全文書き起こしサイト

地上波テレビの字幕を全文書き起こします

スポンサードリンク

字幕書き起こし 時論公論「自衛隊PKO〜南スーダンの現状と新任務の課題」増田剛・二村伸解説委員 2016.10.31

生字幕放送でお伝えします
こんばんは。
ニュース解説、時論公論です。
アフリカ・南スーダン国連PKO・平和維持活動に参加している、陸上自衛隊について、日本政府は来年3月末まで、派遣期間の延長を決めたうえ、駆け付け警護などの新たな任務を付与するかどうか、検討しています。
国連南スーダン派遣団は、現在、日本が参加している唯一の国連PKO活動ですが、治安が不安定なため、現地での活動の危険性を指摘する声も上がっています。
新たな任務が付与された場合、自衛隊のPKO活動はどう変わるのか。
今夜は現地情勢をもとにこの問題について、政治・安全保障担当の増田委員と共に考えます。
増田さん、その自衛隊の新たな任務について論議を呼んでいるわけなんですが、そもそも何が問題となっているのかから説明してください。
日本は5年前から南スーダンに、陸上自衛隊の施設部隊を派遣していて、現在およそ350人の隊員が道路や橋の整備、補修に当たっています。
政府は今月末までとなっていた派遣期間を、来年3月末までの5か月間、延長することを決定。
さらに交代で派遣される予定の部隊に、安保関連法に基づく新たな任務、駆け付け警護を付与する方向で検討を進めています。
この駆け付け警護は、国連やNGOの職員が、武装集団に襲撃された際に、現場に急行して救出する任務です。
駆け付け警護では、隊員がより危険な事態に陥る懸念があるため、従来よりも踏み込んだ武器使用が認められています。
自分の身を守るためだけでなく、任務を遂行するための武器使用も認め、相手が指示に従わない場合、警告射撃も可能になります。
ただ、自衛隊員のリスクが高まるのではないかと、議論も起きています。
では南スーダンのリスクについて見てみましょう。
南スーダンは半世紀以上に及ぶ内戦の末、2011年にスーダンから分離独立した、世界で最も若い国です。
当時、私も現地で取材していました。
その国造りを担うPKOに自衛隊が参加したんですが、独立の喜びもつかの間、僅か2年後にキール大統領が、クーデターを企てたとして、政敵であるマシャール副大統領を突然解任したことから、両者の対立が深まり、内戦状態となりました。
自衛隊派遣を決めたときには、想定しなかったことです。
去年8月、和平協定が結ばれ、統一政府が発足したんですが、ことし7月、首都ジュバで戦闘が再燃し、270人が死亡しました。
南スーダンの混乱は、国家として整備が整っていないところに、権力闘争がさらに部族対立となって燃え上がったわけです。
安定には程遠い状況にあるんですね。
ただ、今月8日に現地を視察した稲田防衛大臣は、帰国後、国家安全保障会議で、首都ジュバの治安状況は、比較的落ち着いていたと報告しています。
ただ実際、現地の今の状況はどうなんでしょうか。
首都のジュバは、今は戦闘は起きていません。
ただ、きょうの午後、現地の状況について電話で聞いたんですけれども、南スーダンでは週末から大きな衝突は起きていないということなんですね。
ただ、北部では政府軍と反政府勢力の衝突で、今月も60人が死亡している。
また南部では、部族間の衝突が起きるなど、治安は不安定なんですね。
そして国外にいるマシャール前副大統領なんですが、NHKをはじめ各国メディアに対して、和平合意は完全に崩壊した、近く総攻撃をかけるなどと話していまして、ジュバでもいつ、戦闘が再燃してもおかしくない状態なんです。
またこの1年で、600%という猛烈なインフレ、そして公務員の給料遅配などもあって、犯罪が多発し、夜は危険です。
市民生活は悪化し、住民は不満を募らせているんです。
南スーダンから周辺の国々へ、難民100万人が先月の時点でもう超えています。
そしてJICAやNGOの職員がことしの7月以降、国外に退避したままであるというのを見れば、いかに現地の情勢が危ういかということが分かるんではないでしょうか。
こうした現地の状況にどう対応するのか。
これは駆け付け警護の訓練のもようです。
自衛隊が駆け付け警護を行うのは、活動している場所のすぐそばで、武装集団による襲撃が起きた場合で、かつ現地の治安当局や、ほかの国連部隊が対応できない緊急時に限られるとされています。
