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字幕書き起こし SWITCHインタビュー 達人達(たち)アンコール「上橋菜穂子×齊藤慶輔」 2017.02.04

「SWITCHインタビュー達人達」。
本日は人気ファンタジー作家上橋菜穗子。
この人のよさそうなご婦人に今世界的な注目が集まっている。
壮大な異世界ファンタジー「守り人」シリーズは…中国語からポルトガル語まで7か国語に翻訳され世界で親しまれている。
上橋は2014年児童文学のノーベル賞ともいわれる国際アンデルセン賞を受賞。
最新作「鹿の王」は100万部を突破。
本屋大賞にも選ばれた。

 

 

 


そしてこの春ドラマ「精霊の守り人」がスタート。
腕利きの女用心棒バルサが新ヨゴ国の王子チャグムを守りながら旅を続ける。
私はすごいファンタジーが好きなので…今乗りに乗っているベストセラー作家がお相手に選んだのは…。
世界でも数少ない野生動物を専門とする獣医師だ。
北の大地釧路でオオワシやオジロワシシマフクロウなど絶滅のおそれがある猛禽類の命を救っている。
傷つき運ばれてくる鳥たち。
そのほとんどは交通事故や電線による感電事故など人間社会に起因するものだ。
その物語の中に出てくるのは…それで齊藤先生をお願いする事に。
ちょっと身を乗り出しました。
13歳までフランスの田園地帯で育った齊藤。
大学卒業後動物病院でペットの治療をしていたが野生の鳥の保護に身をささげたいと30歳の時北海道に移り住んだ。
どうも初めまして。
こんにちは。
こんにちは。
ようこそ。
初めまして上橋です。
齊藤です。
(2人)よろしくお願いします。
上橋を待っていたのは国内には140羽しかいないとされるシマフクロウだ。
こちらに。
初めましてこんにちは。
シマフクロウのチビと母親役の渡邊獣医。
渡邊先生初めまして。
初めまして。
触って頂いて結構ですので。
(渡邊)そうなんです。
今いくつなんですか?今4歳。
4歳になったんですね。
生まれつき脳に障害があるチビは巣立ちできずにいたところを保護された。
野生で生きる事が難しいためシマフクロウの環境保護を訴える活動に一役買っている。
(鳴き声)おお〜。
立派な翼を。
今渡邊さんが上にこう持ち上げた事で広げたんですか?はい。
なるほどそれが合図なんですね。
野生動物の心を知り尽くす獣医師の驚きの技とは。
それが一番難しそうな気がしますね。
ゆっくりやわらかく持っていて…そうすると「あ『動くなよ』だ。
動いたらつかまれるんだ」。
おとなしくなるんですね。
それとあともう一つはですね…それ何か齊藤先生すごくうまそう。
伝わりますか?作家上橋菜穗子はオーストラリアの先住民族アボリジニを研究する文化人類学者でもある。
20年以上にわたり現地でのフィールドワークを繰り返してきた。
これが例えば…ぶら下げてまして。
川床で肛門からずっと内臓を抜き出して…。
ちょっと中…この執務室からまずご覧に入れますね。
どうぞ。
失礼致します。
普通の動物病院と同じようなものなんですが。
そんなお話をしている中で…そうなんですか。
昨日まさに手術をして今抜糸できるまで入院をしてるところですね。
今この鳥は腹ばいにはなってますけれども気力も何もなくぐったりではないんですよね。
我々見たり撮影のスタッフを見たり。
自分が置かれてる状況とか…。
重要でしょうね。
右の翼を失ったこのオジロワシはたとえ傷が癒えたとしても二度と飛ぶ事はない。
齊藤のもとへ運ばれてきた鳥たちのうち野生に帰れるのは4割ほどだ。
診療所の裏手にはある程度回復した鳥たちを飼育するケージがある。
ハンディキャップのない野生に帰れる可能性のある今上に止まってますけどもあれを一緒に入れてるんですね。
この状態で…そうなんですか?飛べないものがやっぱり慣れてますから。
そうすると今この飛べるものは頑張らないとエサもらえない。
何となく逆のような気がしますけどそうなんですね。
