東京電力福島第一原子力発電所。
先月30日2号機の内部を探る調査が行われました。
格納容器の内部にある原子炉に向けてカメラを取り付けた棒状の装置を挿入していきます。
原子炉の真下格子状の床にこびりついた黒い堆積物。
溶け落ちた核燃料デブリの可能性があります。
確認する調査が続けられています。
この時カメラはデブリを冷やすための水があふれ出している様子も捉えていました。
高い放射能を持つ汚染水。
日に日に増え今大きな課題の一つになっています。
今回「サイエンスZERO」は汚染水と戦う現場に入りました。
切り札として導入された…地中に凍結液を注入し土を凍らせて壁を造ります。
原子炉建屋を取り囲み地下水を遮る試みです。
どこまで進んでいるのか?そして効果は現れているのか?最新報告です。
2011年3月メルトダウンを起こした福島第一原発。
あれから6年…。
こちらは最近の映像です。
廃炉に向けた作業が一歩ずつ進められています。
構内に入るとまず目につくのは汚染水をためた巨大タンク。
汚染水は現在一日およそ200トンペースで増え続け今や100万トン。
100万トン。
現場ではその管理に神経をとがらせています。
衛星画像で見てみると…。
構内の空き地だった場所がタンクで埋まっていく様子が分かります。
現在タンクの数はおよそ1,000基に上っています。
汚染水がこれほどまでに増えた大きな原因は地下水です。
溶け落ちた核燃料デブリを冷やした水など高い濃度の汚染水がたまる建屋。
そこに地震で出来た隙間などから地下水が流れ込み汚染水が増えているのです。
一日600トンがくみ上げられ浄化装置でセシウムなどの放射性物質が取り除かれています。
そのうち290トンは原子炉に戻され冷却水として使われています。
しかし残りの310トンは更に高性能の浄化装置で処理されたあとタンクに貯蔵するほかありません。
つまり汚染水の増加を防ぐためには地下水の流入を止める必要があるのです。
そのために造られているのが凍土壁です。
4機の原子炉を囲うため全長1,500m。
深さは30mに及びます。
およそ350億円の国費が投入されています。
今回許可を得て凍土壁の取材を行いました。
4号機建屋のすぐ脇。
マイナス30度の凍結液が流れているパイプがあります。
そこから分岐し地中深くに打ち込まれた細いパイプ。
この中を循環する凍結液によって周りの土が凍り壁となるのです。
東京電力の担当者に凍土壁の断面を掘り出したところを見せてもらいました。
現在計画された面積のうち95%以上が凍っているといいます。
効果は現れているのでしょうか。
汚染水は日に日に増えてしまっているようですけどもその汚染水との戦いは地下水との戦いでもあるんですね。
これは大量の地下水が建屋に入ってきてしまう理由の一つは福島第一原発が建っている土地にあるんですね。
土地ですか?これは模式図なんですが大きな段がありますよね。
本当だ。
何か切り取られたようになってますね。
そんな場所に建ってるんですか?はい。
ちょっと当時のですねこれが映像なんですが…。
こうやって地面をですね切り崩してるんですね。
30mほどこれ削り取ってるんですよ。
かなりですね深さは。
これはですね…ただそのために結果的には山から海へと流れる地下水の地層のただ中に建ってしまったって事なんですよ。
なるほど。
そういう背景があったんですね。
これまでの汚染水対策について教えて頂けますか?汚染水対策には3つの基本方針がありまして1つは取り除く。
それから漏らさない。
そして近づけないこの3つであります。
取り除く漏らさない近づけない。
それぞれどういう対策なんですか?まず「取り除く」でありますけれども震災直後にトレンチと呼ばれますいろんな配管の入った地下トンネルがありますけれどもその中に大量の高濃度の汚染水が滞留しました。
それを抜き取ったのが「取り除く」であります。
それからもう一つは汚染水の中には放射性物質がたくさん入っています。
それをさまざまな機械を利用して除去する。
それも「取り除く」になります。
取り除いてタンクにためてくっていう事ですか?はい。
それから「漏らさない」でありますけれども先ほどのトレンチの中にコンクリートを充てんしてそして水が通らないようにしてそれ以上汚染水が海の方に流れないようにする事。
