東京で開かれたある元AV女優の追悼式。
32歳の若さで亡くなった紅音ほたるさんです。
弔問に訪れた人の多くが女性。
口々に感謝のことばがあふれました。
ほたるさんの死はアジアでもトップニュースで報じられました。
一人の女性の死に悲しみが広がり続けています。
今や年間1000億円に迫るアダルトビデオの市場。
ほたるさんは、1000万枚を売り上げるトップ女優でした。
しかし、アダルトビデオが間違った性知識を広めていると考え引退後、その誤解を解く活動を続けてきました。
みずから社団法人も立ち上げ性についての悩みを抱える女性たちの声にも耳を傾け続けました。
その数は確認されているだけでも5000人に上ります。
女性の尊厳を傷つける若者たちの事件が相次ぐ現代の日本。
一人の女性の闘いが突きつける社会へのメッセージです。
紅音ほたるさんが8年前に引退したあと開設した女性限定のインターネットサイトです。
若い世代に口コミで広がり口にしづらい性に関する相談が殺到しました。
「私の彼氏は避妊をしてくれません」。
「AVでは普通にしているのですが痛くならない方法はありますか?」
ほたるさんは一人一人に丁寧に返信し、時には直接会って相談に乗っていました。
関西出身の吉田華さん、27歳もその一人です。
20歳のころから、ほたるさんに悩みを打ち明けていました。
アダルトビデオを模倣した彼氏の行為が、時に苦痛でしたが誰にも打ち明けることができなかったといいます。
大阪出身のほたるさんが女優になったのは19歳のとき。
激しい演技ですぐにトップスターに駆け上がりました。
自分の仕事に誇りを持っていたほたるさん。
その地位を捨て、性に関する啓発活動に踏み出したのはあるファンのことばがきっかけでした。
紅音ほたると申します。
よろしくお願いします。
若者たちを対象にしたシンポジウムの映像が残されていました。
ほたるさんは傷つく女性たちの力になりたいと心理学の勉強もしていました。
AV女優だった自分だからこそ本当の性知識を伝えられると考えていたといいます。
渋谷の街頭に立つほたるさんです。
引退してから亡くなるまでの8年間1万5000人以上の若者に直接コンドームを手渡しました。
そして男性の誤った知識に振り回される女性の相談にも答え続けていました。
ほたるさんの活動は教育現場にも影響を与えています。
佐賀県の中学校で養護教諭を務める、白はま洋子さんです。
長年性教育に力を入れてきました。
ほたるさんが文章を寄せた本は今全国の学校に広がっています。
小中学校でも性の問題をタブー視すべきではないというのが、ほたるさんの考えでした。
「触れづらいことは触れないという態度を取り続けていたら事態は悪くなるだけです。
子どもたちの性を問題視するのであれば真正面から向き合ってほしいのです」。
今、国の中学校の学習指導要領では性行為や避妊の方法などは盛り込まれていません。
白はまさんは、ほたるさんの訴えに、もっと耳を傾けるべきだと考えています。
ほたるさんのAV女優としての知名度がもともと高かったアジア。
性に対する誤った知識が横行する中ほたるさんの啓発活動が大きな反響を呼びました。
台湾では、立法院に招かれ若者に正しい性の知識を伝えていかなければならないと訴えました。
紅音ほたるさんは、ことし8月に持病のぜんそくが悪化して亡くなりました。
32歳でした。
生前、タブー視されがちな性の問題に取り組み続けました。
こちらをご覧ください。
アダルトビデオを情報源にしているという若者は、男子高校生の15%、大学生では40%以上にのぼっています。
さらに、違法にアップロードされたアダルトビデオなどを含む、インターネットを情報源にしているという若い男性も、これだけの数に上っています。
飯島さんは、若い女性の取材を続けていらっしゃいますけれども、どのようにご覧になりましたか?