そうですそうです。
エサが置かれたらバ〜ッと歩いてって。
慣れてるから。
そうです。
そうするとここの中で何やるかっていうと…ひときわ大きなケージにいるのは野生復帰が近いオオワシだ。
落ちた筋力を取り戻すために飛翔訓練をさせている。
齊藤は注意深く観察しながら野生に帰す日を見極める。
今真っ正面を向いてないで…自分が逃げる方向を見ながら片眼視普通は両眼で見るんですけれども片眼視して片っぽの目で見ながら…今片眼視してキョロキョロしてる。
これはもう本当に野生に近い状態でちょっと近寄ったら飛んで逃げると思いますね。
ちゃんと逃げようと思っている。
準備ができている。
できている。
先生は実際に経験の中で野生の猛禽類をご覧になっていますよね。
どういうふうに観察されてどういうふうにあっここはもしかしたらこうなんじゃないかと気付かれるんでしょうか?是非その細かいところを教えて頂きたいんですけど。
非言語的なコミュニケーションですね。
まさにそうですね。
ちょっと触ると痛いという声を上げるんだったらこれ分かりやすいですよね。
例えばこう触ると本当は痛いんですけど…何をやるかというと…えっ!?食べてるしぐさですか。
これはですね違うものに置き換えてるんですね。
頭の中でね。
それから相手からそういう情報を引き出す気付くっていうのとともに私の思ってる事を…でもそれ難しくないですか?そこも例えばギュッと持ってますけれども…違うんですよ。
そうすると「あ『動くなよ』だ。
動いたらつかまれるんだ」。
それとあともう一つはですね…目力。
目力と言うと普通は違うでしょと思われるかもしれないけど絶対なんですよ。
伝わりますか?だから相手とコミュニケーションそれから相手に自分の思ってる事を伝えるためには要はボディーランゲージがすごく重要なんですよね。
でも目力やられたら例えば私よく…そうならないですか?そういう個性のあるものもいますけれども…だからギュ〜ッと持ってる若い獣医師とかもいますけどもそれは緩く持てと。
それだけでまずは抑えられます。
あとは上橋さんもやってらっしゃったとお聞きしてますけど私も…私投げられるの専門。
全然駄目だったんですけど。
例えば親指。
親指をここにつけてしまうと動けない。
古武道もそうですよね。
ワシもそうなんです。
ワシも第1指を持ってここに関節をつけてしまうとピクリとも動かなくなるんです。
ワシもですか。
ワシもです。
だからそういうような…関節技を鳥にかける?こんなところで古武術の話が出てくると思わなかった。
相手から引き出そうとだけしていると限界があるんですよね。
なるほどね。
こ…怖いですよね。
怖いですしそれからつかまれたら大変な事になりますからね。
ちょっとした隙に…何か油断ができないっていう事は多々あると思うし…ここにある道具なんかも?ここにある手袋なんかもそうですね。
これが一つそうなんですよ。
これ片っぽちょっと見て下さい。
こうやって手にはめますと…。
これはめていいですか?どうぞ。
ちょっとはめさせて下さい。
私の手には大きいかな?指の先をちょっと見て頂きたいんですけれども真っ正面から見ると1/3が上平らで2/3がグルッと回ってます。
要するに…なるほど〜。
もう一つ…取れるんだ。
持ってって下さいと。
なるほど!そこまで考えてらっしゃるんだ。
(取材者)すごい力なんですか?すごい力ですね。
これはまさしく…世界にもしかしたら…?そうですねないですね。
これのもう一つの特色は…売りますか?あ〜すごいですね。
ゴワゴワにならない訳ですね。
ならないです。
日陰干しすると同じ状態に戻ります。
事故の知らせがあると齊藤は現場に急行する。
この日はオジロワシを保護した。
感電事故が発生するのは電線と鉄塔または複数の電線に同時に触れた時だ。
ワシが大きく翼を広げた瞬間に事故が起きてしまう。
傷ついた鳥はいつ運ばれてくるか分からない。
齊藤は年間100回にも及ぶ緊急手術に対応している。
野生の猛禽類の治療技術は齊藤が20年以上試行錯誤しながら培ったものだ。
いろんなものを思い巡らせてしまう。
これが臨床家なんですよね。
なるほどなるほどなるほど。
ここまでで終わりという事では絶対ないですよね。
この状況がどうしたらこうならなかったんだろう。
終わりがないですね。
やっぱりそれはそう思われるでしょうね。
生きて放して野生に戻ってったものっていうのは結構すぐ忘れるんですけども…。
そうですか。
そういうのをしょっていくんでしょうねきっと。
つらいですね。
それがやっぱりないと私はこの仕事っていうのが自分の中で納得する仕事ができないと思ってるんですよね。
齊藤は救えなかった命を生かすためにも事故の原因を究明し予防策につなげようと力を尽くしてきた。
感電の危険があるポイントに取り付けられた器具。
ワシが嫌う色を使っている。
道内におよそ1,800個の器具が設置された。
こういうようなものを電力会社の理解のもとで付けてもらってるという訳なんですね。
ここは過去に2度シマフクロウが車にひかれた現場だ。
春になるとエサとなるカエルが道路を横断する。
そのカエルを狙ってシマフクロウが路面に降りてきたところに車が突っ込んだのだ。
私たちが解剖して分かったものとしてはほとんどの場合が…それは何を意味するかというと自分たちは…こういう現象が考えられたんですね。
そこで国土交通省は事故現場の手前の路面にスリップ防止用の溝をつけた。
車が通ると音と振動が起きるのでシマフクロウが危険を察知して逃げられる。
(溝の上を通る音)齊藤が長年取り組んでいる問題がある。
発端は1990年代後半北海道で相次いだオオワシやオジロワシの大量死だった。
解剖して調べてみると原因は狩猟に使われる鉛製の銃弾だと分かった。
被弾したエゾシカの肉を鉛の銃弾ごと飲み込み中毒死したのだ。
齊藤は鉛の弾を毒性の低い銅の弾に替えるよう行政やハンター団体に働きかけた。
北海道では2004年までに鉛の弾の使用を禁止するなど対策を進めてきた。
しかしその後もワシの鉛中毒死は後を絶たない。
その鉛中毒の影響というのは飲んだ動物がなかなか助からないというのも一つなんですがそれ以上にですね…例えばシカの死体が1体ありました。
…でライフル弾で撃たれてます。
鉛の破片が含まれてます。
こういうものがフィールドにあったとしますよね。
そうすると他を押しのけてこの傷口の生々しい肉の最初の一口を食べるのは…その一番強いのは大人でほかのワシを踏み台にしながら何年もかけてここまでたどりついたワシが一口目を食べて死ぬんですよね。
なるほどね。
なるほどね。
進化はみんなこうどちらかというと弱いものから死んでいくように適者が生存するようにある程度の確率で弱いものを…。
繁殖においても遺伝子を残せるものというのは優秀な個体であるべきだった訳ですよね。
そしてそれが遺伝子を残せたはずだったという訳ですね。
でもその一口目に一番毒物が入ってたとするとこれはですねもはや種の存続に関わる一大事なんですよね。
世界で初めてこの猛禽類の鉛中毒を発見してそれが96年ですからもうかれこれ…。
10年…20年…20年たちましたね。
もうあしき事例として今からでもまあ今まさに…その一歩をどうするかですよね。
そうですね。
そのためにやっぱりもう…それは何かを盛るんじゃなくて事実を淡々と。
今日も鉛中毒の話題かい今日も死体かいと言われながら発信し続ける。
これもなかなかエネルギーいるんですけども。
本当にエネルギーがいりますね。
今例えば原発事故のあとですね自然エネルギーを使うという事で北海道は今ものすごい数で風車を作ってるんですよ。
風力発電のね。
私のとこに来てる風車に当たったオオワシとかオジロワシを検視したところ一つの特徴が明らかになってきました。
それはですね風車っていうのはこうグルグル回転してます。
そうするとブレードは上からギロチンのように振り下ろされるのと下からすくい上げる部分とがあるんですよ。
