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字幕書き起こし NHKスペシャル 巨龍中国▽大気汚染 超大国の苦闘〜PM2.5 沈黙を破る人々 2017.02.05

共産主義をたたえる革命歌の替え歌を叫ぶ男性。
工場が排出する煙で呼吸疾患となる住民が相次ぎ立ち退きを訴えていた。
世界の工場として急激な経済成長を成し遂げた中国。
その代償として深刻化した大気汚染。
今中国では大気汚染物質PM2.5の影響で年間100万人近くが死亡しているといわれる。
(せき)インターネット上に投稿されるようになった“私たちは沈黙しない”という訴え。
環境汚染を巡る民事訴訟は今や年間およそ8万件。
国民の不満は頂点に達しつつある。
共産党の政権基盤をも揺るがしかねない事態。
国は汚染に宣戦布告すると宣言した。
更なる経済成長の旗を掲げながら同時に大規模な汚染対策も迫られる中国。
中国14億人の命を脅かす大気汚染を克服できるのか。
3年にわたる闘いの記録である。
今から3年前の3月。

 

 

 


全国人民代表大会で中国の今後を決定づける重大な目標が掲げられた。
それまで国の根幹に関わる最重要課題は貧困の解消だった。
そこに環境汚染の撲滅が加えられたのだ。
中国全土を覆うPM2.5の濃いスモッグ。
国民の不満の高まりに国は対策の強化を打ち出さざるをえなくなっていた。
中国中部の中心都市人口1,000万の武漢。
この街の住民たちが沈黙を破る口火を切った。
中国最大手のゴミ処理会社の操業停止を求める住民たちが24時間体制で監視を続けていたのだ。
ゴミを搬入するトラックを阻止しようとする住民たち。
しかし地元政府の治安当局は住民たちの排除に乗り出していた。
住民が地元政府に連行される事態が続いていた。
中国でここ十数年急速に進む都市化政策。
市の中心部に程近い住宅街に分譲マンションが出来たのは2005年の事だった。
市の人口が急増する中ゴミの量も増えた。
2008年一般ゴミの処理会社2012年に医療廃棄物の処理会社が相次いで進出した。
経営するのはいずれも中国有数の巨大企業。
ゴミ処理は成長著しいビジネスだという。
マンションに暮らすのは700世帯。
会社員や自営業など経済成長を享受してきた人たちだ。
しかし煙と強烈な異臭に苦しめられるようになった。
王さん一家はこの1年前一人息子の成さんを亡くしていた。
24歳の時に突然急性白血病を発症。
3か月後亡くなった。
医者からはゴミ処理会社の煙に発がん性物質が含まれていたのではないかと告げられた。
2つのゴミ処理会社が操業を始めてから白血病やがんで亡くなったマンションの住民は20人以上。
呼吸疾患に苦しむ住民は700人に上っていた。
しかし会社は煙と住民の健康被害の因果関係は認めていなかった。
中国全土でも環境汚染への抗議行動が起こるようになっていた。
その困難な闘いを担っていたのは小さな子どもを持つ母親たちだった。
住民代表の一人…5歳になる一人息子が病に苦しんでいた。
任さんは30万元で購入した3LDKのマンションで夫と子ども母親と4人で暮らしている。
一人息子の嘉宸くんは3歳の時せきを繰り返すようになった。
気管に2つの大きな腫瘍が出来ていた。
医者から大気汚染が関係しているのではないかと告げられた。
中国全土でも嘉宸くんのように気管に重い病気を抱える子どもが増えていた。
会社の操業停止や立ち退きの権限は地元政府が持っている。
この日地元政府は任さんたちが半年以上求めてきた話し合いの席に初めて着いた。
武漢では経済成長による消費の拡大で処理しなければならないゴミが急増していた。
担当者は上司に報告するという言葉を繰り返すだけだった。
中国政府の汚染への宣戦布告。
しかし経済を優先する地元政府はその方針を徹底する事ができずにいた。
任さんと共に活動の代表を務める…地元の警察に5日間拘留され体調を崩していた。
拘留の理由は張さんがゴミ処理会社の塀に李克強首相が語った言葉を掲げた事だった。
武漢ではこのころほかのゴミ処理場でも抗議活動が起きていた。
治安当局からは「社会秩序を乱す」と告げられた。
任さんたちマンションの住民がゴミ処理会社の前で抗議を始めてから1か月。
この日住民たちはがんや白血病で亡くなった人の追悼式を開いた。
企業や地元政府に圧力をかけるためだった。
(抗議する声)国は排出してはいけない危険物リストを厳格に定めている。
そして地元政府と企業はその徹底と市民への情報公開を求められている。
任さんたちはゴミ処理会社の排出データを公表するよう地元政府に訴えてきた。
しかし社会の安定を揺るがすという理由でその情報は公開される事はなかった。
地元政府との交渉に限界を感じた任さんたちは国に直接窮状を訴える事にした。
しかし路上で男に呼び止められた。
