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書き起こし 100分de名著 レヴィ・ストロース“野生の思考”第2回「ブリコラージュ」 2016.12.12

私たちの暮らしを支える高度な科学技術。
設計図をもとに大量生産された家電や電子機器があふれています。
一方設計図を当てにせずあり合わせのものを寄せ集めて作ったものが時に私たちを驚かせる意外なものを生み出す事があります。
フランスの民族学者レヴィ=ストロースは著書「野生の思考」の中であり合わせの材料を用いる思考方法を日曜大工に例えて「ブリコラージュ」と名付けました。
「100分de名著」今回は新しいものを生み出す鍵「ブリコラージュ」に迫ります。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今月ご紹介している名著はレヴィ=ストロースの「野生の思考」ですけれども第1回は「歴史」と「構造」という事で違いを学びましたが。
そうですね始まる前に「難しいよ」と言われたんですスタッフからね。
難しいは難しいんですけども一つ一つ先生のお話を聞いて腑に落としてくのがとても楽しいです。
ええ。
今回も更に読み進めてまいりましょう。
指南役は人類学者で明治大学野生の科学研究所所長の中沢新一さんです。
今回もよろしくお願いいたします。
お願いいたします。
今回はどういった事を教えて頂けるんでしょうか。
まずその「野生の思考」というのがどういうふうに働いてるかというのを説明するのにレヴィ=ストロースがすごいうまい言葉を使ってるんですよね。
これは「ブリコラージュ」という言葉でこれは結構流行語になって昔。
「ブリコラする?」とか言う。
え〜!…という感じにもなったぐらいで。
このように訳されているんですよね。

 

 


