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セリフ書き起こし 土曜プレミアム・鬼平犯科帳 THE FINAL 後編「雲竜剣」 2016.12.03

その日長谷川平蔵は配下の木村忠吾を供に連れ病床にある知る辺を芝二本榎の屋敷に見舞った
その帰り道のことである
(平蔵)何者だ!
(平蔵)俺を長谷川平蔵と知ってのことか。
(忠吾)うわっ!
(忠吾)長官!うわっ!
(忠吾)うっ…。
うさぎ!大丈夫か?
(忠吾)いけません。
背中をばっさりやられました…。
背中?どこも切られてはおらぬぞ。
(忠吾)はっ?どこも?ああ。
かすり傷一つ負ってはおらん。
(忠吾)おかしいな。
てっきり切られたもんだと。
ああそう思うのももっともだ。
あやつめすさまじい殺気であった。

(久栄)いかがなされました?んっ?お羽織が。
あっああ…。
あ〜いや傷はね大丈夫だよ。
いや〜これでも剣にかけては誰にも劣らんと思っていたがゆんべはすんでのところで切られるところだった。
年は取りたくねえもんだ。
(小林)何をおっしゃいます。
(酒井)定めし忠吾が足手まといになったのでございましょう。
(忠吾)足手まといとは何ですか。
失礼な。
勘違いしちゃいけねえ。
俺がこうしているのも柄にもなく忠吾が身を捨てて俺を助けてくれたからだ。
柄にもなくは余計です。
まあそうむくれるな。
今度うめえもの食わしてやら。
ところでゆんべの刺客のことだがな。
やはり小柳を切った同じ男でございますか?おそらく。
何者でございましょう。
ん〜分からねえ。
だが以前に見たことがある。
(小林)その男をでございますか?いや構えをだ。
構えと申しますと?うん…。
どこでご覧に?牛久沼のほとり。
常陸国牛久沼でございますか?うん。
その昔俺がまだ高杉銀平先生の下で剣の修業をしていたときのこった。
牛久の宿で土地の剣客が先生に真剣勝負を挑んできたんだが軽々しく先生を立ち合わせるわけにもいかねえ。
そこで俺が相手を買って出たことがあった。
その男の刀法というのは剣を右脇に潜める変わった構えでな。
正対すると太刀筋がまるで見えねえ。
して勝負はどのように。
うん互いに浅手を受けて引き分けということになったがこの男の構えというのがゆんべの刺客のそれと寸分たがわねえ。
(忠吾)ではゆうべの男はその牛久の?さあそれはどうかな。
あの剣客が生きてるとしたらもう七十に手が届く勘定になる。
その剣客の名は何と?そいつは分からねえ。
しかしあの不思議な刀法の呼び名だけははっきりと覚えている。
何と申しますので?雲竜剣。
(関平)持ってきやした。
(磯五郎)何かご用でしょうか。
(磯五郎)うわっ!
(関平)はっはっはっ…。
はっ!お出合いくださいませ!・
(関平)お出合いくださいませ!いっ磯五郎が!何事じゃ?
(三井)たった今門前にて磯五郎が切られました。
(忠吾)えっ!長官…。
(酒井)くせ者はどこだ!
(関平)あちらへ逃げましてございます!
(酒井)磯五郎を中へ!門を閉めろ!
(一同)はっ!磯五郎しっかりしろ!磯五郎!しっかりしろ!・門を閉めろ!門だ!
(久栄)与力同心ならば役目柄人の恨みを買うこともありましょうが門番の磯五郎にいったい何の罪があるというのです。
(関平の泣き声)
(村松)泣いている場合ではないぞ関平。
磯五郎のかみさんに知らせてやらねばならぬ。
供をせい。
つれえ役だが行ってくれるか?
(村松)こうしたときにお役に立たねば年寄りの出番がございません。
そうか。
すまん。
ほれ関平。
長官。
どうだ?はっ。
手分けして捜しましたが怪しい者はどこにも。
えたいの知れぬやつだ。
むやみに深追いさせてはならんぞ。
承知いたしました。
これ以上誰も死なせたくねえ。
当分の間市中見回りは1人では行ってはならんと皆にそう伝えよ!
(酒井・小林)はっ!
(山崎)よし行け。
(男性)へい。
(三井)怪しい者は…。
(山崎)そうか。
(山崎)どうした三次郎。
(三次郎)へい。
長谷川さまに召し上がっていただこうと思いまして。
お好物のはぜの甘露煮でございます。
(竹内)そうか。
お渡ししておこう。
(三次郎)へい。
今取り込んでいてな。
(三次郎)何かございましたか?
(伊三次)切られたってご門前でですかい?
(三次郎)へい。
そいつがけさ方のことで切った男はまだ捕まっちゃいないそうです。
(おまさ)それじゃあ今ごろ長谷川さまはどんなにかお心を痛めておいでに。
(三次郎)いやおまささん。
(三次郎)その長谷川さまご自身も昨夜は刺客にお命を狙われたそうなんです。
(五郎蔵)こいつはのっぴきならねえことになってきやがった。
何とかお力になれないものでしょうか。
長谷川さまがいらしてこその私たちだもの。
黙って見ちゃいられませんよ。
