70年前世界各地から11人の判事が東京に集まり歴史的な裁判が開かれた。
日本の戦争指導者たちの責任を問う…いわゆる…裁判開始から1年半。
舞台裏の駆け引きは激しさを増しイギリスのパトリック判事の主導でウェッブ裁判長が母国に召還された。
激論と混乱に翻弄されるオランダのレーリンク判事は何が正しい道なのかと悩み抜く。
法廷では元首相の東條被告らが尋問されその思わぬ証言が波紋を呼んだ。
そして今11人の判事たちは審判を下す最後の瞬間に臨もうとしている。
「1948年2月11日キーナン首席検事による最終論告が始まった。
キーナンは日本の軍国主義的な行動の責任は国民ではなく指導者にあると述べた。
4月16日極東国際軍事裁判の審理は終了。
判事たちが全ての証拠を検討し評決に達するのを世界中が待っている」。
(レーリンク)おはようございます。
おはよう。
実は皆さんにお話ししたい事があります。
私は侵略の罪について皆さんの立場を支持します。
ただしいくつかの点に同意してもらえるならです。
それは興味深い。
侵略の罪が事後法という事は明らかで私にはそこが問題です。
しかし私は判決に自分の意見を反映させるために現実的になる事に決めました。
つまり我々がいくつかの点に同意するならかね?そうです。
はっきりさせておきますが私が侵略の罪を認める根拠は皆さんとは違います。
私がたどりついた結論はこの罪については国内法における政治犯罪と同等のものと見なせるというものです。
政治犯たちは時にその行動が国の安定を脅かす時には拘禁されます。
ですから既に確立されたこの法を基にして議論すべきだと思うのです。
その認識に立てば戦争を始めた者たちが放置されていると国際秩序を乱す可能性があるという事を根拠として彼らを処罰すべきだと主張できます。
そうしなければ平和も進歩もおぼつかないと。
それは認められない。
我々が支持する原則は一つだ。
その基になっているのはニュルンベルクの判決と1928年のパリ不戦条約だ。
侵略戦争は違法だ。
なあ我々の結論は同じじゃないか。
君とはその根拠が違うだけだ。
なぜ固執するんだ?つまり法に関わる者の最大の務めだからです。
このさまざまな解釈ができる法というものを正しく解釈する事が務めです。
ですからその解釈を導いた根拠ほど重要なものはありません。
忘れてはいけない事は根拠の違いによって判決も違ってくる事だ。
量刑も変わる。
だから我々は見解を曲げる訳にはいかない。
では皆さんには同調できない。
全く話にならない。
・もしもし?ああウェッブ裁判長。
仕事の邪魔じゃなかったかな?いえ大丈夫です。
・判決はいつ出ると考えておけばいい?ああ元帥検討すべき証拠書類は4万9,000ページもあるんです。
迅速に進めたまえ。
(受話器を置く音)
(受話器を置く音)オレンジジュースを下さい。
はい。
(梅)ああ。
こんにちは。
奥様ですか?