分かってるうちの…でもそれは何を意味するかというと…風車もそうなんですけども巨大なものっていうのは全体が見えないんですよね。
なるほどね〜。
だからそれはあと構造的なものもあります。
飛んでいる例えばワシなんかは前を見ながらエサを探すっていう2つの焦点を持っていますね。
ただし…だから上から来るものが見えないんだ。
下からについては分かっているので先によけながら道を選んでるんですよね。
なるほどね〜。
だからなぜ調べ続けてるか。
それはこういう人間と野生動物とのあつれきをなんとか排除して人間は風というエネルギーを将来安全に使えるようにするためなんですよ。
それを「もう人間は風なんてものはやめてまえ!やめてしまえばいいんだ!」というふうに言うのは簡単ですけれどもやっぱり今はそうじゃないだろうと。
もちろん今事故を一つでも減らすというのは私がやってくる死体を見てる人間としては一番声を大にして言いたいんだけれどもそれを我慢しながら人類としてこの風を使うためには今きっちりと…その一助になるんであればという事なんですよね。
アニメ化もされた上橋の人気シリーズ「獣の奏者」。
決して人になれる事はない孤高の獣王獣と唯一心を通わせるすべを身につけた少女エリン。
その力のせいでエリンは国の命運を懸けた争いに巻き込まれていく。
人と獣との関係を問うファンタジー巨編だ。
齊藤は6年前に出版された「獣の奏者」の外伝で獣医学に関わる部分の監修を頼まれた。
上橋の原稿をチェックしたのは山中でワシの生態調査をしている最中だった。
先生からのお返事すっごく詳細にわたっていてこんなにたくさん送って下さったんですよね。
しかもあの時はゲラをお読みになったのは山の中だったって…。
そうです。
結構な長さのゲラを野宿で読んで頂いたのかと思うと申し訳ないと思いましたけれども。
いえいえとんでもないです。
これをお送り頂いた時にすごく思ったのは…ただ1つだけ私自身が書いて「これでよかったのかな」という事を今日はちょっとお伺いしたいなと思いましてね。
彼女…主人公の女性はやはり獣医のような存在なんですけれどもこの存在がこういうふうな事を言うところがあるんですね。
私自身はこれは…今日は先生にお目にかかって先生ご自身の気持ちからしてこの感覚というのはどうなのだろうなというのを是非伺いたかったんです。
私自身はですねその動物があるべきところで生活をしてあるべき生き方をして最終的にはその命をまっとうするというところがとても重要でそれに導いてあげるのが必要だというふうに思ってるんですよね。
やっぱりいろんな動物を私は診ています。
大学卒業してからすぐは小動物臨床を私やってました。
犬とか猫を見てたんですね。
ただライフワークとして野生動物医学をずっとやっておりましたものですからその中で感じたのは野生動物それからコンパニオンアニマル産業動物それぞれやはり違った生きざまがあるんだって事を痛感したんですよね。
例えば犬を野山に放すと。
そうするとその犬はハッピーなのかどうかというと恐らくハッピーではない訳ですよね。
じゃあ牛はどうなのかというと多分同じだと思うんです。
広い所に放たれたとしてもやはり管理の中で彼らは生きている動物なんですよね。
ですから例えばここに担ぎこまれてくる野生動物も一生懸命治療して治ったと。
でも外は例えばごはんもなかなかもらえないしいろんなコンペティションもあったりして傷つく事もあるだろうからといって広いケージの中で毎日おいしいものをあげてじゃあ「これはハッピーか?」というと必ずしもそうではないと思うんですよね。
一つ私がいつも心がけてるのは自分も生態系の一員の野生動物だという感覚を失ってしまってはいけないと思うんですよね。
初めて私が獣医になった時「人間が動物を治してあげるんだ。
治してやるんだ」というような頭で犬とか猫を診てた時代がありました。
でも…ある生物がある生物を治してあげるというような目線で動物と対するっていうのはやっぱりおかしいと思ったんですよね。