(五郎蔵)といって俺たちにできることといったらお役宅の周りに張り込んで怪しい者に目を光らせるぐれえのことしかねえが。
(伊三次)それでも何もしねえよりはいい。
(五郎蔵)酒井さま。
何かまた変わったことでも?
(酒井)いやそうではない。
(三井)磯五郎のことを三次郎に申し聞かせておきましたと長官に報告したところひどく心配なされてな。
(五郎蔵)心配と申されますと?お前たちがお役に立とうとして何か無理なことでもするのではないかとな。
さすがは長谷川さま。
何もかもお見通しだ。
(酒井)どうかしたのか?実はせめてお役宅の見張りでもとたった今あのみっ皆で相談を…。
(酒井)それはいかん。
(おまさ)ですが決して無理をいたそうというのでは。
こたびの敵は剣の使い手である上にまるで正体が知れぬ。
長官から別命あるまでは動いてはならぬ。
承知いたしましてございます。
(酒井)あっ三次郎。
(三次郎)はっ。
(酒井)長官が礼を申しておいてくれと。
はっ?
(酒井)はぜの甘露煮がいたくお気に召されたようでな。
これは恐れ入りましてございます。
磯五郎を殺害した男はついに見つからずその数日後盗賊改方の動揺に乗じるかのように凶悪な事件が起こった
牛込若松町の薬種屋長崎屋に凶賊が押し入り家族と奉公人合わせて16名を皆殺しにしたのである
(酒井)死骸はいずれも縛られたまま急所を一突きにされております。
(酒井)あるじを脅して金蔵を開けさせた上で皆殺しにしたものでございましょう。
(小林)われらがおのれのことにかまけていたばかりに…。
まったく非道極まりない所業で。
おのれ!必ず正体を突き止めて捕らえずにはおかぬ!ああ!!
(備前守)その方が助けを願い出るとは珍しいこともあるものよな。
はっ。
まあ色々と事情がござりまして市中見回りの人数が足りません。
(備前守)事情とは?
(備前守)先ごろ役宅で門番が切られたと聞き及んでおるがそのことであろう?はっ。
恐れ入ります。
(備前守)して下手人の見当は?まだついておりません。
(備前守)まず小柳を手にかけたのと同じ者の仕業であろうが。
いずれにせよこう立て続けに配下の者を失うと骨身にこたえます。
(備前守)顔色がさえぬのはそのせいであるな。
鬼の平蔵もやはり人の子であったか。
はっ。
それが証拠に盗賊改めという厄介なお仕事はこれはそろそろ返上いたしたいと。
それはならぬぞ。
その方に辞められては困る故早急にも先手組から市中見回りの人数を出すことといたそう。
はあ。
ふん。
(久栄)ご無事でよろしゅうございました。
お帰りが遅いのでみんな心配を。
あ〜それはすまん。
(小林)長官。
五郎蔵が参りまして申し上げたいことがあると。
おっ五郎蔵。
待たせたな。
(五郎蔵)いえ。
色々と大変なときにお邪魔をいたしまして。
ああいいってことよ。
火急の用があって参ったのであろう。
(五郎蔵)へい。
お察しのとおりで。
長谷川さまは豊島屋という一本うどんの店を覚えておいででございますか?ああ覚えてるとも。
今でもあの長えのが時々食いたくなるくれえで。
そうですか。
実はあっしもご同様でございましてね。
昼時にあの長えのが無性に食いたくなってぶらっと店に立ち寄ったところ古い顔なじみにばったり出くわしまして。
ふ〜ん。
顔なじみというと?助治郎という鍵師でございます。
この助治郎というのは近江国八日市で普段は鍛冶屋を営んでいるのでございますが裏では盗賊の依頼を受けて金蔵の合鍵を作っておりまして。
その筋では名人といわれた男なんで。
(男性)《いらっしゃいまし》《こんな所で会おうとは驚いたぜ》
(助治郎)《こりゃ大滝の親分さん》《いつから江戸に?》
(助治郎)《いや〜いつからも何もさっき着いたばかりで》
(五郎蔵)《うどんと酒も頼む》《へい》
(助治郎)《こっちも1つ頼むよ》《へい》《私はねここのうどんが好物でして江戸へ来ると真っ先にここへ食べに来るんです》《江戸には裏のお仕事で?》《お前さんほどの名人が仕事を引き受けなさるとしたら相手は相当なお人だ》
(助治郎)《そんなおだてちゃいけませんよ》
(五郎蔵)《どこのお頭です?》《悪いがそいつはちょっと》《いやこいつは聞いた俺が悪かった》《どうぞ》《さあ気分直しに一つ》《あっ。
ありがてえ》《へいありがたい》《ありがたい》《あ〜うめえ!うめえな》《これで…》すると誰の仕事を引き受けたかは言わなかったんだな。
ですが酒を飲ませるとすっかりいい機嫌になりまして。
何か漏らしたか?うっかり行き先を。
(小林)江戸に逗留するのではなかったのか?
(五郎蔵)江戸は1泊のみで明朝は牛久に向けてたつと。
牛久?牛久といえば長官が雲竜剣の剣客と立ち合われた…。
鍵師と雲竜剣か。
小林。
その方牛久へ行って助治郎とやらを探ってみてくれ。
(小林)はっ。
常陸国牛久は江戸からおよそ16里
水戸街道の宿駅の一つである
竹やぶの中へ入っていきましたぜ。
どこへ行くつもりなのか。

