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字幕書き起こし NHKスペシャル「揺らぐアメリカはどこへ 混迷の大統領選挙」 2016.11.05

接戦となっているアメリカ大統領選挙
全米が注目する討論会を見に若者たちが集まっていました。
大統領を目指すクリントン氏とトランプ氏。
2人の言い争いを若者たちは笑い飛ばしていました。
建国から240年。
(拍手と歓声)大統領選挙はアメリカが目指す理想を語る舞台でした。
しかしトランプ氏は過激な発言を繰り返す事で支持を集めてきました。
そして噴き出したのが人々の心にたまっていた怒りと不満。
自由と多様な社会を掲げてきたアメリカの理念そのものが揺らいでいます。
予断を許さない情勢が続く大統領選挙。
混迷する超大国はどこへ向かうのか。
アメリカ社会で渦巻く異変の深層に迫ります。
ホワイトハウスの次の主は誰か。
決戦の日が近づいています。
豊富な実績を誇る民主党ヒラリー・クリントン氏と政治経験のない実業家共和党のドナルド・トランプ氏の戦い。
本命視されるクリントン氏に対しトランプ氏は社会のタブーに触れる差別的で排他的な発言を繰り返しながら建て前だらけの既存の政治はもうたくさんだとあくまで強気です。

 

 


そうした主張にグローバル化の中に置き去りにされ怒りに駆られる労働者やエリート支配に反発する人々が共鳴しています。
それは見過ごす事のできない一つの大きなうねりとなりアメリカがよりどころとしてきた資本主義や多様な移民社会といった価値観をも揺さぶっています。
このいわばトランプ現象を引き起こしたマグマの正体は何か。
本命クリントン氏が支持を伸ばしきれないのはなぜか。
最初の手がかりとして8年前にオバマ大統領も掲げた「チェンジ」という言葉から探っていきます。
(一同)YESWECAN!YESWECAN!かつてアメリカ中を熱狂させたオバマ大統領のあの言葉。
私は今回の取材で全く違うチェンジを耳にする事になりました。
アメリカ中西部。
全米で最も激戦となっている州の一つオハイオです。
(一同)トランプ!トランプ!トランプ!トランプ!トランプ!トランプ!トランプ…!トランプ氏の集会に集まった支持者は口々にチェンジを訴えていました。
チェンジを求める支持者にトランプ氏も応えます。
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)オバマ大統領が変革を呼びかけた時とは違う独特の高揚感。
チェンジという言葉は追い詰められたアメリカの叫びのように聞こえました。
人々が求めるチェンジとは何か。
伝統的に民主党の地盤だったにもかかわらず選挙戦を通じて共和党員が激増した街があります。
かつては全米有数の鉄の産地として栄えた白人労働者の街でした。
リック・パップさん62歳。
今回初めて共和党の候補トランプ氏に投票しようとしています。
パップさんは40年以上製鉄所で働いてきました。
8年前はオバマ大統領に投票しましたが今回はトランプ氏のチェンジという言葉に心を揺さぶられました。
かつてこの地域はアメリカの鉄鋼業を支えてきました。
街に壊滅的な打撃を与えたのが経済のグローバル化です。
中国などからの安い輸入品に太刀打ちできませんでした。
4年前に工場が閉鎖され職を失ったパップさん。
妻とは離婚し3人の娘は皆仕事がないからとヤングスタウンを離れました。
アメリカを豊かにするはずだったグローバル化によって人生の全てを奪われたと感じています。
全米の製造業の雇用はこの15年で1/3が失われました。
その一方で広がっているのが格差です。
上位1%の平均所得は今や90%の人たちの所得の30倍にもなっています。
グローバル化に取り残され白人中間層が失われた街では治安が急速に悪化。
社会に不安が広がっています。
白人中間層が多く暮らした住宅街。
最近深刻なのが薬物中毒者の急増です。
レストランの駐車場にいたのは30代の白人男性2人。
車内からヘロインが大量に見つかりました。