また岩壁の方に鉄の壁を造りまして地下水がほとんど漏れないようにする。
更に井戸で地下水をくみ上げたり地面を舗装して雨水が浸透するのを防いだりしています。
これが地下水などを汚染源に「近づけない」対策です。
それから更に切り札としまして凍土壁というものが提案された訳です。
その凍土壁なんですが4つのですね原子炉建屋を囲む形なんですよ。
この凍土壁というのは別に特別な工法ではないんですね。
例えばなんですが…じゃあもう普通に使われている工法だからこれもう使ったらうまくいきそうですね。
そのように見えるんですけども実際は今回の場合は30mの深さまで凍らせるという事更に延長が全部で1,500mあります。
これだけの大規模なものは前例がありません。
あっそうなんですね。
ちょっとここで30mの深さを体感してみましょうか。
はい。
お〜。
崖になりましたね。
えっこれ30mですか?これが30mですね。
深いですね。
はい。
でここにですね凍結管を打ち込んでいくんですね。
わあここに。
おお〜。
すると徐々に凍土壁が出来ていくと。
あ〜なるほど。
いやすごい。
思った以上のスケールの大きさで。
スケール大きいですよね。
これは大変ですね。
いやかなり大きいですけどだけど凍土壁ほぼ完成していたっていう事ですよね?効果はどうだったんですか?その気になる効果なんですが…井戸?はい。
凍土壁と鋼鉄製の壁に囲まれた場所に造られた井戸。
凍土壁が地下水を遮っていればくみ上げられる地下水の量は徐々に減っていくはずです。
そこでこの井戸に注目が集まっているという訳なんです。
結果はこちらのグラフで見てみましょう。
これのくみ上げられる地下水の一日の量ですね。
で去年の7月までは一日大体平均350トン程度で推移してきています。
ところがですね8月と9月になると…。
あら!急激に増えてますよ。
ええ。
この時点で凍土壁は9割方完成していたんですよ。
え〜!という事は凍土壁の効果はあまり見られなかったって事ですか?いえこれは雨の影響が出てると思います。
そうなんですね。
このグラフにですね一日の雨のですね平均量を重ねてみますね。
ほら。
これ8月9月はたくさん雨が降ってるんですよ。
あっ確かに。
去年大きな台風もありましたしね。
で10月以降はどうなったかというとこんな感じで降水量も減って地下水の量も徐々に減っていってると。
そして今年の1月の時点では一日140トンという最低値を記録している。
本当だ。
かなり少なくなってますよね。
伊藤さんはこの結果をどう見ていらっしゃいますか?一定の遮水効果は認められると思います。
しかし期待していたところまでは至ってませんのでこの理由にはいくつかあると思います。
なぜ期待に届かないのか。
東京電力はその原因を検証しています。
ここは凍土の状況を24時間監視する制御室。
海側の凍土の温度を示したデータです。
青い部分は完全に凍っている事を示しています。
しかしところどころ白い部分があります。
凍っていないと思われる部分です。
建屋の海側には配管などが通るトレンチと呼ばれる地下トンネルが通っています。
事故直後たまっていた高濃度の汚染水を除去しコンクリートで埋められました。
そのため凍結管を打ち込めず下に水の通り道が出来ている可能性が高いのです。
もう一つ地下水の量が期待どおりに減らない理由として考えられる事があります。
凍結管のパイプをよく見ると…。
こちらは霜に覆われ凍っている事が分かります。
一方その隣のパイプは…。
この場所幅4mにわたってあえて凍らせていないのです。
こうした場所が山側に全部で7か所あります。
なぜあえて凍らせていない場所を作っているのでしょうか?この方針を決めたのは廃炉作業の安全性を審査する原子力規制委員会です。
建屋の地下にたまる1リットル当たり1,000万ベクレルを優に超える超高濃度の汚染水。
これが漏れ出す事を絶対に防ぐための方針だったといいます。
一体どういう事なのか。
実験で見てみます。
高濃度汚染水に見立てた黒い液体が入った建屋の模型。
地下水を模した青色の液体で満たされた地面に建っています。
実際の建屋には配管のつなぎ目などに隙間があるためこの模型にも穴を開けてありますが…。
黒い液体は外に出てきません。
地下水の水位が建屋の中の汚染水よりも高い位置にあるため水圧の関係で漏れ出さないのです。
