を言葉で説明してみます。
例えばこの懐中時計が揺れています。
これは何を意味しているんでしょうか?時間と共に動いているという事です。
では時間とは何でしょうか?時間とは時計の針の動きです。
我々がやっているのは物体の動きと時計の針の動きを見比べる事つまり2つの動きの相関関係を見る事です。
言いかえればある出来事を説明するにはさまざまな動きの相関関係を明らかにすればいいわけです。
そこに時間という概念を持ち込む必要はありません。
ニュートンは物体の運動を説明するための数式に時間を表す変数「t」を導入しました。
しかし量子物理学ではニュートン力学とは違った視点で時間を捉えるため「t」という概念がうまく当てはまらなくなっています。
この問題を解決するには時間を表す変数「t」を取り除くしかないとロヴェリは考えています。
彼は時間という概念を使わずに量子理論を作り直そうとしていますが同時に時間についての興味深い仮説も唱えています。
「時間は存在しない」という概念は受け入れにくい事でしょう。
我々は現実に時間というものを体験しながら生きているからです。
では時間体験とはどこから生じるのでしょうか?ロヴェリによればその答えは「熱」です。
物体に熱を加えると一定の方向に向かう変化が生じます。
変化が逆方向に戻る事はありません。
時間体験と同じです。
時間は熱と結び付いています。
重要なのは「時間から熱が生じる」のではなく「熱から時間が生じる」という点です。
熱という現象は熱力学の法則によって理解する事ができますが熱力学の本質は統計学です。
つまり時間もまた統計学と結び付いているという事です。
実は私たちは自然現象の実態を詳しく把握しているわけではありません。
平均値など統計的な捉え方をしているだけです。
例えばオーブンに火を入れたとしましょう。
このオーブン内の全ての素粒子の相互作用を測定する事は不可能です。
そこで私たちは代わりにこう言います。
「オーブン内の温度は今450度ある」。
私たちは素粒子の動きを正確に知る事を諦めそのエネルギーの平均にすぎない「温度」という概念で物事を把握しています。
時間も同じ事だとロヴェリは言います。
もし世界の全てをミクロレベルで正確に観察できたら時間という概念は意味を失うでしょう。
ロヴェリによれば素粒子のようなミクロのレベルに立てば時間は存在しません。
しかし私たちが感知できるもっと巨大なレベルにおいては物質と熱の相互作用が目に見える変化を生み出すため「時間」と呼ばれるものが生じてきます。
ミクロレベルの相互作用に時間は存在しません。
しかしそれがもっと大きな世界と関わってくると時間が生まれます。
時間とは自然現象を完全に把握できないからこそ生まれるもの。
いわば我々の無知が作り出すものです。
大胆な意見ですがロヴェリは常識に挑む事を恐れていません。
時間とは世界に対する無知から生まれる幻にすぎないのでしょうか。
別の大胆な考え方をする学者もいます。
時間は実在しているが次々と生まれてくるものだというのです。
場所を移動した時自分の感覚としては切れ目のない動きだったように感じます。
しかし量子力学によれば空間的な動きとは全て小刻みな動きの集合体だという事になります。
この理論を空間だけでなく時間にも当てはめられるのではないかと考える科学者たちがいます。
その理論が完成したら私たちは次のような奇妙な考え方を受け入れなくてはなりません。
「時間はほんの一瞬の間に何回も何回も発生する」。
私たちと同じようにフェイ・ダウカーも時間の流れを経験しています。
少女から大学生になり今はインペリアル・カレッジ・ロンドンの物理学者です。
人間にとって時間の経験ほど基本的なものはありません。
誰でも時間の流れを感じます。
私たちは人生を次のように捉えています。
片方には既に過ぎて変えられない過去がある。
もう片方にはこれからやって来るまだ分からない未来がある。
その2つの間に刻一刻と過ぎ去っていく「今」という瞬間がある。
しかし誰もが抱いているこのような考え方は実はアインシュタインの相対性理論とはうまくなじみません。
相対性理論によれば時間と空間は分かち難く結び付いています。
従ってこれから生じるように思える時間も時空の塊の中に既に存在しています。
私たちは生まれてから死ぬまで時空の塊の中にある風景を眺めているだけだという事です。
ダウカーの考え方は違います。
宇宙は一つの塊ではなく空間と時間の小さな粒が積み重なっていくものだというのです。
時空は切れ目のない塊のように思えますがそれは私たちが大きなスケールで見ているからです。
例えば角砂糖を時空の一部だとイメージして下さい。
遠くから見れば角砂糖は確かに一つの塊のように思えます。
でも近づいて見ればそれがたくさんの粒の集合体である事が分かります。
時空もそれと同じで極めてミクロな視点に立てば粒から成り立っています。
でも大きなスケールで見てしまうとそれが粒の集合体である事に気付かないんです。
では時空の粒とはどれくらいの大きさなのでしょうか?それは桁外れに小さなもので物理現象として測定しうる最小単位だと考えられています。
信じられないほど小さなその粒をダウカーは「時空アトム」と呼んでいます。
この宇宙は時空アトムの集合体だと言うのです。
この仮説には2つの概念が含まれます。
一つは時空が原子のような断片的な粒から成り立っているという概念。
もう一つは原因の後に結果が来るという因果関係の概念です。
例えば急に大きな音がする。
びっくりしてコーヒーカップを落としてしまう。
大きな音が「原因」落としたコーヒーカップが「結果」です。
相対性理論によれば全ての時空は既に存在しているものなので落ちる前のカップも落ちる最中のカップも落ちて壊れたカップも全て最初から存在しています。