北京から1,200キロ離れた地元武漢の役人だった。
地元政府にとって住民が国に陳情する事は自分たちの評価に関わる重大事だった。
しかし任さんたちは地元政府の忠告を受け入れる事はなかった。
国の環境政策を取りしきる環境保護省。
中国政府は地方の住民たちの不満を解消するために陳情を受ける窓口を設けている。
しかし陳情の数が急増し窓口はほとんど機能していない。
任さんたちの訴えも聞き入れられる事はなかった。
環境汚染を訴える陳情や投書は年間100万件近くに上っていた。
中国政府が大気汚染に宣戦布告してから8か月。
北京の空は晴れ上がっていました。
APECアジア太平洋経済協力会議開催のため周辺の工場数千社に一時操業停止命令などを下していたのです。
しかしAPECの閉幕から1週間後。
北京は再びPM2.5の濃いスモッグに覆われました。
インターネット上では大気汚染を嘆く歌が流れていました。
中国政府は更なる汚染対策の強化を打ち出します。
このころ汚染対策が進まない大きな要因となっていたのが経済成長を牽引してきた鉄鋼産業の排出でした。
国内に1万社以上ある鉄鋼関連企業。
その多くが集まる河北省です。
北京の大気汚染の元凶とされている地域です。
鉄鋼メーカーは利益を追求しながら同時にコストの負担が大きい汚染対策も迫られていました。
国内最大手の首都鉄鋼もその一つです。
国が定める環境基準を満たすため新たに導入したコントロールルーム。
これまで環境対策に80億元を投じたといいます。
汚染対策を急ぎたい中国政府。
市民の環境問題への意識の高まりと共に活動するようになったNGOも容認しています。
最も積極的に活動しているNGO自然大学。
国内の賛同者などから資金を得るとともに国の協力も受け活動しています。
NGOは世論を喚起するためにSNSに企業が排出する汚染の実態を投稿し続けています。
この日河北省のある鉄鋼メーカーについて投稿した直後電話がかかってきました。
NGOは鉄鋼メーカーと交渉しその情報を市民に伝える役割も担っています。
今企業は汚染を巡る市民の厳しい目を無視できなくなっています。
SNSで情報が拡散すると汚染企業のレッテルを貼られ銀行の融資が受けにくくなるといいます。
大気汚染を巡って高まる国民の不満。
経済成長と汚染対策をどう両立させていくのか。
中国は難しい舵取りを迫られていました。
武漢でゴミ処理会社の操業停止を訴えてきた…この日環境に関するシンポジウムに招かれていた。
このころゴミ処理会社による汚染への激しい抗議活動は中国全土で40近くに上っていた。
任さんたちの活動はそのシンボルとして注目を集めるようになっていた。
シンポジウムには国の環境保護省直下で汚染対策に当たってきた元幹部も参加していた。
元幹部は中国政府が厳格に適用するとしている環境影響評価について言及した。
環境影響評価とは企業が工場を操業する際地元政府の認可を受けるために提出するものだ。
工場が周辺の環境にどれくらい影響するのか企業が評価機関に依頼して調査を行う。
任さんたちは改めて環境対策が軽視される現実を突きつけられた。
任さんたちは新たな戦略に乗り出した。
健康被害に苦しむ人たちを原告とし地元政府と会社を裁判に訴える事にしたのだ。
しかし何度訴えても裁判所に受理すらされなかった。
その一方で地元政府はゴミ処理会社に最も近いマンション3棟を買い取り住民運動の広がりを抑えようとした。
しかし立ち退きなどの抜本的な対策を打ち出す事はなかった。
住民代表の任さんの生活は一変した。
入退院を繰り返す息子のために会社勤めだった夫が休みの都合がつきやすいと飲食店を始めたのだ。
任さんはゴミ処理会社から離れたこの店で夜遅くまで息子と共に過ごす。
任さんたち住民は一向に改善されない状況に疲れ果てていた。
会社を訴える裁判を模索する任さんたちのもとに新たなニュースがもたらされた。
司法制度改革に乗り出した中国政府が裁判所に全ての訴えを受理するよう求めたのだ。
任さんたちのように環境汚染を訴える市民が急増。
国も対応を迫られていた。
汚染と闘う全国の人々はSNSでつながるようになっていた。
仲間たちの先頭に立ちたいと任さんたちはこの日ある行動をとった。
それまでは会社に対し操業停止と70万元の賠償金を求めようと考えていた。
しかしこの日任さんたちは賠償金の金額を7元に変えた。
任さんたちの訴えは1年間受理すらされてこなかった。
この日任さんたちの訴えが初めて受理された。
子どもたちのために苦しい闘いに身を投じた母親たち。
訴えが受理されたという知らせを聞いた全国の仲間から自分たちも後に続くという声が次々と寄せられていた。
裁判所が初めて受理した訴え。
しかしその後住民たちが環境影響評価を行った機関も被告に加えようとしたところ裁判所が拒否。
結局審議される事はなかった。