しかし地下水が減ると…。
水位が逆転した途端建屋の中の高濃度汚染水が外に漏れ出してしまいました。
汚染水を増加させる原因となっている地下水。
実は高濃度汚染水が漏れ出さないよう押さえ込む働きもしているのです。
原子力規制委員会は凍土壁によって地下水が完全に遮られたあと水位の逆転が起こり高濃度汚染水が外に漏れ出てしまうのではないかと懸念しました。
そこであえて凍結させない部分を作り水位の変化などを慎重に見極める事にしたのです。
う〜ん。
地下水を減らしたいのに減らし過ぎてはいけないって本当に難しいですね。
はいそうです。
しかし一方で…どういう事ですか?それは山側の7か所の凍結してない箇所があります。
でそちらの方から地下水が流入してきてこの中に入ります。
でそれから出口を求めまして海側の凍らせる事ができなかった箇所から海の方に漏れていくという訳であります。
これによって全体的に海側の凍土壁の効果が弱まっているように見えます。
凍土の専門家…地下水が集中した所では流れが速くなり凍土が出来にくくなっていると考えています。
砂を詰めた3本のアクリル製の筒。
3本それぞれ画面左から右に水が流れていますがその流れる速度は異なります。
3本の筒を貫く管にはマイナス25度の冷却液が流れています。
こうして地下水の流速による凍土壁の出来方の違いを調べるのです。
実験開始から30分。
流れの遅い筒の表面に白い霜が現れ始めました。
凍土壁が出来ている証拠です。
水も止まりました。
更に4時間後。
真ん中の筒でも凍土壁が出来水が止まりました。
しかし一番上流れる速さが最も速い筒では凍土壁が出来ません。
結局12時間以上経過したあとも水は流れ続けました。
7か所を閉じていない現在の状況では凍土壁の隙間で地下水の流速が速くなってしまうため凍土壁が出来にくくなっている可能性が考えられるのです。
あの7か所に関しては今後どうしていくんですか?…進めていく事になっております。
最終的に凍土壁のゴールはいつごろになりそうですか?それは何とも言えませんが今が工事の一番大切な時期だと考えております。
それから…あと3年ですね。
いや〜何か慎重に行かなきゃいけない部分ではありますけどなるべく早く終わるといいですね。
さて今日お伝えしているのは汚染水の問題。
浄化の処理も進んできてはいるんですが実は現在ある浄化装置では取り除く事ができない放射性物質があるんですね。
そんなものがあるんですか?はい。
それがこちらのトリチウム。
トリチウム?ちょっと聞いた事ないんですけど一体どんなものなんですか?これはですね水素の同位体なんですよ。
で水素というのはこれ真ん中に陽子があってその周りを電子が1個回ってるものですね。
これは習いました。
はい。
でこの陽子に中性子が2つくっつくとトリチウム。
でこれは放射性物質になってしまうんですが今ある浄化装置では取り除く事ができないんですよ。
なぜトリチウムは今の浄化装置で取り除けないのか。
通常トリチウムは水分子H2Oの水素と置き換わった形で存在しています。
こうして出来たトリチウム水は水とほぼ同じ性質です。
そのため浄化装置で吸着除去されず最後まで残ってしまいます。
実は100万トンの汚染水のうち70%はほかの放射性物質はほぼ除去されているのにトリチウムが混ざっているためにタンクにためざるをえない状態なのです。
このトリチウム水を大幅に減らすために応用できるのではないかと考えられている研究があります。
実験に使うトリチウム水は1ミリリットル当たりおよそ3,000ベクレル。
福島第一原発でためられているトリチウム水の一部と同レベルです。
開発中の装置を使うとトリチウム水と水を分離できるといいます。
装置によってトリチウム水を除去したあとの液体を取り出し濃度を測定します。
結果は…。
(杉山)濃度が3ベクレル毎ccとなってます。
この結果からするとトリチウムを1000分の1の濃度に低減する事ができたと。
これは国が定めたトリチウム水の排出基準1ミリリットル当たり60ベクレルを大きく下回る画期的な結果です。
この装置の秘密はガラス管に詰められた球形の触媒と金網状の金属にあります。
どんな仕組みなのか。
まずトリチウム水を電気分解すると水素原子とトリチウム原子が結合したトリチウムガスが発生します。
