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書き起こし プロフェッショナル 仕事の流儀「諦めるな、それが魚屋の心意気」 2016.11.21

その男は九州の小さな港町の魚屋。
だがその目利きは超有名料理店のシェフも感服させる。
見事な下処理で最高のうまさを引き出す。
全国から注文が殺到するスゴ腕の魚屋。
携帯電話どこに置いたか分からん。
門川が店を構えるのは九州宮崎の小さな港町。
だが魚を知り尽くしたその仕事は日本最高水準。

(主題歌)門川は顧客のシェフ50人の料理の特徴を完璧に記憶し魚をおろす。
だが30年前魚の事が何も分かっていないと取り引きを断られた。
超高級フレンチ店から舞い込んだ前代未聞の依頼は高級魚マナガツオ200人分。
しかし自然の猛威が立ちはだかった。
信頼に応えられるか。
市場が開く日は毎日が闘いだ。
朝6時半門川はいつもこの時間に姿を現す。
おはようございます。
この市場の漁獲量は県で4番目とさほど多くはない。
だが門川がここに30年通うのには一つの訳がある。
ここ日南の沖合は大学の研究者が注目するほど魚の種類が極めて豊富な漁場なのだ。
目利きで知られる門川にとっては高級魚から珍しいマイナーな魚まで手に入る格好の場所だ。
携帯には毎日地元の小さな居酒屋から東京の高級店まで全国50軒から注文が入る。
高級店が持つ星の合計は9つを数える。
おはようございま〜す。
門川は目をつけた魚は相場より高い値をつけてでも必ず競り落とす。
門川の信念。
安く仕入れられれば当然利益は増える。
しかしもうけにばかりとらわれては漁師も市場もやせ細りいずれ自分に返ってくると考えている。
はい今度は1,800円。
2,200。
2,200ねこやいち。
7時半。
競りが終わると朝昼兼用の巨大弁当を食べる。
こうして腹ごしらえしもう一つの真剣勝負に備える。
午前8時過ぎ。
仕入れた魚を自分の店に運び込む。
買い付ける魚は一日平均200匹。
これを妻や母ら6人で下処理を行い料理店に送り出す。
うろこ取りや内臓取り水洗いは女性たちの仕事だ。
そして魚の味を決定づけるおろしの作業を門川が担う。
ただ切り分けているだけではない。
取引先の料理人の癖や使う料理に合わせてさばき方を微妙に変えている。
門川がカツオの身を僅かにそぎ始めた。
「焼け」と呼ばれるこの現象を見逃さず丁寧に処理する事がおいしさの差となるという。
次に運んできたのは今日買い付けた魚ではない。
数日前にさばき寝かせておいたキハダマグロだ。
門川は魚を熟成させうまさを引き出すための研究も長年続けてきた。
マグロに使うのはこの特殊な吸水シート。
マグロはどんなに美しく切っても僅かに細胞が壊れ水分が徐々に流れ出る。
これが表面に残ると細菌が増えにおいの原因となる。
門川はこの吸水シートを使って熟成させる事でにおいは増やさずうまみを最大化する。
キハダマグロは高級なクロマグロに比べれば一般的には評価は一段低い。
しかしそこにこそ門川が考える地方の魚屋の活路がある。
東京には高級魚が全国から集まる築地がある。
地方の魚屋が日本一の市場といかに闘うか。
その事を30年考え続けてきた。
ぶっ通しで10時間。
門川は200匹の魚をさばき続けた。
しかし仕事はまだ終わらない。
うん。
そうよ。
この日向かったのは片道1時間半かかるホテル。
門川の魚は高い値で買い付けている割にはさほど値が張らない。
それはこうして自分たちで運ぶ事で配送コストを抑えているからだ。
この日門川は深夜まで配達に走り回った。
午前1時。
門川はほぼ毎日車の中で寝る。

 

 

 

 