(助治郎)あっ円蔵さん!
(円蔵)ありゃ!こりゃ近江の旦那お久しゅうございます。
(助治郎)元気でいたかい?
(円蔵)ええおかげさまで。
(助治郎)ああこれだ。
近江の土産だ。
(円蔵)みんな頂きましたよ。
(子供たち)やった!ありがとう!
(助治郎)元気だったか?よし…。
(円蔵)さあさあさあ…。
お〜い!

 

 

 

 

 


(助治郎)お〜!
(男性)これはこれは近江の旦那!
(助治郎)どうだ?傷の痛みは。
(男性)おかげさまで。
(助治郎)そうかそうかそうか。
(女性)旅のお方柏屋へ。
今日のお宿お決まりですか?
(三右衛門)あるじの三右衛門でございます。
本日はご投宿くださいまして誠にありがとう存じます。
訳あってしばらく逗留することになると思うがよろしく頼む。
これは些少だが。
(三右衛門)あっこれは過分な心付けを。
かたじけのうございます。
三右衛門さん。
ちょいとお聞きしてえことがあるんですが。
(三右衛門)はいはい。
何でございましょう?宿外れの林の中に妙な一軒家があるのご存じですかい?
(三右衛門)ええ。
存じておりますが。
何です?ありゃ。
(三右衛門)報謝宿でございます。
(伊三次)報謝宿?
(三右衛門)ええ。
要するに宿泊所のようなものでございます。
つまりですな行き場のない老人や旅の行き倒れといった貧しい方たちを金も取らずに泊めて面倒を見る。
へえ〜。
世の中には奇特なことをなさるお人もいるもんでござんすねえ。
いったい誰が営んでいらっしゃるんです?堀本伯道先生でございます。
堀本伯道?どんなお人で?
(三右衛門)それはもう立派なお人柄で。
噂ではこの牛久以外にもあちこちに報謝宿を設けて困窮の人救うこと数知れずとか。
(伊三次)お医者ですかい?
(三右衛門)はい。
もとはお武家さまだったそうですが。
となると剣術も使うであろうな。
あっ伯道先生がでございますか?
(小林)いかにも。
さあそれはどうでございましょう。
おっ確かこの辺りには雲竜剣という変わった刀法があるようだが。
(三右衛門)雲竜剣でございますか?いや私どもはとんと聞いたことが…。
助治郎は牛久の宿外れの報謝宿に入ったっきり外には一歩も出ずにとどまっております。
おおかたそこで誰かと落ち合うつもりなのであろうよ。
(五郎蔵)報謝宿を営む堀本伯道という医者はただ今牛久を留守にしておりまして助治郎はその帰りを待っているのではないかと。
ん〜。
そうなるとその伯道こそが盗賊の頭ということになるな。
(五郎蔵)そう思ってまず間違いなかろうかと。
何かはっきりした見当でも?いやこいつはただの勘なんだがこの堀本伯道という医者のことは誰に聞いても皆が皆一様に褒めちぎるんですがそのくせ身元も住まいもはっきりしたことは誰一人知っちゃいねえんでございます。
そいつがどうも…。
うさんくせえっていうんだな。
さようで。
ですが伯道が盗賊ならばどういうわけで人助けなんかするのでございましょう。
確かにそこのところが俺にも分からねえ。
報謝宿を営むにはずいぶんお金が掛かるはずです。
(五郎蔵)そいつが盗賊のうわべを繕う隠れみのだとしてもとてもじゃねえが割に合わねえ。
ハハッ。
医者で盗っ人で善人だか悪人だか分からねえ。
まるっきりえたいの知れねえやつだな。
いやそれにしてもその報謝宿を見張らねばなるめえ。
(五郎蔵)しかし周りには適当な家もございません。
うん。
ここは一番おまさに働いてもらおう。
(円蔵)大丈夫ですか?そこですからね。
お願いします!
(男性)先生!
(円蔵)行き倒れでございます!
(助治郎)どうしなすった?
(おまさ)急に差し込みが。
(助治郎)えっそりゃいかんな。
さあ早く早く上げて。
(助治郎)上げて上げて。
(円蔵)水水水!水!
(助治郎)お前さん寝とらんでいいのかね。
(おまさ)あっええ頂いたお薬が効いたみたいでもう嘘のように。
それでお礼代わりにお手伝いをと思いまして。
あ〜それは助かる。
人というものは勝手なものでな治るとさっさと出ていくんだ。
私はどこも行く所ありませんので。
ああそんならここにいてくださいよ。
円蔵さんも助かるしね。
(男性)旦那!取れやした。
(助治郎)円蔵さん…。
(男性)円蔵さん。
(円蔵)こりゃうまそうな豆だ。
(助治郎)行こうよ。
・湯がきますか。
はあ〜。
さあどうぞ。
あっこれは気が利くね。
さあどうぞ。
(助治郎)はい。
助治郎さんはこの報謝宿とどういう関わりがあるんです?ああ微力ながら金の面倒をね。
(おまさ)そうでございましたか。
それで伯道先生とご一緒にここを?ご一緒というほどのことでは。
わしはね貧しい人を救いたいというあの人の心意気にほれ込んでお力添えを。
それでもご立派でございます。
「ご立派」とんでもねえ。
私はねこう見えて今までずいぶんと悪いことをしてきましたよ。
その罪の償いとでも申しましょうか。
それでは伯道先生はどうしてこの報謝宿を始められたのでございましょう。
はてどうしてかね?もとはお武家さまだったと聞きましたが。
あ〜武家といっても仕官したわけじゃない。
じゃあご浪人?剣の修業をなさっていたのだ。
お強かったんですか?
(助治郎)そりゃもう。
どんなご流儀を使われたのでしょう?あのね流儀は…。
あれ?お前さん女のくせに剣術の興味があるのかい?
(おまさ)あっいえいえ。
そういうわけじゃありませんけど。
(おまさ)さあどうぞ。
(助治郎)流儀…。
流儀といってもね…。
あっ雲竜剣だ。

(円蔵)おっ先生!伯道先生が帰ってこられた!
(一同)先生!おかえりなさいませ!
(伯道)見違えるように元気になられたな。
(おもん)本当によくしていただいて。
(おもん)先生のおかげでございます。
おかげです。
(伯道)ここを自分の家だと思って困ったときはいつでも帰ってきなさい。
(おもん)はい。
(女の子)また来るね。
よくなった。
もう大丈夫だ。
ばあさん年は幾つだったかな?
(おつね)はて幾つだったかな〜。
七十までは数えたことは覚えてんだけんど。
ひぃふぅ…。
この分なら100まで生きられるぞ。
(おつね)あれま!ハハッ。
本当かね。
(太吉)先生!お願いします!
(伯道)どうした?
(太吉)昨日から脚の具合が。
こう薬はどうした?
(太吉)かゆくって眠れねえんで剥がしちまいました。
ばか!かゆいのは治りかけてる証拠だ。
(おつね)まったくでっけえずうたいしてるのにかゆいのぐらい辛抱できねえのかよ。
(太吉)うるせえ!辛抱できねえもんはできねえんだよ。
ばあさんの言うとおりだ。
少しは辛抱せんと脚を切らねばならなくなるぞ。
(円蔵)先生。
こう薬を取ってまいります。