アメリカでは今10分に1人が薬物中毒で死んでいます。
特に白人の死者はこの15年で3倍に急増しています。
中年世代での10万人あたりの死亡率を示したグラフ。
先進国の中でアメリカの白人だけが唯一上昇しています。
製造業などの雇用が減少し生活への不安が高まった事が背景にあるといいます。
崩壊していく白人中間層。
トランプ氏を支持するパップさんも身をもって感じています。
近所に住む妹です。
夫は失業して間もなくアルコール依存症の末亡くなりました。
妹も幻聴に悩まされパップさんが毎日通って様子を確認しています。
没落する白人労働者の支持を集めたトランプ陣営。
これまでにない独自の戦略を立てていました。
投票を呼びかける電話。
一見手当たりしだいにかけているようですが実は綿密に計算されているといいます。
トランプ氏の選挙戦略を立案した人物が取材に応じました。
マット・ブレイナード氏です。
活用したのは調査会社を通じて手に入れた膨大な住民のデータ。
過去にどう投票したか何に関心を持っているかが分かります。
ブレイナード氏はこのデータでこれまで焦点が当たらなかった白人の労働者層を掘り起こしました。
アメリカの選挙運動では通常過去に投票した頻度が高い人たちをリストアップし自分たちの候補に入れてほしいと説得しています。
政治意識の高い層が中心です。
ところがトランプ陣営はあまり投票に行っていない層に支持者が潜んでいると見ていました。
これまで政治家が重視してこなかった選挙に関心が低い労働者層に働きかけ大量の票に結び付けたのです。
グローバル化に取り残された人々のチェンジの叫び。
それを巧みに取り込んだトランプ陣営。
こうして生み出されたのがトランプ現象の大きなうねりだったのです。
金融の中心ニューヨークのウォール街です。
朝早くからビジネスマンたちが足早に行き交う姿があります。
株価など各種の指標を見る限りアメリカ経済は好調を維持しています。
しかし多くの労働者たちにとってその実感は全くと言っていいほどありません。
蓄えられた富は一部のエリートたちだけが独占し社会の裾野に下りてくる事はない。
富裕層と政治の癒着はむしろ強まるばかりだ。
そう感じる彼らにとってアメリカの土台をなす資本主義とは特権階級の資本主義にほかなりません。
大統領選挙の本命と目されてきた民主党ヒラリー・クリントン氏。
しかし特権階級の資本主義の象徴と捉えられ苦戦を強いられてきました。
上院議員や国務長官を歴任した豊富な政治経験。
選挙戦で応援に駆けつけたのは世界的な投資家バフェット氏でした。
ウォール街から多額の献金を受けるヒラリー氏は既得権益側だと捉えられてきたのです。
更に私用のEメールアドレスを公務に使用していた問題が発覚。
FBI連邦捜査局の捜査を受け信用できないというイメージも広がっています。
資本主義は特権階級による支配のシステムと化している。
そうした不信が起こしたもう一つの大きなうねりを私は今年の春目の当たりにしていました。
5月に来た時にこの広場は本当にね人で埋め尽くされていたんですよ。
「バーニーバーニー」という叫び声が上がって。
(一同)バーニー!バーニー!バーニー!バーニー!民主党予備選挙に立候補したバーニー・サンダース上院議員。
この時既に選挙戦からの撤退が決まっていましたが2万人の若者が詰めかけました。
特権階級の資本主義によって若者が格差から抜け出せなくなっていると訴え若い世代の熱烈な支持を集めたのです。
サンダース氏を支持した若者たちは今クリントン氏をどう見ているのか。
サンダース氏の人気が高かったシカゴです。
9月若者たちが集まり学費高騰に抗議する集会を開いていました。
アメリカの公立大学の授業料はこの15年で2倍に高騰しています。
クリントン氏は学費の軽減策を打ち出しましたがどこまで本気か信用できないといいます。
この集会に参加したトロイ・アリームさん25歳です。
特権階級の側にいるクリントン氏が大統領になっても自分たちの境遇は変わらないと考えています。
若者たちが特権階級の資本主義に直面したのが2008年のリーマンショックでした。