でもそれを考えると…情動で他者が痛んでいる事に対してかわいそうだと思う気持ちというのがなぜ生じるのかというのが私はとてもとても面白いと思っていてですね。
私は例えば猛禽を専門に診てますけども弱った動物がいたら多分「しめた」と思うんでしょうね。
これは襲えると。
食べられると。
さあ食べられるぞ。
食えるぞ。
治そうとはまあ思わない訳ですよ普通は。
「あっおいしそう」っていうね。
そうなんですよね。
その食った食われたの関係の生態系のピラミッドというのがあってそれを治すって事が入り込むとこれピラミッドではなくなると思うんですよね。
そもそもそこからしておかしな行動を人間っていうのはする生き物ですよね。
私はずっと野生動物を診ていてもともとは人間は野生動物として生態系のピラミッドの中にいた一員だったと思うんです確かに。
それははるかはるか昔の事で。
人間は今どこにいるかって事を考えた時によく子ども向けの絵本なんかでもその中で生態系ピラミッドの頂点に人間がいたり熊がいたり猛禽がいたりっていうふうに描きますよね。
私あれ間違ってると思ってるんです。
お〜!じゃあ先生はどういうふうに…。
私はですね人間はもともと生態系ピラミッドの頂点にいた種がピラミッドから外れてしまって神になってると思ってるんですよ。
それはピラミッドまるごとあしげにして全部ぶっ壊す事ができるぐらいの文明っていう強大な力を持ってしまった。
それに気づかない。
それが人類だと思うんですよね。
本来であれば中にいて時には熊にやられる人もいるだろう。
虎にやられる人もいるだろう。
弱い者は死ぬ。
強い者が生き残る。
これが私の見ている野生動物界なんですよ。
例えば1か月以内に彼らが住んでいる森全部を切り尽くす。
こういう事だってできちゃう訳ですよね。
それに対して生物っていうのはどういうふうに対応するかっていうと…時間が全く違いますよね。
時間軸が違うんですね。
本来であればできるだけ元に戻るべきだと思うんですがもう戻る事はできないんですよね。
ただ一方で私はもう一つ…ちょっと楽観的な考えかもしれないんですけれどもガイア理論。
ガイアね。
ガイアですね。
要は地球は生命体だっていう。
あれにすごく共感するものもあるんですよね。
例えば何かが起こった時に…それっていうのは私が見ている動物の体そのものなんですよ。
病気が入った時にいつの間にかそれに対する抗体であるとか白血球が現れる。
私は昔いろんな事を考えてた時に…「自分は何になりたいんだ。
自分はどうあるべきだ」といった時に私は白血球になりたいと思ったんですよね。
すばらしいですね。
もし地球が生命だとしたらそれに対して地球をぶっ壊してしまうような何か大きな事が起ころうとしている時にそれに対して異をとなえる人間というものが現れてそれを止めようという努力をするであろうと。
私が今やっているような…それに対して…白血球の一粒が私だったとすれば…とてもとてもよく分かるお話です。
後半は舞台をスイッチ。
人の世界と精霊の住む異界が交錯するファンタジードラマ「精霊の守り人」。
流れ者の女用心棒バルサは親を殺され重い過去を背負っている。
新ヨゴ国の王子チャグムの命を救った事がきっかけで妃からチャグムを連れて逃げてほしいと頼まれる。
分かりました。
用心棒を引き受けましょう。
チャグム王子にはある異変が起きていた。
異界の精霊が王子の体に卵を産み付けたのだ。
自らを神の子孫と信じる帝は威信に傷がつく事を恐れ王子チャグムを暗殺するよう命じた。
私が下すのは天罰だ。
バルサは刺客と戦いながら王子と共に旅を続ける。
泣いてる暇はないんだよ。
泣きながらでいいから歩きな!チャグムに宿ったものの正体は?呪術師たちも真相に迫ろうとする。
異界の魔物との決戦の時が迫っていた。
それをいろんなものを背負っている女性だと思うので。
獣医師齊藤慶輔は釧路から作家上橋菜穂子の仕事場を訪ねてやって来た。
最近建てたばかりの新居だという。