(嘉助)先生!
(円蔵)嘉助さん!どうした。
(嘉助)がきが…。
(円蔵)お〜!それは大変だ。
先生。
大丈夫かおい。
おかしくなったのはいつだ?
(嘉助)おとといで。
なぜ早く連れてこん。
(嘉助)先生。
助けておくんなせえ。
手は尽くす。
しかし助かるかどうかはこの子の運しだいだ。
(嘉助の泣き声)伯道が雲竜剣を?誠か?はい。
助治郎さんの口からはっきりと。
となると長官と真剣勝負をしたというのはおそらく…。
いずれにせよ一刻も早く報告をせねばならぬな。
(忠吾)お任せください。
私がすぐさま馬を飛ばして…。
大丈夫でございますか?ばかにするな。
馬ぐらい乗れる。
木村さま。
(忠吾)んっ?こんなこと言ったらお笑いになるかもしれませんけど。
何だ?申してみろ。
伯道はもしかしたら本気なのかもしれません。
本気?あの報謝宿は嘘やごまかしには見えません。
本気で人助けをしているのではないかと。
盗賊が人助けのために金を盗んでいるというのか?私にはそう思えてなりません。
しかしそんなばかな話は聞いたこともないぞ。
(小林)まあよい。
今のおまさの言葉をそのまま長官に伝えよ。
(忠吾)はあ。
(小林)長官はお前のことよりもおまさのことを信頼しておられるからな。
いや…。
では。
ほら縄を食うな縄を。
こら!お前まで俺をばかにするのか?
(忠吾)んっ?こらこら。
こら。
こら!
(いななき)
(忠吾)んっ?こら。
このばかもんが。
そうか。
嘘でも偽りでもなく盗っ人が人助けをな。
(忠吾)にわかには信じ難いことでございますが。
いやでもおまさがそう見たんだから間違いあるめえ。
あっやはりそう思われますか?しかし伯道が雲竜剣の使い手であるならばわれらを付け狙う刺客と何らかのつながりがあると見るべきでございましょう。
ことによりますとかの刺客は伯道が差し向けたということも。
いや仰せのとおりでございます。
これまでにも長官は盗賊どもに何度もお命を狙われたことが。
うん。
しかしそれじゃああまりにもそぐわねえ。
(忠吾)そぐわぬと申されますと?んっ?いやおまさの見た伯道とどうもな〜。
助治郎さん。
(助治郎)へい。
待たせてしまって悪いことをしたな。
(助治郎)イヒヒッ。
(伯道)お前さんが着きしだい仕事にかかれるように鍵のろう型を取っておいたのだが思わぬことからそれがふいになってしまってな。
(助治郎)えっ?
(伯道)ふう〜。
先日長崎屋という薬種屋に賊が押し入って店の者16人を皆殺しにした。
(助治郎)ほう。
おかげでこちらが目を付けた尾張屋でも恐れるあまり金蔵に造作を加えた上錠前も替えてしまったのだ。
そんなわけでな助治郎さん。
今しばらくここで待っていていただきたい。
(助治郎)ということは…。
もう一度尾張屋に忍び込んでろう型をな。
へい。
ここで酒を飲みながらゆるゆるとお待ち申しております。
伯道は目当ての店尾張屋に3年前から飯炊きの下男として配下の者を送り込んでいた

(鈴の音)
(松蔵)おかえりなさいませ。
久八が待っております。
(伯道)分かっておろうな。
(久八)へい。
すぐに牛久にたちます。
(伯道)委細は助治郎殿に申し含めてある。
へい。
(松蔵)いかがでございました?
(伯道)ろう型は申し分ない。
2〜3日うちに助治郎殿に届く。
ではおつとめは間近に?合鍵ができしだいにな。
かようなときに心苦しゅうございますが申し上げねばならぬことがございます。
(忠吾)あっお出掛けでございますか?あっちょいと見回りにな。
では私がお供を。
いや無用だ。
しかし1人で見回りすることはならぬと長官ご自身がご命じに。
あ〜分かった分かったもうよいもうよいうさぎ。
(忠吾)あっいや。
いやいや…。
長官いやそのような…。
(久栄)何を申しても無駄でございますよ。
しかし…。
忠吾殿。
お分かりになりませぬか。
はっ?
(久栄)殿様はご自分をおとりにして刺客をおびき寄せるおつもりなのです。
まさか…。
大丈夫です。
殿様は並のお人ではありませぬもの。
(白玉売り)白玉〜白玉〜。
寒ざらし白玉〜。
白玉〜。
寒ざらし白玉〜。
暑いな。
ええ。
1杯いかがでございましょう。
うんもらおうか。
ありがとうございます。
へいお待ち遠さま…。
はぁ〜。
(雷鳴)
(おとき)あっいらっしゃいまし。
おう。
ちょいと雨宿りさせてもらおうと思ってな。
(おとき)どうぞごゆっくり。
うん。
おう。
おっすずきか。
うまそうだね。
取れたてでございますよ。
ふ〜ん。
この時季は川をさかのぼりますんで。
あ〜そうかい。
さあひとつ。
あっいやもうこのぐらいにしておこう。
おっ雨は上がったようだな。
へい。
もうすっかり。
うん。
後でかごをお呼びいたしましょうか。
あっいやまだ用事が残ってるからな。
待っていたぞ。
ずっと俺をつけていたな。
この暑いのにご苦労なこった。
そこもとは?お名を承りたい。
その儀はご容赦を。
そこもとには一度お会いしたことがござる。
お忘れか?ずっと以前牛久沼のほとりで真剣をもって勝負したことが。
あの折の一刀流の剣客がまさか長谷川殿であられたとは。
おおみどもを長谷川平蔵とご承知であったか。
むろんのこと。
そればかりかお手前が無宿罪人の救済のために人足寄場をつくられたこと旗本には珍しい骨のあるお人とかねてより敬服いたしておりました。
ハハハ…。
まさかそれだからご加勢をくださったわけでもあるまいが。
ハハハ…。
あの男は何者でござる?雲竜剣のご同門とお見受けしたが。
あの者は当家の者を2人まで手にかけております。
お引き渡しを願いたい。
それはできませぬ。
たってとあらばやいばを交える仕儀にもなるかと存ずるが。

(忠吾)それでどうなさったのです?んっ?どうといって何事もなく右と左に別れてそのまま帰ってきた。
(忠吾)それはまた長官とは思えぬ手ぬるいなされよう。
ああ。
誠にな。
あ〜刺客を取り逃がしたのは残念至極であったがな。
(忠吾)刺客だけではございませぬ。
このまま伯道が逃げてしまったらどうするおつもりですか?いや〜逃げはしねえ。
伯道はなこっちが目を付けていることに気付いてもいねえんだよ。
いやしかしあのとき抜いていたら必ずどちらかが死んでいたであろう。
(忠吾)伯道というのは今もってそれほどの腕前なので?いや剣ばかりじゃねえ物腰振る舞いも立派であった。
しかしいかに立派でも盗賊は盗賊でございましょう。
ハハハ…。
世の中には本来ならば深く交わるべき人間がどこで道を間違えたか敵同士の立場で会わねばならぬことが間々あるものよ。
俺も伯道もまさしくそのようなものかもしれねえな。