布団に入ると朝起きられないという。
3時間の睡眠をとればまた闘いの一日が始まる。
門川さんはサービス精神が旺盛で人を喜ばせる事が大好きだ。
皆親しみを込めて「ねこさん」という愛称で呼ぶ。
これは雄。
ほらふんどしが小さいから。
ねこさんはとにかく研究熱心だ。
この日市場で見慣れない魚を買い付けた。
すぐに図鑑で調べる。
生息域や習性などの知識が増えれば目利きの精度が格段に上がるという。
図鑑でも分からない時は親しい大学教授に聞きにいく。
こうした研究が高じて4年前ねこさんは日本で初めてとなる種類のフエダイを発見。
なんと和名にはねこさんの名字が付けられた。
そうやって蓄えてきた知識をねこさんは積極的に伝える。
この日は取り引きの長いホテルの若手料理長にアドバイスをしていた。
門川がぼやいていた。
今年オープンした名古屋のレストランからの依頼。
特別なメニューを作るためよいキンメダイを1匹明日までに欲しいという。
市場に魚がなければ九州各地に築いた独自のネットワークを使う。
しかし…。
キンメダイはどこにもない。
すると門川は次の手を考え始めた。
買い付けたのはアカハタ。
アカハタはキンメダイと同じ白身魚で味も申し分ない。
価格帯もほとんど変わらない。
1時間後。
鹿児島の仲買人から連絡が入った。
鹿児島へはここから2時間。
全ての作業を止めて取りにいくべきか。
名古屋便は最終リミット何時ですか?キンメダイ1匹。
そのためだけに車を走らせる。
オープン間もない店のたっての希望。
それに応えたかった。
発送時間がギリギリのためキンメダイは空港近くで受け取った。
アカハタと両方を送り料理長によい方を選んでもらう事にした。

(尺八)ビューって。
首を振るんよね。
(尺八)ちゃんと吹けたのに…。
これがないから。
今や魚への深い造詣とさばきの技で名だたる料理人から信頼を集めるねこさん。
しかしかつてある名店から取り引きを断られた過去があった。
ねこさんが生まれたのは昭和28年。
父はカツオ節屋さんだった。
二十歳の時店を父から継いだ。
だがそのころからカツオの仕入れ値が上がり始め商売に陰りが見え始める。
干物や明太子にも挑戦したがうまくいかずそこで始めたのが今の鮮魚販売だった。
ねこさんは仕事をすぐに覚えた。
小さな包丁一本であらゆる魚をさばく腕が地元で評判となり店は持ち直した。
それから5年後の事だった。
知り合いが京都にある日本料理の名店の店長を紹介してくれた。
ついに一流料理店と取り引きができる。
すぐに店長のもとへ向かったねこさんは自慢の魚さばきを見せた。
すると。
店長の宮さんから意外な言葉が返ってきた。
さばきのレベル魚や料理への造詣の深さ。
その全てを否定された。
ねこさん35歳。
「もう一度ゼロから勉強だ」。
ねこさんは港に行き漁師に頼み込んでは教えてもらった。
魚の目利きのポイント。
「エラの色と目の膨らみ触った時の身の戻り具合が鍵だ」。
取引先の料理店にも通い詰めた。
魚をどう調理しているのか。
そしてそのためにはどんなさばき方がベストなのか。
空いた時間を見つけては図鑑をめくりひたすら学んだ。
そしてねこさんはさばいた魚を宮さんに送り評価を仰ぐ事にした。
春にはサワラ。
秋にはマグロ。
冬にはクエ。
しかしその度にまだ駄目だと言われた。
それでもねこさんは諦めなかった。
そして2年後の冬。
宮さんにクエをさばいて送り電話をかけた。
すると言われた。
宮さんが驚くほどねこさんの「物差し」は伸びていた。
でもうれしさは不思議と涌いてこなかった。
その後もねこさんは前に進み続けた。
今挑んでいるのは世界の料理界でトレンドになっている真空調理。
海の環境も料理人が求めるものも時代と共に目まぐるしく変化する。
63歳はいまだ「物差し」を伸ばし続けている。
取引先の料理店の星の数合計9つ!驚異の…この夏フレンチの名店から託された前代未聞の依頼。
頑張ります。
立ちはだかる自然の猛威。
プライドをかけた総力戦。
門川は東京都内の高級ホテルにあるレストランに向かっていた。
こんばんは。
お世話になります。
キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ。
ミシュラン2つ星に輝くフレンチの名店だ。
門川を待っていたのは2人のトップシェフ。
9月半ばに行われる開店10周年イベントの打ち合わせだ。
使う魚は決まっていた。
この時期脂が乗るマナガツオ。
あれがそうですね。
うわ〜きれい!作る料理を試食しどんな大きさのマナガツオがよいか検討する。
うまい!野菜はこれ何ですか?
(大滝)小さいオニオンをマリネにしてるんですよ。
赤いちっちゃい実は…フランスから。
これはちょっと酸っぱいんです。
この酸味が絶妙ですね。
市場に出回るマナガツオは1キロ前後がほとんど。
だが今回の料理には肉厚の2キロから3キロのものがよいとにらんだ。
ありがとうございます。
頑張ります。
あと10日で200人分のマナガツオを用意しなくてはならない。
この時期は台風などでどうしても漁が少なくなる。
苦しい闘いになると覚悟した。
うわっ。
前日九州に上陸した台風でほとんどの船が漁に出られなかった。
更に今後も台風が来ると予想される。
門川はすぐに手を打った。
電話の相手は鹿児島の卸売業者。
鹿児島には南九州最大の中央卸売市場がある。
門川は九州全土に培ったこうしたネットワークをフル活用してマナガツオを集めようと考えていた。
鹿児島でもマナガツオがとれる見込みは薄いという。
さすがの門川も弱気の虫が出る。
明日もみちょって。
すんませんねお願いします。
また電話入れます。
ほんとほんと。
今胃に穴があくぐらい痛えよ。
2日後。
ようやく鹿児島から型のいいマナガツオが揚がったと知らせが入った。
早速身の質を確かめる。
傷みやすいマナガツオに僅かに包丁を入れ内臓の脂の乗りで身の質を判断する。
ふだん海深くを泳ぐマナガツオが表層に上がってきている。
これから水揚げが増えると読んだ。
下処理を終えた魚はこまめに氷を変えて保存すればイベントまでもたせられる。
これは神経ほんと使う魚。
これサボったらもたん。
翌日も鹿児島から連絡が入った。
門川の読みどおり九州各地でマナガツオがとれだした。
しかし…。
今まで仕入れてきたものよりはほんの少しだけ質が劣る。
それでも水準はクリアしている。
キープする事にした。
これで合計11本。
しかし翌日は空振りだった。
発送日まであと3日。
鹿児島から4匹が送られてきた。
どれも2キロを超えた合格の魚だった。
これで15本。
その日の午後東京から最終的な注文の数がファックスで届いた。
店が求めるのは15本。
ちょうど今日確保した数だ。
ところが…。
あとですねやっぱし10キロから15キロ欲しいですね。
門川はまだマナガツオを探していた。
この気象条件ならもっといいマナガツオがとれる可能性がある。
この人たち。
発送の前日となった。
しかし地元の市場にマナガツオは揚がらない。
他の市場も駄目だった。
それでもこの気象ならば必ず揚がるはず。
門川はそう信じていた。
1時間後。
鹿児島から電話が入った。
もしも〜し。
もしもし。
入った〜うそやろ?すいません。
いろいろありがとうございます。
これで終わりです。
よければこれで終わりです。
すんません。
ありがとうございます。
結局ね広島に手配するって。
今広島が一番いいじゃろうって。
広島の港で揚がった10匹のマナガツオが確保できたという。
深夜1時。
マナガツオの到着に合わせ鹿児島に向かう。
東京に魚を送るリミットが迫っていた。
ピンポーン。
大きさ身の厚み。
申し分ない。
よ〜しよしよし。
最高の魚がこれでそろった。