フランスへ行くとホームセンターの看板に「ブリコラージュ」って書いてあって日曜大工の事なんですよね。
適当にちょいちょいと材料を集めて作っちゃう事を言うわけですけども適当にちょいちょいとうまく材料を集めてうまくピタッとものを作っちゃうというのが「野生の思考」の特徴ですよという事をまず冒頭からやっていくんですね。
では早速ブリコラージュについて見ていきましょう。
レヴィ=ストロースは「ブリコラージュ」を未開社会の特徴的な思考方法だと考えました。
レヴィ=ストロースはブリコラージュを現代の科学的思考と対比させて分析しました。
そして「概念」と「記号」という言葉を用いて表現しています。
科学的思考は「概念」を組み立てる事から始めます。
「概念」とはある特定の用途にぴったり合うように作り出された知的道具を指します。
エンジニアは「概念」を用いて正確に作るため全く無駄がありません。
これに対し先住民の思考であるブリコラージュは「記号」を用いるとレヴィ=ストロースは言います。
「記号」は「あり合わせの道具や材料」を指し最初の意図とぴったり合う事がありません。
そのため絶えず揺れやずれを持っているというのです。
ブリコラージュに長けている先住民たちの表現はこれで完成という事がありません。
揺らぎやずれをはらんでいるため次のものを作ります。
それもまだ完成ではないのでまた作ります。
こうしてどんどん変形を重ね豊かな文化の世界が形成されるとレヴィ=ストロースは考えたのです。
科学的アプローチを使った方がパーフェクトなものが出来上がるって考えがちなんだけれどもじゃあそもそもその材料はきちんと集まんのかい?という話をした時にどっちかというとパーフェクトに近いのはそのブリコラージュの方なのかしらという。
例えばねお料理なんかで言うとこっちの科学的思考のお料理というのは材料何グラムそれから道具はねどこそこの包丁を使ってとかピシッとこだわりで並べてそれで料理作り始めて「はい」って出来上がってくる料理があります。
これ科学的な思考の料理なんですよね。
もう一方は「ああ腹減った」って子供たち帰ってきて「しょうがないわね」って冷蔵庫を開けてあり合わせの道具を材料を持ってきて野菜卵とそれでチャッチャッチャッチャッと目分量で料理作っていくじゃない。
そして「はい」って出されたものはとってもおいしかったりしますよね。
はい。
科学的な思考で作ったものはその環境さえそろえばアベレージで何とかものが出来る事はあると思うんだけど何か突発的にものすごいものが出来たりとか環境が整わなくても形が出来たりという事で言えばやっぱり万能ですよねブリコラージュ側は。
これがうまいのは誰だろうなというと女子高生かな。
日本の女子高生ってこれ異常にうまいと思います。
新しい新造語をギャルたちがつくってくのを見てると時々びっくりするようなブリコラージュをやってるなと思います。
それからおしゃれ。
おしゃれの独創性というのも非常にブリコラージュですね。
この間驚いたのはさネイルのビーズみたいなのを本格的なネイルってつけるじゃない。
女子高生がさ米でやってるんだ。
米?面白いのよ。
「私しかやってないからやってみた」というので言うと結果的にみんな注目してるしねって。
結果的にその子はかわいいの出来たと思ってるからそれでいいんだと思うんですよ。
俺それができないタイプ。
実はできないタイプ。
あそうですか。
最初に決めたその旅行の行程から外れる事ができなかったりとか。
でもね分かる。
憧れるからそこの「野生の思考」に。
その中のね一番華やかな作品というのは神話なんだと。
神話というのはそれによってこの世界の成り立ちとか…意外ですね。
どういう事なのでしょうか。
レヴィ=ストロースは神話の構造を見極めるためアメリカの人類学者フランツ・ボアズの言葉を引用しています。
神話は別のところに使われた出来事の破片を拾ってきてブリコラージュして作られます。
そのため揺らぎやずれをはらみ時代や場所によって変化し新たな文化を生み出していくのです。
オーストラリアのムルンギン族の神話を見てみましょう。
タイトルは「虹の蛇」。
この「虹の蛇」は宇宙の根源。
池の底から天空に現れては虹の形をとり天と地を結ぶ能力を持っています。
実は2人は結婚を禁じられている男性と関係を結んでいたため村を追われていました。
そして村からどんどん離れていきます。
途中で妹が出産しますがその後も旅を続けます。
この時姉の方が池の水を経血で汚してしまいます。
すると大蛇ユルルングルが腹を立てて池の底からザザーッと現れ女たちと子供を飲み込んでしまったのです。
大蛇ユルルングルが鎌首を持ち上げると水は地面や植物を覆い尽くし大洪水になってしまいました。
しばらくして蛇がゆっくり池の中に帰っていくと水もスーッと引いていったのです。
大蛇が現れて鎌首を持ち上げるという行為はこの地域の季節の変化と関係しています。
オーストラリアでは雨季と乾季がはっきりと分かれています。
雨季には土砂降りが続き辺りは洪水になります。
人間も動物も皆高台に逃げたり岩陰に隠れたりして雨がやむまで待ち続けます。
やがて乾季になると一面緑の世界になり命が芽吹き食べ物が豊富になります。
ムルンギン族は食べ物のある乾季を良い季節とし雨季を悪い季節と考えていました。
そして雨季を大蛇に例えこれを男の季節乾季を文化の世界とし女の季節と例えます。
雨季が乾季である女を飲み込む事で生命が新たに生まれるという考えをこの神話で表現しているのです。
レヴィ=ストロースはこのようにブリコラージュによって生み出した「神話」を人間が自然と文化の矛盾を乗り越えるための人類最初の哲学であると分析しています。
本当に起こっている雨季と乾季の入れ代わりみたいな出来事についてそれは実は大事な事なんですよって事を教えるのにちゃんと周りにあるそれらしいパーツとか下手すりゃ他の単なる昔話の一節みたいのをもう入れちゃってもいいやみたいな。
ちょっと面白い。
ブリコラージュで出来てるという考え方はすごくよく分かりますね。
いろいろなものが組み合わさって。
こちらが今ご覧頂いた「虹の蛇」の神話に出てくるパーツ「記号」ですよね。
どんな「神話」もこのパーツの組み合わせで出来てるんですが「虹の蛇」の神話というのはこの季節の変動と関わり合って乾燥した季節は良い季節だと。
緑が豊かに生えそろうわけですけど。
しかしそれが今度はモンスーンの季節になるとものすごい雨が降るんです。
辺りは大洪水になっていくわけ。
大洪水にのまれちゃうわけですからこれは非常に困った悪い季節なんですね。
だけど大地を水がのみ込んでいく事によってモンスーンが引いてくと大地には今度は花が生えそれで動物たちが繁殖をしという豊かな世界が起こる。
この何と言いますか矛盾したサイクル。
だから悪いものを取り入れるという事はいい事なんだという事ですよね。