(物音)こうしてまみえるのは何年ぶりか。
(伯道)石動虎太郎か。
しばらく見ぬうち名前ばかりか顔つきまで変わってしまったようだ。
(伯道)何故あのようなまねをする?長谷川平蔵に恨みでもあるのか?
(虎太郎)恨みなどはみじんもございません。
ではいったい何が目当てで?虎太郎。
わしがその方に雲竜剣を仕込んだのは人を切るためではない。
(虎太郎)では何のためでございます。
門弟の中でも天分胆力ともに抜きんでて剣を学ぶにふさわしいと見込んだればこそだ。
(虎太郎)フッ。
それはまたずいぶんと買いかぶられたものだが。
しかし剣術など仕込まれたのはこちらにとってはありがた迷惑。
何?いかに修業に励んだとて今の世は剣術など誰も見向きもせず身を立てるよすがにもなりませぬ。
さればせめてもの鬱憤晴らしに今を時めく鬼平をこの手で切ってみたかったまでのことでござる。
愚かなことを。
愚か?うわべで何と言われようと腹の中は別。
鬼平がこの世から消えてくれれば盗賊にとってこれほど都合の良いことはござりますまい。
その方に何が分かるというのだ。
(松蔵)おっおやめください!どうか…どうかお気を静めて。
なぜもっと早く知らせてくれなかった?言えばお二人が相争うことになろうかと。
それがためらわれまして。
(伯道)しかし虎太郎は何故あれほどまでに変わってしまったものか。
以前からわしを恨んでいたことは存じておるが。
(松蔵)いえ。
それは思い違いでございます。
虎太郎さまは先生が女中に産ませたお子故疎まれてるのではないかとお小さいころからずっとお悩みに。
それ故認めてもらいたい一心で修業に励んでまいられたのでございます。
ところが先生はその虎太郎さまをお捨てになられて…。
わしは虎太郎を捨てたのではない。
医者として盗賊として立つ決心をしたときそれまでの一切のものを捨てたのだ。
ですが虎太郎さまにしてみますれば心穏やかでは…。
(伯道)確かに。
わしが盗賊であると知ったときこらえていたものが一気に噴き出したものやもしれぬが。
(伯道)それにしても誰がそのことを…。
まさかお前が漏らしたのではあるまいな。
とんでもございません。
ではあやつの母親か。
いえおせきさんは何も知らぬままお亡くなりに。
それは間違いのないことでございます。
どうか…。
どうか虎太郎さまのことはこの松蔵めに免じてどうかどうか!この始末は大事なおつとめが終わってからあらためて考えねばならぬが。
他に隠していることはあるまいな。
(松蔵)いえ何もございませぬ。
では虎太郎に気を付けてな。
何事かあれば今度はすぐに知らせるよう。
承知いたしましてございます。
はあ〜。
注文の薬をお届けに参りました。
ご苦労さまで。
(助治郎)久八さん。
お茶でも飲んでいきなさいな。
こいつが取り直した鍵のろう型でござんす。
あっおまささん。
(おまさ)はい。
わしはね近江へ帰らねばならんことになった。
まあ急でございますね。
お前さんには世話になったね。
(おまさ)いいえこちらこそ。
お名残惜しゅうございます。
ごちそうさまでございました。
(助治郎)あっご苦労さんだったね。
(助治郎)おっ…。
ハハハッ。
今さっきそこを薬売りが通らなかったかい?ついさっき通りましたぜ。
あれは伯道の手下ですよ。
おっと。
そいじゃすぐに後を。
(おまさ)頼みましたよ。
伯道一味が動きだしたようです。