(主題歌)2日後。
イベント開催の日。
ありがとうございます。
その後。
東京の料理店では通常メニューでも門川のマナガツオを使う事が決まった。
最初から最後まで手を抜かん事やろね。
仕事に対して。
ここまでさばけば喜んでくれるかなと相手の顔が出るもんね。
次にバトンタッチする人の顔が。
やっぱ手抜けんよね。
ハハハハハハッ。
ねこやが猫に餌をやって…。
2016/11/21(月) 22:25〜23:15
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「諦めるな、それが魚屋の心意気」[解][字]

宮崎にありながら、東京の星付きレストランから注文が殺到する魚屋さん・門川安秀さん。“ねこさん”という通称で愛される。築地にも負けないその腕の秘密に迫る。

詳細情報
番組内容
宮崎の小さな港町にありながら、東京の星付きレストランから注文が殺到する魚屋さんがいる。門川安秀さん、通称“ねこさん”だ。どんなに不漁な時期でも、独自のネットワークと天候を読む目で、魚を集めるねこさん。取引先のシェフたちの好みや癖までも知り尽くして魚をさばく腕も持つ。今年の夏は、東京の一流フレンチレストランの特別メニューのために、高級魚を200人分依頼された。自らのプライドをかけた戦いが始まる。
出演者
【出演】鮮魚店店主…門川安秀,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり