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書き起こし クローズアップ現代+「都市陥没〜広がる地下クライシス〜」 2016.12.15

 

 

世界有数の規模を誇る東京の地下鉄網。
都市部の地下は膨張の一途をたどっています。
電気や水道などのインフラも網の目のように張り巡らされています。
今、こうした事態に警鐘を鳴らす新たな危機が。
先月、福岡市で起きた道路の大規模陥没。
事故の背景として浮かび上がってきたのは複雑に入り組んだ地下の開発状況でした。
地下の下水管やガス管などが陥没対策の壁となっていたのです。
ある日突然地面が陥没する恐怖。
身近な所でも頻発しています。

 

 

 


戦後造られたインフラが老朽化。
地面に人や車が飲み込まれる危険性が見えてきました。
とどまるところを知らない地下開発。
その陰に潜む新たなリスクに迫ります。
博多駅前の陥没事故。
信号機が地下に飲み込まれていきます。
この映像を撮影した古賀朗さん。
道路が陥没しているという叫び声を聞いたためビルの2階に駆け上がって状況を確かめました。
この辺からぐらいじゃないかと思います。
とっさに撮った映像。
日本中に衝撃を与えた陥没事故。
地下で何が起きていたのか少しずつ分かってきました。
福岡市が行っていた地下鉄の延伸工事で起きた事故。
当時、トンネルの穴を広げる拡幅工事が行われていました。
突然、天井から大量の地下水が流入。
地下水が次々と土砂を巻き込みながら流れ込んだことで直径30メートルの巨大な穴が出来ました。
今回NHKが入手した写真。
地下の工事現場で作業員が撮ったものです。
陥没が始まる1時間前天井の一部が崩れ落ちてきました。
地下水が流れ込む前兆で非常に危険な状態でした。
その25分後。
大量の地下水で、トンネルが水浸しになっていきます。
命の危険を感じた作業員たちは地下水が腰の高さにまで迫る中走って退避したといいます。
命が奪われかねなかった大規模陥没。
実は、事故が起きる前から多くの専門家が、危険性を繰り返し指摘していたことが取材によって明らかになりました。
NHKが独自に入手した市の専門家委員会の議事録です。
掘削に伴い大きく沈下が生じる。
かなり危ないのではないか。
専門家が以前から指摘していた危険性。
トンネルのすぐ近くに弱く崩れやすい地層があることが分かったのです。
トンネルは固い岩盤を掘って造ります。
その上には地下水を含んだ地層があります。
境目は岩盤が風化し崩れやすくなっています。
トンネルの1メートルほど上に見つかった崩れやすい地層。
工事で誤って突き破れば地下水が流れ込むリスクがあったのです。
かなり、ボロボロ。
注意深く行わないといけない。
福岡市の地盤に詳しい地質学者の下山正一さんです。
地層は波打っているため地下水を含む層が想定よりもトンネルの近くにあったのではないかと見ています。
失礼します。
事故を防ぐことはできなかったのか。
専門家委員会のメンバー九州大学の三谷泰浩教授です。
陥没の対策を進める中で壁となったのが限界まで進んでいた地下開発でした。
検討された対策は水を遮断する地層を人工的に造り地下水の流入を防ぐというものでした。
スタートします。
使うのは特殊な薬剤。
砂に注入すると…。
すぐに固まります。
しかし、実際には薬剤を地下に入れることはできませんでした。
現場には下水管やガス管などさまざまなライフラインが埋め込まれていました。
これらを縫って、地下に薬剤を注入することが難しかったのです。
崩れやすい地層に影響を与えないようトンネルを深い場所に造る対策も考えられます。
しかし、そこにも壁がありました。
駅の近くにあった現場。
トンネルをここだけ深くすると駅との接続が難しくなるのです。
崩れやすい地層からトンネルをどう離すか。
検討の末、選ばれたのは天井を下げる方法でした。
この施工方法しかない。
探りながら施工していきたい。
挑戦していく。
地下開発が進む中制約を受けながら行われた工事。
結局、事故は防げませんでした。
地下開発に詳しい、宇都正哲さんです。
都市部では地下開発が進んで、過密状態になっているわけなんですけれども、福岡で起きたような事故というのは、全国どこでも起きうることなんですか?
まず、地下といっても、全部の地下でインフラが埋まっているわけではないんですね。
基本的に民間の土地の下は、土地の所有者の権利がありますんで、基本的に許認可がいると。
それから使うには保証もいるんで、基本的に道路の中に、インフラがすべて込み合っていると。
今回の事故も、その混み合った道路の下で、陥没事故が起きたと。
道路の下に集中して、過密になっている。
これが全国どこでも同じ状況、起こりうる?
基本的には、今回のような大規模な事故は、大都市部でしか、なかなかリスクはないと思うんですが、地方でもライフラインは道路に埋まってますので、小規模な陥没事故ということはありえるというふうに思いますね。
福岡放送局の浜中記者です。