伯道の手下百足の久八は水戸街道を一気に引き返し江戸を通り越して相模街道に差し掛かった
いってえどこまで行きやがるつもりなのか。
こうなったらどこまでも食らいついてってやろうじゃねえか。
(久八)置いとくぜ。
(2人)ありがとうございます。
(男性)お気を付けて。
久八が向かった先は武蔵国橘樹郡丸子の宿外れにあるとある剣術道場であった
はあ〜。
(久八)あの…。
虎太郎さまは…。
(中島)朝から大山詣でよ。
(久八)それはそれは殊勝なことで。
(中島)ハハハ…。
ばか。
(中島)憂さ晴らしに宿場女郎を拝みに行ったのだ。
(一同)ハハハ…。
(中島)まあ飲め。
(久八)いえ。
(中島)いいから飲め。
その道場の主は堀本伯道なのか?
(五郎蔵)道場を開いたのは伯道ですが15年ほど前に石動虎太郎という門人に譲り渡したとのことで今はその者が。
石動虎太郎…。
どんな男だ?それがあいにく道場を留守にしておりましたようで。
(酒井)で伯道本人は今もその道場に出入りを?いや譲り渡した後は丸子の宿から姿を消してしまったそうでございますから。
(酒井)すると今道場に巣くっている連中は?門人というよりごろつきのようなやつらで。
伯道の盗賊一味ではないのだな?あっしの目にはそのように見えましたが。
しかし何故伯道の手下が訪ねていったんだ?それが何とも解せねえところでございまして。
(小林)長官。
ただ今牛久より戻りました。
おっ小林。
ご苦労であった。
鍵師の助治郎はあれからどういたしました?そのことでございますが。
牛久に程近い藤代宿で鍛冶屋の仕事場を借りそこにずっとこもったままで。
合鍵作りに励んでいるのであろうよ。
(小林)まあ鍵ができしだい伯道はおつとめに取り掛かるものと思われますが目当ての店まで探り出せておりませぬ。
まあどこへ押し込むかは鍵の行方をたどっていけばすぐに知れることだ。
丸子の方はどういたしましょう。
伊三次を残してきましたが。
ん〜。
1人じゃ手が回るまい。
酒井。
その方すぐ出張ってくれ。
(酒井)はっ。
俺もその石動虎太郎という男をこの目で見てみてえ。
ちょっと待っててくださいね。
まだいるよ。
放っておけ。
虎太郎さま。
どうか心をお入れ替えになって昔の虎太郎さまにお戻りください。
(虎太郎)いまさら戻れるわけがあるまい。
(松蔵)ではせめて長谷川平蔵を付け狙うのだけはもうおやめに。
(虎太郎)そうはいかん。
俺は強い男と戦ってみたいのだ。
それには江戸で随一の火付盗賊改めの長官ほど格好の相手はあるまい。
(虎太郎)鬼平を倒す。
(虎太郎)それより他この石動虎太郎の剣を世に知らしめるすべはないのだ。
(松蔵)しかしさようなことなされて伯道さまにまで累が及びましては取り返しがつかぬことに。
伯道はそれほど立派か?それは言うまでもないことでございます。
牛久でもこの丸子宿でも先生は大勢の人をお救いになられて。
だがそのご立派な先生は母上を見捨てた。
それは違いまする。
(虎太郎)何が違う。
病の床にあった母上が死ぬ前にせめて一目なりとも顔を見せてほしいと申し送ったにもかかわらずあの男はそれを黙殺したのだ。
いいえ。
あれは決してさようなことでは。
伯道に疎まれ見捨てられても恨み言など申されたことはただの一度もない。
その母上のほんの小さな願いすらあの男は…。
決してさようではございません。
あのときは報謝宿に重病人がいて先生は手が離せず。
報謝宿がそれほど大事か?
(松蔵)大事でございますとも。
先生はそのために全てをつぎ込んでおられるのでございます。
しかし全てと申しても盗んだ金でしていることではないか。
それを人助けなどと。
むしずが走る。
(松蔵)虎太郎さま。
(松蔵)虎太郎さま…。
(久八)おかえりなさいまし。
いかがでございましたか?大山詣では。
あのちょいとお耳に入れたいことが。
伯道が近えうちにおつとめにかかりやすぜ。
目当ての店は深川の足袋問屋尾張屋と申しまして。
蔵には金がうなっております。
そいつを伯道から横取りする気がおありならあっしが引き込みに話をつけやすが。
引き込み?奉公人に成り済ましていざってときに店の中から手引きをする者のことです。
そうか。
そいつもあっしと同様伯道が盗んだ金を報謝宿なんぞに注ぎ込むことにいいかげんうんざりしておりますので。
中から手引きするものがあればこれほどたやすいことはない。
この間は長崎屋の大戸を破るのにえらく手間取りましたから。
分け前は半々ということでよろしゅうございますね。
好きにしろ。
(久八)へい。

(男性)後は任せたよ。
(子供)へい。
(男性)いってらっしゃい。
(男性)あ〜!いらっしゃい。
みんなお客さんだよ。

盗賊改めでは丸子の剣術道場を見張るため近くの最明寺を足だまりとした
(竹内)かたじけない。
おっよく似合っとるぞ。
(竹内)恐れ入ります。
剣術道場をご覧になりますか?うん。
左を歩いておりますのが石動虎太郎でございます。
間違いねえ。
ではあの男が?ああ。
雲竜剣の刺客だ。
(伊三次)牛久からお戻りでございましたか。
昨日な。
(伊三次)長谷川さまは?丸子の方に出張っておいでだが急用か?
(伊三次)へい。
伯道が押し入ろうとしてる店が分かりやした。
誠か!
(伊三次)へい。
深川佐賀町の足袋問屋尾張屋でございます。
だがどのようにしてそれを。
例の薬売りに食らいついていきましたところ野郎まんまと尾張屋の飯炊きにつなぎをつけに。
その飯炊きが引き込みか。
(伊三次)さようで。
でかしたぞ伊三次。
でその後薬屋は?亀戸天神前の茶店に入りまして今はそこに。
引き続き見張りを頼む。
(伊三次)へい。
あのどなたかお一方つけていただけますか?いや今は皆丸子の方に出張っていてな…。
あいにくとここには忠吾だけだ。
(忠吾)お呼びでございますか?あっ…いえ木村さまで十分でございます。
何だ伊三次遠慮なく申せ。
久八が?まさか…。
今申したこと間違いあるまいな。
(松蔵)はっ。
久八めが尾張屋のおつとめを横取りしようと虎太郎さまに持ち掛けるのを確かにこの耳で。
(伯道)で虎太郎はその話に乗ったのだな。
(松蔵)はっ。
あやつめ。
人を殺しただけでは飽き足らず盗みにまで手を染めようとは。
実はまだ他にも…。
虎太郎さまが盗みをするのはこれが初めてではございません。
何!?
(松蔵)半月前にも牛込の薬種屋長崎屋に押し入って皆殺しの急ぎばたらきを。
あの晩はここを足掛かりにして道場の方々と長崎屋に向かわれたのでございますが中には返り血を真っ赤に浴びて帰ってきた者もいまして。
それはもう恐ろしいことでございました。
なぜ黙っていた!言えば虎太郎さまを成敗なさると思いまして…。
ですが今度また尾張屋に押し入ると聞きましてはもはやおかばいの致しようも…。
どうした?じっつぁん。
根岸の方へ皆集まることになってな呼びに来たんだ。
そうかい。