(梅)ええ。
とても美しい。
今日ようやく連絡があったんです。
ちょうど結婚記念日に。
ではご無事で?ええ。
一安心です。
それはよかった。
私には想像もできませんが。
中国の内戦中にここにいてはさぞかしご心配でしょうね。
ありがとう。
私の家族です。
(梅)ああ子だくさんですね。
ええ。
実はもう一人欲しいのですが妻が同意してくれるか分かりません。
今私たちは議論の中でも重要な分岐点に来ています。
その点について結論が出れば自分の生活に戻れます。
家族との暮らしにも子だくさんのおうちにも。
私は…パトリック判事たちのグループとは見解が違います。
つまり侵略の罪についてです。
うん。
彼らのグループにあなたも加わるのですか?判事の大多数は西洋人です。
私が望むのは自分の判断がアジアにとって好ましく世界全体にとっても公正である事ですから私は多数派に加わります。
そうですか。
(ノック)どうぞ。
ウェッブ裁判長。
パトリック判事。
私に用かな?証拠調べの段階も終わったところで今後の進め方について意見交換したいと思ってね。
あなたとほかの判事数人が共同歩調をとっているのは知っている。
ただし裁判長としてはみんなで協力して判決を考えたいので。
うん…。
すまないがウェッブ裁判長今の状況では一部の人間で進めるしかない。
我々は自分たちで判決文を書くと決めた。
何を言ってるんだ?我々は過半数に達した。
そうする資格がある。
失礼。
私は裁判を見物するために戻ってきたのではない。
私は独自の判決を書く。
独自に?裁判長として判決文を書く権利と責任があるんだ。
判事全員を代表する判決をな。
君が多数派に加わってくれてよかったよ。
多数派の見解は合理的かつ的確で大筋で正しいものです。
しかし…私はそれをウェッブ裁判長抜きで行う事に疑問を持っています。
彼が裁判長なのですから。
しかし弁護側が動議を提出し侵略の罪の除外を求めてもウェッブは説得力のある回答を書けなかった。
我々をまとめてもいない。
そうじゃないか?ええそうです。
君が中国に関する部分を書きたい事は理解している。
君がいてこそこの戦争に真に終止符が打てるんだ。
そう願います。
具合が悪いのですか?最近無性にうまいスコットランドの牛肉とヨークシャー・プディングが食べたくなってね。
それ以外のものには食欲がわかんのだよ。
とてもいいよ。
この点をもっと強調してくれ。
ありがとう。
ウェッブが独自の判決を書くと聞いた。
1人でどうやってやるんだ?全部で500ページにはなるぞ。
我々と違ってスタッフがいる。
パトリック!誰か!早く来てくれ!救急車を頼む。
パトリック!パトリック!肺と循環器系への負担がかなり大きいらしい。
ただし回復はできるそうだ。
これからどうする?このまま進む。
うん…。
ただしそれには助けがいる。
そうだな。
おはよう皆さん。
こちらはクエンティン。
クエンティン=バクスターだ。
法律文書を作り上げる専門家で我々を手伝ってもらうために来てもらった。
うれしい事に私と同じニュージーランド人だ。
頼むよ。
それではすぐ仕事に取りかかりますよ。
すばらしい。
あそこの席を使うといい。
コーヒーをいれてきてあげよう。
どうも。
(ロシア語)
(通訳)ソビエト連邦のザリヤノフ将軍です。
重光の判決は私たちにとってとても重要ですのでその部分は将軍が書きます。
了解。
その原稿を私がほかの箇所と整合するよう手直しします。
そのまま伝えると将軍はきっと怒ります。
将軍の文章を書き換える事は敬意を欠く事になりますよ。
あなたは通訳ですよね?私はこの裁判の最初から全会議に出席しています。
事の重大さも不要なもめ事を防ぐ重要性も分かっています。
重光の部分をお待ちしていると将軍に伝えて下さい。
(ロシア語)レーリンク判事。
来てくれてうれしいよ。
ご気分は?静脈炎に両足にもほかの合併症があるが長く寝込んでるつもりはないよ。
(せきこみ)お元気になられる事を願っています。
あああまり早く治ってほしくないんじゃないのかな?フッ…。
実はな私はかつて世界が可能性の宝庫だと思っていた。
今では?2回の世界大戦でヨーロッパは破壊された。
1回目のあと国際会議は2回目を止められなかった。
(せきこみ)枕を立ててくれ。