アダルトビデオの作品上の演出ということだと思うんですけれども、それを本物の行為であるというふうに、思い込んで、誤解をしてしまって、それをきっかけに、性に対するゆがんだ価値観を持ってしまう若者も、一部には、いるのではないかというふうに思っています。
一方で、女性のほうが、そういった、ゆがんだ価値観の被害に遭うということがあるわけですけれども、ただ、女性のほうもやはり、知識とか経験が豊富ではないということもあり、あとは男性に嫌われたくないというようなことから、何かおかしいなと思っても、なかなかノーと言えなくて、それが結果的に暴力的な行為につながって、非常に傷ついてしまうというようなことも、起こっているのかなというふうに思います。
そうした危機感を持つ先生たちに、紅音ほたるさんが寄稿した本が、広く読まれているんですけれども、秋元さん、確かに学校では自分を大切になどとは言われましたけれども、具体的なことは教わりませんでしたよね。
保健体育の授業で、男子と女子、分かれて授業を受けた記憶があるんですけど、特に日本の場合、女性が性に対して発言をしたり、また性に触れてはいけないっていう風潮があるとは思うんですが、女性側も、男性に任せっきりにしたりせずに、自分もしっかりと知識、そして、意識を持って、パートナーのためにも、責任を持ったほうがいいんじゃないかなというのは、常々思ってます。
紅音さんは、サイトなどを通じて、5000人にも上る女性の相談に乗ってきましたが、性の問題を入り口に、女性たちが抱えるさまざまな痛みにも気付いてゆくようになります。
正しい性の知識を伝え続けた紅音ほたるさん。
自分が主催したイベントなどで気になる女性がいるといつでも相談してと連絡先を渡していました。
都内のアパレルショップで働く本田優花さんもそうして声をかけられた一人です。
子どものころから性同一性障害に苦しんできた本田さん。
海外で性転換手術を受けてからも周囲の偏見は変わりませんでした。
そんなとき、ほたるさんだけがいつでも自分の悩みに時間を割いてくれたといいます。
女性の痛みと向き合おうとした、ほたるさん。
彼女自身、子どものころから多くの苦しみを抱え続けてきました。
両親の離婚をきっかけに小学生のとき、うつ病を発症。
AV女優になってからも虚像と実像の間で苦しみ再び、重いうつ病を患いました。
ほたるさんの苦しみを間近で見てきた女性がいます。
ポールダンサーのKAORIさんです。
引退後、ポールダンスの道に進んだほたるさんを指導してきました。
ほたるさんは薬で症状を抑えながら女性たちの声に耳を傾け続けようとしていたといいます。
ほたるさんは自分が苦しんでいたからこそ女性たちの、家族や友人にさえも打ち明けられない痛みに気付くことができたのです。
ほたるさんのことばはある女性の命を救っていました。
土屋真理さんは風俗店で働いていたころほたるさんにつらい胸の内を相談していました。
土屋さんは高校3年生のとき交通事故で重傷を負い内定が決まっていた会社に就職できませんでした。
就職や進学した友人たちから取り残されたと感じるようになった土屋さん。
地元、北陸を離れ上京しました。
東京で就くことができたのは風俗の仕事。
男性客の口先だけの優しさにすがるしかなかったといいます。
手首に残るリストカットの傷。
ほたるさんに出会って半年土屋さんは命を絶ちたいと思うほどの屈辱的な行為を客から強要されました。
そのとき、頭に浮かんだのがいつでも話を聞くよと言ってくれていたほたるさんでした。
亡くなる2か月前のほたるさんのことばです。
悩みと向き合う紅音さんの活動、秋元さんはどのようにご覧になりましたか?
ほたるさんのどこに、こんな原動力があるのかなっていうのは思ったんですが、ご自身が苦しんでらっしゃったからこそ、いろんな方に手を差し伸べたい、そして、いろんな方から必要とされることで、紅音さん自身も救われていたのかな、ご自身の存在意義っていうのを、感じてらっしゃったのかなっていうのを思いましたね。
痛みを違う形にしていたということでしょうか?
優しさを分け与えるじゃないですけど、そういったことで、紅音さん自身も、救われていたのかなという感じはしました。
印象を受けました。
紅音さんは分かっているだけで5000人の女性たちが相談をしていたということなんですけれども、飯島さん、女性たちは紅音さんになぜ、そこまで救いを求めていたんでしょうか?