(久八)おいどこへ行くんだい。
ここだろ?
(松蔵)いいからついてきな。
おいじっつぁん。
何だよ…。
(忠吾)ここは?
(伊三次)おそらくやつらの盗っ人宿でしょう。
(久八)おいじっつぁん。
もうくたびれたよおい。
んっ?
(伯道)お前はもう行ってよい。
(松蔵)へい。
(久八)お頭。
こりゃいってえ何のまねでござんすか?それは自分の胸に聞いてみよ。
何故わしを裏切った?
(伯道)何が気に入らんというのだ?
(久八)何もかも気に入らねえことだらけでござんすよ。
中でも一番気に食わねえのはせっかく盗んだお宝を報謝宿なんぞに持っていかれてそっくり分けてもらえねえこっでさ。
それで虎太郎を唆したのか?虎太郎さまは気前がようござんすからね。
唆したのは今度が初めてか?金に欲のない虎太郎がわれから盗みをするとは思われん。
あやつが長崎屋に押し入ったのもお前の入れ知恵であろう。
だったらどうだっていうんでえ!盗っ人のくせに善人面しやがって。
そういうてめえの嘘の皮が虎太郎さまを極悪人にしたんじゃねえかよ。
わしが盗賊であると虎太郎に告げたのもお前か!うっ!
(忠吾)あっ!
(忠吾)神妙にしろ。
盗賊改め…ああ!
(伊三次)木村さま!
(忠吾)待て!
(忠吾)あ痛っ痛っ痛っ!痛い!
(忠吾)申し訳ございませぬ。
伯道を取り逃がしたばかりか逆上のあまりこちらの正体を口走るようなまねを。
ハハハ…。
まあまあよいよい。
命があっただけでもめっけものよ。
(忠吾)はっ。
何ともお恥ずかしきしだいで。
痛てて…。
どうした?はっ。
転んだ拍子に足首を…。
しようのないやつだ。
根岸の盗っ人宿には伊三次を見張りにつけてございます。
ご苦労。
(酒井)それにいたしましても網にかける寸前で伯道に逃げられたのは返す返すも残念でございます。
いやまだ逃げられたとは決まっちゃいねえ。
おいうさぎ。
そう気落ちをするな。
(忠吾)はっ。
長崎屋の一件も石動虎太郎らの仕業だと探り出しただけでもこれは大手柄だろ。
いえそれは私の手柄と申しますよりも例えて申せば棚からぼた餅…。
いやけがの功名…。
いやいや犬も歩けば…。
あ〜まあ何でもいいからお前は少し休んでおけ。
(忠吾)ははっ。
その方たちは明日に備えよ。
(小林)では明日道場へ?踏ん込んで一人残らず引っ捕らえる。
(一同)はっ。
昨日のことはもはやお聞き及びでござろうな。
これまでおのれのしてきたことに一度も疑念を抱いたことはござらん。
晩節を全うすべき年ごろになって見苦しきかぎりでござる。
いったいどこでどう誤ったものか。
もし過ちがあるとしたらばそれは雲竜剣を継ぐべきでない者に授けてしまったことでござろう。
まさしく。
されど今思えばそれにも増しておのれの道を追うあまり剣を捨て妻子を捨てて顧みなかったわしの身勝手があのような化け物を生み出してしまったのかもしれません。
すると石動虎太郎はお手前の。
さよう。
せがれでござる。
伯道殿。
お手前は何故剣の道を捨てられた。
(伯道)諸国を修業のため旅するうちに…。
(伯道)飢饉で多くの民百姓が飢えて死んでいくのを見てきました。
これを救うため剣よりも医術に重きを置かねばと。
しかし事に当たってみると医術だけではどうにもならん。
いかに医術を磨いたところで金がないと薬はおろかひとわんのかゆすら病人に与えてやれず助かる者もみすみす死なせてしまわねばならぬ。
それでわしは決心した。
有り余るところから金を取りそれを病める者貧しい者に与えようとな。
むろん正道とは申せぬがそれでいくばくかの人が救われてきたのも紛れもなきことでござる。
伯道殿。
これまで何軒の店に押し入られた?合わせて18カ所。
しかしそのいずれもがいまだに繁盛いたしております。
ほう。
つぶれぬだけの金は蔵に残しておくのがこなたのやり方でござってな。
一つ頼みを聞いていただきたい。
うんお頼みとは?この身をいったん解き放っていただきたい。
一つだけやり残したことがござってな。
決して逃げ隠れをいたそうというのではない。
盗賊改めの長官としてそれはできぬ相談でござる。
しかしながらお手前には御蔵橋のたもとでご加勢をくださった借りがある。
それを返さねえとこの長谷川平蔵の男が立たねえ。
誰だ。

(伯道)父じゃ。
(伯道)虎太郎。
そこへ直って悪行の報いを受けよ。
何を言うか。
今になって父親面もおこがましい。
俺とお前はとうの昔に父でもなければ子でもない!外道め!生かしておけん。
何が外道だ!盗っ人になるために剣を捨てたおのれの方こそ外道ではないか!そんな剣は俺が打ち破ってやる。

(物音)しばらく待て。
(虎太郎)手を出すな!
(伯道)んっ!あっ…。
寄るな!けがをしてもつまらんぞ。
父に代わり俺が成敗してくれる。
面白い。
望むところだ。
はっ!
(虎太郎)うっ!はっ!うっ…。
さすがは鬼平。
分かったかおのれの剣の愚かさが!俺の負けだ。
なれどいささかも悔いるところはない。
火付盗賊改方長谷川平蔵である!歯向かう者はたたき切るぞ!!行くぞ!
(一同)はっ!
(一同)長官!長官!一人も逃してはならぬぞ!
(一同)はっ!丁重に葬ってやってくれ。
はっ。

その日のうちに盗賊改方では伯道の盗っ人宿に手を回し何も知らずに集まってくる一味の者をことごとく引っ捕らえた

ただしこの男を除いてはの話である
ごめんなさいよ。
おらんのかね?松蔵さん。
(助治郎)あっ!おまささん。
こりゃいったい…。
伯道先生はいらっしゃいませんよ。
えっ!?昨日丸子の宿で命を落とされたのよ。
えっ…そっそりゃ誠で?おい助治郎。
そう驚いてばかりいねえで藤代の鍛冶屋で丹精込めた合鍵を見せてみろい。
あんた誰?それを知ったら助治郎さん腰を抜かしてしまいますよ。
おい。
はい。
ぐずぐずしてねえで早くよこせ!
(助治郎)へい。
ちょっと…。
ん〜。
おい助治郎。
こんなもの二度と作るんじゃねえぞ。
えっ?それからな江戸へも二度と足を踏み入れるな。
はい。
気の毒だがな一本うどんも今日で食い納めだな。
あっ近江の旦那。
道中お気を付けになって。
ハハハ…。