お邪魔します。
は〜いどうぞ。
狭い書斎ですが。
うわ〜すごい本!上橋に大きな影響を与えた本の数々。
昆虫植物動物ウイルス…。
幅広いジャンルの専門書が並ぶ。
すごく気になるところ。
生物どうしのつながりというところが…。
すごく気になります。
ものすごく深くマニアックな部分が見えるんですけど。
マニアックですね。
近頃これがすごく面白くて…。
例えばクモの巣はあれは体の外にあるようで実は自分の…今回「精霊の守り人」私も読ませて頂きまして…。
何かすごく恥ずかしいんですけど。
どんどん引き込まれていきまして…。
ただですねこの物語を作るのにどこから始めてどういうふうにしたらこういう物語が出来上がるのかっていうのがまずそこから…すごく基本的なとこなんですけれどそれを気になって気になってしかたがなかったんですよね。
「精霊の守り人」っていうあの一冊だけこの守り人シリーズの中の第1巻目のこれだけは実は3週間ぐらいで書いたんです。
3週間ですか?はい多分。
実はきっかけっていうのはすごくしょうもない話で…。
何ですか?ビデオを借りてきまして…。
当時はまだレンタルビデオだったんですけどDVDじゃなくて。
そこに予告編がいろいろ入ってますよね。
予告編の中でバスからね…主人公とかそういうのじゃなくてその瞬間に…そしてその時からはほとんど画面が見えてない状態になって頭の中でいろんな事が回る訳なんですね。
そんな事ってあるんですか?奇怪そうな顔をしてるんですよ。
えっ!?そしてね…これは初めて話す話ですがパッと頭の中に…全くただ違う生態系が淡々とあるだけの2つの世界が出会ってたらどうだろうと…。
要はカッコウの托卵ではないですけれどもあるいは寄生するような種もありますよね。
ほかのものに自分の卵を預けてしまって育てさせてしまうような生き物がこの世にいますよね。
すごい。
そこまで膨らんでしまう訳なんですか?一気に。
それがもし托卵された男の子がその社会システムの中では…どうなるんだろうと思ったんです。
社会からそう見られている人間なのにそんな事が起きてしまったら困るような人間だったら…その辺りからいきなり話が浮かんでくるので…プロットというのはそういうふうに立てていくんです私の場合は。
そうするとその時点では…どんどん進めていくと。
頭の中で声も聞こえてるし…なのでその状況になると…それはすごく不思議な…。
不思議ですね私も不思議。
これはね本当に「どうして?」って言われて「どうすれば?」と言われても説明のしようがない。
なぜなんだろうと人間の脳みそがどうなってるんだろうって私思いますけれど…確固として自分のはずなのに…こう書きたいと思ってるのに…あらぬ方向に行ってしまう?行ってしまうんですね。
不思議だな…。
そうなんです。
まるで投げるとミットにパ〜ンって音がしますでしょ?あの時本当に気持ちのいい音は気持ちがいいじゃないですか。
生きてないっていう。
これって決して神秘がかった事を言ってる訳ではなくてゲラになりますよね。
大体全部…そうすると毎回思うのが…え〜っ?だからとてもね他人の感覚があるんです。
他者感があります物語に対しては。
いきなり浮かぶんですねそういう発想が…。
いきなりやって来るんです。
これがやって来ないと逆に書けないので編集者さんが怒ると。
あっなるほど。
「ちゃんとプロフェッショナルならバンバン書け」みたいな。
物語の中で私一つすごいなと思ったのはバルサが…ある人を助けるという行為にですね。
ああやって理屈抜きに手を差しのべるってところまでごく短期間のうちにストンと自分で納得するっていうところがあるじゃないですか。
私はあれを読んだ時ですね少し自分自身の体験と重ね合わせたところがあるんです。
図らずとも何かにぶち当たってしまって…気付いてしまったこういう場面に出会ってしまったからしかたない。
全然こんなものは解決策にならないかもしれないけどしかたないからと…私が鉛中毒の事例に出会った時はまさにそうで…。