やはりそれだけ孤立をしている女性たちが非常に多いということが、浮かび上がってくる数だと思うんですね。
なんでそこまで孤立してしまうのかと、いろいろな理由があるかと思うんですけれども、大きく分けて2つ、私は思うんですけども、1つはやっぱり今のその状況を自己責任であると、自分がうまくやってこれなかったからというふうに考えていて、それを誰かに相談をしても、それはあなたの責任でしょうと否定されてしまうんじゃないかと思うと怖くて、なかなか相談ができないというのが、1つあるかと思います。
それからもう1つですけれども、今、一番身近な家族であるとか、友達との関係が、とても希薄になっているのではないかと。
別のことばで言うと、関係性の貧困なんていう言い方をされたりもするんですけれども、例えば家族の中で、お父さん、お母さんの仲が悪くて、子どもの居場所がないであるとか、あるいは、もっと深刻な、性的な暴力を受けているというような、それが表沙汰にならないというような家族という場所でも、危険な場合もあるというところもありますし、あとは友達関係も先ほどの後半のVTRで、就職活動、ちょっとうまくいかなくなって、友達はみんな、就職するなり、進学するなりっていうところで、やはり何かにどこかに所属をしていないと、ぷつっとそういう、友達との関係なんかも切れてしまって、そうするとそこで家族、身近な人に、なかなか相談ができないというような状況になっていると、後半の女性の事例で、東京に1人で出てきて、誰にも悩みを打ち明ける、生きていることがつらいということを打ち明けることができないと、彼女に唯一、優しくというか、するとはいっても、体目当てで一瞬の優しさではあるんだけれども、そこにすがって、結局、捨てられてしまうと、ぼろぼろになっていくというふうな負のスパイラルのようなことが起こってどんどん傷ついていくというようなことがあるのかなというふうに思います。
確かに、家族や友人だからって、すべて話せるわけではなくて、知らないからこそ、自分のいろんな情報を知らないからこそ、素直に知らない人に話せたりっていうのはありますよね。
そうした声をくみ取っていこうという動きもありますけれども、秋元さんは、この紅音ほたるさんの生き方をご覧になってどのようにお感じになりましたか?
本当に、私も生きてきた中で、いろんな方に聞いてもらったり、向き合ってもらえるということの心強さっていうのを常々感じてきたので、それは、私自身も、紅音さんのようにはなれないかもしれないんですけど、自分のできる範囲で、いろんな方と向き合っていけたらいいな、ちゃんと向き合って話を聞けたらいいなというのは感じました。
一人でもそういう人がいるということが、とても大きい意味を持っているということですね。
求められること、最後に。
ことば化できない痛みというものを抱えている人がとても多いという中で、今、そういったところに、例えば、LINEであるとか、悩みに乗るというような、そういった団体も増えてきています。
あとは…。
ありがとうございました。
最後は紅音ほたるさんの思いを継ごうとする女性たちです。
佐賀県に住む中島明穂さん21歳です。
ほたるさんに相談に乗ってもらっていた中島さんは彼女のようにどんな悩みにも向き合える養護教諭になりたいと考えています。
紅音ほたるさんの親友だったラップ歌手のFUZIKOさんです。
先月、音楽配信サイトのヒップホップ部門で1位を記録したFUZIKOさん。
今、親友にささげる曲を作っています。
美しいほたると名付けられた曲。
多くの女性が抱える暗闇をともし続けた紅音ほたるさんへの思いです。
♪〜
(拍手)人生という名のコント番組「LIFE!」で〜す!2016/12/08(木) 22:00〜22:25
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代+▽アジアが泣いた AV女優の死〜歪(ゆが)んだ“性”と闘う[字]
元AV女優・紅音ホタルさんの死が、“痛み”を抱えて生きる女性たちに深い哀しみを与え続けている。番組ではあるAV女優が照射するこの社会の姿を凝視していく。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】ノンフィクションライター…飯島裕子,女優…秋元才加,【キャスター】井上あさひ
出演者
【ゲスト】ノンフィクションライター…飯島裕子,女優…秋元才加,【キャスター】井上あさひ