しかしダウカーの考えでは宇宙は絶えず生じていく出来事の積み重ねです。
このような関連のある一連の出来事を彼女は「因果集合」と呼んでいます。
因果集合は新しい時空アトムの積み重ねによって進みます。
新しい時空アトムの誕生こそ私たちの知る「時間の経過」というものなのかもしれません。
私たちが体験する「今」とは新たな時空アトムの誕生であり古い時空アトムは積み重なって「過去」と呼ばれるものになります。
「未来」とはこれから生まれる時空アトムです。
時空アトムは次々と生まれすぐに過去の一部となっていきます。
これは過去は既に起きた事で変えられないものだという私たちの感覚とも一致するものです。
時間とは切れ目のない塊なのでしょうか?それとも無数の粒が集まったものなのでしょうか?近い将来私たちは時間の本質に飛躍的に近づく事になるかもしれません。
ある実験の結果によって時間と宇宙に対する理解が大きく変わってしまうかもしれないからです。
時間はビッグバンで始まったのかもしれません。
時間は絶えず流れているのかもしれないし一瞬一瞬生まれているのかもしれません。
このような議論は今後も続くかもしれないしあした終わるかもしれません。
ある実験が時間の本質を明らかにするかもしれないからです。
カリフォルニア大学の物理学者ハートム・ハフナーは「タイムリング」と呼ばれる実験を進めています。
イメージとしては電磁気力によって浮かぶこの円盤のようなものですが実際には原子が集まって回転する極端に小さなものです。
空間に量子ゆらぎが存在する事は既に分かっています。
もしタイムリングの実験が成功すれば空間だけでなく時間にも量子ゆらぎが存在する事が証明されるはずです。
物理学者は対称性を好みます。
例えば空間と時間を同列に扱いたいと思っています。
いずれにせよ空間の研究を始めると時間についても研究せずにはいられません。
そうした方がよりシンプルにこの宇宙を説明できるからです。
タイムリングを考案したのは同じ大学に所属するナノテクノロジーの研究者でした。
彼は原子を捕捉して研究する専門家であるハフナーに共同研究を持ちかけました。
最初に聞いた時は荒唐無稽なアイデアに思えました。
でもじっくり話しているうちに「奇妙な考え方だが理論的には正しい。
確かにそうなるはずだ」と思い始めたんです。
ハフナーたちはこの電極内部のごく小さなスペースに外部のエネルギーから完全に隔絶された領域を作ろうとしています。
この実験では内部にカルシウムイオンを捕捉しエネルギーを減らすため温度を極端に下げます。
絶対零度より数十億分の1高いだけという究極の低温です。
これによってカルシウムイオンは可能なかぎりエネルギーが低い状態になります。
空間の影響を完全に排除した状態と言えます。
この金属製の球をカルシウムイオンだと思って下さい。
100個のカルシウムイオンを真空の中に入れます。
通常の温度ではイオンは素早くランダムに動き回りますが温度を下げるとリング状になりゆっくりと回転します。
更に温度を下げエネルギーがゼロに近づくとリングの回転も止まると考えられてきました。
しかし私たちが正しければその状態でもリングは回るはずです。
エネルギーが極限まで低くなった状態では物体は一切の動きを止めます。
しかし量子力学の世界ではゼロは必ずしもゼロを意味しません。
そのような状態でも量子のゆらぎが生じるというのです。
量子力学の考え方ではエネルギーがゼロの状態でも物体はほんの僅かながら動き続けています。
ただし方向は定まっていません。
私たちが求めているのは特定の方向に向かう動きです。
イオンを極端な低温にすると空間的な動きは僅かになりリングは回らなくなるはずです。
それでもイオンのリングが回り始めたとしたらそれは空間ではなく時間のゆらぎが存在する事を意味しています。
理論的に言えば何が起きるかまだはっきりしません。
この状態でリングが回るはずだと言う人もいれば回らないはずだと言う人もいます。
もしタイムリングが回ったら時間のゆらぎが証明されます。
それは時空アトムが次々と生まれているというフェイ・ダウカーの説につながるかもしれません。
少なくとも量子力学的な世界で時間と空間が同じような性質を持つ事を示す結果になるでしょう。
従来の理論では空間と違い時間のゆらぎは存在しないと考えられています。
でも私の目標は量子力学を応用して時間の曖昧さを証明する事です。
「今何時かを正確に言う事はできない。
時間にはゆらぎがあるのでおおよその時間しか捉える事ができないからだ」そんなふうに言ってみたいんです。
まだ道半ばですがうまくいけば…それが自然な考え方になるでしょう。
時間の正体が分かれば宇宙の最も根本的な謎の一つが解けるはずです。
一方宇宙にとって時間は無意味なものだと明らかになるかも。
しかし私たちにとって時間は意味のあるもの…。
私たちを過去と未来の間につなぎ止めているものなのです。
2017/02/03(金) 22:00〜22:45
NHKEテレ1大阪
モーガン・フリーマン 時空を超えて「時間の正体は何なのか?」[二][字]

誰もが当たり前に存在していると感じている時間。しかし、時間とはいったい何なのか?かつてなら想像もできなかった時間の起源や正体に、多角的に現代の科学が迫る。

詳細情報
番組内容
「時間」は宇宙の歴史を考察する上で最も根源的な謎と考えられている。その起源は、138億年前にビッグバンが起こった38万年後、「宇宙の晴れ上がり」が起こり、光が宇宙を自由に動けるようになった時という説がある。「光の速度は不変」なので、時間を図る尺度になるという考えに基づく。また、時間は連続せずに次々と発生しているという説、「熱」が時間を生じさせるという説もある。量子力学なども駆使し、その正体に迫る。
出演者
【語り】菅生隆之
制作
〜ディスカバリー制作〜