我々が新たな道しるべを刻む事にまた失敗したら世界は何を信じられる?まず我々は法を正しく解釈する事に集中すべきです。
おっしゃるように新たな道しるべを刻むなら。
ニュルンベルクが法的な先例を示している。
それが暴力から決別する道だ。
我々がその判例を擁護し支持しなくては世界に根づかせる事はできない。
あなたは全ての事を単純にし過ぎます。
う〜ん…確かに複雑な事は認める。
しかし戦争を始める人間は責任を追及されてしかるべきだしこれこそ迅速で確実なやり方だ。
直接言おうと思って来ました。
私は独自の反対意見書を書いています。
あなたも私も目的は同じだと思います。
しかし法律家として自分の信念を曲げる事はできません。
たとえ私だけの信念であってもです。
これでお互いに見解が違う事がよく分かった。
言っておくが私は憲章を忠実に守る。
ええ。
お大事に。
ありがとう。
これ時系列図が入っていないぞ。
ここにあります。
ああよかった。
クエンティン=バクスターの仕事はどうだ?ザリヤノフの重光に対する厳しい立場を巧みに修正して和らげている。
(ウィリンク)レーリンク判事。
わざわざ出向いてくるとはどんな重要な用件だ?実は…独自の反対意見書を書いています。
この裁判と判決の正当性を否定するために利用されかねないぞ。
そうですが私にとって多数派が書いている判決には不備があります。
そのような判決に私の名前を連ねる事はできません。
国際連合はニュルンベルクの原則を支持する決議を採択したしオランダもそれに賛成している。
君が反対意見書などを提出すれば我が国が以前から行ってきた国際法への貢献を損ねる事になってしまうんだぞ。
忘れないで下さい。
私は一人の独立した判事としてここに来ているんです。
英雄気取りだな。
目標を勘違いしているぞ。
戦犯たちに希望を与えるだけだ。
我々判事がこの裁判のために費やしてきた全ての時間それに私が自分で調べこの耳で聞いてきた全ての事を考え合わせて私は自分が正しいと信じる事をしています。
失礼します。
失礼。
(ノック)どうぞ。
ノースクロフト判事。
完成しました。
レーリンク判事見たかね?いえ。
多数派の判決が提出された。
原稿を見たのですか?いいや裁判長が承認したはずだ。
(ノック)
(ノック)今行く。
多数派の判決を提出したのですか?そうだ。
あれは…内容が道理にかなっている。
だからそれを公式な判決とする事に同意した。
悪くとらないでくれたまえ。
真珠湾攻撃についての殺人罪は却下されている。
我々の反対意見はどうなっているんですか?採用もしくは参考にされているのですか?分からないがまだ可能性はある。
これはおかしい。
人をバカにしています。
見たまえ。
こんなに早く仕上げるとは予想外だが量刑の部分は空白のままになっている。
それについては判事全員で考えるという私の要請を受け入れたんだ。
我々の最後のチャンスだ。
判事の過半数が死刑に反対する事を願うしかない。
まず死刑について討論するが個人的には反対だ。
天皇が免責されているのに部下を絞首台には送れない。
それではこちら側の席から順番に意見を聞いていこう。
死刑というものは絶対必要だ。
ああ…東條たちは終身刑にすれば権力から遠ざけておける。
だからご存じのとおり私は死刑には絶対反対する。
私もベルナール判事と同じだ。
一つ付け加えたい。
天皇は戦争を終わらせる事ができたが防ぐ事もできたはずだ。
開戦の前にだ。
故に閣僚たちや軍の高官たちだけに死刑を言い渡す事は明らかに不公正だと言える。
我々が死刑を科さなかったとしたら日本政府が主権を回復した時に皆釈放されてしまう。
我々の手から離れたらまた戦争を始めようとするだろう。
ノースクロフト判事。
個人的には死刑に対して嫌悪感を持っている。
しかし私は彼らに可能な限り重い刑罰を求めたい。
将来のニュージーランドへの脅威を防ぐため。
つまり私は死刑を求める。
ハラニーリャ判事は?我々がここから東京の外れまで歩いていって今生えている全ての木や葉の数を数えたとしてもこの戦争中に命を落とした兵士たちの数や民間人の数には到底及ばない。
死刑があってしかるべきだ。
私は復讐するために来たのではないが彼らが犯した罪や残虐行為はあまりにも恐ろしく見過ごす事はできない。
ザリヤノフ判事死刑を廃止するというスターリンの政策を支持しているのかね?