ウォール街マネーゲームが若者を追い込んだのです。
大卒の若者への求人は高収入のものが減少し低賃金の職種ばかりが増えました。
その結果のしかかっているのが借金です。
学生ローンの負債は総額130兆円。
1人あたり360万円以上に急増。
一流大学を出ても生きていくのがやっとという若者が少なくありません。
アリームさんは全米有数の大学に進学しましたが親が職を失い年間300万円の学費が払えなくなりました。
卒業しても多額の借金を返済できる仕事には到底就けないと思い大学を中退しました。
今は音楽イベントのスタッフなど仕事を掛け持ちしていますが月の収入は15万円ほどです。
生活費を切り詰めるため親戚の家を転々として暮らしています。
一握りの人だけが成功し自分たちにはチャンスすら回ってこない。
今若者の半数はアメリカンドリームを信じないと答えています。
大統領候補の討論会が開かれた夜。
アリームさんは若者たちを集めてパーティーを企画していました。
司会を務めるのは若手の芸人。
どうせ大統領候補に期待できないなら笑い飛ばしてしまおうというねらいでした。
手に持ったビンゴカードに書かれているのはクリントン氏とトランプ氏がよく使う言葉です。
討論の中で出てきたら印をつけていきます。
この日の討論では雇用問題から銃犯罪安全保障まで次々と議題に上りました。
しかし若者の教育や未来についてはひと言触れられただけでした。
若者と政治との溝はかつてないほど広がっていました。
既存の政治への怒りと絶望の背景に何があるのか。
かつてビル・クリントン大統領の下で労働長官を務めたロバート・ライシュ氏です。
若者たちが抱えている不満はトランプ氏の支持者とも通じるものがあるといいます。
富や権力を手にした一部のエリートたちがあるべき政治や経済の姿を大きくゆがめてしまったという不信感。
置き去りにされたと感じる人々の怒りのマグマはさまざまな形をとってアメリカ社会にひずみを生んでいます。
その顕著な例があります。
移民国家アメリカにとっては皮肉な自己矛盾とも言える反移民感情の高まりです。
取材を進めると新しい移民に手を差し伸べる余裕があるのなら自分たちの暮らしの方こそなんとかしてほしいというせっぱ詰まった声を数多く聞きます。
彼らがため込んだフラストレーションが一つのパンドラの箱をこじあけつつあるようです。
アメリカで今噴き出しているのが白人たちの反移民感情です。
その引き金となったのはトランプ氏による不法移民を閉め出せという主張でした。
あおられていく敵意。
移民を積極的に受け入れているアイオワ州の高校である事件が起きました。
隣町の高校との間で行われたバスケットボールの試合。
相手校の白人生徒から突然「ドナルド・トランプ」という声が沸き起こったのです。
その場にいた移民2世の生徒です。
この出来事について新聞に投書を送りました。
するとツイッターで書き込みがありました。
そこには「お前らがいるからトランプに大統領になってほしい」と書かれていました。
高まる排他的な感情の背景にあるのは押し寄せる不法移民です。
メキシコとの国境にある幅50メートル余りの川。
不法に国境を越えてくる移民は年間35万人に上ると見られています。
オバマ大統領が4年前移民に寛容な方針を打ち出して以来不法移民は自ら進んで警備員に捕まりに来るといいます。
アメリカで暮らす不法移民の数は1,100万人を超え人口構成を大きく変えようとしています。
建国以来圧倒的多数を占めていた白人の割合はこの50年で60%余りまで低下。
2055年には白人が50%を下回る一方中南米出身のヒスパニックの人口が23%に達する見込みです。
白人が多数派でなくなる危機感はこれまで移民に寛容だった人たちにまで広がっています。
30年近くアイオワで放送を続けている朝のラジオ番組。
トランプ氏が大統領候補になってから移民に対する不満が次々と寄せられています。
このラジオ番組を熱心に聴いてきたヘイヤー夫妻です。
移民によってアメリカの国の形まで変わってしまうと危機感を持ち始めています。
ヘイヤー夫妻の年収はおよそ800万円。