(備前守)ハハハ…。
いつもながら水際立った致しようあっぱれである。
恐れ入りまする。
しかしながら助治郎なる一人何故に目こぼしいたした?はっ。
あの者を捕らえますると報謝宿はたちまち行き詰まり大勢の者が難儀をいたします。
さようであるか。
だがそもそもその報謝宿なるもの盗んだ金で設けられたものではないのか?さようなものをそのまま差し置いていかがなものか。
いかな人助けも悪をもってしては台無しではないか。
ごもっともなる仰せ。
しかしながら貧しき者の理屈はまた別。
命をつなぐひとわんのかゆに善悪の区別がござりましょうや。
人というものは良いことをしながら悪いことをする善と悪とがないまぜになった生き物でござります。
人の世も尋常一様にはまいりませぬ。
かように是非弁別の分かち難きことは見て見ぬふりをするのも肝要かと。
今の言葉肝に銘じておこう。
はは〜。
(助治郎)あっあっ長坊か。
ハハッ。
元気になったな。
んっ?
(嘉助)おかげさまをもちまして。
(嘉助)伯道先生がお戻りになられたらよろしくお伝えください。
定めし伯道さんも喜んでおられる。
おおどうしたい。
先ほど京極備前守さまから届けられまして。
お〜立派な鯛だな。
命懸けで働いているのでございますものこれぐらいのご褒美は。
ハハハ…。
あ〜備前守さまにお会いしたらそう女房が言っていたと申し上げよう。
まあ。
さあせっかくの賜り物だ皆で頂戴しようじゃねえか。
なっ。
(一同)おお〜。
お見事なもんじゃのう。
お〜。
見事!では早速さばいて焼き物に。
いやいや焼いてうまいのはいわしかさんま。
鯛はやはり刺し身にいたすべきでございましょう。
何を言うとる。
冬ならばともかく夏場に魚を生で食すとは…たわけ者が!あ〜かような蒸し暑い日に魚を焼いて食うなどやぼの骨頂!やぼだと!?ご自分だってたわけと申されたではございませんか!たわけ…。
(忠吾)あっ!やっぱり…。
おいおい忠吾。
よさぬか。
なあ。
大人げない。
なっなっ。
(忠吾)こちらが焼き物でこちらが刺し身でどうですか?
(村松)反対じゃ。
(一同)ハハハ…。
(忠吾)何でですか!こちらが刺し身でいいじゃないですか。
いや〜今度もみんなよく働いてくれた。
あ〜これはな京極さまから頂いた褒美の酒だ。
みんなにも飲んでもらおうと思って持ってきた。
そんな…。
あっしどもなんぞにお気遣いなさらなくとも。
お気持ちだけでももったいのうございますのに。
いや〜。
立派な鯛も頂いたんだがなもううさぎの野郎がみんな食っちまった。
しゃも鍋のご用意もできております。
おお。
その前にまず一杯やってくれ。
おいおときも付き合いな。
(おとき)はい。
ひょいと。
はい。
五郎蔵。
おまさ。
伊三次。
みんなが頼りだ。
今後ともよろしく頼むぜ。
あ〜。
うめえ。
はらわたに染み渡るぜ。
長谷川さま。
どうか末永く。
おお。
あ〜。
どうぞ。
(女の子)ありがとう。
はい女将さんもお待ち遠。
冷やっこいよ。
冷やっこいすいかいかがですか?旦那。
長谷川平蔵宣以
生涯に捕らえた盗賊は数知れず
その功績と人柄を江戸の人々は畏れ親しみ敬して鬼平と呼んだ

(中岡)売れてる芸人さんの特徴はみんな不幸なんすよ。
2016/12/03(土) 21:00〜23:10
関西テレビ1
土曜プレミアム・鬼平犯科帳 THE FINAL 後編「雲竜剣」[字][多]

危機一髪!鬼平を襲う謎の妖剣!最強の盗賊は心優しき報謝宿の主?親子の間に隠された葛藤とは!?宿縁の敵と最後の対決!鬼の平蔵28年の伝説が静かに終わる!

詳細情報
番組内容
 夜道を、長谷川平蔵(中村吉右衛門)が歩いていると、覆面をつけた刺客・石動虎太郎(尾上菊之助)が現れる。急襲に、平蔵も追い詰められるが、間一髪のところで追い払う。以前にも、平蔵の部下が刺客に次々と襲われ、命を落とした者もいた。平蔵は、刺客の構えが若いころに牛久で手合わせをした剣豪の構え「雲竜剣」と似ていることを思い出す。
 平蔵が襲われた翌日、平蔵宅の門番が刺客に斬られ命を落とす。さらに数日後、
番組内容2
牛込の薬種屋「長崎屋」に凶賊が押し入り、16名が惨殺される事件が起こる。自分たちのことにかまけて、見回りが手薄になっていたことを悔やむ平蔵は、上司の京極備前守(橋爪功)に、見回りの増員を頼む。密偵のおまさ(梶芽衣子)らの働きで、牛久に行き場のない年寄りや貧しい人々が無料で泊まる「報謝宿」があり、それを元武家で医師の堀本伯道(田中泯)が営んでいることが分かる。伯道は「雲竜剣」の使い手で、盗賊であり
番組内容3
ながら、本気で人助けをしているとのこと。
 その後、平蔵は謎の刺客・虎太郎をおびき寄せるため、あえて1人で市内を見回る。夜道で虎太郎と出会う平蔵。一触即発の状況下に、伯道が姿を現す。共に「雲竜剣」の使い手である伯道と虎太郎は実の親子であった。若いころに、手合わせをしていた平蔵と伯道、そして父・伯道との間に深い葛藤があり、悪に手を染めることとなった虎太郎が一堂に会し、物語は衝撃的な結末を迎える。
出演者
中村吉右衛門 
多岐川裕美 
梶芽衣子 
勝野洋 
中村又五郎 
尾上菊之助 
中村嘉葎雄 
橋爪功 
田中泯
スタッフ
【原作】
池波正太郎 「雲竜剣」(文春文庫刊) 

【企画】
能村庸一 
武田功 

【プロデューサー】
羽鳥健一 
成河広明 
佐生哲雄 
足立弘平 

【脚本】
田村惠 

【監督】
山下智彦 

【音楽】
津島利章 

【制作】
フジテレビ 
松竹