女性が神聖な池を汚したという事もこれは別に良くない事とも言える。
良くない事が世界を変えるきっかけになっていくわけですよね。
池を汚した。
それによって水底にいる蛇が鎌首をグーッと持ち上げて鎌首を持ち上げてくるとこれ虹の色をしてるんですよ。
う〜っと立ちのぼってきて天と地をつなぐわけですよ。
そうすると雨がザーッと降り落ちてくるという映像を浮かべるんですけどそういう状態がもたらされるためには負の要因が入ってないといけないという事なんですね。
この世界にはいいものと悪いもの良い季節悪い季節それからタブーというか規則とそれを犯すものこういうものが2つあるけどもこの2つは必ずお互いに相手の中へ食い込んでって……というのが「神話」の考え方になりますね。
これをそういう思想を実現するために先ほど言ったブリコラージュの思考方法。
全部違うレベルのものをブリコラージュのやり方で組み合わせて一つの思想を表現しようとしてる。
今「神話」という事でしたけれども他にもブリコラージュで先住民の方たちが生み出していたものがあるという事なんですか。
それはだからブリコラージュの一番直接的な表れ方というのはいわゆる呪術というやつなんじゃないでしょうかね。
呪いとか祈とうとかああいう世界ですか。
呪術。
呪い祈とうもそうなんですけどいわゆる未開社会が行ってる科学的な思考に属するものは大体この呪術として表現された。
は〜儀式とかおまじないとか僕らは科学と全く違うとこにあるような気がするけどそうじゃない?そうじゃないんだという。
ではそこの「科学」とこの「呪術的思考」どんな関係にあるのか見ていきましょう。
19世紀以降科学技術が発達した西欧社会では呪術は非合理的な迷信と見られてきました。
例えば占星術。
いかにも非科学的なものの典型とされそれを乗り越える事によって近代的な科学が生まれてきたとされていました。
しかしレヴィ=ストロースは実は呪術と科学の違いはそれほど大きくないと考えます。
レヴィ=ストロースは呪術的思考は1万2,000年前の新石器時代に組織化されたものだと考えました。
この時代人類の間で神話や儀礼が体系化されました。
それと同時に土器農耕動物の家畜化などの文明を作る上でのベースとなる重要な技術を生み出しているのです。
例えば天文学者ケプラーはもともと占星術師でしたが占星術の思考方法と知識によって天文学における重要な法則を発見しました。
また物理学者ニュートンは自然哲学の数学的諸原理を明らかにした「プリンキピア」を書き上げたあと錬金術と占星術に熱中します。
現在科学的思考が正しくて呪術的思考は後れた思考であるかのように考えられています。
しかし現代の科学が用いている道具と手法の全ては呪術的思考の中に準備されていたとレヴィ=ストロースは結論づけるのです。
科学が間違いだって言ってるわけでは当然ないんですよねこれ。
何かいいなと思うのはこの両者を認識の二様式として並置していいだろうと。
適用されるタイプに応じて変わっていいでしょうという事を言っていると。
そのとおりですね。
呪術が間違って科学は正しいとかあるいは科学なんか駄目で呪術というかオカルトみたいなのねそれがいい。
これは両方とも間違った考えでもともと…対象が違うと一方は科学的思考になり一方は呪術的な思考になるけれどもそういう意味ではこの2つは並置して考える事ができるでしょうという考え方ですね。
しかもその呪術というのが新石器時代になって確立されたものだとレヴィ=ストロースは考えてますね。
そこら中に散らばってるいわゆる…だからその過渡期にいた科学者たちは半分呪術師で半分科学者だったというケースがほとんどなんですよね。
でも科学的思考がどうして私たちを支配するようになっていったんですか?一番の発端は農業革命から来てますから。
農業革命で生産力が高くなった。
人口を養えるようになったんですねたくさん。
そうすると人口がたくさん増大してきた。
その時まず社会の構造というのが新石器時代の前のやり方だと破綻し始めたわけです。
それでまあ都市が形成されるようになった。
長い事は…中世ぐらいまではバランスを取ってきてるんですよ。
近代になるとそれもできなくなってくるわけですね。
なるほど。
それがまあ近代の大きな様相で呪術にしても神話にしてもみんな「構造」という循環的な閉じられた世界をつくるという原理のためにこれを捨てたんですよね。
今の科学技術オンリーの世界に突入してるわけですけどこのままでいけるかどうかという事に関してレヴィ=ストロースは大変ペシミズムなんですね。
駄目だろうと。
これを乗り越えていくためにはどうしたらいいか。
それは…この2つの間にバランスをつくる事ができれば人類は生き延びる事ができるかもしれない。
割と科学の中でも歩き始めの頃の科学ってあるじゃないですか。
それに比べるとかなり深いところまで科学は来始めたからもしかしたら「野生の思考」の言っていた部分まで微に入り細に入りもしかしたら科学がやれるようになるかもしれないじゃないですか。
ましてインターネットを使い新しいその中にトーテムが生まれ…。
なるかもしれないじゃないですか。
いや実際に今の科学の最先端で起こってる事というのは僕みたいな人類学をやってる人間から見るとこれは「野生の思考」の現代版だなと思う事がいっぱいあるんですよ。
科学自体が実のところそっちの方向に変わりつつあるんじゃないのかあるいはそれを今無意識にやってますけどもこれを意識化していく必要がある。
そのためには「野生の思考」というものがあるいは人類の普遍的な思考能力がどんなふうな働きをしてるかという事をはっきり知らなきゃいけないでしょ。
それのためにこの本は書かれたんだと思いますね。
いよいよ第3夜第4夜でまたその辺りを教えて下さい。
はい。
中沢さん今回はどうもありがとうございました。
2016/12/12(月) 22:25〜22:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 レヴィ・ストロース“野生の思考”第2回「ブリコラージュ」[解][字]

ありあわせの素材を使いさまざまなレベルでの細かい差異を利用し本来とは別の目的や用途のために流用する思考法「ブリコラージュ」。近代人が失った豊かな思考の可能性とは

詳細情報
番組内容
ありあわせの素材を使い、さまざまなレベルでの細かい差異を利用して本来とは別の目的や用途のために流用する思考方法「ブリコラージュ」。未開人の思考法には近代化の中で私たちが見失ってしまった、理性と感性を切り離さない豊かな思考の可能性が潜んでいる。動植物など経験的な素材を使って精緻な知の体系を築き上げる「神話」はその代表例だ。第2回は近代知と対比し「ブリコラージュ」と呼ばれる思考法の豊かな可能性に迫る。
出演者
【講師】明治大学教授…中沢新一,【司会】伊集院光,礒野佑子,【朗読】田中泯,【語り】加藤有生子