そうそうそうなんです。
だからバルサもその条件にぶち当たってしまって…。
実は先生すごい恐ろしい事を今おっしゃっててですね…えっ!私のこのバルサは本人自身に非常に武術の才能があり強い人です。
自分自身もさまざま人助けをしてきた経験がある人間がその状況に出会ってしまったら彼女は…むしろ…悲しいというか…諦める事が許されるのはほかにすべのない人であって…どうも私は…こうありたい人だと思ってしまうらしくて書いてしまう。
もしかしたら…バルサたちはかっこいいですけれどそこをきっと…何かでもそうするとすごい齊藤先生的ですよね。
私が書く主人公がとっても齊藤先生的だなあと今思ってしまいました。
ところで上橋作品に欠かせないのが食事シーンだ。
バルサも豪快に肉料理にかぶりつく。
うまい肉だね。
鳥の照り焼きを載せた鳥飯も実においしそう。
物語に登場する料理のレシピ本が出版されるほどだ。
本当に何か食べてみたいなと思ってちょっと味が想像できたりするようなものがかなり出てきますよね。
それはそこまでの思い描きをしながら書かれているのかと思うとすごい…。
でも思ってるというより実はあれあそこで…干し肉食べたいとか。
干し肉食べたいとか…。
その中で食べ物を食べて寝て暮らしてにおいもあるような世界じゃないと嫌なんです。
その中で生きてくれて…そうですね。
あたかも目で見てるような実体験に基づいてるのかと思うような事があったんですね。
もしかしたらバルサは上橋さんの化身なのかなと思うぐらいに…。
チャグム逃げろ!うっ…。
もう無理だ。
少し休もう。
自分の力が少しでもあるうちに動け。
もう動けないのはバルサだろ!やっぱりそういう自分がなりたかったものとか実際の自分とかっていうのをこの物語の主人公に重ね合わせるっていう事はかなりあるものなんですか?書いてる最中にやっている事を後から振り返れば…こういう女が好きだったんだプロフェッショナルでね。
上橋菜穗子は1962年東京生まれ。
祖母の膝の上で聞いたたくさんの民話が作家を志す原点だった。
高校の文化祭では芝居のオリジナル脚本を自ら手がける。
演者の一人に後に俳優となる片桐はいりがいた。
上橋のもう一つの顔が文化人類学者だ。
オーストラリアの先住民族として迫害を受けてきたアボリジニの人々。
食事や労働を共にし自分とは全く異なる価値観に触れた経験が上橋に大きな影響を与えた。
そのアボリジニの研究っていうのはこういうものを執筆する時に何か生きてますか?私自身は実は…むしろ書きたくない気持ちがどこかにあるんですね。
本当にさまざまな立場の人たちが一つの日常生活を営んでいるのでそれが…もう一つねとても役に立ってるのが…こういうふうにしてまずはつるしといてこう皮をむいていくんだぞとか。
しっぽですか?はい。
こういうふうにまずちょっと切れ目を入れます。
これしっぽですね?しっぽです。
カンガルーのしっぽです。
こういうふうにするんです。
でここに今切れ目入れましたよね。
ここ灰を上にかぶせて蒸し焼きにします。
あ蒸し焼きに。
皮ごとですか?皮ごとです。
中で蒸し焼きになってる…?なってるものをこうむいてそのまま冷えたやつがおいしいと彼らは言うんですが私からすると冷えたコンビーフを食べさせられてるような気分。
何か温かい方が…。
おいしそうな気がしますね。
これをやった経験のおかげで例えば…そういうのを目で見てたし持ったら最初まだ…そのあったかい状態を知っているしそういうのが…経験がそのまま役に立つといえば。
私もいろんな所でねコウモリの丸焼きとか虫とかいろいろ食べてるんですけど。
フルーツバットとかおいしそうね。
おいしいですね。
でも料理というよりは焼死体のような。
それはちょっとそうですよね焦げ焦げ。
これも焦げ焦げになりました。
そうだなと思って見てました。
かなり焦げ焦げになりましたけれど。
一応女性らしい部分もありたいところがあるんですけどここにいたら「食えますね」とか言ってやっちゃうという…。