(ロシア語)死刑には反対です。
あなたは当然反対だな?私は被告全員について有罪にしてはいけないと思います。
レーリンク判事。
君の意見は?オランダでは死刑制度が廃止されました。
しかし戦争のあとすぐに特別法を施行してナチスに協力した者たちを処刑できる措置を講じました。
それは想像を超える犯罪が起きたがゆえの例外的な措置でした。
従って残虐行為の責任者に対する死刑については支持しますが私は断じて侵略の罪に対する死刑は科さないよう求めます。
(ウェッブ)マクドゥガル判事。
ニュルンベルクでは被告たちに死刑が科された。
ただし侵略の罪だけで死刑になった者はいなかった。
だからレーリンク判事と同じく残虐行為では死刑を科すが侵略の罪のみでの死刑には反対する。
(梅)私はハラニーリャ判事と同じです。
彼らは中国やアジア各地でひどい罪を犯しました。
もちろん被告によって罪の重さに違いはあります。
ですが一部のケースについては死刑は絶対に必要です。
しかしこの裁判は被告を十分公正に扱ったのか我々は自信を持って被告たちの命を奪う事が許されると言えるのか。
我々判事は連合国の人間なので倒した敵国の指導者たちへの復讐をしたと見られる危険がある。
この裁判が始まる前連合国の指導者の中には裁判など開かず銃殺隊による即決処刑を行うべきだと主張する者もいた。
だが我々は2年半を費やして弁護側と検察側双方の証言を聞いた。
それに宣伝工作としか思えないような被告のスピーチも聞いてきた。
裁判の公平を期すために連合国はそのメンバーである11か国から11人の判事を集めました。
そのとおり。
これ以上どう公正にできるのかね?
(ウェッブ)分かった。
死刑が選択肢となるのは間違いない。
ただしほとんどの者が侵略の罪だけで死刑を宣告しようとは思っていないようだ。
それでは量刑の決定に進もう。
嶋田繁太郎被告は日本がアメリカとの戦争を始めた時東條内閣の海軍大臣でありその後軍令部総長を兼ねた。
侵略の罪と共に海軍による残虐行為の責任を通例の戦争犯罪で問われていた。
嶋田海軍大将。
彼は死刑に値しないと思っている人がここには多いはずだ。
私は違います。
死刑です。
厳しい刑を彼に科すべきです。
残虐行為の責任者には極刑も含めて考えるべきです。
(マクドゥガル)彼は東條の意志に逆らわなかった。
その考えについていったという事かもしれない。
しかし彼は敵船を撃沈したあと生きていた敵兵を撃ち殺す事を許しました。
嶋田の場合は証拠が不十分だと言わざるをえません。
しかしながら軍の指導者は部下の戦場での行動について責任を問われる事がある。
(ため息)投票しよう。
日本が中国やアジアへ戦争を広げる時期に首相などを務めた広田弘毅被告。
侵略の罪と共に南京事件当時の外務大臣であった事からその残虐行為の責任を通例の戦争犯罪でも問われていた。
広田は証人台に上がる事を放棄し何も語らなかった。
(ウェッブ)元総理大臣および外務大臣の広田だ。
(クレイマー)彼は裁判中沈黙を保った。
私が思うにそれは責任を認めたという事だ。
沈黙していたからといって有罪とは限りません。
広田には自らを弁護する機会が与えられた。
だが彼はそれを利用しなかった。
日本の文化では自分のした事について釈明するのは恥だと思われているのです。
彼は日本がアジアで勢力を広げようとしていた1936年に総理大臣でした。
彼は日本の侵略政策を決めた一人なのです。
広田は確かに日本の勢力を拡大すべきだと考えていました。
「アジア人のためのアジア」という宣言は彼らなりの帝国主義でしかなかったのです。
ただし広田はそれを軍事的手段ではなく経済的な方法で成し遂げようとしました。
帝国主義自体は犯罪ではない。
(梅)帝国主義について言わせてもらえば西洋の列強も日本も我々から見れば盗みを働いたのです。