家計をやりくりして3人の子どもを大学まで通わせました。
それなのに支払った授業料のが移民の生徒の支援に使われたと聞き納得できないと感じています。
トランプ氏の選挙運動に参加するようになったヘイヤーさん。
周囲の住民にも支持する人が相次いでいます。
トランプ氏が開けたパンドラの箱
これまで移民排斥を口にする事をためらっていた人々までもが声を上げ始めています。
トランプ氏に触発された移民への反発は更に不気味な広がりを見せています。
極端な白人至上主義者たちが活動を活発化させているのです。
45年前から人種差別を行う団体を監視してきたNGOです。
白人の愛国主義団体の活動は実は水面下で広がっていたといいます。
この8年で白人の愛国主義団体の数は7倍近くに跳ね上がりました。
トランプ氏の登場によって人種差別的な事件が相次いでいるといいます。
ボストンではヒスパニックの男性に暴行した男らが逮捕されました。
トランプ氏がメキシコ人は犯罪者だと演説した直後の事でした。
アメリカ連邦議会を臨む広大な緑地に来ています。
この議事堂で8年前オバマ大統領の就任式が行われた際には100万人を優に超える群衆が詰めかけて「YESWECAN!私たちはできるんだ」と口々に叫んでいました。
アメリカが豊かで公正な国として再起するんだという期待がみなぎっていたのを当時取材に当たった私は今も鮮明に覚えています。
しかし期待はしょせん期待にすぎなかったのだと多くの人々が感じているように見えます。
リーマンショック以降の不況はアメリカ経済を支えてきた中間層を直撃しました。
ものづくりは衰退し学費のローンにあえぐ若者たちがちまたにあふれる中人々が政治に向けるまなざしは複雑でしかも懐疑的です。
大統領選挙が終わり年が明けて1月20日には再びこの場所で新大統領の就任式が行われます。
歓喜の声に包まれて大統領はアメリカの結束を呼びかける事でしょう。
しかし長い選挙戦の中で浮き彫りになった深刻な亀裂は新政権にとっての重い足かせになる可能性を否定できません。
しかもあふれ出た怒りのマグマがその後の社会にどう作用するかも見通せません。
内なる戦いに疲れた超大国アメリカがどこに向かうのか。
世界の視線は当面その一点に注がれる事になりそうです。
選挙戦の終盤女性問題が次々と暴露されたトランプ氏。
しかし支持は揺らいでいません。
移民の増加にいらだちを感じているヘイヤー夫妻です。
この日トランプ氏が強調したのは移民や難民の増加による更なる危機でした。
そして今。
トランプ氏が引き起こした排外主義のうねりは世界をも巻き込もうとしています。
トランプ氏の30年来の盟友ジョージ・ロンバルディ氏です。
トランプ氏との連携を求めるヨーロッパの極右政党と相次いで接触しています。
これまでに接触したのはEU離脱を主導したイギリス独立党のファラージュ元党首。
更にフランスの極右政党国民戦線のルペン党首もトランプ氏の思想に共鳴しています。
世界が固唾をのんで見守るアメリカ大統領選挙
予断を許さない戦いが続いています。
異例の選挙戦で噴出した絶望と怒り。
アメリカをそして世界をどこへ導くのか。
新たなリーダーの手に委ねられます。
2016/11/05(土) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「揺らぐアメリカはどこへ 混迷の大統領選挙」[字]

アメリカ大統領選挙が異常事態だ。過激発言を繰り返すトランプ候補だが白人中間層の支持は根強い。国民に反移民感情が高まり不満が噴出するアメリカ。何が起きているのか。

詳細情報
番組内容
アメリカ大統領選挙が異常事態だ。過激な発言を繰り返しながら白人中間層の熱狂的支持を得るトランプ候補。“トランプ現象”はグローバル化に翻弄される労働者の現体制への“抵抗”なのか。一方豊富な政治経験がありながらも苦戦するクリントン候補。格差是正を訴える若者たちにとってはクリントン氏も打ち破るべき体制側の壁だった。反移民感情が高まり「パンドラの箱」が空いたとも言われるアメリカ。この地殻変動の行方とは…