(爆発音)中国政府の汚染への宣戦布告から1年。
企業の操業停止を実行する地方政府も出始めていました。
しかし河北省の汚染は改善されていませんでした。
鉄鋼産業は利益の追求と環境対策の両立に苦しんでいました。
鉄鋼メーカーを調査してきたNGO自然大学。
この日その河北省で意外な光景を目にしました。
河北省秦皇島市。
濃いスモッグに覆われていたこの村に青空が広がっていたのです。
大気汚染の原因となっていた工場が2か月間生産停止していました。
景気が減速し資金繰りが厳しくなったといいます。
NGOのメンバーが村を訪ねると皆不満を訴えかけてきました。
この1年近く前から労働者3,000人に給料が支払われず生活が限界に達しているといいます。
思わぬ理由で汚染対策が進んだ村。
NGOのメンバーが住民たちの窮状を見かね地元政府の幹部に改善を訴えました。
村の人たちは豊かさを手に入れるために大気汚染被害にはあえて目をつむり懸命に働いてきたと言います。
この村に鉄鋼メーカーが進出してきたのは2007年。
北京オリンピックの1年前でした。
オリンピック直後に起きたリーマンショック。
苦境に陥った先進各国を尻目に中国が打ち出したのが4兆元に上る巨額な景気対策でした。
不動産ブームが起き河北省の鉄鋼メーカーも設備を増強。
鉄の生産量が急増していく中で大気汚染はより深刻になっていきました。
しかし不動産の開発ブームも終わり鉄は生産過剰になりました。
工場が生産停止した事で再び広がった青空。
村の人は汚染された大地だけが残ったと言います。
大気汚染への宣戦布告から2年が経過した去年3月。
環境汚染と鉄鋼などの生産過剰問題を同時に解消する。
中国政府が打ち出したのが…その一方で経済成長を持続させ2020年までにGDP国内総生産を倍増させるという目標を堅持しました。
しかしある地方政府の幹部は産業構造は簡単には変える事はできず環境対策も二の次であるという本音を語りました。
環境NGOのメンバーたちは汚染を克服するために気の遠くなるような地道な調査を続けている。
この日の調査の途中。
農薬メーカーの工場が爆発。
安さを武器に欧米の企業からの委託を受けて生産を拡大させていた。
危険な物質が住宅街にまき散らされた。
工業団地には企業の納税ランキングが掲げられていた。
環境対策はおざなりにされてきた。
住民が健康被害を訴える武漢のゴミ処理会社は今も操業を続けている。
母親たちの先頭に立ってきた任瑞さん。
一人息子が発作を起こさないよう店にベッドを持ち込み暮らすようになっていた。
母親たちが子どもたちのために立ち上がって3年。
何度退けられても訴訟を起こし続けている。
子どもたちの未来のために終わりのない闘いが続く。
世界経済の命運をも握りながら豊かさを求め果てなき膨張を続ける巨龍中国。
命を脅かす大気汚染に沈黙を破り声を上げた人々。
この冬北京の空はまたいつものようにPM2.5の濃いスモッグに覆われている。
2017/02/05(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 巨龍中国▽大気汚染 超大国の苦闘〜PM2.5 沈黙を破る人々[字]

PM2.5を始め深刻な環境汚染に直面する超大国・中国。政府は、汚染に宣戦布告すると宣言し、対策に乗り出した。そして立ち上がった市民たち。大気汚染との闘いの記録。

詳細情報
番組内容
2014年3月、中国政府は汚染に宣戦布告すると宣言。大規模な対策に乗り出した。国民の環境汚染への不満がかつてないほど高まり、貧困問題とともにその克服が大きな政治的課題になっているのだ。違法企業への罰則が強化されるなど対策が次々と打ち出されているが、経済成長を続けながら環境汚染を解消させるという難しい舵(かじ)取りが迫られている。そうした中、大気汚染との闘いに立ち上がった人々…。知られざる記録。
出演者
【語り】谷田歩,柴田祐規子