しかし最後の最後にひどい盗みを働いたのは日本だと思います。
広田の経済政策は攻撃的でした。
それによって日本は避けられない戦争へと突き進んだのです。
(ロシア語)おっしゃるとおりです。
広田はソビエト連邦も狙っていました。
共産主義の脅威を感じたのかも。
ほかの多くの国と同じように。
(ロシア語)ファシストを擁護して我々を愚弄するのですか?共産主義の脅威が高まると侵略戦争が正当化されるのですか?いま一度何度も言った事を言わせて下さい。
この先も常に強い国と弱い国があるでしょう。
ですから戦争は避けられない悪です。
国際社会はまだ戦争を犯罪と考えられる段階まで達していません。
この状況では個人を裁判にかけ有罪とし罰する事はできません。
私も繰り返そう。
その姿勢では第三次世界大戦はすぐだ。
ヨーロッパでは既に侵略戦争を起こす事は犯罪だ。
(ハラニーリャ)日本はポツダム宣言を受諾しました。
そこにはっきり書いてある。
「戦争犯罪人に対しては厳重なる処罰が加えられるべし」。
国の指導者たちも含むべきです。
広田はチャンスがあったのに開戦に異を唱えなかった。
真珠湾攻撃の直前に開かれた会議でできたはずだ。
それに南京での残虐行為について知りながらそれを止める対策を十分にとらなかった。
要するに不作為の罪を犯したのです。
(レーリンク)しかし証拠があります。
南京での出来事について彼が陸軍大臣に抗議した証拠です。
では辞任すべきだったのです。
外務大臣には陸軍への影響力はほとんどありませんでしたしどうにもできない状態でした。
抗議する事が精いっぱいという事かね?中国の人々が何と言うか。
彼には行動しなかったという問題がある。
広田は辞任するか天皇と直接話して南京での悲劇を終わらせるべきだった。
それでも死刑には賛成しない。
では投票しよう。
内閣の一員として東郷は真珠湾の攻撃の前に行われた会議に出席していた。
そして結局は開戦に同意したんだ。
東郷はアメリカとの戦争を避けるために内閣に入った。
証拠からも明らかです。
いや私は彼がアメリカに対して戦争を仕掛けるための共同謀議に加わっていたと考えている。
(ベルナール)それには問題がある。
共同謀議はあまりにも多くの事に適用できてしまう事だ。
それにこれはイギリスとアメリカの司法制度だけにしかない概念だ。
(マクドゥガル)じゃあどうする?
(ロシア語)
(通訳)日本人はナチスと同じくファシストでした。
彼らは結託して世界征服をたくらんだ。
(ロシア語)
(通訳)ソビエト連邦は彼らの標的でした。
最初から明確な計画があったかどうかは分からないぞ。
(ロシア語)申し上げますが日本はオーストラリアを占領しようと考えていました。
日本が私の国を…占領しようと計画していたとは思うがそれが最初からの戦略だったとは思えない。
中国で戦争を始めてしまったために日本は戦線を拡大していくしかなかった。
征服したものを守って維持するためにだ。
つけた火を消せなくなったんだ。
その結果イギリスやアメリカとも戦争する事になった。
全体像をそう見るべきだ。
そんな見方をしたところで何が変わるというんだ?事実日本は侵略戦争を中国に対してアメリカに対してイギリスオーストラリアオランダに対して仕掛けた。
そして真珠湾攻撃の責任を負うのは東郷だ。
彼に軍部を止める力はない。
軍部は強すぎました。
単純な事実として彼は辞任せず開戦に賛成している。
閣僚として戦争に反対するという責務を果たさなかったと言えるのだ。
投票しよう諸君。
まだです。
東郷が内閣にとどまったのはできるだけ早く自分が防ぐ事ができなかった戦争を終わらせるためです。
道徳的義務を認識した人物がその勇敢さのツケを払わされる事があってはいけない。
私もそう思う。
レーリンク判事と同じ意見だ。
さもないと将来同じリスクを冒そうとする者がいなくなる。