このガスが触媒の表面で水蒸気に出会うとトリチウムは水蒸気の分子に移動します。
この反応によって水素分子とトリチウムを含んだ水蒸気が出来ます。
更にその水蒸気が金網の表面で液体の水と出会うと…。
トリチウムは液体の方へ移動します。
そしてガラス管の下へと落ちていきます。
一方トリチウムを失った水蒸気は上昇していきます。
トリチウム水を供給しながらこの2段階の反応を繰り返させる事でガラス管の上からはトリチウムの濃度が低い水を取り出す事ができます。
一方ガラス管の下には濃縮されたトリチウム水がたまるのです。
杉山さんは触媒の大きさや金網と混合する比率に工夫を加え効率を上げる事に成功しました。
しかしこの装置を大規模なプラントにするには数百億円から数千億円かかると見られ費用が課題です。
更に処理したあとに発生する濃度の高いトリチウム水の扱いについても考える必要があるといいます。
このトリチウム処理っていうの実用化というのはまだ先になりそうですか?そうですね。
この分離の場合にはやっぱり…実は国もトリチウム分離の実証実験を公募しまして日本とアメリカとロシアのチームが参加をしました。
その成果は上がってるんですけども実際に100万トンに対応したプラントで本当に動くかっていう確証が得られないっていう事で国としては現在実用化のレベルに達してないそういう判断をした訳です。
国の専門委員会ではトリチウムを含む処理水を希釈して海洋とか大気に放出するというような案も提案されているんですね。
それは大丈夫なんですか?…っていう事が特徴として挙げられるんですね。
水の中だとですね1000分の5mmぐらいで止まってしまうんですね。
放射性セシウム137っていうのありますけどもそこから出てくるβ線というのは水の中でも約1.5mmぐらい最大ですけども飛びます。
そうすると最大の距離でも300倍ぐらい違うので。
かなりエネルギーは小さいんですね。
それからもう一つは内部被ばくというのを考えた時に先ほども出ましたけどもトリチウムっていうのは水ですから水っていうのは体の中にはたまらずにどんどん入れ替わりますからそういう意味でも影響は小さいというふうに判断されるという事です。
そういういろんな事をですね実験データに基づいてシミュレーションした数字を国際放射線防護委員会ICRPっていいますけどもそこが提示をしています。
でその数字を見てみるとですねトリチウムの影響っていうのは例えば放射性セシウム137と比べると約700分の1なんですね。
でストロンチウム90と比べれば1500分の1ぐらい。
非常に小さいという事になります。
ですから結局その濃度が薄ければ影響は科学的にはほとんどないという判断ができるという事なんですね。
そういった科学的な議論がなされてるって事ですね。
そうですね。
はい。
とはいえちょっと心配っちゃ心配なんですけども…。
まあ一番問題になるのはやっぱり科学的に問題がないっていう事と地域の方とか国内の皆さんがですね納得して安心できるかっていうのは全く別の問題っていう事になるんですね。
やはり科学的なデータとそれから社会的なリスクのバランスを取る。
Dial2017/02/12(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「シリーズ原発事故(16)最新報告 汚染水との戦い」[字]
福島第一原発では建屋に流入した地下水が大量の汚染水となる。対策のための凍土壁。効果はあるが、期待には届いていない。既存の装置で除去できないトリチウムも課題だ。
詳細情報
番組内容
事故から丸6年。福島第一原発では汚染水対策が正念場を迎えている。敷地内の巨大タンクに貯まった量は100万トン。建屋に流れ込む地下水が地下部に溜まった汚染水と混じり、膨大な量になっているのだ。地下水流入を止める切り札が凍土壁。ほぼ凍結が完了し、一定の効果が見られるものの、期待には届いていない。さらに既存の浄化装置では除去しきれない放射性物質・トリチウムの対策も課題だ。汚染水対策の現状と課題に迫る。
出演者
【ゲスト】摂南大学理工学部教授…伊藤譲,茨城大学理学部教授…田内広,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】稲垣秀人