また施設部隊と位置づけられる自衛隊に対し、実際に駆け付け警護の出動要請が行われることは、非常に限定的なケースだとも指摘されています。
ただ、現実に出動要請があった場合は、危険が予想されたとしても、本当に断ることができるかどうかは不透明です。
相手の反撃を招いて、状況がより複雑になるおそれが、本格的な戦闘に発展する懸念も指摘されています。
殺気だった現場に戦闘服姿の自衛隊員が銃を持って駆けつけたら、相手を刺激して、事態がより悪化しかねないというわけです。
自衛隊が紛争当事者になりかねないということですね。
アフリカでは、軍の兵士や民兵、それに犯罪集団から銃を突きつけられるということ、私も何度か経験しているんですけれども、現場では、相手が誰なのか、果たしてこの民兵なのか、あるいは一般の市民なのか、瞬時に見分けることはできませんよね。
ですので、南スーダンでも難しい判断を迫られる可能性があります。
またことしの7月、JICAの職員が乗った車が銃撃を受け、2月には国連が設けた住民の避難施設が武装集団に襲撃されて、PKO部隊や市民に犠牲者が出ました。
今後、住民が自衛隊に助けを求めてきた場合、どうするのか、ジュバで激しい戦闘が起きたら、自衛隊だけ撤退するのかなど、日本の姿勢が問われることになる可能性もあるのではないでしょうか。
国会審議を見ますと、新たな任務を付与することで、自衛隊員のリスクが高まると、野党側が攻勢を強めています。
稲田大臣は、駆け付け警護は緊急やむをえない場合に要請に応じて、部隊が対応可能な限度において行うもので、新たなリスクが高まることはないとしていますが、防戦に追われている印象を受けます。
PKO参加5原則との整合性も論点になっています。
PKO参加5原則とは、自衛隊の活動が憲法に合致したものであることを担保するもので、紛争当事者間の停戦合意や、自衛隊の活動に対する紛争当事者の受け入れ同意などを条件としています。
ただ、南スーダンへの自衛隊派遣を決めた2011年当時、南スーダンPKOは、紛争終了後の紛争当事者が存在しないPKOとされ、停戦合意の有無は、派遣の前提とされませんでした。
その後、南スーダンでは、政府軍と反政府勢力の衝突が相次ぐ状況になりましたが、それでも日本政府は、反政府勢力を紛争当事者とは認定していません。
この前提に立って、戦闘行為は発生していない、衝突だとして、PKO参加5原則は一貫して維持されていると主張しているわけです。
これについて二村さんはどのように考えますか?
派遣当初と状況が変わったわけですね。
そして新たな紛争が起きた以上、5原則に合致しているのかどうか、もっと議論が必要ではないかというふうに思いますね。
また戦闘か、衝突か、この論争も意味がないように思います。
どちらにしても、危険はあるわけです。
こうした地域では、絶対に犠牲者は出ないと断言できないだけに、リスクに対する責任と覚悟を明確に示し、どうやって自衛隊員の安全を確保するか、説明が必要だというように思います。
南スーダンは、国際社会が後押しして独立にこぎ着けました。
国を南北に流れるナイル川には、橋が1つだけ。
舗装道路は数十キロしかない貧しい国だけに、今後も各国の支援が欠かせず、自衛隊にも大きな期待が寄せられています。
そうした期待に応えるには、日本は何ができて、何ができないのか。
撤収の道筋も含めて、しっかりと議論を重ねたうえで、日本の立場を内外に丁寧に説明することが求められているというように思います。
自衛隊の活動には、憲法の制約が伴います。
南スーダン情勢の先行きが見通せない中、野党側からは、PKO参加5原則は、形骸化しつつあるという指摘も出ています。
もちろん積極的平和主義を掲げる安倍政権が、日本が唯一派遣しているPKOである南スーダンから撤収するという選択は、政治的に難しいでしょう。
それでも、今の南スーダンで、自衛隊が新たな次元ともいえる任務に踏み出すべきかどうかは、なお議論を深めることが必要だと思います。
では今夜は、このへんで失礼します。
2016/10/31(月) 23:55〜00:05
NHK総合1・神戸
時論公論自衛隊PKO〜南スーダンの現状と新任務の課題」増田剛・二村伸解説委員[字]

アフリカの南スーダンでPKOの活動をしている陸上自衛隊。政府は安全保障関連法に基づく新たな任務を付与する方向で検討。自衛隊の活動はどのように変わるのか、考える。

詳細情報
出演者
【出演】NHK解説委員…増田剛,二村伸