さっきも言ったとおり日本の指導者たちがアメリカやイギリスとの戦争を行うのかどうか決めた時東郷は最終的に戦争に賛成している。
反対していれば内閣は総辞職し新しい首相が選ばれていた。
私には東郷が開戦を防ごうとしていたとは到底思えない。
法の下で彼は有罪だ。
我々はこれを先例としなくてはならない。
東郷は中国との戦争に責めを負う事はありません。
しかしアメリカとの戦争では…彼は絶対に罪を免れる事はできません。
投票しよう。
1948年11月。
東京裁判が始まって2年半が経過していた。
ウェッブ裁判長は1,200ページ余りの判決を言い渡すのに7日間かかった。
最終日被告への刑が宣告される。
生と死が分かれる瞬間である。
(クレイマー)もうそろそろだ。
(パトリック)いよいよだな。
結局あなたも意見書を書く事にしたのですね。
パル判事の長い意見書を読んだあと日本人を一方的に擁護している彼の意見に反論する事が私にとっての責務だと思いました。
裁判が始まってから1,000日近い。
終わらないかと思いましたよ。
ええ。
本当に長かったがついに正義が行われる。
(ウェッブ)本官が朗読した判決は裁判所憲章に基づき本裁判所の判決である。
インド代表判事は多数意見による判決に反対しこの反対について理由書を提出した。
フランスおよびオランダ代表判事は多数意見による判決の一部だけについて反対しこの反対について理由書を提出した。
フィリピン代表判事は多数意見に同意して別個の意見を提出した。
大体において事実については本官は多数と意見を共にする。
しかし反対意見を表明する事なく裁判所憲章と本裁判所の管轄権を支持する理由と刑を決定するにあたって本官に影響を与えたいくらかの一般的な考慮と簡単に述べたものを提出した。
これらの文書は記録にとどめてまた最高司令官弁護人およびそのほかの関係者に配布される事とする。
弁護人はこれらの別個の意見を法廷で朗読する事を申請した。
しかし本裁判所はこの問題を既に考慮し法廷では朗読しない事に決定していた。
本裁判所はこの決定を変更しない。
「被告広田弘毅被告が有罪の判定を受けた起訴状中の訴因に基づいて極東国際軍事裁判所は被告を…」。
絞首刑に処する。
「被告東郷茂徳」。
被告が有罪の判定を受けた起訴状中の訴因に基づいて極東国際軍事裁判所は被告を20年の禁固刑に処する。
被告重光葵被告が有罪の判定を受けた起訴状中の訴因に基づいて極東国際軍事裁判所は被告を7年の禁固刑に処する。
被告東條英機被告が有罪の判定を受けた…。
「起訴状中の訴因に基づいて極東国際軍事裁判所は被告を絞首刑に処する」。
(クレイマー)パトリック。
我々のこれまでの努力がようやく実を結んだな。
ご尽力のおかげだ。
あなたには東郷と広田そして重光の刑を軽くする権限があるはずです。
君たちの要請どおり私は法廷に関わらなかった。
しかし彼らの刑を軽くできるのはあなただけです。
いやいやいや今は後ろを向いている時ではない。
日本は民主主義国家になった。
新しい憲法ができたし女性も初めて政治に参加する権利を手に入れた。
日本は復興を進め世界も前に動き出している。
ドイツの状況を見たまえ。
朝鮮半島やソ連は言うまでもない。
これからも戦争は起こるしそれには勝たねばならない。
今はただ感謝すればいい。
ここでの務めは終わった事に。
君は帰国できる。
(レーリンク)弁護団の一部が今アメリカ合衆国最高裁判所への訴願を準備しています。
もし…認められれば私は再審のために日本に戻ってきます。
そうしたらまたお会いしましょう。
実現すると…思っていますか?いえしないと思います。
2年半もかけた結果は覆らないでしょう。
これをあなたに。
広重の浮世絵です。
ありがとう。
これは美しい。
広重と…ゴッホ。
私もあなたから刺激を受けました。