やっぱりその場にいると違いますよね。
例えば違う国にいて理解するっていうのも難しい部分があるかもしれないけどでもやっぱりそういうふうに頭を巡らせて…人類学者はよく知ってるんですよ。
なので…「何でこういう異世界の物語を書くのですか?」とよく人に聞かれるんですけれどこれ私…鳥の視点ですか?はい。
なので物語文学は人間を描く事を大変大切にしますから我からの世界…すごく大事にしますが私はその我と他者の関係を上から見るもう一つの視点が欲しいんです。
「異文化の衝突」というテーマに加えて命と病の本質に向き合った作品が「鹿の王」だ。
巨大帝国の侵略により奴隷の身に落とされた戦士ヴァン。
捕らわれていた岩塩鉱がある日正体不明の獣に襲撃され謎の病が発生する。
なぜか唯一生き残ったヴァンはもう一人の生き残りの幼子と共に生きる場所を求めて旅をする。
一方謎の病の原因を突き止めようと奮闘するのが帝国の天才医師ホッサル。
病原菌の正体は?生死を分ける鍵は?大自然を舞台に圧倒的なスケールでサスペンスが展開する。
ちなみにこの「鹿の王」はどういうところからこう出来たもんなんですかね?これはですねあの…その時に何が更年期というとそれまでコレステロール値が低かったのがいきなりビョ〜ンビョ〜ンと高くなったり骨粗しょう症になるというようにまるで…言われてるような事をしみじみ…。
多分男性はあんまり感じないんですが女性はそれをすごく…。
もう子どもを産み終わったら育てる時ももう大体済みましたよねと。
そうなったあなたはもう…その時になるほどもしかしたら…こんなふうに…生体というもののある姿というのを学者の目で眺めると大変非情の世界。
情の…情けのない世界が広がっています。
その一方で…脳が大きくなり過ぎたのかもしれませんが生きる事にさまざまな意味を考えこうあれば…考えるようなものを持つようになってしまった。
それがすごく私自身は知りたい。
それを描いたのが「鹿の王」。
いろんなものが物語の中に盛り込まれて現実とリンクしてるっていうとこがとても面白いなと思いますね。
現実とリンクしてそして更になおもしかしたらどこへ行くのかと想像する力も人にはあって物語が出来るのはもしかしたらそこの部分かもしれないですね。
なかなか…もしこれが別だったらってそれが…ちょっとそれは確かに…。
そうすると今まではこれが一緒に動いてたものがもしかしたら今後は別に動いていくかもしれない。
可能性が出てくるかもしれないですよね。
しかしそれがまた生態系においては…次の世代はどうなるかっていう事を考えると…もしかしたら…最初からすごい赤ちゃんができる事だってあるかもしれませんよね。
人という生物がどんどん変化する可能性が出てきますね。
生物の中から先生が人だけは生物から…ピラミッドから飛び離れちゃったっておっしゃったけれどいよいよどんどん飛び離れていく可能性が…。
本当に再生医療の時に私も実はそれを思いました。
でもきっともしかしたらその時に…だから…ねっ。
2017/02/04(土) 22:00〜23:00
NHKEテレ1大阪
SWITCHインタビュー 達人達(たち)アンコール「上橋菜穂子×齊藤慶輔」[字]

綾瀬はるか主演「精霊の守り人」はじめ壮大なファンタジーを紡ぎ出す作家・上橋菜穂子が、世界でも珍しい野生動物の獣医・齊藤慶輔と、命の神秘や自然と人間について語る。

詳細情報
番組内容
送電線による感電や交通事故、人間生活の犠牲となった動物たちを治療し野生復帰させてきた齊藤。ワシやタカとの意思疎通に必要なのは目ヂカラ?野生動物の「心」まで知り尽くす齊藤からは驚異の経験談が次々と飛び出す。一方の上橋は「物語が突然降りてくる」天性の作家。何気ないきっかけから人物設定や名前、声や体温までありありと浮かぶのだという。異世界が交錯する壮大な世界観の秘密とは?知的興奮に満ちた対話が展開する。
出演者
【出演】作家、文化人類学者…上橋菜穂子,獣医師…齊藤慶輔,女優…綾瀬はるか,【語り】吉田羊,六角精児