福岡の事故、改めて落ちた断面というんでしょうか、見ますと、本当に地下にさまざまなライフラインが錯そうしていますよね。
あれが結局、陥没対策を阻んでしまった一因だということですか?
今回、陥没した現場の地下には、下水管ですとか、水道、それにガス管とか、あるいは通信ケーブルなど、10を超えるライフラインが、ひしめき合うように埋設されていたんです。
しかもこれらは、大正や昭和の時代から、現在に至るまで、都市の発展とともに、次々と、いわば早い者勝ちで埋設をされたと。
そして結局、今の形になっているということなんです。
この網の目をくぐるように、見えない地下を掘り進めた結果、今回の事故が起きてしまったということなんです。
それにしても、今回の福岡、衝撃的な大規模な陥没事故。
そのあとすぐに埋め戻されたわけなんですけれども、結局のところ、これ、事故の直接的な原因というのは、どこまで分かっているんですか?
事故の調査については、現在、国が設置した委員会が、調査を進めていまして、原因の特定というのは、これからになります。
工事では、VTRでご紹介した対策以外にも、天井を鋼材で支えて補強するなどの対策が取られていたんですが、事故は防ぐことができませんでした。
今後の委員会の調査の最大のポイントとなるのが、事前にこうした危険性を把握していたにもかかわらず、なぜ、事故が防げなかったということに尽きると思います。
委員会の調査結果については、来年の3月までに、中間報告として取りまとめられる予定になっています。
現場は博多駅前、人通りの多い場所ですから、本当に、原因は徹底究明してほしいところですよね。
さて、その狭い国土の日本では、全国各地で地下の利用が進められているわけなんですが、その結果、陥没は、実は私たちのごく身近な所で相次いでいることが分かってきました。
こちらは、国がまとめた陥没事故の件数です。
全国で147の市町村、少なくとも3300か所に上るんです。
恐怖の体験を語ってくれた黒木三千丈さん。
ことし3月車で買い物に行った帰り道に突然、車が大きく沈み込みました。
舗装の跡だと思った黒い影。
実は幅80センチ深さ60センチの穴だったのです。
大阪では1歳の娘を抱いた母親が道路に出現した穴に転落し、けが。
東京では、77歳の男性が転倒し一時意識不明に陥りました。
福岡の事故ほど大規模ではありませんが、私たちの命を危険にさらすこうした陥没は年間3300件以上起きています。
なぜ、道路が突然陥没する事態が起きるのか。
東京では自治体の依頼を受けた専門業者が電磁波を出す特殊な車両を使って地下の調査を続けています。
解析から地下で異変が広がっていることが分かってきました。
この日見つかったのは道路の下に潜んでいた2つの空洞。
こうした空洞は、去年だけで230か所以上見つかっています。
この地下の空洞こそが陥没を引き起こす原因だと指摘する専門家がいます。
東京大学の桑野玲子教授です。
地下の空洞は老朽化した下水管に亀裂が入ることで生まれると桑野教授は考えています。
陥没が起きるメカニズムを検証する実験です。
装置は、地下水で満たされた状況を再現しています。
下水管に僅かな亀裂があるとふだんはあまり動かない地下水がそこを目がけて集まり空洞が生まれます。
一度、空洞が出来ると周りの地下水がさらに集まり空洞は大きく成長していきます。
こうした現象が、見えない地下で長い時間をかけて繰り返されある日突然私たちの足元が崩れ落ちるのです。
今、都市部では陥没を防ごうと、古い下水管の取り替え工事が進められています。
しかし皮肉にも、こうした工事が新たな陥没のリスクになっていることも分かってきました。
下水管や水道管など、さまざまなインフラが密集している地下。
新たに下水管を埋め戻す際土に圧力が均等にかからず空洞が出来やすくなってしまうのです。
東京都の研究所が空洞が出来た原因を調査した結果をまとめたものです。
下水管の老朽化などによって出来た空洞よりも、工事の埋め戻しの際に出来たと見られる空洞のほうが多いことが分かりました。
宇都さん、インフラの老朽化が陥没のリスクを生むだけじゃなくて、それを守るために行う工事、それがまた陥没のリスクを生むという、非常に悩ましい状況ですね。
ただ、一応、埋め戻すときには、ちゃんと締めかためをするということは、一応基準としては決められているので、これを守っていれば、本来的に起きない事故なんですね。
ただ、そういう施工が不良であったりとかすると、こういった事件が起きてしまうということがあると思います。
このインフラの老朽化というのは、もう待ったなしに進んでいるわけですよね。
下水の場合ですと、日本の場合、総延長で46万キロあるんですね。
46万キロ?
地球11周分に当たるんですけれども、このうち、耐用年数の50年を超えるともう、老朽化なんですけれども、それを超えた管路は、大体今1万キロあって2%なんですね。
ただ、これが10年後、20年後となると、これ、10%、それから30%と、飛躍的な数字で伸びていくと。