お会いできてうれしかったですベルト・レーリンク判事。
私も会えてよかったです竹山さん。
(レーリンク)家の庭が恋しいのでは?ハハッああ早く戻りたくてしかたないよ。
君の働きは高く評価していたよレーリンク判事。
いくつかの君の主張についてもだ。
我々は未来の多くの命を救ったかもしれない。
そう願います。
ノースクロフトは戦犯を裁く常設の裁判所を提案している。
アメリカ主導でないものをね。
それはオランダにあるといいかもしれません。
ここか。
(マクドゥガル)ようやくいらっしゃった。
これでよし。
始めよう。
さあ撮ろう。
(ウェッブ)あ〜マクドゥガル判事こちらへ。
どうも。
(ウェッブ)どうぞパトリック判事レーリンク判事あなたは右端に。
あなたは後ろの列へ回って。
マクドゥガル判事と並んでくれ。
それからあとはどうすればいいかな。
どうぞこちらへ。
あザリヤノフ判事はそちらへ。
さあ掛けて。
いいかな?じゃあみんな姿勢を正して。
後ろの方はもう少し中央へ寄って下さい。
(シャッター音)11人の判事たちが2年半にわたり激論を繰り広げた東京裁判。
それは人は戦争を裁く事ができるのかという根本的な問いに対する答えを探すための2年半でもありました。
東京の国立公文書館には裁判の判決書と個別意見書の実物が保管されています。
ナチス・ドイツを裁いたニュルンベルク裁判では公式判決だけが出されました。
しかし東京では公式判決に賛成の立場から1つ異論を唱える立場から4つの個別意見書が提出されました。
合わせると2,800ページを超えます。
ウェッブ裁判長自身が書いたものもあります。
多数派に対抗して自分が判決の全文を書こうと試み600ページもの原稿を用意していました。
しかし最後はどうしても言いたい事だけを21ページにまとめました。
分厚いインドのパル判事のもの。
ほかにフランスのベルナール判事フィリピンのハラニーリャ判事。
そしてオランダのレーリンク判事の意見書。
そこには彼の深い思い入れがあり帰国後一冊の本として出版し多くの人に手渡したといいます。
そしてパトリック判事たち多数派が書いた公式の判決書。
「被告全員を有罪。
7名を絞首刑とする」と書かれています。
東京裁判の結論でした。
歴史上初めて世界11か国の判事たちが集まり激論を重ねた東京裁判。
その2年半の日々をより詳しく知ろうとする研究は今も続いています。
ドイツの名門ハイデルベルク大学。
去年暮れ欧米やアジアなどから研究者が集まり東京裁判の判事たちについて討議する学術会議が開かれました。
最新の研究成果が発表されていきます。
人は戦争を裁く事ができるのか。
東京裁判の11人が挑んだ問いは現代を生きる私たちに向けられた問いでもあり続けています。
2016/12/15(木) 22:25〜23:20
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル ドラマ 東京裁判「第4話」[字]
70年前、世界から集まった11人の判事が「戦争は犯罪なのか」という根源的な問いに取り組んだ東京裁判。11人が繰り広げる、緊迫感あふれるヒューマンドラマの最終回。
詳細情報
番組内容
70年前、世界から集まった11人の判事が「戦争は犯罪なのか」という根源的な問いに取り組んだ「東京裁判」(極東国際軍事裁判)。NHKは世界各地で取材を行い、判事たちの公的・私的両面にわたる文書や手記、証言を入手した。そこから浮かび上がったのは、多様な背景をもつ判事たちが、激しい議論の末にようやく判決へ達したという、舞台裏の姿だった。11人が繰り広げる、緊迫感あふれるヒューマン・ドラマ全4話の最終回。
出演者
【出演】塚本晋也,ジョナサン・ハイド,ポール・フリーマン,マルセル・ヘンセマ,イルファン・カーン,マイケル・アイアンサイド,【司会】三宅民夫,【語り】草笛光子,伊東敏恵