老朽化のスピードは、かなり飛躍的に伸びていくということですね。
そうすると陥没事故のリスクも、ぐっと高まってくると。
今現在、2%で3300件ですので、単純計算しますと、5万件あってもおかしくないと。
ということなんですね。
全国の陥没の事故の状況を取材している安田記者です。
いずれ、命に関わるような事故が、いつ起きてもおかしくない状況ですけれども、これ、各地の自治体は、どういう対策を取っているんですか?
今、都市部では、先ほどおっしゃっていたように、東京や名古屋などの都市部では、下水管の老朽化が急速に進む中で、補修や調査に追われています。
また対策では、埋め戻しによる陥没を防ぐために、掘らない工事も取り入れていました。
マンホールから下水管に機械を入れて、管の内部に樹脂を巻きつけながら、老朽化によって出来た亀裂や隙間を埋めていくという方法なんですね。
ただ、こうした対応は、自治体にとって、財政面で負担になっています。
これから地方都市に老朽化が進んでいくことを考えると、対策はより難しくなることが懸念されます。
確かに老朽化、場所もどんどん増えていきますし、コストも膨大になっていくという状況もあるわけなんですが、改めて、日本の地下を見てみましょう。
今お話ししていたような浅い部分には、ライフラインが密集しているわけなんですね。
その下には、道路や地下鉄などが、何層にも通る構造になっているんですね。
近年、地下の開発は、そうした密集状態を避けて、さらに深い深い場所へと進んでいるんですが、そこにもリスクがあるんです。
名古屋市で進められている貯水施設の建設現場です。
工事が行われているのは地下30メートルの深さです。
(地下鉄が通過する音)
地表近くには密集するインフラ、そして地下鉄。
さらにリニア新幹線が通る場所もあります。
地下開発は、より深い場所へと進んでいます。
しかし、ことし6月同様の施設の工事中、真上にある歩道が大規模に陥没しました。
地下にある構造物は深くなればなるほど周りから高い水圧を受けます。
工事で緩い地盤に当たり地下水が一気に流れ込んだことが陥没の原因だと名古屋市は見ています。
宇都さん、開発というのは、より深い所に進んでいて、今ありました、30メートルの所でも行われているわけなんですけれども、そこでもやはり、陥没のリスクというのはあると?
特に日本の場合は、地下水を取水するのを規制しましたんで、昔より水位が上がってるんですね。
なのでどうしても、地下水が上がっている分、いろんな工事をすると、地下水が紛れ込んでくると、そういうリスクが、どうしてもありますね。
なるほど。
今、実は、地面の下には、至る所で地下水がなみなみと蓄えられている状況だと。
例えば、東京駅も、基本的に地下水で浮いてるような構造に、今なってるんで、もう取水をしないと、今の安全を守れないということで、毎日24時間送水しているんですね。
それぐらい、地下水が上がってきているということもありますね。
工事においては、それを気にしながらやる必要が出てくるということでもあると。
安田さん、全国で陥没事故、先ほどもお伝えしましたけれども、3300か所ですね。
それから今後、インフラの老朽化も進んでいく中で、国もこれ、早急な対策が問われますよね。
国土交通省は、各地での陥没を受けまして、地下の安全性を検討する専門の委員会の設置を決めました。
年明けから、議論が始まる予定です。
その中で、一番鍵となっていくのが、地下の利用を一元化することです。
例えば今、地盤や地層のデータというのは、民間や自治体がそれぞれ、ばらばらで持っているんですけれども、それらを共有する仕組みを作ることなどを検討するとしています。
宇都さん、地下開発というのは、これまでずっと進められてきて、一方で、こういうリスクも顕在化してきているわけなんですけど、改めてこの地下開発、どういった視点が必要になるんでしょうか。
3つほど挙げさせていただいたんですけれども、やはり冒頭ありましたように、やはり、新規開発のリスクマネジメントが大事になるということですね。
2つ目は、つくる時代から、維持する時代に変わっていくので、そこの部分を大事にしないといけないと。
それから、これから人口が減っていきますんで、いろいろつくると、後世代に負担を残すと、世代間の公平性というのが大事になりますね。
きょうはどうもありがとうございました。
2016/12/15(木) 22:00〜22:25
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代+「都市陥没〜広がる地下クライシス〜」[字]

地下鉄やインフラ…地下開発が進む日本。福岡市の大規模陥没など、全国に広がる事故を検証すると知られざるリスクが明らかに。いま都市の地下で何が起きているのか?

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京都市大学教授…宇都正哲,【キャスター】鎌倉千秋
出演者
【ゲスト】東京都市大学教授…宇都正哲,【キャスター】鎌倉千秋